「仕掛ける」
彼らは順調に洞窟を踏破している。初日に八階層目まで降り、セーフティエリアでキャンプを行った。今は九階層目に降りての初戦。
「仕掛けるって……」
イェリーナはモンスターを見て絶句している。
「オーガロードよ、あれ」
「それとゴブリンキングと愉快な
「……不思議。今までと違う。水神さまの存在を感じる」
「そりゃね」
ヴィクターはアイノにウィンクする。
「言ったでしょう? 神は君たちが考えている以上に君たちを愛しているって」
「でも、セーフティエリアでは感じない。なぜ?」
「そりゃ安全なところで神を感じていたらぶっ壊れますよ?」
ヴィクターをじっと見つめるマリー。小さくため息をつく。
「ね、ヴィクターくん。少し気になる事があるんだ」
「長いようでしたら戦闘の後で」
「あ……うん」
ヴィクターは腰のナイフを抜くと左の逆手に持ち、突っ込む。
オーガロードとゴブリンキングは突っ込んできたヴィクターに対峙する。
イェリーナは大量の
アイノはイェリーナへ次のターゲットを告げ、マリーは全員へバフを配る。
「おら、こっちだデカブツ!」
ヴィクターはイェリーナに向かおうとしたオーガロードの膝関節を横から踏みつけるように蹴る。
べキッと嫌な音を立てる膝。オーガロードは絶叫し、バランスを崩す。
ヴィクターは更にゴブリンキングが振り回している拳を刃で受け止めた。
マリーの付与により切れ味の増した刃は硬いゴブリンキングの右拳を肘関節まで切り裂く。
ゴブリンキングは右腕を見て棒立ちになる。ヴィクターは左手を伸ばしゴブリンキングの喉へ刃を叩き込む。
ゴトリ、と硬い音を立てて床に転がる首。
その間にオーガロードは自らへ
「ちっ」
ヴィクターは小さく舌打ちをするとオーガロードの前に右手、右足を前に構える。
オーガロードの腰ほどの背しかないヴィクターだが、どっしりと構えている。
オーガロードがローキックを振り回す。
そのスネにヴィクターは付与された小剣を突き刺し、こじる。
派手に血を吹き出し、切り離されるスネ。
急に質量の一部を失い、バランスを崩すオーガロード。
ヴィクターは跳びあがり、胸郭へ小剣を突き刺してからこじり、引き抜く。
正確に心臓を貫いていたその一撃で、オーガロードは絶命した。
「うへー……汚い……」
頭から返り血を浴びたヴィクターはぼやき、シャツを脱いてから手のひらを頭の上に少し浮かせるように持っていく。
「なにをする?」
アイノがそのヴィクターに話しかける。
「ちょっとね」
ヴィクターの左手のひらから大量の水が湧き出てくる。彼はうつむいて右手でガシガシと髪を洗っていく。
「
「魔術は神への請願ですが、連絡路が十分に太いなら声に出さずとも届くのですよ。詠唱は神への注意喚起みたいなものです。いきなり『水くれ!』って言われて出す神様も大変でしょ?」
うつむいたまま答えるヴィクター。
「あたしも、できる?」
「いずれは」
ヴィクターはオーガロードの血を洗い流し
「ヴィクターくん、さっきの話だけど」
「ああ、なんでしょう?」
着替え終わったヴィクターの前にマリーが立つ。7歳にしては大柄のヴィクターと、18歳にしては小柄なマリーではあるが、それでもヴィクターより頭一つ大きいため自然にヴィクターは見上げ、マリーは見下ろす姿勢になる。
「紋章といい、無詠唱といい、あなた、何者?」
「んー……何者って……んー」
ヴィクターはしばらく考え込んでから、クイクイと手招きする。マリーが顔を寄せると小さく耳打ちする。
「僕は実は大賢者の生まれ変わりなんです」
「はぁ⁉」
マリーの反応にヴィクターはケラケラと笑う。イェリーナとアイノが二人のところにやってくる。イェリーナはヴィクターの肩に手をかけ、聞く。
「どうしたの? ヴィクター、マリーに何言ったの?」
「僕が何者かと問うので、大賢者の生まれ変わりだ、って答えました」
「大賢者って、シリル・カーソン?」
「そうそうそれそれ」
イェリーナの言葉に人差し指を立てて振り、頷くヴィクター。
「……その件については、後で話しましょうか。今は、いいわ」
イェリーナは大きくため息をついた。