「救国の手」対「魔王」
「救国の手」と称される冒険者パーティがある。彼らは数々の困難を乗り越え、混沌の主たる魔王との対決に勝利した。
ヴェイリンガー出身の大賢者、人間男性シリル・カーソンはその救国の手のリーダーだった。
パーティーメンバーは他に4人。
メンバーは全てシリルの弟子たちでもある。
エルシアの小賢者、エルフ男性フィル・ブレンダン。
同じくエルシアの剣聖、エルフ女性アリス・マリファ。
ルウドバーンの大治癒師、リザードマン男性のマルク・ギルファ。
ザフェルニクスの勇者、ドワーフ女性のエルミナ・ソーンダック。
「師匠!」
フィルがシリルの手を取り、泣いている。
「どうだ? 『魔王』は
「はい! はい! ありません」
シリルの影が徐々に薄くなっていく。
「そろそろ私は終わりのようだ。この別離のための時間も神が私に恩賜としてくださった時間で、本来はあの瞬間に消えてしまうはずだった。フィル、おまえ、ちゃんと私の最後の魔術を見たな?」
「はい、しかとこの目に焼き付けました!」
「ならばよい」
シリルはアリスに視線を送る。エルシアの剣聖とまで呼ばれるようになった武人は、立ったまま静かに
「アリス。フィルと仲良くな。二人の間の子なら、きっと
アリスは目を見開き、シリルを見る。
「私は天涯孤独で独り身だが、朴念仁ではないぞ……惜しむらくは、お前達の間の子…‥そうだな……孫の顔を見ることが叶わぬことくらい、だ」
弱々しく笑うシリルに、アリスは駆け寄る。胸にすがりついて泣く。
マルクは拳を握りしめ、震えている。そのマルクの胸ぐらをエルミナが掴んで振り回している。
「あんたの! 治癒の! 力で! どうにかしてよ!」
マルクは振り回され続ける。返事がないのを見て、エルミナはマルクにしがみついて泣く。
「まったく……騒がしい弟子たちだ……」
シリルは微笑む。
「なあに、私は使命を果たしたのだから退場するのだよ。魔王に対抗できる力を持つものは、平穏な生活など出来ない。それは私の本意ではない。これはこれで幸せなことなのだよ」
シリルはマルクとエルミナを手招きして呼び寄せる。
「マルク。大治癒師がそんな情けない顔をするんじゃない。胸を張って、上を向いて、自信に満ち
「エルミナ。勇者が取り乱すものではないよ。もう君はその立場をわきまえて行動しなければならない人物なのだよ」
シリルは再び弟子たちを見回し、そして微笑む。
「ああ、いい人生だったよ。それでは、な」
シリルの姿はかき消え、4人の慟哭が魔王の間に響き渡った。
――――
シリルは頭を振りながら立ち上がる。
白い部屋。
「ようこそ、ヴェイリンガーの大賢者、シリル・カーソン。魔王を撃退したことを感謝します」
柔らかな女声が部屋に響く。
「魔王を
「残念ながら。ですが人の身で魔王を撃退するというのは偉業なのですよ。その偉業を
「くおおおお!」
天を仰ぎ絶叫するシリル。
「え? え? え?」
うろたえる女声。
「何ということだ! やっと
「あのー……」
「どうすれば魔王を消滅させられるのだ!」
「えーと……」
困った表情の美女が現れる。
「シリル・カーソンさん?」
恐る恐る女性が声を掛けると、シリルはくわっと目を見開き女性に詰め寄る。
「教えてくれ! 魔王を完全に
シリルは女性の両肩を掴み、ガクガクと揺する。
「お、お、落ち着いてくださいいいいぃぃ!」
女性の声にシリルは動きを止める。
「失礼した……私が命を掛けて行ったことが無駄だったという徒労感につい取り乱してしまった。私もまだまだなのだな」
「シリル・カーソンさんの望みは、魔王を完全に
乱れた衣服を整えながら女性が尋ねる。
「ああ……できれば、だが」
しばらく女性は考え込む。
「わかりました。一時的とは言え魔王を撃退したカーソンさんの願いです。叶えましょう」
「……出来るのか?」
「私は人種族に加護を与える最上位の女神ですよ? 諸々の神たちに話をちゃんと通して、カーソンさんを最強の戦士として転生させることをお約束します。ただ、その次の生が終わったら、神として我々とともに働いていただくことになります」
胸を張っていう女神にシリルは深々と礼をする。
「では転生まで50年くらい掛かりますし、その間、いろんな神様たちと特訓しましょうね」
慈母の微笑みで女神はシリルに告げた。