半成人式を翌日に控えたカーソン村は、式のための準備でやや騒然としていた。
半成人式は神々の子から人の子になる儀式。ここで戸籍が作られ、加護の確認から将来の職についての想定が行われる。
無邪気な子どもから責任ある社会の一員へと変わる最初の一歩でもある。
とはいえ盛大な祝いの場であり、数少ない楽しみの一つである。
今年のカーソン村はヴィクターを含め8人の子が半成人式を迎える。
「ヴィクター、ジャネット。明日の衣装が届いているから部屋に持っていきなさい」
ベアトリスの言葉に二人はそれぞれの衣装を部屋に持っていく。
人の種族神は女性格で色は青。ゆえに男子は青をワンポイントとし、女子はほぼ青のドレスを着用する。
ヴィクターには以下の衣装が用意されていた。
フライフロントのスプレッドフロントシングルカフスシャツ。
サファイアのカフリンクスと青のシルクスカーフ。
黒と灰色のストライプのズボン。
黒のウェストコートに黒のコート。
ジャネットには以下のもの。
青いパフスリーブのマキシ丈シルクワンピースにパニエ。
青い大きなつばのベール付き帽子。
青のシルクの長手袋。
いずれも裕福なヴァレン家らしく贅を尽くした衣装だった。
「お母さん、あたし遊びに行ってくる!」
ジャネットは部屋から出てくるとベアトリスにそう告げる。母は少し困った表情を浮かべる。
「ジャネット、明日は大切な半成人式の日なのよ?」
「俺が面倒見るから。あまり遅くまでは遊ばせないよ」
ジャネットの後ろに立っていたアーロンがそう言うとベアトリスはしばらく考えてから人差し指を立てて言う。
「あんまり羽目を外さないようにね」
二人はバスケットにサンドイッチを詰めて元気よく家を出ていった。
その二人を見送ったベアトリスはヴィクターの部屋へ移動し、ドアをノックしてから入る。
「ヴィクター、あなたは今日はどうするの?」
「部屋にいます」
「……そう」
ベアトリスはしゃがみこんでヴィクターをギュッと抱きしめると背中を軽く叩く。
「この日を迎えられるなんて、奇跡のようだわ……」
来客を告げるドアベルの音が響く。ベアトリスは立ち上がり、玄関へ向かう。
「あら、ノーラさん、どうしたんですか?」
「ヴィクターくん、元気かなって」
ヴィクターはベアトリスにくっついて玄関に移動していた。
「こんにちは、ノーラ・ギャレットさん」
「んもう、だからなんでフルネーム……」
「礼儀ですから」
ヴィクターはそういうと深々とお辞儀をする。
ベアトリスは少し鋭い目でノーラを見ている。
「お母さん、悪いんだけど、少し外してもらえますか」
「……なぜ?」
ヴィクターの表情が変わる。ぽややんとした少年から、鋭い男のものに。
「明日、僕は半成人を迎えます。手間のかかる『加護なし』の僕をここまで育てていただいたこと、感謝しております」
大人びたヴィクターの言葉にベアトリスは息を飲み、頷く。
「そんな僕の数少ないわがままだと思って、席を外してもらえませんか?」
ベアトリスはしばらくヴィクターとノーラを交互に見て、くるりと踵を返した。
「……いいの?」
ノーラがヴィクターに耳打ちする。
「何がでしょう?」
涼しい顔のヴィクター。ノーラはヴィクターをまじまじと見て、その後小さく首を振りながらため息。
「本当に半成人なのかしら」
「そうですよ……さて、半成人の前に懸案事項を片付けておかねばなりません」
「
ノーラは腰に手をあて、ヴィクターを見下ろしている。ヴィクターはその整った顔でノーラを見上げている。
「あなたの内心の自由について特に議論する気はありませんが、可能性のない妄想は不幸を生み出します」
「何をいいたいの?」
「はっきり言わなければなりませんか?」
ヴィクターはやや嫌悪を混ぜた言葉で告げる。
「私は! そんなつもりは! 仲間外れにされているあなたが可哀想だから!」
ヴィクターは深々と頭を下げた。
「そうですか。それは失礼しました。ですが、憐れみは私を傷つけます」
顔を上げると右手で玄関のドアを指し示す。
「どうぞ、お引き取りを」