父と母と一級騎士
森から村へ向かう途中、ポツリとヴィクターが言う。
「森に入っていったことは両親には内緒でお願いします」
「それは構わないが……」
ヴィクターはため息をつき、苦笑を浮かべる。
「感謝します。両親は過保護なのですよ」
「そんなに強いのに?」
プリシラがヴィクターに話しかける。
「僕は『加護なし』だからね」
ヴィクターはプリシラにウィンクすると二人は顔を見合わせる。
「そんな、まさか!」
「撃退したことも内密に。面倒なんですよ。僕はひ弱な『加護なし』である必要があるんです」
まだ6歳の幼子には似合わない、沈んだ表情でつぶやくヴィクターを見て、ジェラルドは手を伸ばしかけてその後首を左右に振る。
「わかった。ヴィクターくんは我々の命の恩人だ。その恩に報いるために従おう」
「ありがとうございます」
森を抜けてしばらく歩くと、村に着く。
ヴィクターはてくてくと中央通りを歩き、奥の大きな屋敷に向かう。
「すみません、少し待っていてもらえますか?」
二人にそういうとヴィクターは大きな屋敷の中に入っていく。
しばらくすると、ヴィクターとともに大人が二人出てくる。
「ベアトリス?」
「ジェラルド?」
二人は見つめ合い、硬直する。大人の男性が二人の間に割り込む。
「はじめまして、騎士様。コーディ・ヴァレンです」
「これは失礼」
ジェラルドは敬礼をし名乗りを上げる。
「フィグ・ディルの一級騎士、ジェラルド・グローヴです」
「して、家内とはどのような?」
「同郷でした。その……お恥ずかしながら、初恋の君でもありました。見事に振られましたが」
ベアトリスがコーディの肩を叩く。コーディはベアトリスに頭を下げている。
「お父さん。さっきも言ったとおり、騎士様は急いで救国の楯に行かないといけないんだって。野盗に襲われて馬を殺されてしまっているから足が欲しいんだって言われたの」
「救国の楯……はそちらのお嬢さんが?」
コーディが視線をプリシラに向ける。ジェラルドは頷いて返す。
「ええ、半成人式で水神の中級神の加護があると判定されまして
「それはいいですな……ヴィクターは……」
コーディが言葉を濁し、ベアトリスは顔を伏せる。
「道中伺いました。『加護なし』だと」
コーディはヴィクターとジェラルドを交互に見る。
「……ヴィクターがそこまで……そうですか……」
コーディはしばらく考えた後、ジェラルドとプリシラを交互に見る。
「フィグ・ディルの姫様と聞きました。家内の出身地でもありますし……そうですね……騎士殿と姫様を乗せても問題のない馬となると、ヴィクター、ベアトリス、マーグを連れてきてくれ。お譲りしようと思う」
二人は離れたところにある馬小屋へと向かう。
「元農耕馬で去年引退させた馬です。あとはのんびりと余生を過ごさせるつもりでおりましたが、最後のお役目という形で頑張ってもらいましょう」
しばらくするとかなり体格の良い馬がヴィクターに引かれてやってきた。
「これは……かなり立派な……」
ジェラルドが絶句しているとコーディが丁寧な礼をする。
「なあに、ヴィクターに親切にしていただいたお礼ですよ……あの子は『加護なし』のせいか……いや、まあいいでしょう」
「この馬格だと……金貨30枚というところでしょうか」
「いや、それは軍馬でしょう。この子はおとなしい農耕馬です。一応人を背に乗せる訓練はしてありますが戦闘は難しい。それに役目を終えた後の子です。お譲りしますよ」
「それは……」
ジェラルドとコーディが話している間に、マーグと呼ばれた馬はプリシラに近づき、顔を差し出している。
「なでてあげて」
ヴィクターが促すと恐る恐るプリシラが手を出す。マーグは差し出された手をふんふんと嗅ぐ。プリシラがそっと鼻をなでるとブルル、と返事をする。
「姫様とも相性良いようですし……そうですな……お代についてはもしもヴァレン家から救国の楯に子が行くような事があれば、手助けしていただければそれで」
「お父さんは一度決めたこと変えないから」
ヴィクターが後ろからそう言うとコーディとベアトリスは顔を見合わせて微笑み、ジェラルドに向かって言う。
「では、まとまりましたな。馬具もそのままお持ちください」