騎士はコーディとベアトリスに近づき語りかける。
「ヴィクター・ヴァレンですが、救国機関として正式に救国の楯に推挙します」
コーディはその騎士の言葉に難しい顔をする。
ベアトリスは騎士とコーディとジャネットを見、その後コーディを見て困惑の表情を浮かべている。
ジャネットはヴィクターを睨んでいた。
「あの子は『加護なし』なんですよ?」
コーディが呻くように言う。
「救国の楯において、加護の強さは意味がありません。もちろん強い神の加護があるもののほうがより優秀である傾向があることは事実ですが、救国機関において重要なことは有能であること、ただそれ一点です」
涼しい顔で騎士が答える。
コーディはその言葉に腕を組んで考え込む。
「あなた方の許可は必要ありません。彼は先程アルカナ連邦法により戸籍が作成されました。この時点でアルカナ連邦民としての義務が課せられ権利が付与されます。アルカナ連邦民の義務として救国機関の指示には応じなければなりません」
「そんな横暴な! あの子はひ弱な『加護なし』なんですよ! 殺す気ですか!」
ベアトリスが騎士に詰め寄る。
「ひ弱……あなた方のヴィクターくんの評価は不当に低いと判断しました。先程のほんの僅かな立ち会いで彼の武芸に関する才能はおそらくアルカナ連邦でもトップクラスのレベルにあると私は判断しています」
騎士はそう告げるとヴィクターに手招きをする。
ヴィクターが近づいてくる。
「何か?」
ヴィクターの問いに騎士は笑顔を浮かべて答える。
「ヴィクター・ヴァレン、あなたは救国の楯に推挙されました。現時点をもって救国機関所属扱いとなります」
「はい」
ヴィクターが頷くと騎士は続けて喋り始める。
「規定として説明をすることになっているので、知っているかもしれないけれども、我慢して聞いてくださいね……。
今から60年ほど前、救国の手と呼ばれた英雄たちがおりました。彼らは魔王を
救国の手のメンバーの一人、小賢者フィル・ブレンダンは魔王の退場が一時的なものであると見抜き、魔王対抗の組織を構築することを提案します。
ヴェイリンガー、アルデカーン、フィグ・ディル、ザフェルニクス、エルシア、ルウドバーンがこれに賛同しアルカナ連邦が成立しました。
救国の手はその後アルカナ連邦中心部に対魔王組織として救国機関を設立、その運営にあたっています。
救国機関は情報収集と後進育成をその任務としており、育成機関として救国の楯を運営しています。
救国機関はアルカナ連邦上最重要機関とされているため絶大な権力を有します。あなたはその救国機関に所属するにあたり直接間接的にその力を構成する一員としての自覚と行動が求められます」
「その救国の楯に加護なしの私が推挙、ですか? いや……試験で入ろうと思っていろいろ調べてはいましたが……」
ヴィクターの疑問に笑顔で騎士は答える。
「先程のほんの僅かな手合わせで、十分すぎるほどの確認ができました。今まで私に勝てたのは救国の手オリジナルメンバーのみです」
しばらくヴィクターは考え込む。
「推挙の判断は一人で行ってもいいものなのですか?」
ヴィクターの疑問の声に騎士は笑顔のままで答える。
「推挙したとはいえ、その後ちゃんと試験がありますから大丈夫ですよ」
「そうですか」
「他に疑問はありませんね? では出立は今日ですので荷物をまとめてください」
「はい?」
「今日です。私とともに移動します」
騎士の言葉にヴィクターはため息、コーディは眉間のシワを深くし、ベアトリスはジャネットを抱きしめ、ジャネットはその母にしがみついた。