ヴィクターの体が紫色に輝く。
「身体強化か! 面倒な!」
「さてね」
ヴィクターは前へ一歩踏み出す。その一歩で男へ詰め寄り、小剣で男の足を突く。
男は刺された足を気にせずヴィクターの右手を殴りつける。
ヴィクターは剣を手放し、そのまま前へ跳ぶ。
ヴィクターは振り返り、左手を差し出す。左手から小剣へ雷撃が落ちた。
電撃は火を呼ぶ。男の足が炎に包まれる。
男は炎を意に介せず、刺さっている小剣を左手で引き抜き、そのままヴィクターへ投げつける。
ヴィクターはそれを簡単に左手で掴む。
「少しは痛がれ化け物め!」
ヴィクターの悪態に男は涼しげに答える。
「そういうものから超越しているからこその王だ」
「まったくもって律儀なものだ……少しは削らないとダメだったな、そういえば」
ヴィクターは剣を鞘へ戻し、右手右足を前に構える。
男は目を細めてヴィクターを見る。左手を前に右手を顎下に置き、握りしめる。
「私の何を知っているというのだね、少年」
「お前よりは詳しいと思う」
男は一瞬で距離を詰める。
ジャブ。ヴィクターは前手でパーリングしながら右へサイドステップ。右ジャブを返す。
男はそれをヘッドスリップでかわし、右ボディアッパー。
ヴィクターは左手で掴むが、止めきれずボディに刺さる。
「ぐっ」
小さく唸る。
「言っただろう、王だと」
ヴィクターは後ろに跳び、構え直す。
男は再び距離を詰め、左ジャブを伸ばす。
ヴィクターはヘッドスリップで回避し、前に詰める。前に出ている男の左足を右足で外側へ払う。
そこに男は合わせて右膝を頭に叩き込む。弾かれ、飛ばされるヴィクター。
「惜しいな。
男は顎に手をやり、吹き飛ばされたヴィクターに近寄りながらつぶやく。
「そうかもな。だが今の手札で戦うしかない。そういうものだろ」
ヴィクターは立ち上がり、構える。
「気が合うな、少年」
男はローキックを放つ。ヴィクターは始動にあわせて膝へサイドキック。
男はそのまま振り抜く。男の膝に乗り飛ぶヴィクター。
「軽い」
「バケモンかよ……いくら軽くても膝に全力で乗ったんだぞ」
ヴィクターは右手で額を押さえて首を振る。
「化け物ではない、王だ」
男はゆっくりとヴィクターに近づく。男の顔が小さく爆ぜる。
「バカ!」
ヴィクターの悪態。男はその魔力源のイェリーナを睨みつける。
男の周りに魔力の塊が浮かぶ。10、20、30……。
「お前の相手はこっちだ!」
ヴィクターはその魔力の塊を左手で払いのける。爆発し、焦げていくヴィクター。
「やめて死んじゃう!」
マリーが悲鳴を上がる。
ヴィクターは魔力の塊を払い除け続ける。
ついには左手首から先が飛んでいった。
「よくやるな、少年」
「きれいな女性に怪我はさせたくないからな。だがありがとう。自分で魔力削ってくれて」
ヴィクターが右手で指差すと、男の左肩が白く光る。その後上に振り上げると光はすぐに消える。
男の左半身がぼろぼろと崩れていく。
「貴様! 何をした!」
「さてね」
ヴィクターは右手で焦げた左手首を撫でる。淡い水色に包まれ、手が再生する。
「
男の崩れていく左半身からグズグズと黒い液体が流れ出す。
「なるほどね……まあだからこそ撃退できるわけだが……それにしても、ね」
ヴィクターが再び人差し指で男を指差す。男は収縮し、赤黒いコアになる。
「ここはアレンジされているな。面白い」
ヴィクターはコアをつまみ上げ、くるくると裏表を観察しながら小さくつぶやいたあと、振り返る。
ヴィクターの視線の先にはしゃがみこんでぐずぐずと泣いているイェリーナ、肩をそっと抱いているマリー、呆然とヴィクターを見ているアイノがいた。
「ん?」
「ヴィクターくん、おかしい」
アイノがポツリと言う。
「まあね」
ヴィクターは焦げて千切れた自分の左手を回収し、収納鞄に入れる。
「……なんで?」
「結構優秀な触媒になるんだよ」
「やっぱり、おかしい」
「壊れているからね」
ヴィクターはイェリーナに近づく。彼女は気配を察してヴィクターを見上げる。
「なぜ、手を出した」
「だって……ヴィクターが」
ヴィクターはしゃがみ込み、イェリーナの両肩に手を置く。震えるイェリーナ。ヴィクターはため息をつくと右手で肩をポンポンと軽く叩いた。
「助かった。ありがとう。さ、いくぞ」