洞窟踏破
「お姉さんがいるから平気よ」
軽装鎧姿のイェリーナがヴィクターの頭をそっと撫でる。
「参加、初めてなのは、同じ」
同じ軽装鎧のアイノがポツリと言う。
「う、う、うるさいわね!」
赤面しつつ、アイノに詰め寄るイェリーナ。そこへマリーが割って入る。
「ほら! シャンとする!」
マリーも軽装鎧姿だった。
「ヴィクターくん、装備は?」
「あ、ええ。別に大丈夫かな、と」
ヴィクターは白いシャツと紺のスラックスに短めの剣を後腰に吊った姿だった。
「みなさんは、んー……」
ヴィクターは目を細めて三人を見る。
「イェルさんは魔術師、アイノさんは治癒師、マリーさんは付与師……ですかね」
ヴィクターの言葉に三人は顔を見合わせたあと頷き、マリーが話しかける。
「すごいわね。確かに私達は指摘の才能がある、とされてここに来たのよ。実際は……だけど」
「多少は使えるんでしょう?」
「ええ、多少は、ね」
マリーは目を伏せながらつぶやく。ヴィクターは笑顔を浮かべ、マリーの両手を取る。
「じゃあ、大丈夫ですよ!」
救国の洞窟と呼ばれている楯が管理する洞窟には小賢者フィル・ブレンダンが開発した
コアは周囲の魔力を集め、魔物を生み出す。
生み出された魔物はコアに結び付けられ、ダンジョンからは遠く離れることはできない。そしてコアが破壊されればすべて消滅する。
まさしく管理洞窟。
広大なダンジョンは1年をかけてモンスターで埋め尽くされ、試練の場としてその姿を表す。
「おー、ヴィクター!」
「エドウィンさん!」
ヴィクターが手をふると、エドウィン・パーシバルが傍にやってきた。
「同室対抗ってことは個室の人はどうするんですか?」
「フロアに個室が4つずつあるだろ? そのフロア個室でチームを組むんだ」
「ということは、成績優秀者のチームですね。それは手強い」
ヴィクターが笑顔で言うとエドウィンはヴィクターの頭をくしゃくしゃと撫でる。
「そうだな」
エドウィンの後ろに男性一人、女性二人がやってくる。
「おお、君が最年少の楯、ヴィクター・ヴァレンかー。俺はデイヴィット・マクリー。エドウィンと同じ剣士をやっている」
デイヴィットと名乗った男もまた板金鎧に大剣を背負っていた。女性二人は屈んでヴィクターと目線を合わせる。
「はじめまして、私はケイト・ワーナー。このメンバーでは治癒師として働くことになるわね」
「ヴェイリンガー出身だっけ? じゃああたしと同郷ね。アーシュラ・バークリーよ。付与師になるわ」
「はじめまして。ヴィクター・ヴァレン、加護なしです」
エドウィンはヴィクターの格好を見て頷く。
「ふむ、入口付近でリタイア予定、ってところか?」
「いいえ。コアを破壊するつもりでいます。僕たちのパーティはそれだけの実力があります」
しばらくエドウィンはヴィクターを見下ろし、天を仰いで大笑いする。
「そりゃあいい! 小賢者もびっくりするぞ」
しばらく笑ったあと、エドウィンは冷静な顔でヴィクターを見下ろす。
「今まで、救国の洞窟のコアルームにまで到達できた踏破者はいない。そのことは忘れるな」
「はい。歴史に名を刻んでやりますよ」
「……死ぬなよ。俺はお前が好きなんだ」
「ええ、まだ死ぬつもりはないです」
ヴィクターはエドウィンにウィンクする。
「これより、洞窟踏破を開始する! 各チームの代表は踏破順を決定するために受付に集合!」
マーシャ・ブレンダンが大声を張り上げる。
「よっしゃ、行くか」
エドウィンは顔を両手でパン、と叩いた。
「じゃ、僕が行ってきます」
ヴィクターが3人に告げる
「まかせたわ」
イェリーナは微笑むと、かがみ込んでヴィクターの頬へキスをする。
「女神の祝福よ。いい順番取ってきてね」
「じゃ、あたしも」
アイノもヴィクターの頬にキス。
「……マリーは?」
アイノが問いかけると、マリーはヴィクターを抱きしめて額にキスした。
「あー! あー!」
イェリーナが抗議の声を上げる。ヴィクターは苦笑を浮かべて3人に手を振り、受付へと向かっていった。