「それにしても」
先頭を歩くヴィクターは周囲を警戒しつつ、つぶやく。
「短期間でだいぶいい表情になりましたね、みなさん」
「なあに、それ」
イェリーナは呆れたように答える。
「少なくとも入り口でプルプルと震えていた子羊はもういない、ということですよ。喜ばしいことです」
「……あとで覚えておきなさいよ?」
「忘れました」
ヴィクターはさらっとそれだけ言うと前をにらみ、左手を上げて立ち止まり、振り返る。
「現在階層は二十一だっけ?」
「そう」
アイノが答える。
「どうも、ここがゴールっぽいね。だから他にモンスターがいないんだな。代わりに一体やっばいのがいるけど」
「やっばいの?」
アイノの疑問にヴィクターは頷き、右手で顎を支えてブツブツと呟く。
「あれは……。小……を通じて感じ……」
「なあに、ヴィクターくん?」
マリーがヴィクターに近寄る。
「あ、いや、なんでもない。さて、どうしたものか……」
マリーが首を傾げてヴィクターを見る。ヴィクターは三人を見回してから考え込む。
「やっばいのは私がなんとかしよう。離れて見ていて。手を出して敵対しているとみなされたらちょっとまずい……アレに対抗するには『救国の手』じゃなきゃ無理だ」
「『救国の手』って……もしかして……」
「シリル・カーソンをリーダーとしていた、伝説のパーティだよ」
ヴィクターは顎に手をやり、ブツブツとつぶやき始める。
「だがしかし、いや……そうだな」
「そんな危ないのが相手なら撤退しようよ!」
マリーの言葉にヴィクターは首を振る。
「勝てない相手じゃないぞ。というかアレに苦戦しているようだと私はまずい。私は魔王を
三人はヴィクターから少し離れて歩いていく。
「そう、それくらい離れていてくれれば……彼がそのように見ていたならばおそらく大丈夫」
「何の話なのよ……」
イェリーナが小さくつぶやく。アイノは肩をすくめ、マリーは首を振る。
「さて、到着、だ」
かなり広い空間の真ん中に、虹色に輝くコア。その前には全身黒ずくめ、スラリとした長身で、長い黒髪の青年が立っていた。肌は透き通るような白さ。燃えるような赤い瞳の、美青年。
「ここまでたどり着くとは、なかなかだな」
「そりゃどうも。後ろの三人は見ての通りだから、立会人として扱ってくれると嬉しいな」
「手出しをしないならな。それさえなければあの程度のものと関わり合いたいとは思わん」
ヴィクターは右手を上げ、人差し指を立てて振る。
「だそうだ。三人は黙って見ているといい」
「そんな!」
マリーが声を上げると、ヴィクターはそれを遮るように言う。
「いても邪魔だ」
マリーが飛び出そうとしたところでアイノがその肩を掴む。
「ダメ。私達じゃ勝てない」
「でも!」
イェリーナがヴィクターに向かって叫ぶ。
「後でお仕置きするから、生きて帰ってきなさいね!」
「はは、それは嫌だが、生きて帰ってくるさ」
ヴィクターはそう言うと、男に近づく。間合い、3メートル。
「待たせたね。じゃあ、やろうか」