ヴィクターが部屋に入ると三人は一斉に彼を見る。
「さて、その大賢者の生まれ変わりという話なんだけどね」
イェリーナが口火を切る。
「あんまり信用してませんね」
イェリーナが頷くとヴィクターは小さくため息をつく。
「大賢者って魔術だけではなれません。それをちょっと証明してみましょうか」
「証明?」
ヴィクターは部屋をぐるりと見回し、時計の振り子を指差す。
「あれ。振り子の周期は棒の長さに依存するんですが、その証明を行うにはかなり面倒な計算を行う必要があります。とりあえずは近似計算で提示してみましょうか」
「へ……?」
イェリーナは呆然とヴィクターを見る。
ヴィクターはライティングデスクに向かい、ペンを取る。イェリーナはその隣に立ってヴィクターの手元を見ている。
「例えば、質量mの長さLの振り子が角度θで運動している場合を考える。この時質量mの点の移動する速度は常に円周に対する接線方向に向いていてその速度は以下の式になる」
「で、加速度は速度を微分することで得られるのでさっくり微分する」
「質点mにかかる力は重力加速度をgとした場合、鉛直方向の力。これを接線方向とその垂直方向に分解する。運動に関わるのは接線方向にかかる力でこれがその加速度と等しいため、以下の式になる」
「両辺を整理すると次の式が得られる」
「振れ幅θが十分に小さい場合以下のように近似できる」
「ωを以下のように定義する」
「近似式にωを適用し変形する」
「これは定数係数の二階同次線形微分方程式なので解を」
「としたとき、eの性質からそれぞれ」
「となり、代入すると以下の式が得られる」
「eの定義から以下が自明」
「よって以下の特性方程式が得られる」
「特性方程式の解を線形結合したものが定数係数の二階同時線形微分方程式の解」
「ここに以下の公式」
「これを当てはめて一般解を得る」
「θは物理量であるから実数であることを考え、以下の定義を与える」
「変形して」
「ここでさらに定数定義を行う」
「定数利用して変形、さらに加法定理で変形することで以下の一般解を得られる」
「ここでωの定義を考えれば重力加速度は一定とみなして良いので振り子の周期は棒の長さに依存する」
「ちょっちょっちょっ、ヴィクター、何を言って何を書いているの?」
イェリーナが慌てて問いかけると、ヴィクターは顔を上げて微笑む。
「え。その、えーと……?」
イェリーナは固まり、アイノに視線を送る。首を振るアイノ。
「わからん」
マリーに視線を送る。
「あたしにわかるわけないでしょ。だいたいこの記号なに?」
「自然対数の底」
「じゃあこっちは?」
「虚数単位」
「なんなのよそれ」
しばらくヴィクターは考えて答える。
「なんなのって言われても……世界を記述するために必要なツールですね」
「それがわかると何がわかるのよ」
「よりよい世界のありよう、ですね。僕はそのために生まれたんです」
「随分と、尊大」
アイノが割り込むとヴィクターは微笑を返す。
「そうですね。でもそうでも思っておかないと加護なしはやってられないんです」