洞窟内はぼんやりと明るい。
マリーは不安そうに周りを見回しているが、そのマリーにヴィクターはウィンクを送るとスタスタと歩き始める。
「え、危ないよ!」
「そりゃまあ魔物のいる洞窟だからねえ」
マリーの言葉にのんきな応答を返すヴィクター。
「罠とかもあるかもしれないのに!」
「空間を多重に展開させるだけでも大変だから、そこに罠のような繊細な仕掛けを作るのは天才でも無理」
ヴィクターはマリーの警告に微笑みながら答える。
「魔物が作る可能性」
アイノがぽつりと呟いた言葉にヴィクターは頷いてから答える。
「ああ、その可能性はあるけれども、展開空間を加工することは不可能なので明らかに後付の罠になるんだ――こんなふうに」
ヴィクターは前方を指差す。指先から水が一筋伸びる。床に触れるとバネ仕掛けで半円の金具が合わさり、ガチンという金属音を響かせる。
「薄明かりでちょっと足元が不安なところへのレッグホールドトラップ。いい手ではある。そこそこの知性がある何者かがいるということだ」
遠くからぎゃーぎゃーいう声が聞こえてくる。
「ゴブリンたちだな。マリーさん、バフよろしく。アイノさん、全体見てね。イェルさん、僕がうち漏らしたヤツの処理任せます」
ヴィクターは腰の剣を抜いて右逆手に持ち、飛び出す。その先にはゴブリンの群れ12体。
マリーは慌てて嵐神に助力を乞う呪文を唱える。
「我
ヴィクターの体が淡い紫に光る。走る速度が倍以上に跳ね上がる。
「え、あれ?」
「マリー! ぼーっとしない!」
アイノの声にマリーは再び神へ助力を請願する。
ヴィクターは最初のゴブリンと接敵。すり抜けつつ右手の剣を首にめがけて叩き込み、振り抜く。
ゴブリンは首を押さえてのたうつ。傷は浅かったが鈍器で喉を潰されたようなものだ。そのまま動きを止める。
「我
マリーの支援魔術によりヴィクターの剣が淡い紫色に光り輝く。
その左脇を抜けようとしたゴブリンの頭部に左拳を叩き込む。ゴブリンはそのままぐにゃりと地面に倒れ込む。
「まだ抜けさせんよ!」
ヴィクターは吠え、集団の中へ飛び込んでいく。
イェリーナはたどたどしい詠唱を終えた。
「そは
魔力の塊が15個発生し、それぞれゴブリンに飛んでいく。
「えええぇぇ!」
イェリーナが叫ぶ。魔術弾はヴィクターをすり抜けた1体と、ヴィクターのすぐ脇にいある2体のゴブリンにそれぞれ5発ずつ飛び、ゴブリンの四肢と頭部を消し飛ばす。
爆風にヴィクターが巻き込まれ、バランスを崩す。
「あっ!」
イェリーナの小さな悲鳴。同じように巻き込まれていたゴブリンがバランスを取るために振り回した右手のナイフが偶然かヴィクターの左腕に当たる。ナイフはシャツを切り裂きヴィクターの腕に赤い筋をつける。
アイノが短縮詠唱を開始。
「我水神請願。同胞回復。《
ヴィクターはゴブリンの殲滅を継続する。
倒されたゴブリンは塵となって消え、小さなコアが残される。ヴィクターはコアを集めて手のひらに載せ、しばらく見つめる。手のひらの上のコアは消える。
「ヴィクターくん
「だから食料と水の心配はいらないんです」
マリーに微笑みかけると3人を見回す。
「さて、と。デブリーフィングしましょうか」