圧倒的な実力を有した者たちは、欲望の限りを尽くし、人類を蹂躙する 作:黒椿
蛇馬鵜圧突苦に話を付けた後に俺が向かったのは昨日の朝に四十代の女が死体となって発見された現場だ。場所は飲み屋街から歩いて十五分ほどのところにある住宅地。
昨日起こったばかりということもあって、さすがに警察官が何人か動いていたが、今朝事件が発生したためか、その数は少ない。力を使って現場調査をする気なら、これ以上ないほど快適な状況だが、生憎とその気はない。
俺はただ確かめにきただけだ。そして、それは終わった。よって、これ以上この場にいる必要もないので、俺はさっさとその場から退散する。
住宅地から歩いて数分ほどのところにある喫茶店を見た俺は小休止も兼ねて中に入り、アイスコーヒーを注文して、テーブル席に座る。店の真ん中あたりの席なので外の景色は見えないが、どのみち景色に興味などないので構わない。
ふと喫茶店に設置されているテレビに一人の少女が登場していることに気付く。赤を基調としたコートと白いブラウス、紺のミニスカートにニーソックスを穿いた銀髪碧眼の美しい少女。
番組自体は何かの特集らしく、どこかの学校の校門の前でインタビューのようなモノを受けている。それを見て、俺は容易に番組の内容に想像がついた。ここからそう遠くない場所にある学校のことだろう、と。
国立
源能者とは源力と呼ばれる特異な力を操り、さまざまな現象を起こすことの出来る者たちのことだ。およそ、二十年ほど前に日本で源力が発見され、九年前に表舞台に出るようになってしばらくしてから、満を持して建設された学校だ。八年ほど前に開校した上、国が大金を
源力自体は科学的に証明され、研究されているため、日々進化していく源力を学ぶことが出来るということで、源能者だけでなく、源力を持たない者も受験している。向こうとしても人材は多ければ多いほどいいので、源力を持たない者にも源力の知識を叩き込み、将来的に研究者や管理職に就かせることを視野に入れて教育している、とのことだ。
源能者の存在は世界各国で注目されており、先に述べた黒遠の処理以外にも、経済の活性や、エネルギー問題、軍事利用などさまざまな方向で活用すべく、研究が進んでいる。残念ながら、その代償も決して小さくはないものだったが、民衆の中にはこれまでの世界を革新するという意味も込めて受け入れている人間は少なくはない。
……っと、あぁ、そういえば肝心なことを説明し忘れていたな。今さらではあるが、とある重大な事実を説明しておこう。といっても前々から匂わせていた部分はあるが、この世界には異能と呼ばれる特異な力が存在する。その力を扱う者を総じて
現在確認されているのは、呪力、魔力、源力、神通力の四種類。それらを扱う者はそれぞれ
もちろん、これは広義の意味であって、もう少し詳細に分類されているモノもあるけどな。それは置いておこう。
この四つの力がどう違うのかと聞かれれば、主に力の出所、すなわち発生源が違う、としか言いようがない。もちろん、性質なども違うが、それをいちいち説明するのは骨だし、今、することでもない。
問題なのはこの異能者が連続殺人の犯人だった場合の話だ。ウレは犯人を殺害しろ、と言った。つまり、連続殺人の犯人は黒遠ではなく、人間ということだ。そして、その場合ほぼ確実に異能者だろう。
黒遠ならばその性質上、力量は玉石混交で、その上、弱い奴が大半だ。だから、多少厄介な能力を持っている場合が面倒なだけで、基本的に問題なく処理できる。だが、異能者が相手の場合は話が別だ。もちろん、異能者の力量も玉石混交ではあるのだが、強者の場合、その力量は一国を容易く落とせるほどの力を有していることが多い。そうなると、下手な戦いをすれば無用な被害をもたらし、面倒どころではすまなくなる。
一番手っ取り早いのは暗殺だ。相手の意識の外から攻撃し、無力化して、叩き潰す。それが理想であることに違いはないのだが、残念ながら物事というのは理想通りに事が運ぶようには出来ていない。となれば、やはり、相応の被害は覚悟する必要はあるだろう。
ひとまず、捜査に出向くか。これまで事件が発生した場所付近を渡り歩いて、怪しい奴がいないか調べるのが、おそらくは最善策だ。ただし、事件現場には出来るだけ近付かない方がいいだろう。見張りの警察官や周囲の人間などに不審人物と見なされたら面倒だからな。
俺はゆっくりと席から立ち上がると、未だに神立高校の特集をしているテレビに背を向ける。
「……まずは第五の事件が起こった場所に向かうか」
第五の事件は第七の事件が発生した場所から電車で二十分ほど離れたところにある路地裏で発生した。当然、歩いては行けないので、喫茶店の精算をすませてから、最寄り駅に向かった。
六時間ほどかけて、今朝の事件を除く六つの事件現場を歩いて回ったが全くと言っていいほど収穫はなかった。あちこち歩き回った疲労感と収穫がなかったという徒労感で俺の足は最高に重くなっていた。
時刻は七時前。夕日は沈み、もうそろそろ晩飯時だ。さっさと家に帰って、捜査はまた明日にしよう。
そう判断した俺は現在帰路についていた。片道二車線の大通りの歩道を歩き、
「……ん?」
俺は立ち止まって、川の横を通る抜け道に目を向ける。何てことないただの堤防沿いの道であり、大通りの抜け道として利用する人間は少なくない。
そこから野太い声の悲鳴が聞こえた。つまり、男の悲鳴だ。喧嘩でもしてるのだろうかと思ったが、何となく気になって、そちらの方に足を向ける。悲鳴は川沿いにある酒屋の隣に出る小道から聞こえてきているようだ。酒屋の建物の影から、こっそりと現場を覗き込んでみると、
「ひぃぃ……! やめてくれぇ……!」
金髪にピアスをしたチャラい男が全裸にされ、壁にもたれかかっていた。その横に人影があり、そいつが犯人なのは明らかだ。金髪男の左頬には一筋の傷があり、そこから血が流れている。犯人の右手には大きな果物ナイフが握られていたので、おそらく、それでやったのだろう。ただそれ以上に異様だったのは四肢を含め、一切肉体が拘束されていないにもかかわらず、金髪男が逃げ出そうとしなかったことだ。
あの程度の傷ならば、常人でも逃げようと思えば逃げられるはずだ。ましてや、狙われてるのは若い男。その気になれば、反撃だって狙えるはずだ。しかし、金髪男は体を震わせるだけで、身動き一つしない。
犯人は口元を歪めると、しゃがんで、ナイフの刃を金髪男の陰部に添える。それを見れば、何をする気なのか容易に理解できる。当然、金髪男も犯人の意図に気付き、涙を流しながら、口を開く。
「や、やめ……!」
金髪男の懇願を無視して、そのまま陰部を切断してしまう。それに伴う激痛に男は顔を歪めるが、悲鳴を上げることはない。とうとうそれすらも許されなくなったのだ。
だが、そんなことはどうでもいい。それよりも俺は犯人の顔を見ることに執心する。暗い街灯が一つあるだけで、暗闇に等しい場所だったが、俺には容易に犯人の顔が見て取れた。
――アイツは確か……。
その顔は見覚えのある顔だった。正直、とてもこの一連の犯行を行うような人物とは思えなかったが、この目で見たモノが真実だ。つまり、連続強姦殺人の犯人は奴ということになる。散々歩き回って見つからなかった手がかりが、こんなところで見つかるとは思ってもみなかった。
このまま絡みに行ってもいいが、それはそれで後処理が面倒くさそうだ。向こうは俺に気付いていない。ならば、この場は立ち去って、じっくりとこの後のことを考えるべきだろう。犯人が分かった以上、もう捜査の必要はない。今月中にあいつを始末すれば、それでいいんだ。
俺は踵を返して、元の道へと戻る。元々この周辺は防犯カメラもなく、街から離れたことで周囲に人間がいないことも分かってるし、目撃者がいたとしてもどうとでも出来る。後ろで何やら不穏な音がしているが知ったことではない。仮峰でまた新しい犠牲者が出た。ただそれだけのことだ。
まぁ、これは犯人へのせめてもの感謝だ。あいつには手こずらされたが、同時にいいものもくれた。久しく、そういうプレイをやってなかったこともあり、やりたくなってきたのだ。
全ては就寝時間になってからだ。そうなったら、今夜はただ抱くだけでなく、犯罪じみたこともしてみようか――。