夕刻。そろそろ日が沈みかけている頃。
カーソン村にものが焦げるような匂いが漂い始めた。
それに最初に気がついたのは畑仕事をそろそろ終え戻ってきた男衆だった。
「なあ、どこか焼き畑してたっけ?」
「いや、そんな計画はないぞ」
男たちは顔を見合わせ、風上に向かって走り出す。
「火事だ! 火元を探せ!」
男たちの声に一斉に家から大人たちが出てくる。
手にはバケツと、大きな木槌。
「見つけたらぶっ放せ! 以上だ!」
「おう!」
男衆は風上に向かってバラけて走っていく。
炸裂音が鳴る。その音へ向かってバケツと木槌を持った女性たちと、散っていた男たちが集まる。
燃えていたのは北の外れの廃小屋。かつては農作業のときの合間の休憩に使われていたが、古くなって使わなくなっていたものだった。
男たちが周りの可燃物を急いで運び出す。破壊する必要のある隣接した建物はないので木槌は放り投げ、近くの用水路まで一列に並んでのバケツリレーと水神の加護のある者たちによる
このところの好天で小屋は乾いており、火勢はかなり強い。
コーディとベアトリスは最前線に立ち、水を作り、ぶちまける。
「あーんあーん」
小さな女の子の声が聞こえる。
「ジャネット!」
コーディはバケツの水を頭からかぶった後放り投げ、声のする方へ突進。小屋の入り口を蹴破る。
「ジャネット! 助けに来たぞ!」
コーディは入口の脇に小さくなっているジャネットを見つけて小脇に抱えて外へ飛び出した。
「あなた!」
そこへベアトリスが新たに生成した水をかける。ジャネットをコーディから受け取り、ざっと周りを見る。
服に焼けた跡はなく、手に軽い水ぶくれ。髪は少し焦げている。
「
水ぶくれが引いていく。ベアトリスはジャネットを抱きしめる。
そこへアーロンがやって来た。
「アーロン! おまえジャネットの面倒を見ているんじゃなかったのか!」
「あなた、今はそれより消火です!」
ベアトリスに咎められ、アーロンを睨みつけてからコーディは消火活動に戻っていった。
火が消し止められたのは燃えるものが無くなったからだった。日はとっぷりと暮れている。
「アーロン、おまえ、ジャネットのお世話をする、と言って遊びに行ったんだよな?」
地面に座り込んでいるアーロンの前に腕を組んで立っているコーディが静かに問いただす。
アーロンは無言のまま地面を見ている。
「返事は?」
「うるさいな。所詮下級武神の加護しかないヤツにとやかく言われたく」
無言でコーディはアーロンの背中にローキックを叩き込む。
「次は、本気で頭にぶち込む。答えろ」
不意打ちの背中の打撃で息を詰まらせ、咳き込むアーロン。ベアトリスは心配そうにコーディの右肩に後ろからそっと手を置く。コーディは左手でそのベアトリスの手をポンポンと軽く叩くと、再びアーロンに向かう。
「ジャネットに何を吹き込んだ? そしておまえはどこにいた? 答えろ」
「……火遊びの仕方。そして家」
「なんのために」
「大人の目をヴィクターの周りからなくすため」
ベアトリスは息を呑み、コーディは震える。
「大人の目をヴィクターの周りからなくして、何をするつもりだったんだ?」
「ヴィクターを殺す。そして殺した」
ベアトリスは悲鳴を上げ、コーディは容赦のないローキックをアーロンの頭に叩き込んだ。
――時は少し遡る。夕刻。まだ日が落ちるには少し間がある頃。
「兄ちゃん、お祝いなの?」
ジャネットが無邪気にアーロンに聞く。
「ああ、そうだぞ。半成人式のお祝いに燃やすんだ」
ジャネットの手を引き、村外れの廃小屋へ連れて行く。
「ちゃんと火を付けて、燃やすんだ」
「わかった兄ちゃん!」
無邪気に返事するジャネットを微笑みながら見るアーロン。
「兄ちゃんはどうするの?」
「その間にお祝いの準備をしてくるよ」
「わかったー」
ジャネットは元気に廃小屋に入っていった。
アーロンはジャネットが小屋に入っていくのを見届けてから、自宅に戻る。家には入らず、庭に潜む。
しばらくすると騒ぎが起きる。ベアトリスが家から飛び出していく。入れ替わりにアーロンが家に入っていく。
「やあ、兄さん」
玄関にヴィクターが立っていた。
「ヴィクター……貴様! きさまああぁぁ!」
アーロンはヴィクターを見た瞬間に激昂する。
「兄さん、僕はあなたのことは嫌いじゃないですよ」
「そうかよ、死ね!」
アーロンはぶつぶつと何かを呟く。
「
突き出したアーロンの手からまっすぐヴィクターに稲妻が走る。
ヴィクターはそのアーロンの電撃を受け、後ろに倒れた。
「ふははは、ふははははは! やった、やったぞ!」