事故あるいは陰謀
ヴィクター・ヴァレンはアルカナ連邦ヴェイリンガーの外れ、カーソン村という小さな村の豪農ヴァレン家の三男として生まれた。
ここはかつて伝説の大賢者シリル・カーソンが生まれた土地ということで、途中で名前が変わった村だ。
ヴァレン家は元冒険者の父コーディ・ヴァレン、その同僚だった母ベアトリス・ヴァレン、長男のリック、次男のアーロン、そして双子の長女ジャネットと三男ヴィクターの五人家族。
両親が冒険者だった頃の稼ぎで広大な土地を買い、カーソン村に居を構えている。
ヴァレン家はその広大な農地を小作人に貸し出していた。
その使用料をかなり低めに設定していたために周囲の農民との関係は良好だった。
そのかわり他の地主とは関係が悪い。
だが元冒険者であり、さらに下級神とはいえ武神の加護持ちの父、水神の加護持ちの母を相手にことを構えるのはかなりの犠牲を払わなければならないためせいぜい嫌味のやり取り程度で済んでいた。
リックが6歳、アーロンが3歳のときにジャネットとヴィクターが生まれる。
このとき、事件がおこった。
臨月の妊婦が出ると司祭は洗礼のための準備を執り行う。
カーソン村には教会がないため隣村の司祭に間もなく子供が生まれるという連絡を送った。
それから程なくしてベアトリスが産気づき、隣村から司祭が駆けつけた。
ジャネットが生まれ、隣室で司祭が洗礼儀式を執り行う。
そしてヴィクターが生まれ、司祭に渡された。
「そんな、手紙には双子なんて書かれていない……」
「馬鹿な! 重要な項目だから確かに書いたぞ!」
コーディは司祭に詰め寄るが、司祭は血の気の引いた顔のまま首を左右に振るだけだった。
洗礼に使う聖水は前もって儀式を執り行う必要がある。今からでは間に合わない。ヴィクターは洗礼を受けられず「加護なし」となった。
その後、隣村に司祭が戻ると、教会が荒らされ、手紙の束が盗まれていたという。
この世界にはそれぞれの種族の神がおり、生まれた直後に執り行う洗礼でその種族神からの加護を受ける。
この時、他の神からも加護を受けることがある。
武神の加護を受ければ武器の扱いに、魔神ならば魔術全般に、火神なら攻撃魔術に、水神ならば治癒魔術に、嵐神ならば身体強化魔術に、地神ならば防御魔術に長けるようになる。
神々は主神、上級、中級、下級とランクがあり、上の神の加護を受けるほどその加護の影響は大きくなる。
そして極稀に多数の神の加護を受ける場合がある。
逆に洗礼を受けられなかった場合は、種族神の加護すら受けられないことになる。
種族神の加護は生きる力であり「加護なし」は死を意味する。
ヴィクター・ヴァレンはおそらく半成人式を迎えられないだろう。
周囲の地主も農民もそのように噂した。農民たちは我が事のように嘆き、地主たちはほくそ笑みながら。
半成人式は、子が無事に育った祝い。
人間は14歳、エルフは30歳、ドワーフは20歳、リザードマンは18歳を成人とし、その半分の年齢のときに半成人式を行う。
半成人式までは神の子として扱われ、戸籍も作られない。半成人式後は一般社会に組み込まれる。
ここで神の加護を確認し、将来の職を決め、訓練を始める。
ヴィクターが生まれた翌年、リックは半成人式を迎える。
リックは種族神の加護のみ持つ、普通の少年だった。彼は父の後を継ぐことを決意する。
コーディとベアトリスは加護なしのヴィクターを過保護に育てていた。長男のリックはその事情を理解していたが、次男のアーロンは不満だった。そして長女のジャネットも。
アーロンが半成人式での判定結果は種族神と中級火神。攻撃魔法の才能があると判定された。これ以降、加護なしの弟をいじめるようになる。
父や母に諌められるものの、両親は
アーロンのいじめにまたジャネットも追従した。物静かなヴィクターは次兄と長姉にいいようにいじめられ、より一層物静かな少年となっていく。
村の子供達はアーロンの開花し始めた魔術に恐れ、従い、ヴィクターをいじめるようになる。
ヴィクターは村の子供達を避けるようになり、一人で遊ぶことが多くなっていったのだった。