翌朝。ヴィクターは目覚めると身だしなみを整え始める。
用意されていた礼装に身を包み、ドアを開ける。
「ヴィクター! 一人で着替えたの?」
「ええ、おはようございます」
部屋の前にドアをノックしようとしていたベアトリスが立っていた。
ベアトリスは少し寂しそうな表情を浮かべ、ヴィクターを見る。
「では、参りましょうか」
ヴィクターは微笑みを浮かべ、部屋を出る。
村の中央広場に大きな馬車が停まっている。馬車の周りに白いローブ姿の女性が4人とエルフの少女が騎士略正装の
馬車の周りには半成人式を迎える村の子とその両親がいる。今年、半成人を迎えるのはヴィクターたちを含めて8人いる。
騎士がハルバードを構え直す金属音が鳴り響く。
「半成人式を執り行う!」
馬車の扉が開かれ、中から机が運び出される。その上に大きな水晶玉が設置される。
4人の従者は静かに馬車の脇へ下がる。
「ジャネット・ヴァレン! 前へ」
ジャネットは呼び出され、しずしずと歩を進める。騎士が耳打ちすると小さく頷き、右掌を水晶玉に置く。水晶玉は青く短く光った後、淡い青に短く光る。
「ジャネット・ヴァレン、下級種族神並びに下級水神の加護!」
騎士が高らかに宣言する。その後ジャネットに耳打ちし、ジャネットは後ずさりして元の場所に戻る。
「ヴィクター・ヴァレン! 前へ」
呼び出されたヴィクターはすたすたと歩いていく。騎士が耳に口を寄せる。
「水晶玉を右手にそっと乗せて」
ヴィクターは水晶玉の上に右掌を置く。水晶は反応しない。
「え……その……」
騎士は戸惑い、水晶とヴィクターを見る。
「見てのとおりです。さあ、宣告を」
ヴィクターは冷静に騎士に告げる。
ためらいながら騎士は宣告する。
「ヴィクター・ヴァレン、加護なし!」
戸惑いと憐れみの混ざった表情でヴィクターを見る若いエルフの女騎士にヴィクターは微笑みを返す。騎士は再びヴィクターに耳打ちする。
「あとずさりして、元の位置に戻って」
ヴィクターは言われたとおりに戻っていった。
後の6人は全員青い短い光。下級の種族神の加護と宣告された。
「カーソン村の半成人式の終了を宣告する」
騎士が高らかに宣言する。見物に来ていた村人たちが帰っていく。
「引き続いてアルカナ連邦所属の戸籍を作成する」
半成人式を終えた子とその両親が馬車の前に集められる。4人の従者が馬車の中から折りたたみ式の机を取り出し、並べ始める。
従者は子どもたちに書類を渡す。子どもが机に書類を置くとその脇に両親が並んで立つ。
コーディとベアトリスはジャネットの脇に立っていた。ヴィクターは一人。小さくため息をつくと机の上に置かれたペンをとり、書類の記述参考を見ながら自分で書類を埋めていく。
出生地、誕生日の欄を埋め、両親の名前の欄で一瞬ペンが止まった後、コーディ・ヴァレン、ベアトリス・ヴァレンと書き込む。続いて自分の名前、ヴィクター・ヴァレン。
騎士がその様子を目を見開いてみている。
「……あなた、なんで一人で書類を作れるの?」
「何でも出来るようにと育てられたからです」
コーディとベアトリスはジャネットに付ききりで書類を書いていた。ヴィクターはその様子を微笑みながら見ている。ジャネットは両親のその姿に複雑な表情で座っていたが、ヴィクターが見ていることに気がついて舌を出して威嚇する。
ヴィクターは微笑から苦笑に表情を変えた。