アダムは手を振って建物の中に入っていく。マーシャはそれを見送ると、ヴィクターに向き直る。
「さあ、行きましょう」
マーシャの後をヴィクターは追う。道なりに進むと同じような作りの建物が並ぶ一角に着く。
「救国の楯の寮よ。あなたの寮は青い屋根のあの建物の3号棟の210号室」
他には淡い黄緑、黄色、白の屋根の建物が何棟か立っている。
「種族ごとに分かれて住んでいる?」
ヴィクターの疑問にマーシャが頷く。
「そうよ。妖精族は種族間の差が大きいのでそれぞれまた細かく分かれているわ。人間は単に数が多いからだけどね」
ヴィクターはマーシャに案内され3号棟に入る。
「マーシャ殿。青屋敷に来るなんて珍しいですね」
3号棟の玄関は吹き抜けになっておりらせん階段が設えてある。
らせん階段の途中から2階と3階への廊下が伸びている。
そしていくつかの机と椅子が置かれており、談笑している人たちが数組。その中の一つから声がかかる。
「あら、ちょうどよかったわ」
マーシャは微笑むとヴィクターを伴いその男の前に移動する。
「エドウィン、ヴィクター・ヴァレンよ。7歳なので人間の最年少の楯になるわ」
ヴィクターは頭を下げ、挨拶を送る。
「ヴィクター、エドウィン・パーシヴァルよ。ここの寮の寮長。7年生だっけ?」
「そうですね。ここに来たのは12のときで人間の最年少記録だったんですがこのところ破られっぱなしですよ」
エドウィンがぼやくとマーシャはクスクスと笑う。
赤い髪の偉丈夫エドウィンはマーシャからヴィクターに視線を移すとヴィクターに右手を差し出す。
「困ったことがあったら何でも言ってくれ。なるべく手助けはしてやるよ」
ヴィクターは目を見開いてエドウィンを見て、その後微笑を浮かべてエドウィンの右手をしっかりと両手で包む。
「はい、そのときはよろしくお願いします、エドウィン・パーシヴァルさん」
「じゃ、私はこれで帰るわね」
マーシャはそう言うと手を振って寮を出ていく。エドウィンは談笑していた二人にウィンクをすると、二人は頷いて返す。
「ヴィクター、軽く寮を案内してやるよ」
「はい、ありがとうございます」
寮は3階建てで1階に共有の施設が置かれている。食堂、調理室、風呂、トイレ、談話室など。
寮生たちの部屋は2階と3階のそれぞれのフロアに12部屋あり、個室が4、4人一組の部屋が8ある。最大72人が生活できる。
「個室は成績優秀者に優先的に割り当てられる。まあ希望しなければ大部屋だがな」
エドウィンはそう言うと301号室にヴィクターを連れて行く。
「ここが俺の部屋だ。相談はいつでも聞くから気楽に訪ねてこい」
ドアを開け、ヴィクターを中に招き入れる。
部屋にはライティングデスクとベッド、クローゼット、本棚が置かれている。
「個室はだいたいこんな感じだ。基本的には私物は増やさないようにしている。なんせ成績優秀者から個室割当だからな。順位が落ちれば部屋を追い出される」
エドウィンは肩をすくめて苦笑を浮かべる。
「俺はこの青屋敷3号棟の寮長やっているから尚更落ちるわけにはいかん。相談事は個室がないと辛いからな」
「大変なんですね」
ヴィクターの言葉に笑顔になるエドウィン。
「そうだ、大変だぞ。寮長なんざ引き受けなきゃよかった。ところでヴィクター、おまえの部屋は何号室だ?」
「210号室と聞いています」
「……空きは他にもあるだろうに、なんでそこなんだよ……」
エドウィンが頭を振りながら言う。
「何か、問題でも?」
「んーああ、まあ、な。行ってみればわかる。よし、行こう」