二階からエルフの女性が降りて受付にやってくる。
「何を騒いでいるの?」
受付嬢は姿勢を正す。
「はい、理事長。その……推挙され合格したこのヴィクター・ヴァレンさんの扱いについてです」
ヴィクターは振り返り女性に優雅に礼をする。
「はじめまして、ヴェイリンガーのカーソン村出身、ヴィクター・ヴァレンです」
「アリス・ブレンダンよ。娘から報告は受けています。シャーリィ、事務手続きは終わってるの?」
「はい、あとは制服貸与の件だけです。ヴィクター・ヴァレンさん、楯では制服が貸与されます。隣の被服局で採寸してください。汚れたり、サイズがあわなくなった場合も隣の被服局に持っていくことで交換してくれます。だいたい1週間を目処に交換するようにしてください。下着類も貸与されます。詳しくは被服局の担当官に聞いてください」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
ヴィクターは丁寧な礼をシャーリィと呼ばれた受付嬢に返す。
「で、ヴィクターくん、ちょっと付き合ってもらえるかしら」
アリスは微笑むとヴィクターの肩に手を置いた。
アリスは階段を上がり、廊下の突き当たりにある部屋にヴィクターを招く。
部屋はかなり広く、大きな机とその前にソファーセットが置かれている。
「ま、座って」
アリスはヴィクターにソファーに座るよう勧める。ヴィクターがソファーに座とその向かいにアリスが座る。
「マーシャから報告は受けているんだけど、本当に加護なしなの?」
「ええ」
アリスは目を細めてヴィクターを見る。
「それなのに、
ヴィクターは曖昧な微笑を浮かべている。
「そして、アダム卿ともやりあって勝った、と。卿はナイフを抜いたと聞いているわ」
「マーシャ殿は私が子どもと油断しておられました。そしてアダム卿は風邪でも引いておられたのでしょう。このところ天候も不安定ですし」
アリスはじっとヴィクターを見つめる。
「
アリスがゆっくりと言うと、ヴィクターは微笑みながら頷く。
アリスはソファーから立ち上がると腰に下げていた細身の剣を一挙動で抜き去り、ヴィクターの鼻先に突きつける。ヴィクターは目をパチクリさせてそれを見たあと、後ろにのけぞる。
「あ、あ、危ないじゃないですか!」
ヴィクターの抗議を無視して、アリスは剣を鞘に戻す。
「演技はやめて。油断していたとはいえ、マーシャとアダム卿を撃破できる7歳児がこの程度の動きを見切れないはずもない」
「え、あれはたまたま偶然というやつですよ」
「偶然、ね」
アリスが柄に手をかけると一挙動でソファーから前に飛ぶヴィクター。アリスの柄を押さえる。
「それはちょっと洒落になりませんよ」
「あら、どういうことかしら?」
「今本気で切ろうとしたでしょう?」
アリスは口を手で隠しながらクスクスと笑い、その後目を細めてヴィクターを見る。
「あら、わかった?」
「そりゃあ、まあ……」
「わかりやすい殺気は出ないんだけどなあ。じゃないと魔王とやりあえないし。あなた、一体、何者?」
「ヴィクター・ヴァレン、ヴェイリンガーのカーソン村出身の、『加護なし』です」
「ふうん、そう」
アリスはつまらなそうに言うと手を振った。
「わかったわ。今日のところはこれまでってことで。帰っていいわよ」
ヴィクターは丁寧な礼をすると理事長室をあとにした。