圧倒的な実力を有した者たちは、欲望の限りを尽くし、人類を蹂躙する 作:黒椿
家を出た俺は美月と共に学校へと向かう。家から学校まで大体十分ちょいだ。坂はなく、ただ平坦な道を歩くだけなので、通学路としては比較的楽な部類に入る。
だから、俺は車を出してもらわずに美月と共に徒歩で通学している。もちろん、俺たち自身の実力が高いのもあるが、これは俺たちの家の意向でもある。
その意向自体は腹立たしいことこの上ないので言及するつもりはないが、そのおかげでこうやって歩いて登校出来るのだから、文句はない。
「んー、いい朝だねぇ」
美月も同じ感想だったのか、そんなことを言ってくる。俺はそれに、
「ああ……」
そう生返事を返しつつ、空を見上げる。雲一つない青空。小春日和……というと季節が違うが、それに近いレベルの陽気な天気だった。
四月は季節が移り変わる時期であると同時に年度と呼ばれるものが変わる時期でもあり、多くの人間が環境を変える時期でもある。事実、俺も先月中学を卒業し、今月から高校に通っている。
だが、そういう時期は何かと問題が起きやすい時期でもある。いや、全体的に人間社会というものは問題が起こりやすいものだが、最近はそれを象徴するかのような問題がこの周辺で起こっている。
「そういえばさ、聞いた?」
「何を?」
唐突に話しかけてきた美月に俺は怪訝そうに眉をひそめるが、大体の予想はついている。
「今朝、
「はっ。何だそりゃ。相変わらず、統一性がねえなぁ……」
「……ま。異常者に統一性を求めるのもどうかと思うけどね」
俺たちが話してるのは先月からこの周辺で起こっている連続殺人についてだ。それもただの連続殺人じゃない。被害者全てが強姦と拷問を受けて殺されている猟奇的殺人ってやつだ。
一連の事件の犯人のものと見られる精液は大量に採取されているらしいが、未だに犯人の特定には至っていない。というより、本当に同一犯かどうかすら怪しまれているらしい。採取された精液の全てが同一人物のDNAだと捜査で分かっているにもかかわらずだ。というのも、被害者の年齢や性別にあまりに共通性がないからだ。
普通、若い女が好きなら若い女に、小児性愛者なら一定以下の年齢の少年少女に被害が集まる。だが、今回の事件では一回目は八歳の男の子、二回目は三十代の女、三回目は十代後半の若い女、四回目は二十代前半の男性と、先月だけでもバラエティに富んだ被害者たちが無残な姿となって発見された。このいずれもがここ――
今朝の事件を含めると、四月の第三週に入った時点で仮峰で一人、櫓で二人の被害者が発見され、計七人もの犠牲者が出ていることになる。ただ警察は市民の不安を抑えるためか、今月初めに起こった仮峰以降に発生した事件についての報道をしていない。
過去最悪の事件としてニュースで取り沙汰されているが、その一方で情報規制も厳しく、謎の多い事件として扱われている。まぁ、一般人の中では四日に仮峰で見つかった二十代後半の女が殺されてから事件が起こっていないことになっているわけだし、しばらくは人々も警戒しているだろうが、犯人がよほど派手にやらかさない限りは事件が風化していくのがオチだろう。犯人を捕まえない限り、着々と犠牲者が増えていくことに変わりはないが。
いずれにしても、一筋縄ではいかないだろう。これは世間には流れていない情報だが、被害者はいずれも惨たらしい姿で発見されているらしいが、その全てに拘束された痕跡や薬物を使われた痕跡が一切ないらしい。標的を無差別に犯し殺していることよりも、こちらの方がよほど問題であると警察は見ているようだ。
そんなことを考えていると、目の前の信号が赤になった。信号待ちのために立ち止まったのを見計らって、俺は美月の方に視線を向ける。
「てか、何でこのタイミングで急にそんなこと話した?」
「やー、食後にする話でもないと思ってさ」
「登校中にする話でもねえだろ」
思わずジト目を向けるが美月は屈託のない笑みを返すだけだ。それどころか、楽しそうに口笛を吹いてさえみせる。そんな美月に思わずため息をつくと、美月は再び唐突に話しかけてくる。
「にしても、なかなか無茶ぶりするよねぇ。一応、僕らも襲われる危険はあるんだけど、僕らなら問題ないって思われてるのかな?」
それは俺たちそれぞれの実家に対する愚痴だ。仮峰でも犠牲者が出ている上に性別も年齢も何もかも全て無差別で犯して殺して回っている以上、俺たちとて決して安全ではない。むしろ、危険だ。
そんな俺たちに警護も送迎も付けず、徒歩での通学をさせている時点でどう考えてもまともではない。しかし、残念ながら、その理屈は俺たちの家には通じない。
「まぁ、大抵の奴が相手なら大丈夫なのは事実だな。もっとも、その犯人がそこらの一般人だったらの話だけどな」
「何それ、どういう意味?」
「そのまんまの意味だよ。その事件はどう考えても
「あー、なるほど」
無駄話をしている内に信号が青になったので、再び歩きはじめる。交差点を渡って、右に曲がり、そのまま一分も進めば、高校に着く。
俺たちはすぐに正門の前に着いた。近未来的なガラス貼りの綺麗な校舎。これが俺たちの通う学校――
「じゃ、行こっか」
「ああ……」
俺は小さくため息をつき、校門を抜ける。下駄箱で上靴に履き替えて階段を上がり、教室に着いたところで美月と別れ、俺は教室に入る。
あぁ。今日もまたくだらねえ
○○○○○
学校での一日を終え、美月と共に下校した俺は夕食を食べ終え、一人、外を歩いていた。
家を出て、学校とは違う方向に二十分ほど歩くと大きな歓楽街がある。そこまで行ってしまえば、大抵のことは出来る。何せ、連続殺人が起こっているにもかかわらず、八時を回った今でもやっている店は多いので、時間潰しには困らない。
ちなみに服装は学校に行ったのと全く同じ格好だ。いちいち着替えるのはめんどくせえし、服に何のこだわりもないからだ。
「ま、服屋はとりあえずパスだな。……映画もそう大したのやってねえし、本屋でも行ってみるか……?」
行き当たりばったりで適当に行き先を決める。別にこの散歩に何か目的があるわけではない。これはここ最近――というより、今週から始めた趣味のようなものだ。この年頃になれば、こういうのにスリルを覚え、面白いと聞いたことがあったので、何となく始めてみた。とはいえ、実のところ、これが楽しいかと問われて、頷くことは出来ない。
現実など、所詮はクソだ。だが、クソはクソなりに少しくらい楽しんでみるのも悪くはないだろうと思って始めてはみたのだが、時期が悪いことを差し引いても、思っていた以上につまらないというのがこの四日間で実践した感想だ。ある程度続けていれば楽しさが少しは分かると思って、惰性で続けてみたが、一向に楽しさが分からない。これなら、家でのんびりしていた方がマシだ。
せっかく、家を出てきたのだ。このまま帰るのはもったいないという気持ちがなくはないが、それ以上にここで無為に時間を過ごす方がよっぽどもったいない。別に本屋に何か用事があるわけでもない。さて、どうしたもんか。
「……ふぅ」
やはり、アイツがいないとダメだな。どうも、調子が出ない。全く、こっちでもいろいろと問題が起こっているというのに、何でフラフラと行っちまうんだか……。
「……馬鹿らしい。何考えてんだ、俺は」
きっと、疲れているんだろう。だから、こんなしょうもないことを考えちまう。
これ以上長居をすれば、本当におかしくなっちまいそうだ。となれば、最適解は一つか。
「……帰るか」
元々夜遊びなど仕事関連か仕事の合間でしかやらないことだ。何せ、家に帰って、眠ってしまえば、こんなものとは比べものにならないほどの
始めたのが三日前の火曜日。四日保ったんだ。三日坊主よりはマシだろう。もう少し、時間を置いてから、またやればいい。もう一度やる気があればの話ではあるけどな。何はともあれ、帰ると決めた俺は踵を返して、家に帰ることにする。
街の中心街から十分も歩けば、喧噪もわずかばかり聞こえるだけになる。そこまで歓楽街も広げられないからな。少し離れればこんなもんだろう。
とはいえ、先刻はズタボロに言ったが、夜にこうやってあてもなく彷徨うのも何だかんだで悪くはない。問題があるとすれば、連続殺人のせいで警察の巡回が強化されており、見つかると補導されて面倒になる、ってことくらいだ。さっき街を歩いている途中にも何人もの警官や、巡回している警備員らしき者を見かけた。仕方がないと言えば仕方がないことだが、やはり、犯人が捕まっていない以上窮屈であるのはどうしようもない。
それに俺の場合、毎晩異世界という名の夢で欲望の限りを尽くしているからな。さっきも言ったが、夜遊びよりも眠った方が楽しいのは疑いようがない。
「……ま、犯人をどうにかすれば、もう少しここも楽しくなるかもな」
そんなことを一人ごちながら、のんびりと家までの帰路を歩いていると、
「やめてください!」
若い女の声が聞こえてくる。
「……ん?」
思わず、足を止めると、路地裏の方で何やら揉めている声が聞こえてくる。ここはいわゆる駅裏であまり治安がよくない場所だ。そんなところを若い女が一人歩きすれば、危険なのは火を見るより明らかだが、まぁ、止むに止まれぬ事情というやつでもあったのだろう。
「……仕方ない。助けに行ってやるか」
俺は
路地裏に入ると、すぐに現場が見えてきた。制服を着た黒髪の若い女が三人のガラの悪い男たちに囲まれている。あの制服は確か、足四の
まぁ、そんなことはどうでもいい。どう見ても、あの男たちは連続強姦殺人の犯人などではない。ならば、さっさと片を付けた方がいい。
俺は悠然と近付きながら、男たちの向こうにいる若い女に出来るだけ優しげな声を作って話しかける。
「よぅ、嬢さん、こんな時間に何してんだ?」
「何だぁ……? お……!」
「え……?」
「は……?」
「てめーらには聞いてねえよ、馬鹿共が」
俺が話しかけた途端に反応してきた男共を
それを一瞥することもせずに、俺は女をチラリと見る。背の半分まである青髪を下ろした清楚系の美少女。見覚えがある顔だった。確か、同中の
「……あんま人のことは言えねえけど、さっさと帰れよ。この時間にこんなところフラフラしてたら、また変なのに絡まれるぞ」
それだけ言って、俺は去っていく。後ろから呼び止める声が聞こえてくるが、無視する。自分で首を突っ込んでおいてなんだが、これ以上の面倒はごめんだ。そのまま、路地裏を抜けて、五分も歩けば家のある住宅地に着く。
……にしても、何となく物足りない気分だな。少しあっけなく片を付けすぎたか? だが、あの場に
それに戦いたいのであれば、夢の世界――異世界でやればいい。どうせ、あの世界は俺の思うがままだ。強者との戦いも弱いものいじめも何だって出来る。何も現実にこだわる理由はない。
そうだな……。今夜は異世界転移ものなんかでよく見るロープレ系の異世界を新しく創って、そこで無双しつつ、女を抱いてみるか。細部にはそこまでこだわらなくていい。満足できりゃ、それでいいんだ。
そうと決まりゃ、善は急げだ。早速帰って試してみよう。
○○○○○
帰って早々に俺は風呂に入ることも着替えることもせずにベッドに横になった。
「さて、さっさと始めるか」
俺は静かに目を閉じて、意識を異世界へと飛ばす。そこにあるのは何もない無の世界だった。空も地面も何もかも全てが白く、一切の物質が存在していない。正直、どこに立っているかもあやふやになってしまうレベルだ。ここを見ていると、何となく懐かしい気分になるが、そんなものに構っているくらいなら、さっさと世界を創った方が有意義だろう。
ロープレといっても、そこまで凝る必要はない。テンプレ通り、中世ヨーロッパ風の世界観に、レベル、職業、ステータスを付け、人間以外の人の種族も創り、ギルドの要素でも継ぎ足せばいい。その程度の変更ならば、いつも使っている世界で充分だが、あの世界は基本性欲発散用だ。心から楽しめるように必要な設定こそ作り込んだが、それ以外は外観だけそれっぽく見繕っただけで、美女美少女が俺の都合のいいタイミングで俺の下にやってくるだけの夢に近いモノになっている。政治、経済、文化などといった概念は必要でない限り皆無だし、何なら、あの世界に男は存在していないまである。とても、異世界などとは呼べない代物だ。
あの世界を異世界にして楽しむには、さらなる設定の追加が必要だ。だが、そこに変に設定を付け加えて、後で戻すのはめんどくさい。ならば、新しく世界を創った方が手っ取り早い。どうせ、用済みになれば、簡単に廃棄できるんだ。適当に設定して、適当に無双して楽しもう。どうせ、適当に創っても、ある程度力が補助してくれる。
あぁ、あまりにトントンと事が進んで置いてけぼりになってるか? 悪い悪い。しっかりと説明してなかったな。なら、きちんと説明しておこう。
俺の力は夢を操る力。本質ではないが、それに嘘偽りはない。そして、その力を応用すれば、夢の中に新たな世界を創ることが出来る。擬似的な異世界創造。それが昨晩の俺がセックスした世界の正体だ。
本気で世界を創ろうと思えば、相応の手間と対価が必要になるが、これにそんなものは必要ない。ただ頭の中で適当に組み立てていくだけで、それなりに本格的なものが出来る。もちろん、労力と運次第で完成度の差が激しく変わるというデメリットくらいはあるが、いくらでも材料がある上に俺自身に一切の負担がない以上、そんなものは大した問題ではない。
「と、いつまでもグチグチ考えてないで、そろそろやり始めるか」
夢の世界に決まった時間の流れというものはない。まぁ、時間とは所詮空間を含めた万物の変化にすぎないのだから、そういった概念から隔絶された、この場所にそんなものを求めても仕方のないところはあるけれども。
だが、それでも、早めに決めたい。精神と肉体の時間感覚のズレというデメリットは解消されてるとはいえ、記憶は確かに残っているんだから。というより、そもそもさっさと始めないと、帰ってすぐに意識をここに持ってきた意味がない。
とりあえず、名前を決めようか。世界の名前――はいいとして、国や重要人物、そして、他でもない俺自身が名乗る名前を。
……と言いたいところだけど、それに関してはすでにどうするか決まっている。
「まずは俺の名前は……まぁ、いつものようにユウキでいいか。それにいちいち世界にある物質や人物の名前を考えるのも面倒だし、こっちも適当にするか」
いちいち新しい名前を考えるのも億劫だ。俺は本名にして、世界に存在する人間の名前に関してはランダムにする。設定も大ざっぱにだけ決めたら、後は力が補完してくれる。
この力のいいところは、俺が設定しなかったところを自動で補完してくれるところだ。補完の仕方はランダムだが、俺がある程度方向性を設定すれば、それに沿って設定してくれる。
夢を操る、といってもそれをやるためには、夢を実現させる世界が必要だ。具体的にせよ、抽象的にせよ、世界を創らなくてはならない。世界観や設定を変えるつもりなら、新しく創造する必要が出てくる。そこでこの力が活きてくる。世界一つ創るのは存外重労働だ。物理だの化学だの言語だの文化だの歴史だのとあらゆるモノをいちいち設定していたら気が遠くなるからな。その辺を力の方が勝手に設定してくれるなら、これ以上楽なことはない。
「世界観や設定もさっきのでいいだろ。中世ヨーロッパ風の世界観にステータスやレベル、ステータス、ギルド、その他諸々。人間の種族もエルフやドワーフ……それと、あと何か適当に追加しておけばいいや。人間以外の動物の種族も同様……と」
極めて適当だが、厨二病のごとく、細かく設定してもいいが、俺の最大の目的は女を抱くこと。無双はあくまで、さっきの不良狩りで物足りなかったから追加したオプションだ。正直言って、女さえ抱けりゃ、それ以外の設定はどうでもいい。まぁ、そんなこと言うと何で異世界創ってんだよって突っ込まれそうだけどな。
白状するが、矢村と会ったことで、俺は軽く青髪ロングの美少女を抱きたい衝動に駆られていた。今すぐ抱きたくて抱きたくて仕方がない、というわけではないが、異世界を創造して、一番最初に抱くのは青髪ロングの美少女だろう。
そんなことを考えているうちに俺の周囲の景色が変わり、やがて、周囲が深い森の景色に変わっていった。設定の大半を力に委ねたので、詳細は分からないが、とにかく世界は創造されたらしい。
「出来たか。それじゃ、行くとしましょうかね」
俺は両手をポケットに突っ込むと、ゆっくりと歩きはじめる。どんな世界になったのか確認することはしない。何も情報がない状態でどんな行動をしようとも、必ず俺の望むままに世界が動くからだ。
最初の標的は青髪ロングの美少女。そう願ってさえおけば、後は適当に探すだけで見つかる。だけど、その前に……適当に一暴れするとしようか。
俺は足を止め、前方に立ちはだかる巨大なサイのような獣を値踏みするように見据えた。