理事長室。残った4人はしばらく黙り込む。
「どう思う?」
「質問は具体的に」
沈黙を破ったアリスの言葉にフィルが冷たく言う。
「んもう! いつもあなたはそうなんだから」
「君の悪い癖だ」
「夫婦げんかは家でやってもらえないかね?」
マルクが静かに告げると二人は黙る。
「身体強化とか、既存魔術のアレンジを無詠唱で行う。そこはまるでお師匠様よね」
エルミナが腕を組んでうんうん頷きながら言う。
「お師匠様と違うのは、接近戦でもかなり強いということ。アリスの話からするとちょっと強いどころじゃないわね」
「君はずっと回って全身を見ていたな。どう見る?」
マルクの問いにエルミナは顎に指をあて、視線を天井に向かわせてしばらく考えてからマルクに視線を戻すと静かに言う。
「そうね。立ち姿を見ていたんだけど、軸が制御されていて綺麗な立ち方だった。あれはかなり強いと思うわ。あたしも勝てるかどうか……マーシャは油断していたと言うけど、あの子じゃ勝てないわね」
「アリスも同意見か?」
マルクがアリスに問うと彼女も頷く。
「左手首を切断したらしいが、それも無詠唱で復元させた、と。儂も出来るが……加護なしで、か」
マルクは腕組みをして床を睨みながら絞り出す。
「気になる点は他にもある。加護が変わった三人」
フィルが机を指で叩きながら言う。
「加護が変わるなどありえない」
コツコツと机を叩く音が響く。
「フィル、それ悪い癖だからやめなさい」
アリスに言われて動きを止める。
「すまんな。あまり愉快ではない結論に至ってな」
大きくため息をつくフィル。
「そろそろ魔王が戻ってくるはずだ」
「彼が、その器になるもの、だと?」
マルクがフィルに問いかけると彼は静かに頷く。
「魔王たちは独自の魔術体系を持ち、発動時現象が我々とは異なる。彼の魔術の発動時の現象は我々と同じだ」
マルクの言葉にフィルも暫く考える。
「今は、まだ、ということなのかもしれん。監視はしたほうがいい。うちからはアーヴィンを楯に出向させる」
「おいおい、お前のところの一番弟子じゃないか」
マルクが呆れたように言うとフィルは涼しい顔で答える。
「監視と、指導、だ。道を逸れぬように。仮に器だとしても使えなければ問題あるまい? 君たちも出してくれ」
「うちからはマーシャを出すわ。知り合いみたいだし」
エルミナの言葉にフィルとアリスが同時に彼女を見る。
「あたしの見立てでは、彼は魔王になんかならないわ」
「根拠は?」
フィルが鋭く問うとエルミナは笑顔を浮かべる。
「女の勘」
フィルは首を振り、アリスはため息をつく。
「マーシャを出すっていうなら……私からはエルヴィンを出すわね」
「あら、すごい采配ね」
「そろそろあの子にも、ねえ。成人したんだし」
フィルはアリスを睨みつける。
「私があの子の歳にはもうあなたと」
「だ・ま・れ!」
「だからの、夫婦げんかは家でやってくれ……まったく。それだけ揃うならうちからはラウロ出すしかないだろ」
マルクはため息交じりに答える。
「楯で教官補佐として働きつつ、監視、指導。そういう方針でいいだろう」
「ま、監視はフィルの杞憂だとあたしは思うんだけどね」
「エルミナ、君は楽天的すぎる。損害を伴うような事象についてはは悲観的に見ていたほうが最終的な被害は少なくなる」
「それは否定しないよ。でももう少し楽しく生きたほうがいいと思うんだけどなあ。お師匠様もそんなこと望んでないと思」
「黙れ!」
フィルは机に拳を叩きつけた。
沈黙が場を支配する。
その沈黙を破ったのもフィルだった。
「すまなかった」
「……ううん、あたしも無神経だった。ごめん」
また全員が沈黙する。
「はいはい。お互い謝罪したんだからここまで」
アリスが手を叩きながら言う。
「お師匠様が命を賭して救ってくれたんだから、次は私達の番。やれることはすべてやって、最善を尽くしましょう。それでいいわよね?」
アリスが三人を順に見やると、全員頷いた。