「すこし、いいかしら?」
騎士がヴィクターから書類を受け取った後、まっすぐにヴィクターを見ながら言う。
「なんでしょう、騎士様」
「どうも気になるのよ。ヴィクター・ヴァレン、あなた
ヴィクターは肩をすくめて答える。
「見てのとおりですよ」
騎士はため息をついてから、馬車の壁に飾られているショートソードを外す。
「昔ながらの儀式、よね……まったく」
騎士はそのショートソードをヴィクターに差し出す。
「剣を取って。闘いなさい……ああそう、私の加護を見せておくわね」
騎士は右手を水晶玉に乗せる。淡い黄緑に長く光ったあと真紅に長く、続いて紫、淡い紫と長く光る。
「妖精種族神、武神、魔神、嵐神……長さはもしかしたら神のランクですか?」
ヴィクターがそう問いかけると騎士は頷く。
「そう。長さはランク。私は全て主神の加護を受けている」
ヴィクターは受け取ったショートソードを抜く。ショートソードの刃は潰してあった。
「昔ながらの儀式、というのは……?」
「人は危機に陥るとその能力を発揮する。加護がはっきりと見えるのよ」
騎士はそう言うとアーメットを被り、無手で立つ。
「ここで、やるんですか?」
「そうよ」
ヴィクターはため息をつくとフロックコートとウェストコートのボタンを外してショートソードを鞘に戻し、地面に置いたあと、右手、右足を前に構える。
「武器を取りなさい」
「無手の女性を相手に武器を持つのは無粋というものでしょう?」
ヴィクターはウィンクをして騎士に返すと騎士は首を振った後、右手を顎下に、左手を前に構えた。
騎士は左足をやや前に出し、かかとに重心を置いた自然体でヴィクターに対峙する。
コーディとベアトリスとジャネットは固まったまま二人を見ている。
騎士の右足が始動する。パレードアーマーとはいえ重量があるため速度は遅い。
ヴィクターは前に置いた右足を胴に抱え込むように畳み込みサイドキックをそのローキックの右すねに当てる。
普通ならヴィクターが弾き飛ばされるはずだが、ヴィクターの鋭いサイドキックは逆に騎士のローキックを弾き返す。
ヴィクターはそのまま右足を着地。
左足を前に少しだしてスタンスを狭める。
右足で地面を蹴り、浮かせる。
右手をやや上方向へまっすぐ突き出しながら腰を切って右肩を前へ出す。
インパクトの瞬間に拳を縦にして右足着地前に騎士のボディへ叩き込む。
騎士は最初の相打ちで重心が少し後ろに寄っていた。そこへボディ強撃。そのままバランスを崩して後ろにヨタヨタと2歩下がる。
「え、え、え⁉」
困惑の声を上げる騎士。
「力は重さと速度。僕は重さがないので速度で補い、蹴りを弾きました」
「え?」
「そしてあなたのそのパレードアーマー。重心をずらしてやれば簡単にふらつきます。今のように」
ヴィクターが騎士に告げる。騎士はアーメットを外し、従者に投げ渡した後呆然とした表情でヴィクターを見ている。
「ところで、続けますか?」
ヴィクターは構えたまま微笑みつつ、静かに聞く。
「……そうですね、もう十分ですわ。怪我をしていないか手を見せて」
騎士はヴィクターのそばでしゃがみ込み、ヴィクターの右手を取るとまじまじと見る。
「……え? 怪我もない?」
「手加減しましたから。本気でいったらパレードアーマー程度なら打ち抜けます」
ヴィクターが騎士に耳打ちする。騎士はクスクスと笑い出し、その後表情を引き締める。
「あながち、嘘でもなさそうなのが怖いところなのよね……わかりました」
騎士は立ち上がるとヴィクターに正式な礼をする。
「儀式は完了しました。協力に感謝します」