「君が大賢者の生まれ変わりだとして、これを秘密にするのかどうか」
アイノがヴィクターを見ながらつぶやく。
「別にどちらでも。どうにでもなります」
「そういうところ、よくない」
アイノはヴィクターを抱きしめる。
「で、なぜ抱きしめるのです?」
「かわいいから」
ヴィクターはため息で返事をする。
「満足しましたか?」
「だから、そういうところ」
アイノの後頭部をイェリーナがひっぱたく。
「痛い。何をする」
ヴィクターを解放し振り返るアイノの鼻先にイェリーナは人差し指を突きつける。
「ヴィクターくんはみんなのもの!」
「勝手に所有権を設定しないでください……」
ヴィクターがつぶやくとイェリーナは人差し指の先をヴィクターに切り替える。
「却下」
「この件に関してはイェルに同意せざるを得ないわ」
マリーが腕を組んで頷きながら言う。
「僕の人権はどこに……」
「あら、かわいいの前にはそんな些末なことどうでもいいのよ」
イェリーナの言葉に力なく笑うヴィクター。
「些末……」
「いいこと考えた!」
マリーが突然声を上げる。
「これから、ローテーションで添い寝!」
「賛成!」
ノータイムでイェリーナが返事。アイノも頷く。
「どこが『いいこと』なんですか……」
ヴィクターは頭を抱え、またもため息。
「あたしも、イェルも、アイノも幸せ。三方幸せのいいことだと思うんだ」
「僕の意思は……?」
「それっておいしい?」
「はい、おいしいので認めてください」
「やだ」
「即答かよ……」
ヴィクターが頭を抱えているとノック音が響く。
「はい?」
ヴィクターがドアを開けるとそこにはエドウィンが立っていた。
「すまんな、夜分遅くに。ヴィクター、下に降りてくれ。マーシャ殿が待っている」
「はあ……」
気の抜けた返事を返すとヴィクターは上に一枚羽織っただけで部屋を出る。
「あ、さっきの話は却下ですからね?」
「いーやーでーすー」
「さっきの話ってのは?」
沈黙を埋めるようにエドウィンが問いかける。
「まあ、バカな話ですよ」
ヴィクターは階段を降りながらため息をつく。
「そうか。あの三人相手なら、まあ、なあ……ヴィクター、大変そうだな」
「仕方ないことですね。そういえば、マーシャ・ブレンダンさんの用件って聞いていますか?」
「いや。だが夜中に来るってことは、あまりいい話じゃないだろう」
「
エドウィンは肩をすくめて苦笑。
「そりゃ、贅沢な悩みってもんだぞ」
階段を降り、玄関の吹き抜けエリアに待つマーシャに二人は合流する。
「んじゃ、連れてきましたよ。俺は部屋に戻ります」
「待って。あなたにも関係のある話なので」
「は?」
戻ろうとしたエドウィンをマーシャは呼び止め、座るように手で指し示す。
「3号棟寮長、エドウィン・パーシヴァル。部屋割りの命令書よ。三日以内に完了させて」
羊皮紙一枚、テーブルの上を滑らせてエドウィンの前に置く。
「……学業とは関係ないんじゃないのか?」
「本来なら、ね。私もだいぶ抵抗はしたんだけど副理事長が」
エドウィンは羊皮紙をつまみ上げしばらく眺める。
「ヴィクター・ヴァレンに204号室を与える、ね。ってことはケイトを押し出せ、ってことだな……確かに副理事長のサインだが。理事長はなんて?」
「条件付き賛成。どうせ一人部屋っていっても広いんだからケイト・ワーナーを押し出さず二人でしばらく部屋使え、だって。本当に何考えているんだか……」
もう一枚、羊皮紙を滑らせる。
「ブレンダン家は僕をおもちゃか何かと思っているんですかね」
エドウィンがもう一枚の羊皮紙を眺めている間にヴィクターは静かにマーシャに問いかける。
「いえ、決して、そんな!」
「とりあえず、この部屋割りはお断りします。どうせ聞いてるんですよね?」
『……なぜわかった?』
マーシャの肩のあたりからフィルの声がする。
「わかるも何も、丸見えじゃないですかそんなもの」
ヴィクターはつまらなそうに言うと席を立つ。
「正式にお断りしましたからね」
ヴィクターが指を鳴らすと羊皮紙が二枚、細かな塵になる。
「な……お父様の付与済羊皮紙を無詠唱で消すなんて……」
「そんな命令書はなかった、そういうことです。それでは、おやすみなさいませ」