半成人式儀式用の馬車とは別の馬車がカーソン村に着く。ヴィクターと騎士がそれ乗ってカーソン村を出発する。
「ヴィクター・ヴァレン、いくつか確認したいことがある」
馬車が動き出してしばらくして、騎士が口を開く。
「はい、なんでしょうか、騎士様……できればお名前をいただければ」
「マーシャ、だ」
「マーシャ様……ですか」
ヴィクターが不思議そうに問いかけると騎士は視線を外す。
しばらく沈黙が流れる。ヴィクターがその沈黙を破る。
「で、確認項目とはなんでしょうか?」
マーシャはヴィクターに向き直り、
「救国の楯に着くのは夕刻になるからそれまでの間、少し長くなるが説明をする。その上で、だな」
マーシャは咳払いし、水筒から水をひと口飲むと語り始める。
救国の楯では何か一つでいいので特Sの成績を取る必要がある。10年のうちに取れなければ放校処分になる。
放校処分になった後の生活についてを先に語ろうか。
この場合、冒険者になるものが多いな。特Sは取れなくともそこそこの成績を修めるているということは冒険者としてはAランク以上で活躍できるだろうし、そういう荒事はいつだって人手不足。利害の一致、だな。
救国の楯で学んだことのある冒険者たちはその殆どが救国機関が運営する救国の
極稀に能力が足りない場合があるが、その場合は民間の冒険者ギルドに下ることになる。その民間のギルドも救国機関が面倒を見ているので結局の所救国機関所属であることは変わらない。
冒険者たちを管理するのは骨の折れる作業のためにピラミッド構造を取っている。
次、救国の楯だな。ここは育成機関だ。わかりやすいところでは武術や魔術を教える。本人の特性と希望に合わせてカリキュラムを取ることになる。
ここでの衣食住は全て救国機関が面倒を見る。衣は制服、住は寮だがな。
そして前述したが10年以内にどの単位でもいい、特Sを取ることが条件だ。特Sを取ったあとも楯に残って更に他の単位を取ることも許されているが、最長は入学から10年、だ。それまでの間に取った単位に応じて救国機関内のそれぞれの組織に配属される。
例えば武術で特Sを取った場合は救国の剣と呼ばれる軍事組織に所属し、魔王復活に備えて武力を更に磨く生活になる。
ここでマーシャの言葉が途切れる。
「なるほど。わかりました」
ヴィクターはマーシャに微笑む。二人の視線が絡み合い、マーシャは小さなため息をついてから馬車の外を見る。
馬車は既に田舎道を抜けており、整備された街道を走っていた。
「もう間もなく救国の楯よ」
「そうですか」
「……ヴィクター・ヴァレン、あなた本当に7歳?」
「わーいわーい! 楽しみー! とでも言えばいいと?」
重苦しい沈黙の中、カラカラと車輪の回る音だけが響く。沈黙を破ったのはヴィクターだった。
「失礼しました。騎士様に不遜な態度を取ったことを心よりお
「それは……その……」
視線をそらすマーシャ。
「なぜならば、ブレンダンのファミリーネームは救国の手に連なるものであることを示してしまうから」
ヴィクターの言葉に驚いた表情を浮かべるマーシャ。
「なるほど、当たりですか」
「え……?」
「複数の主神加護持ちでエルフ。それならば救国の手の英雄の二人の子と見るべきでしょう? こんなに簡単に引っかかるとは思いませんでしたけどね」
ヴィクターはここでウィンクをする。マーシャ・ブレンダンは顔を赤くしてヴィクターを
「引っ掛けたのね!」
「結果的にはそうですね。でもあなたも私に対し隠し事をしていた。お互い様ということじゃないでしょうか」
ヴィクターは涼しい表情でそう答える。マーシャはしばらくヴィクターを睨みつけ、ため息をついてから笑顔になる。
「そうね、お互い様ね。しかし、なんであなたのような人が半成人式まで埋もれていたのかしら」
「加護なしですからね。両親が心配してあまり外に出してくれなかったのです」