ふうま災禍さん!? 邪眼の使い方間違ってますよそれ! 作:ごきまる
エロシーンなしでございます。
五車内で二車骸佐の反乱に荷担した者達の詳細はすでに調べがついている。
ふうまの反乱はこれで二度目。
この一件には忍達の間でも、そして対魔忍が属する内務省公共安全庁の政府関係者からも批判の声が相次いでいる。
それは、ふうま一門の存続に尽力した総隊長アサギの責を問う声にもなっていた。
だがその影響は微々たるもので、当の井河アサギも意に介さなかったが、時子は気にした。
弾正反乱の時に、壊滅の危機に瀕していたふうま一門と、幼かった自分と小太郎を庇護してくれたアサギにふうまの執事は恩義を感じており、また全幅の信頼を置いている。
時子は骸佐の反乱を察知すらできなかったことを相当悔いていた。
アサギにも申し訳ないと思っているのだろう。
それ故に退役したふうま関係者の中に、骸佐と接触があった者がいないかどうかも調べるべきだと言い出したのだった。
そして、五車学園の教師としての仕事がある時子に代わって、災禍がその仕事を引き受けたというわけである。
もし、不審な点がある者を見つければ邪眼を使って意識を乗っ取り、本音を吐露させて情報を引き出すという算段である。
ちなみに時子はアサギにはこの案件を話しているようで、調査結果を災禍がアサギに報告することになっている。
災禍はというと井河アサギとはほぼ同世代ではあるが面識がある程度で、時子のように懇意にしているわけではない。
かつて災禍が弾正の秘書を務め、名を馳せていた頃からすでにアサギは“最強”と呼ばれる対魔忍であったが、同時に“大うつけ”とも陰で呼ばれていた。
対魔忍らしからぬ行動と言動。
対魔忍らしからぬ情に流されやすい甘い性格。
昔から政府との繋がりが深く、上からの命令は絶対とする気風が強い井河一門の中で、上役の命令に従うよりも、己の我が儘や信念を押し通す気骨をもった女丈夫。
彼女を慕う者も数多いが、典型的な『上役からは嫌われるタイプ』であり、井河家の長老衆とは何度も衝突があったという。
その長老衆も今は亡く、実力・地位、ともに対魔忍の頂点の座にアサギは立っている。
災禍の井河アサギに対する印象は良くも悪くもないといったところであった。
(それにしても、対魔忍を引退・・・・・・か)
災禍にしてみれば隔世の感を禁じ得なかった。
忍を引退などと・・・・・・一昔前で言えばいわゆる『抜け忍』である。
かつて、対魔忍は鉄の結束を持って組織に属することが課せられた。
己の門派から脱し、市井に生きることなどは絶対に許されなかった。
抜け忍は組織にとって危険な存在だ。内部情報・・・・・・たとえば仲間の忍法の詳細などが敵対者に知られてしまえばそれこそ大問題だ。
せめて五車町に居住するというのであれば、災禍にも理解できる。
だが、一部の退役者たちは五車から遠く離れた都市に住んでいた。
十数年前、日本政府の公的機関になってから、対魔忍組織は大きく変わった。
果たしてそれはよかったのだろうか?
災禍はかつて、ふうま弾正の秘書を務めていた。
当時は彼に心酔していた。
だが彼が反乱を起こした時、それは一門のためにならぬと袂を別った。
今でもその決断が間違っていたとは思っていない。
しかし・・・・・・。
今更考えても詮ないことではあったが、調査の最中に時折、そんなことを考えるのだった。
退役者の中には当然ながら見知った連中もいて、彼らと会って会話もした。
対魔忍の世界から身を引いた理由も災禍は個人的な興味で聞いていた。
弾正反乱時の、対魔忍同士の殺し合いに嫌気がさした・・・。
政府の管理下に置かれることに不信を抱いた・・・。
家族や近しい者を亡くし、戦う気力が挫けた・・・。
様々な理由があったが、彼らには共通している希求があった。
それは、死の危険が常について回る世界からの脱却・・・・・・いわゆる『平穏な生活』だった。
(平凡な市民として家族と暮らす・・・・・・か)
弾正の秘書をしていた頃の災禍ならば『唾棄すべき軟弱さ』と蔑んだかもしれない。
だが、今の災禍には彼らの気持ちが分かる。
弾正反乱後の数年間、ふうまの忍は表向きは対魔忍の任務を与えられることは無かった。
その間、災禍は幼い小太郎の世話役をしていた。
実質的には五車内で監視下に置かれていたわけだが、それまでの激動を思えば牧歌的ともいえる、あの穏やかな生活・・・・・・。
――災禍はお館様に甘過ぎです。もっと厳格で容赦の無い人だと思ってたのに。
あの頃から現在に至るまで、時子からはよくそう言われてしまう。
実際、退役者の中には“対魔忍の負うべき使命から逃げた”と災禍に責め咎められるのではと考えていた者もいた。
しかし、災禍と会話している内にそのような誹りを受ける流れは来ないと安堵し、同時に柔和になった元ふうまの秘書に驚いていた。
五車に帰還後、災禍は結果をアサギに報告するために五車学園の校長室に赴いた。
「結論から申し上げますと、二車家の反乱に関係している者は一人もいませんでした」
「そう、よかった」
災禍は五車に帰るなりすぐに対魔忍スーツに着替えていた。
できるだけ日頃から対魔忍スーツを着用するようにしている。
それ以外の服装だと動きづらく、なにより気持ちが落ち着かないからだ。
前線の任務につくことがあまりない災禍なりの気構えであった。
一方、アサギは白いブラウスに黒のタイトスカートを着用した教師スタイル。
ブラウスの皺が胸の輪郭をこれでもかと強調して中身の豊満ぶりを訴えている。
ヒップの量感を感じさせるスカートといい、際どすぎるハイレグタイプの災禍の戦闘装束とはまた違った、隠そうとして隠し切れていない色香を漂わせていた。
報告書類を受け取りながら、アサギは微笑を浮かべて、
「で・・・・・・どうだったかしら」
と、聞いてきた。
「はい?」
「みんな、幸せに――平穏無事に暮らしていたかしら?」
――希望者には組織を抜けて、一般社会に帰属することを認める。
この制度を作ることを推し進めた者の一人が、今災禍の目の前にいる井河アサギである。
(そういえば・・・・・・)
アサギ自身もかつて恋人と添い遂げるために一時期、対魔忍を引退していたことを災禍は思い出した。
事の詳細は知らないが、その結果が惨憺たる結末を迎えたことも伝え聞いている。
「・・・・・・ほとんどの者は皆、幸せな生活を享受していました」
アサギの切れ長のつり目。その目尻がわずかに下がる。
「ほとんど、ということはそうでない者もいたと?」
「ええ・・・・・・このことは二車家の反乱や魔の者達とは直接関わりがないことでして、書類にも書き記していません。総隊長に直接、ご報告しようと思いまして」
嘘である。
災禍は、つい先ほどまで自分の心の内に秘しておくつもりだった一件を打ち明けることにした。
かねてよりふうま当主の小太郎を部隊長に任命し、骸佐捕縛の任務を授けたことを、どう評価していいか災禍は考えあぐねていた。
離反した二車の幹部クラスには骸佐の他にもかなりの実力者達がいる。
初代ふうま小太郎がいた時代から数百年にわたり生きている邪眼使いの八百比丘尼。
千里眼とクナイ使いの天才である時子と互角に戦う土橋権左。
水以外の無機物と一体化ないしは自身の分身を作り出し、変幻自在の攻撃を繰り出す矢車弥右衛門等・・・・・・。
学園襲撃の際には、多数の生徒や教師に死者が出ているのだ。
本来ならば捕縛ではなく、総力を挙げて抹殺にあたるべきではないのか?
井河アサギは何を考えているのか。
災禍は、これから話す内容を聞いてアサギがどういう反応を示すのか知りたくなったのである。そうすることでアサギという人物を自分なりに見極めようとしたのだ。
「・・・・・・聞きましょうか」
こうして、災禍は一人の元対魔忍の話をアサギに語りきかせることとなった。