「……負けました」
空銀子は盤上から目を離せないまま、小さく頭を下げた。記録係が終局を告げると、長時間にわたって対局室を支配していた緊張が、そこでようやく僅かにほどけた。
けれど、銀子だけはまだ盤の前に取り残されていた。
負けた。
よりにもよって、一番負けたくない相手に。
終盤、踏み込むべき手は見えていた。読めていなかったわけではないし、勝負になることも分かっていた。それでも、その一手を指した先にある失敗まで考えてしまった。
自分だけが見落としている筋があるかもしれない。踏み込んだ瞬間、一手で全てを失うかもしれない。そう考え始めると、悪い変化ばかりが目についた。
迷い、時間を使い、別の手を探した。そして最後は、自分から何も選べないまま負けた。
「ねぇ、銀髪ぅ」
盤を挟んだ向かい側から、場違いなほど楽しそうな声が飛んできた。銀子の眉が僅かに動く。
「……感想戦をお願いします。祭神さん」
公式戦だ。まだ記録係も関係者も残っている。私情を持ち込む場所ではない。目の前の女が、普段どれほど腹立たしい存在であったとしても。
「あはっ♡」
祭神雷は、何がそんなに面白いのか、嬉しそうに笑った。
「銀髪ぅ、怒ってるぅ?」
「感想戦をお願いします」
「怒ってるよねぇ?」
「……早くしてください」
雷は笑ったまま、終盤の局面まで駒を戻した。そして、銀子が最後まで踏み込めなかった場所へ、迷いなく駒を置く。乾いた音がした。
「ここ」
銀子は黙った。
「前の銀髪ぅなら、絶対に来たよね?」
「結果論です」
「違うよぉ」
雷は盤面ではなく、銀子の顔を見ていた。
「怖かったんでしょ?」
「……何がですか」
「間違えるのが」
銀子の指が止まった。
「そんなことはありません」
「嘘ぉ。最近の銀髪ぅ、ずっと逃げてるもん」
「逃げていません」
「じゃあ、何で指さなかったの?」
銀子は答えなかった。雷が置いた一手は、自分も最後まで読んでいた。
それでも、指せなかった。
「いっぱい考えてぇ」
雷は盤上の駒を一枚動かす。
「悪いことばっかり見つけてぇ」
もう一枚。
「最後は何もできないまま負ける」
最後に、銀子の王を指先で軽く倒した。
「最近の銀髪ぅ、偽物みたい♡」
銀子の目が細くなった。
「……訂正してください」
「どうして?」
「今の発言を訂正してください」
「嫌ぁ。だって弱いもん」
銀子の拳が、膝の上で固く握られる。
「祭神さん」
「なぁに?」
「公式戦で一度勝った程度で、調子に乗らない方がいいですよ」
「あはっ♡ 怖ぁい」
「次は負けません」
「今の銀髪ぅじゃ無理だよ」
「……もう一度言ってみろ」
敬語が消えた。気づいた時には遅かった。雷は銀子の顔を見て、嬉しそうに笑っている。
「あはっ♡」
「何がおかしい」
「やっと怒ったぁ」
「黙れ」
「銀髪ぅって、本当に分かりやすいねぇ」
「黙れ、イカ」
雷はますます嬉しそうに笑った。記録係が気まずそうに目を逸らす。銀子は一度息を吐き、乱れた呼吸と感情を無理やり押し込めた。
「……失礼しました。感想戦を続けましょう」
「もういいよぉ」
「まだ終わっていません」
「今の銀髪ぅと指しても、つまんない」
雷は駒から手を離した。
「弱い奴と指しても、強くなれないもん」
銀子は何も言えなかった。腹が立つ。殺してやりたい。けれど、今日の将棋を見れば完全には否定できない。
「……研究会なら、もう一局指せます」
「やだ」
「逃げるんですか?」
銀子が睨むと、雷は嬉しそうに首を傾けた。
「逃げてる銀髪ぅに言われたくなぁい」
「私は逃げていません」
「逃げてるよ」
「逃げていない」
「ずっと」
雷は笑ったまま、銀子の王を指先で倒した。
「八一に置いていかれるのが怖くて、逃げてる♡」
銀子の顔から表情が消えた。
「……お前」
「なぁに?」
「殺す」
「あはっ♡」
雷は、本当に心の底から楽しそうだった。
「でもぉ、ハルに見てもらえば?」
銀子の表情が露骨に歪んだ。
「結構です」
「まだ何も言ってないよぉ?」
「あいつの名前が出た時点で、お断りします」
「どうして?」
「性格が悪い」
「うん」
「傲慢」
「うん」
「女癖も最悪」
「そうだねぇ」
「どうして一つも否定しないんですか」
「本当だから♡」
銀子は頭が痛くなった。
もっとも、あの男の女癖を知っている人間は、棋界でもそう多くない。表向きの彼は、若くして棋界の頂点へ登り詰めた天才棋士だった。容姿端麗で頭脳明晰。公式の場での受け答えにも、意外なほど隙がない。
将棋だけを見れば、間違いなく現役最強。今の棋界で正面から勝ち越せる棋士は一人もいない。全盛期の名人なら食い下がれたかもしれない――そんな、比較対象すら過去から探さなければならない怪物だった。
だからこそ、女を取っ替え引っ替えしているという裏の顔を知る者は少ない。銀子が知ったのも、雷が聞いてもいないのに話したからだ。
惚気なのか、自慢なのか、それとも面白い玩具を見せびらかしたかっただけなのか。雷本人にも分かっていないのだろう。
「あんな男と研究会をするくらいなら、一人で研究します」
「でもハル、強いよ?」
「知っています」
「銀髪ぅより強い」
「黙ってください」
「私よりも強い♡」
その言葉だけは、どこか誇らしそうだった。
「だから何ですか」
「今の銀髪ぅ、考え過ぎて、怖くなって、何にもできなくなってるもん」
雷は倒した王を立て、また指先で倒した。
「ハルならぁ、銀髪ぅが考える暇なんて、全部なくしてくれるよ♡」
「余計なお世話です」
「一回、全部壊してもらえば?」
銀子は立ち上がった。
「感想戦は終わりです」
「帰るの?」
「失礼します」
「逃げるんだぁ」
足が止まった。振り返らない銀子の背中へ、雷の笑い声が届く。
「このまま弱いままでいいの?」
銀子は答えなかった。答えられなかった。
「八一に、本当に置いていかれちゃうよ?」
何も言わず、銀子は対局室を出た。
◆
ある日の夜、祭神雷から連絡が来た。
『銀髪ぅ送るね♡』
意味が分からなかったから、無視した。数秒後、また通知が来る。
『最近、弱いんだぁ』
『ハルが壊して♡』
俺は画面を眺めながら、少し考えた。
空銀子。浪速の白雪姫。雷が珍しく、露骨に敵として扱っている女。
強い。気が強い。負けず嫌い。そして何より、雷がこれだけ執着している。
面白そうだった。
『連絡先』
それだけ返すと、すぐに銀子の連絡先が送られてきた。少しして、雷からもう一件届く。
『銀髪ぅ、絶対怒るよ♡』
知るか。
俺は送られてきた連絡先を開いた。挨拶も自己紹介も説明も必要ない。日時と場所だけ送ればいい。
『明日 十九時』
『俺の家』
数秒後、既読がついた。返事はなかった。
俺はスマートフォンを置いた。
来る。
何となく、そう思った。
◆
次の日、空銀子は一棟のタワーマンションを見上げていた。
空へ突き刺さるような高層の建物は、周囲のマンションとは入口からして違った。大きな車寄せに、ホテルのようなエントランス。磨き上げられた石の床。その奥にはコンシェルジュまでいる。
住所を間違えたのではないかと一瞬思ったが、送られてきた場所は間違いなくここだった。
あの男が棋界の頂点にいることは知っている。タイトル、対局料、広告、雑誌、テレビ。若くして、棋士として得られるものをほとんど手に入れた。
それでも、まさかこんな場所に住んでいるとは思わなかった。
約束の時間まで、あと三分。
約束。
その言葉に、銀子は顔をしかめた。約束などしていない。勝手に日時と場所を送りつけられただけだ。行くとも言っていないし、返事もしていない。
なら、帰ればいい。
それだけだった。
銀子はガラスの向こうにあるエントランスを見た。重い扉の先には、外からでは見えない空間が続いている。
一度中へ入れば、もう簡単には戻れない気がした。
何の根拠もない。ただ、目の前の建物が巨大な盤のように見えた。入口を越えれば、自分はあの男の盤上へ、自分から駒として乗ることになる。
一手進めれば、もう元の場所へは戻れない。
そんな馬鹿げた想像。
帰ろう。
雷に何を言われようが関係ない。あの男に弱いと思われても、どうでもいい。一人で研究すればいい。
今までだって、八一や師匠と何度も盤へ向かい、強くなってきた。こんな場所に来る必要などない。
銀子は踵を返した。一歩、二歩と歩いたところで、雷の言葉が蘇る。
――今の銀髪ぅ、偽物みたい♡
足が止まった。
違う。自分は弱くない。少し調子を崩しているだけだ。原因も分かっている。考え過ぎて、慎重になり過ぎているだけ。自分で直せる。
あんな男に教わる必要はない。
――八一に、本当に置いていかれちゃうよ?
銀子は奥歯を噛み締めた。
雷の挑発だ。聞く価値などない。それでも最近、八一と指した時、少しだけ距離を感じた。
八一は前へ進んでいる。竜王として、棋士として、一局ごとに強くなっている。それに対して、自分は同じ場所にいる。
いや。
少しずつ後ろへ下がっている。
そんな気がした。
「……研究だけ」
誰に言うでもなく呟いた。
一局、棋譜を見てもらう。それだけ。気に入らなければ帰ればいい。
銀子は、もう一度マンションへ向かった。
エントランスを抜け、コンシェルジュに名前を告げる。確認の後、奥にある専用エレベーターへ通された。
扉が閉まる。上昇している感覚すらほとんどないほど静かだった。ただ表示される数字だけが、一つ、また一つと上へ進んでいく。
外が遠くなる。
逃げ道も、少しずつ下へ置いていかれる。
銀子は馬鹿らしい考えを振り払った。ただのエレベーターだ。
目的の階へ到着すると、小さな音とともに扉が開いた。長い廊下には厚い絨毯が敷かれ、足音すら吸い込まれる。外の音もしなければ、人の気配もない。
静か過ぎる。
銀子は部屋の前まで歩き、表札を確認した。間違いない。
チャイムへ指を伸ばす。
しかし、押す直前で止まった。
まだ帰れる。今なら何もなかったことにできる。雷には行かなかったと言えばいい。あいつにも返事はしていない。待たせればいいし、困らせればいい。
傲慢な男。女なら誰でも、自分の言うことを聞くと思っている最低な男。
そんな奴に、自分から会いに来た。
知られたくない。
扉の向こうにいる男に、自分が迷ったことを。弱っていることを。助けを求めていることを。
銀子は指を下ろした。
帰る。
そう決めた時、扉が開いた。
「遅い」
男が立っていた。
銀子は固まった。
「……何で」
「インターホンの前で何分立ってる気だ」
「見てたの?」
「カメラに映ってる」
「最低」
「まだ何もしてない」
男は笑った。
「入れ」
「帰る」
「じゃあ帰れ」
即答だった。
銀子は言葉に詰まった。止めない。引き留めない。自分が来ようが帰ろうが、どうでもいいという態度。
腹が立った。
「……研究会をするんじゃないの」
「俺はどっちでもいい」
「祭神さんから聞いたんでしょう」
「弱い銀髪を直してくれってな」
銀子の目が細くなる。
「その呼び方をするな」
「俺が呼んだわけじゃない」
「二度と言わないで」
「命令するな」
男は扉を開けたまま、銀子を見た。
「入るなら入れ。帰るなら早く帰れ」
「偉そうに」
「俺の家だ」
最初から、何もかもが気に入らない。
銀子は男を睨みながら部屋へ入った。扉が閉まり、低い音とともに自動で鍵が掛かる。
その音だけが、妙に大きく聞こえた。
◆
部屋へ入って最初に感じたのは、広さではなかった。
無駄がない。
高層階の大きな窓からは、街の灯りを一望できる。普通なら、その景色を見せるための部屋なのだろう。
けれど、この部屋は違った。
窓の前には低い将棋盤が置かれ、研究用の大型モニターと、棋譜や専門書、資料が並ぶ壁一面の棚がある。中央は完全に対局用の空間として整えられており、盤を挟んで座れば、他のものはほとんど目に入らない。
将棋を指すためだけに、余計なものを全て捨てた部屋。
その一方で、生活感は別の場所へまとめられていた。客用の洗面台にはホテルのように未使用の備品が揃い、冷蔵庫には種類の違う飲み物が並ぶ。リビングには大きなソファがあり、その奥には寝室へ続く扉が見えた。
将棋部屋と、それ以外が完全に分けられている。
銀子は少し嫌な想像をした。
将棋を指す。
女を連れ込む。
この家はまるで、あの男が必要とする二つだけに最適化されている。
「何見てる」
男の声に、銀子はすぐ視線を戻した。
「別に」
「座れ」
部屋へ入って最初に言われた言葉が、それだった。
「命令しないで」
「立ったまま指すのか?」
「言い方の問題」
「面倒だな」
男は銀子の返事を待たず、盤を出した。
「棋譜」
「は?」
「持ってきたんだろ。出せ」
銀子は鞄を抱えたまま、男を睨んだ。
「祭神さんから、何を聞いたの」
「最近弱い」
「それだけ?」
「九頭竜に置いていかれるのが怖い」
「…………」
男は笑った。
「図星か」
「違う」
「なら怒るな」
「怒ってない」
「顔が怖い」
「元から」
「そうか」
男は興味を失ったように盤へ目を落とした。
「早く出せ」
銀子は本気で帰ろうかと思った。けれど、ここまで来て何もせず帰れば、雷の言った通り逃げたことになる。鞄から、最近負けた対局の棋譜を数局分取り出す。
男は黙って目を通した。
最初は適当に見ると思っていた。女のことしか考えていない、顔と才能だけの男。そんな人間だと思っていた。けれど男は何も言わず、一局、もう一局と棋譜を並べた。銀子の疑問手、悪手、時間を使った場所。その全てを覚えていた。
「お前、終盤で候補手を増やし過ぎだ」
「そんなこと――」
「ある」
言葉を遮られた。
「最初に読んだ手が一番いい」
「結果を見れば、誰でも言える」
「じゃあ指せ」
男は駒を並べ、銀子が踏み込めなかった局面を再現した。
「ここから。俺が後手」
「急ね」
「怖いのか?」
銀子は駒を持った。
「殺す」
「盤の上でやれ」
一手、二手と進む。
男の指し手は速かった。ほとんど考えていないように見える。それでも、強い。
銀子が一つ迷う。
「遅い」
「考えてる」
「考えるな」
「将棋で何を言ってるの」
「最初の手を指せ」
「危険」
「読んだんだろ」
「まだ足りない」
「足りてる」
「どうして分かるの」
「お前の顔を見れば分かる」
腹が立つ。
銀子は最初に読んだ手を指した。男は少しだけ笑った。
そこから、一気に盤面が動いた。攻め、受け、踏み込む。銀子が迷えば、男が急かす。
「指せ」
「黙って」
「逃げるな」
「うるさい」
「その手だ」
指す。男もすぐに返す。
いつの間にか銀子は、余計なことを考えなくなっていた。
盤だけ。
目の前の相手だけ。
勝つための手だけ。
そして。
負けた。
「……負けました」
銀子は盤を見つめた。
悔しい。けれど、不思議だった。最近の負けとは違う。迷ったまま何もできずに終わった将棋ではない。
負けた。
それでも、最後まで自分で指した。
「もう一局」
「嫌だ」
「どうして」
「一局だけだ」
「まだ時間はある」
「俺が飽きた」
「ふざけないで」
「お前に付き合う義理はない」
銀子は男を睨んだ。
「何のために呼んだの」
「雷が面白そうな女を寄越すって言ったから」
「…………」
「思ったより面倒だった」
「帰る」
銀子が立ち上がる。
「帰れ」
止めない。
また。
腹が立った。
「……今の将棋、どうだった」
「弱い」
即答だった。
「でも、前よりマシだ」
「前を知らないでしょう」
「棋譜を見た」
男は盤上の駒を一つ、指で倒した。
「お前は考え過ぎだ」
「分かったようなことを言わないで」
「負けるのが怖いんじゃない」
「黙れ」
「九頭竜八一に置いていかれるのが怖い」
銀子の顔が変わった。
「黙れ」
「だから失敗できない」
「黙れ」
「負けたら」
「黙れ!」
「自分には才能がないって認めることになる」
銀子は男の胸を押した。
「何も知らないくせに!」
「知る必要あるか?」
男は動かなかった。
「棋譜に全部出てる」
「…………」
「怖いから読んでるんじゃない。逃げる理由を探すために読んでる」
銀子は何も言えなかった。違うと否定したい。けれど今日、雷にも同じことを言われた。
「俺なら直せる」
銀子は顔を上げた。
「随分、自信があるのね」
「ある。俺は強い」
「傲慢」
「事実だ」
「あなたより強い棋士なんて、いくらでもいる」
「いない」
銀子は眉を寄せた。
「……言い切るのね」
「ああ」
「全盛期の名人なら?」
男は少しだけ考えた。
「食い下がるかもな」
「勝てるとは言わないんだ」
「俺が勝つ」
銀子は呆れた。
「本当に傲慢」
「今さらか」
男は盤を指した。
「今、俺より強い棋士がいるか?」
「…………」
「いないだろ」
男は笑った。
「なら俺に教われ」
「嫌」
「じゃあ帰れ」
「命令しないで」
「なら帰れと言ってる」
「……本当に腹が立つ」
「知ってる」
「二度と来ない」
「そうか」
銀子は鞄を持ち、玄関へ向かった。
将棋部屋を出る。大きな窓と静かな廊下。来た時より、玄関が遠く見えた。
この部屋は、一度入れば外へ戻るまでに、いくつもの境界を越えなければならない。将棋の部屋。生活の部屋。長い廊下。厚い扉。高層階。専用エレベーター。
自分はここまで、自ら来た。
男は何も言わなかった。止めないし、追わない。本当にどうでもいいらしい。銀子が来ても、来なくても。
それが何より腹が立った。
玄関で靴を履き、扉へ手を伸ばす。
「次」
後ろから声がした。
銀子は振り返らなかった。
「次は、今日より強くしてやる」
銀子は扉を開けた。
「もう来ない」
「そうか」
「絶対に」
「なら終わりだ」
銀子は扉を閉めた。
◆
二週間後、銀子は公式戦に勝った。
相手は決して弱くない。終盤は、一手の間違いがそのまま敗着になる難しい局面だった。
いつもなら、もう一度読む。別の手を探し、危険な筋を探す。
けれど、その日は最初に読んだ手を指した。
踏み込んだ。
間違えているかもしれないという怖さはあった。それでも指した。
結果、勝った。
終局後の感想戦で、対戦相手から言われた。
「思い切りましたね」
銀子は盤を見た。
あの男の声を思い出した。
――逃げるな。
腹が立った。
次の対局も勝った。その次も勝った。
少しずつ迷いが減った。全てを読むことを諦めた。最善を完璧に探すのではなく、今、一番いいと思う手を信じる。
怖い。
それでも、指す。
成績は目に見えて戻った。
それでも銀子は、あの男に連絡しなかった。教わったことはもう分かった。後は自分でできる。あんな男に二度と会う必要はない。
◆
「姉弟子」
研究会で、八一が棋譜を見ながら顔を上げた。
「最近、何か変えた?」
銀子は駒を持つ手を止めた。
「何が?」
「考え方」
八一は盤面を見た。
「前より踏み込みが早い」
「そう?」
「うん」
八一は嬉しそうだった。
「前は、読み過ぎて自分から難しくしてる時があったけど」
「…………」
「最近は、最初に見えた勝負手をちゃんと信じてる」
八一が銀子の指した手を、もう一度盤へ置いた。
「強くなったよ、姉弟子」
笑う。
「前よりも、ずっと強い」
胸が少しだけ熱くなった。
嬉しい。八一に褒められた。強くなったと言われた。ずっと聞きたかった言葉だった。
なのに、頭に浮かんだのはあの男だった。
――最初の手を指せ。
――逃げるな。
――俺なら直せる。
「…………」
銀子は奥歯を噛んだ。
「姉弟子?」
「何でもない」
「顔、怖いけど」
「元から」
「そうだね」
「殺す」
「何で!?」
八一が慌てる。
いつもの研究会。いつもの八一。
銀子は盤へ目を落とした。
八一に褒められた。それだけでよかったはずなのに、自分が強くなった理由を考えると腹が立つ。
あの男のおかげ?
そんなこと、絶対に認めたくない。
◆
研究会が終わり、銀子は一人で駅へ向かった。
スマートフォンを開き、男の連絡先を見る。閉じる。また開く。そして、また閉じる。
必要ない。もう教わることはない。自分でできる。結果も出ている。八一にも褒められた。
だから、必要ない。
それでも、次の対局は、さらに強い相手だ。
勝ちたい。
絶対に負けたくない。
銀子は連絡先を開き、文字を打った。
『次の研究会』
止まる。消す。
『棋譜を見てほしい』
また止まり、消した。
何で、自分からお願いしなければいけない。あんな男に頭を下げる必要などない。
銀子はスマートフォンを閉じて歩いた。
十歩。
そこで止まり、また画面を開く。
『今日』
『空いてる?』
送信。
すぐに既読がついた。
『来い』
それだけ。
時間も場所も書かれていない。必要ないからだ。銀子はもう知っている。
画面を睨みながら返信する。
『命令しないで』
返事はすぐに来た。
『嫌なら来るな』
銀子は歯を噛み締めた。
本当に腹が立つ。
それでも、駅とは反対方向へ歩き始めた。
◆
「遅い」
扉を開けた男は、最初と同じことを言った。
「呼びつけておいて、それ?」
「お前から連絡したんだろ」
「研究会」
「そうだな」
男は銀子を見て、ニヤリと笑った。
「俺が必要になったか?」
「違う」
「棋譜を見てほしいだけ」
「同じだろ」
「違う」
「入れよ」
「命令しないで」
「帰るか?」
「…………」
銀子は男を睨みながら部屋へ入った。扉が閉まり、また鍵が掛かる。
前より、その音を意識しなかった。
その日、銀子は何局も指した。結局一度も勝てなかったが、以前より深く読めた。
男は褒めない。良くなったとも言わない。ただ、悪い手だけを容赦なく指摘する。
「遅い」
「考えてる」
「無駄だ」
「黙って」
「その手は逃げだ」
「違う」
「なら指せ」
「…………」
「早くしろ」
「うるさい!」
銀子は駒を叩きつけた。
男が笑う。
「それでいい」
「何が」
「今の手」
「……悪手でしょう」
「悪手だ」
「殺す」
「でも、自分で選んだ」
銀子は黙った。
「前のお前なら、こっち」
男は別の駒を置いた。逃げる手。安全な手。負けないための手。
「今は」
銀子が指した手を見る。危険で、無理がある。それでも、勝つための手だった。
「少しはマシになった」
銀子は顔を逸らした。
「八一にも言われた」
口にした瞬間、後悔した。
男が銀子を見る。
「何を」
「…………」
「言え」
「命令しないで」
「早くしろよ」
「……強くなったって」
男は少し笑った。
「そうか」
「あなたのおかげじゃない」
「俺のおかげだ」
「違う」
「俺のおかげ」
「違う!」
銀子は男を睨んだ。
「私が考えて」
「俺が教えた」
「私が指した」
「俺が直した」
「私が勝った!」
「必死だな」
「黙れ」
「認めたくないのか?」
「何を」
「俺が必要だって」
「必要じゃない」
男は盤を片付けた。
「なら、もう来るな」
銀子の動きが止まる。
「……何?」
「一人でできるんだろ。俺は必要ない」
男は立ち上がった。
「帰れ」
銀子は座ったまま動かなかった。
「聞こえなかったか?」
「まだ」
「何だ」
「まだ、感想戦が終わってない」
「終わりだ」
「勝手に決めないで」
「俺の研究会だ」
「私の棋譜でしょう」
「知るか」
男は玄関を指した。
「帰れ」
銀子は動かない。
「早くしろ」
「……本当に、本当に最低」
「知ってる」
「人が、真剣に――」
「なら言え」
男が言葉を遮った。
「何を」
「教えてくださいって」
銀子の顔が固まる。
男は笑った。
「俺に教えてほしいんだろ?」
「…………」
「違うなら帰れ」
「……嫌」
「何が」
「その言い方」
「なら帰れ」
「うるさい」
「逃げるな」
銀子は男を睨んだ。
あの時、盤の前で言われた言葉。
「言え」
「…………」
「早くしろ」
「……教えて」
「聞こえない」
「殺す」
「帰れ」
「……教えてください」
男は笑った。
「最初からそう言え」
銀子は本気で殴ろうかと思った。
◆
それから、銀子は何度も俺の部屋に来た。
最初も研究会。次も研究会。
棋譜を並べ、将棋を指し、俺が悪い手を指摘すれば銀子が怒る。また指して、負けて、怒る。
それでも帰らない。
研究会の日が増えるほど、銀子は目に見えて強くなった。以前なら安全な手を探して時間を使っていた局面でも、読んだ勝負手へ迷わず踏み込めるようになった。
銀子自身も、それを分かっている。
だからここへ来る。
俺を嫌いながら、俺に教わるために。
最初の頃は、少し近づくだけで露骨に睨まれた。盤面を覗き込もうとして肩が触れれば、すぐに距離を取る。考え込んでいる銀子の頭へ手を置けば、反射的に振り払われた。
「触らないで」
「邪魔だ。少し詰めろ」
「そっちが離れればいいでしょう」
「俺の家だ」
「本当に嫌い」
「知ってる」
毎回、そんなやり取りをした。
それでも銀子は、次の週も来た。俺が盤の横を叩けば、不機嫌そうにそこへ座る。距離が近いと文句を言いながら、自分から遠くへ座ろうとはしなくなる。
何度目かの研究会で、俺は銀子の隣から盤面を覗き込み、そのまま肩へ腕を回した。
「……重い」
銀子は盤を見たまま言った。
「我慢しろ」
「離して」
「嫌だ」
「邪魔」
「なら振り払え」
銀子は何も言わなかった。
少し前なら、言われるより先に俺の腕を叩き落としていた。けれど、その日は違った。肩を抱かれたまま、盤面を睨み、次の一手を考えている。
「ここ」
俺は空いている手で、盤上の駒を指した。
「お前、また逃げる手を読んでる」
「読んでない」
「嘘だ、直せ」
「……うるさい」
「将棋に集中しろ」
「誰のせいだと思ってるの」
文句は言う。睨みもする。それでも、俺の腕を退かそうとはしない。
俺は少し笑った。
「何」
「別に」
「気持ち悪い」
「なら離れろ」
銀子は一瞬だけ俺を見た。それから何も言わず、盤へ視線を戻した。
俺も腕を退かさなかった。
その日を境に、銀子は俺が触れても以前ほど拒まなくなった。
研究中、考え込んでいる頭を軽く叩けば怒る。けれど、もうそこまで。対局が終わった後、隣へ座って肩を抱けば、嫌そうな顔はする。それでも立ち上がろうとはしなかった。
「馴れ馴れしい」
「今さらだろ」
「調子に乗るな」
「嫌なら帰るか?」
そう言うと、銀子は決まって黙る。
帰らない。
俺に触れられたから。俺に命令されたから。そんなことでは、もう帰らなくなっていた。
本人は、将棋を教わるため、強くなるために、この程度は我慢しているだけだと考えているのだろう。
別に、それでもよかった。
俺も銀子が俺を好きになったなどとは思わない。俺が好きだから、触れられても拒まなくなったわけではない。
ただ、何度も俺の家へ来て、何度も俺に負け、何度も俺の言う通りに指した。その繰り返しで、少しずつ俺が隣にいることへ慣れた。俺に触れられることにも。
それだけ。
けれど、十分。
銀子は自分でも気づかないうちに、俺との距離を元へ戻せなくなっていた。
俺はそれを急かさなかった。将棋と同じだ。一手で全てを取る必要はない。逃げ道を減らし、相手が慣れるまで待てばいい。
最初は、肩が触れただけで離れた。
次は、頭へ触れても振り払わなくなった。
今は、肩を抱かれたまま平然と将棋を指している。
一つずつ、慣らしていく。
銀子が自分で引いた線を、銀子自身に越えさせる。
最後には、どこから戻ればいいのか本人にも分からなくなる。
◆
俺と銀子が初めて関係を持ったのは、何度目かの研究会だった。
その日は、銀子が公式戦に勝っていた。相手は強く、終盤も難しかったが、昔なら迷っていた局面で踏み込んだ。
俺が教えた通りに。
最初に見えた手を信じて。
逃げずに。
勝った。
研究会へ来た銀子は、いつもより機嫌が良かった。本人は隠しているつもりだったが、分かりやすい。
「勝ったんだろ」
「知ってるでしょう」
「俺のおかげだな」
「違う」
いつもの返事だったが、その日は声に余裕があった。
棋譜を並べると、銀子は何度も最後の局面を見ていた。自分が踏み込んだ手。勝つために選んだ手。
「どうだった」
「遅い」
「殺す」
「でも、前なら指せなかった」
銀子は黙った。
「少しはマシになった」
「少し?」
「まだ俺には勝てない」
「いつか殺す」
「盤の上でやれ」
銀子は少しだけ笑った。
珍しかった。
勝った。
強くなった。
八一にも褒められた。
自分の将棋が前へ進んでいる。
その実感に、酔っていた。
勝利の味を覚えた。
一度知れば、もう昔には戻れない。負けるのが怖くて、踏み込めなかった頃には戻れない。
もっと勝ちたい。
もっと強くなりたい。
そのためなら、多少嫌なことも我慢できる。
銀子は、きっとそう思った。
研究会が終わり、帰る時間になっても、銀子は立たなかった。俺も帰れとは言わず、少しして隣へ座り、肩を抱いた。
銀子は、いつものように睨んだ。
「離して」
「だめだ」
「調子に乗らないで」
「勝って機嫌いいくせに」
「関係ない」
「なら帰るか?」
銀子は動かなかった。
帰ろうと思えば、帰れた。玄関は開いている。俺も止めていない。それでも、銀子は立たなかった。
「嫌なら帰れ」
もう一度言うと、銀子は俺を睨んだ。
「うるさい」
それだけだった。
俺は腕を退かさず、銀子も振り払わない。
そのまま時間だけが過ぎていく。
いつもの研究会。
いつもの部屋。
いつもの男。
でも、何かが違う。
「わかってるんだろ?」
晴人のいう言葉は、銀子にも分かっている。
ここに残れば、戻れなくなる。
それでも帰れない。
勝った。
強くなった。
もっと欲しい。
もっと勝ちたい。
その気持ちを手放せない。
だから、銀子は残った。
◆
「あぁ~銀子のまんこマジでいいわ。俺ら相性最高だろ。」
「あっ、あんっ❤️ あんっ❤️ うるさっ、うるさいっ、そんなっ、はぁっ❤️」
夜。
仰向けになった銀子を上から犯しているのは、彼女をここに連れ込んだ本人である晴人だった。
研究会の時のような鋭い雰囲気は消え、顔にはニヤついた下種な笑みを浮かべている。
あの研究会から早ひと月。
稽古をつけるという名目での呼び出しは、銀子の生活の一部となっていた。表向きは雷との将棋の修行として八一や師匠、両親には伝えてある。最初は訝しんだが、銀子の戦績がみるみる伸びてゆくのを見れば次第に気にしなくなった。
実際、八一から雷へ何度か探りを入れたが、答えをはぐらかされるのみだったようだ。
週1度にも満たない研究会だったのが。今では毎日のように学校が終われば呼び出され、将棋を指し、気を失うまで抱かれる。試合の後に、直接彼の家まで行くこともある。
変わらないのは、彼が満足するまで交わりあうという、ただそれだけ。
あの夜、快楽の種を植え付けられた少女は、一度また一度とその身を捧げ、精神を嬲られ、堕ちていった。
残っているのはわずかな理性のみで、身体はとうの昔に陥落済み。あとはいつ堕ちきるのかといった問題だけだ。
「はぁっ❤️ あっ、あっ、あっ、ああっ❤️」
パン、パン、パン!と軽快に突き入れられる晴人の逸物。その腰使いは酷く女慣れしており、彼の腰が叩きつけられる度、銀子の柔尻はぷるりと揺れた。せめてもの抵抗に声を抑えようとするも、特大のマラは少女の子袋を容赦なく叩き潰す。
快楽にいっぱいいっぱいなことがわかるその余裕のない声音は、酷く蕩けたメスそのもので、銀子がヤリチンの肉棒を咥え込むことに慣れてしまったことを意味していた。
そんな無様に喘ぐ銀子に、晴人はその女泣かせの逸物をさらにイキリたたせ、彼女に手を出したばかりの頃を思い出していた。
◆
あの初夜の翌朝、銀子は泣いた。
声を抑えようとするほど涙は止まらなくなり、怒りながら俺を睨み、何度も最低だと言った。
「何で」
何度も、同じことを聞く。
「何で、こんなことになったの」
俺は答えなかった。銀子自身も、答えを知っていたからだ。
俺が悪い。
そう思いたいのだろう。
俺に押された。俺に言われた。俺が離さなかった。
だから仕方なかった。
そう考えたかった。
けれど、帰ることはできたし、銀子も頭では分かっていた。俺は鍵を掛けていない。止めてもいない。帰れとも何度も言った。
それでも、残った。
勝てたから。
強くなれたから。
もっと欲しくなったから。
その事実が、銀子を一番苦しめていた。
あの夜。
銀子は、一度だけでは終われなかった。
何度も拒んだ。
何度も最低だと言った。
それでも。
夜が明けるまで。
男の腕から逃げられなかった。
何度も唇を重ねられた。怒って、泣いて、それでも朝が来た時には、自分が何をどこまで拒みたかったのかさえ分からなくなっていた。
「二度と来ない」
泣きながら、銀子は言った。
「そうか」
「本気だから」
「分かった」
「絶対に」
「好きにしろ」
銀子は、また泣いた。
俺が引き止めないことにも腹を立てた。自分が残ったことにも腹を立てた。
俺も、自分も、ここへ来た理由も、強くなったことさえ、全てが嫌になった。
その週、銀子は来なかった。次の週も連絡はなかった。俺も何も送らなかった。
終わり。
そう思ったのかもしれない。
けれど、対局の前日。
銀子から連絡が来た。
『棋譜』
それだけ。
晴人は少し笑った。
『持って来い』
既読はついたが、返事はなかった。
その夜、チャイムが鳴った。
扉を開けると、銀子が立っていた。目を合わせない。怒っている。後悔している。
それでも来た。
「入れ」
銀子は晴人を睨んだ。
「研究だけ」
「そうか」
「前みたいなことは」
言葉が止まる。
「何だ」
「…………」
「早く入れ」
銀子は何も言わず、部屋へ入った。
扉が閉まる。
また、戻ってきた。
俺に教われば、強くなれる。勝てる。その味を、もう忘れられない。
俺を嫌いながらも。自分を許せないままに。
それでも、銀子は俺の部屋へ戻ってきた。
それから、研究会の後に銀子が帰らないことは増えていく。
俺が呼び、銀子が怒る。
命令するな。
最低。
死ね。
毎回同じ。
それでも、最後にはここへ来る。
将棋のため。
銀子はそう言った。俺も否定しなかった。実際、将棋のためだった。
俺に教わる。強くなる。勝つ。そして、また来る。
それだけなら、まだ綺麗だった。
けれど、もうそれだけではない。
ある日の研究会が終わった後、銀子は大きなソファに座ったまま、今日の棋譜を見返していた。
「帰らないのか」
「今見る」
「家で見ろよ」
「うるさい」
立つ気はないらしい。
俺は銀子の隣へ座り、肩を抱いた。銀子は一瞬だけ俺を睨む。
「……近い」
「今さらだろ」
「重い」
「我慢しろ」
嫌そうな顔はする。文句も言う。けれど、もう腕を振り払おうともしない。
俺が顔を近づける。
銀子が気づく。
視線が合う。
「何」
「別に」
「近いって言ってる」
「嫌なら離れろよ」
銀子は動かなかった。少し眉を寄せたが、顔を背けない。
そのまま唇を重ねる。
銀子の指が止まり、一瞬だけ俺の胸へ手が置かれた。押し返すのかと思ったが、その手に力は入らなかった。
あの夜、銀子は泣き、怒り、何度も最低だと言った。
それでも、初めて関係を持った夜、キスは一度だけではなかった。
何度も。嫌だと言いながら。怒りながら。
結局、俺を止めなかった。
だから、今さらだ。
俺が少し離れると、銀子はすぐに顔を逸らした。
「……調子に乗るな」
「何が」
「勝手に」
「初めてじゃないだろ」
銀子の目が鋭くなる。
「黙れ」
「いままで忘れてたのか?」
「殺す」
「何回した?」
「黙れ!」
銀子は顔を赤くし、俺の胸を押した。
けれど、今度も本気ではない。少し力を入れれば簡単に離れられるのに、銀子は離れなかった。
俺は笑う。
「嫌なら止めろ」
「…………」
「銀子」
「うるさい」
また顔を近づける。
銀子は睨んでいる。怒っている。嫌そうな顔をしている。
それでも、逃げない。
「本当に嫌か?」
「嫌」
「なら離れろ」
「うるさい」
「止めろ」
銀子は何も言わなかった。
もう一度、唇を重ねる。
今度は銀子も、すぐには終わらないと分かっていた。それでも目を閉じた。
俺が僅かに離れる。
「初めてじゃないだろ」
もう一度言うと、銀子は俺を睨んだ。
「最低」
「舌、出せ」
「…………」
「早くしろ」
本気で腹を立てている。それでも、銀子は拒まない。
自分からではない。
命令されたから。
仕方なく。
そう言い訳するように、ほんの少し唇を開く。
ゆっくりと舌を絡め、離れた後、銀子は俺を睨んだ。
「最低」
「知ってる」
「偉そう」
「今さらだろ」
「死ね」
「なら終わりにするか?」
銀子は黙った。
帰らない。帰れない。
棋譜を閉じることもなく、俺の隣へ座ったままだった。
少し前なら、肩へ触れただけで離れた。その後、肩を抱かれても研究を続けるようになった。
そして、二度と戻れないところまで来た。
今は、キスをしても怒るだけで、拒まない。
多分、銀子の中では、これもあの夜から続いているだけなのだ。新しく何かを許したわけではない。もう一度、同じことを拒めなかっただけ。
そう考えれば、まだ自分が変わったことを認めなくて済む。
俺も、わざわざ否定しない。
銀子は後悔している。
俺が嫌いで、自分も許せない。
それでも、強くなれる。
勝てる。
だから、また来る。
そして、一度受け入れてしまえば、次からは前より拒めなくなる。
◆
長く大きな肉の棒。そんなモノを根本までしっかり咥え込み、ギチギチと隙間なく締め付ける銀子の肉壷は、すっかり晴人の形を覚え込んでしまっていた。最愛の幼馴染ではない、言葉巧みに女を犯し、弄ぶような最低な男。しかし彼だけが空銀子という絶世の美少女の味を知っている。
彼女をメスへと堕としていく。
「あっ、あっ❤️ そこっ、そこだめっ❤️ やぁっ、ぁあんっ❤️ 」
「そんなこと言って締め付けてきやがってよ、ほら、ここが好きなんだろ?」
グリグリとねじ込まれるデカマラに、少女の屈伏済みのポルチオは敢え無く悲鳴をあげ、イキ潮をまき散らす。所謂種付けプレスの体勢で、筋肉質な晴人が銀子を犯す様は出来の悪いAVそのものだ。
白磁の肌を朱に染めて、懸命に男にすがる銀子はすっかり彼の情婦となっていた。
「はっ、あっ、あっ❤️ これ、これだめぇ!激しいっ❤️ はぁん❤️」
一段高くなる喘ぎ声。その声をスパイスに、巧みな腰使いを披露していた晴人は、汗で滑る手で銀子の腰を掴みなおすと、より深く激しい抽送へとリズムを変える。
「ああっ! やだ❤️やだっ! 外に出してっ!だめぇ❤️❤️❤️」
「うるせぇ!!そんなの今さらだろっ!」
激しさを増す抽送に何かを悟った銀子が髪を振り乱して鳴く。
晴人のセックスはゴムを使った避妊は行われず、生ハメが基本だ。生以外は認めないし、銀子自身これまでに何度も彼の精をその子袋で受け止めており、これが初めてというわけではなかった。しかしそれでも、八一以外はダメだと必死に拒絶する理性。
だが、その意志とは裏腹に、オスに支配され、中出しを経験してしまった身体は既に彼を受け入れていた。震える子宮、激しい抽送を求めて大きく開かれた脚。膣肉は絶頂が近いことを示すように強く絡みつき蜜を吹きこぼす。
それは、もう男を迎え入れていることと同義だ。
「ぁ、やだっ、イク、イクイク❤️ イ……クゥ❤️」
「あぁやべぇ、出るわ…」
激しさを増す抽送は少女の脳を快楽で白く焼き、銀子は絶頂を知らせる言葉を漏らす。
気づけばその拒絶も消え、瞳からは快楽の涙が零れた。
そして、限界を迎えた晴人の腰が強く押し付けられた。
「っ、出すぞっ!!!」
「やっ❤️ あぁぁぁあああ❤️」
銀子の子宮へ、どぷどぷと晴人の精が吐き出される。
絶世の美少女への無責任種付けは、これ以上ないほどオスの征服欲を刺激し満たす。
その射精は力強く、執拗に長かった。
いくら嫌いな相手とは言え、最高の絶頂と共に奥へと吐き出される精子は、これ以上ないほどの多幸感を少女に与える。
その幸せに、彼女の表情は完全に蕩け、腰回りはふるふると悦びに震えた。
「んぉっ!?」
細い脚は晴人の腰に回り、狭い膣はこれでもかと肉棒を締め付け縋りつく。
最後の一滴まで搾り取るかのような吸い付き、その高い膣圧に思わず呻いてしまう。
「は、ぁ…❤️ んっ、はぁ……はぁ……❤️❤️❤️」
そんな彼の精を最後の一滴まで受け止めた少女は、完全に呆けた顔でうっとりと男を見つめていた。
◆
あれから銀子の成績は伸び続けた。
連勝、連勝、連勝。
勝率が上がる。
対局内容の変化。
周囲も気づいた。
最近、空銀子が変わった。
踏み込みが鋭くなり、迷いが減った。終盤も強い。以前から女性にしては圧倒的に強かったが、今までとは別の強さだった。
俺が教えた。
勝つために不要な読みを捨て。全てを理解しようとせず、相手より先に決める。
銀子はそれを覚えた。
そして勝った。
◆
「姉弟子」
また八一との研究会。
「最近、本当に強くなったよね」
銀子は必死に何でもない顔をした。
「そう?」
「うん。前より思い切りがいい」
八一が盤へ駒を置く。
「姉弟子って、こんな将棋も指せたんだ」
銀子は盤を見た。
自分の勝負手。
あの男なら何と言うか。
――遅い。
――もっと早く指せ。
腹が立つ。
何で、今思い出す。
八一が褒めている。ずっと追いかけてきた八一が、自分を強いと言っている。
それなのに、頭の中にいるのはあの男。
「姉弟子?」
「何」
「歯」
「は?」
「歯ぎしりしてる」
「してない」
「してるよ」
「してない」
「怖い」
「殺す」
「何で!?」
銀子は顔を逸らした。
「……次」
「もう一局?」
「早く並べて」
「はい」
八一が駒を並べる。
銀子は盤を見た。
この将棋は自分のもの。
あの男のものではない。
自分が指す。
自分が勝つ。
そう思った。
◆
その夜、銀子から連絡が来た。
『今日』
『空いてる?』
俺は笑った。
初めて、銀子の連絡から研究会という言葉が消えた。
『来い』
既読がつき、すぐに返事が来た。
『命令するな』
俺は返す。
『嫌なら来るな』
十分後、チャイムが鳴った。
◆
「お前」
銀子は部屋へ入った瞬間、俺を睨んだ。
「何」
「私が来ると思ってたでしょう」
「来たな」
「そうじゃない」
「じゃあ何だ」
「…………」
答えない。
面倒な女。
俺は盤を出した。
「座れ」
銀子は怒りながらも座った。
「八一に褒められた」
突然、銀子が言った。
「そうか」
「強くなったって」
「俺のおかげだな」
「違う」
即答。
「私が強くなった」
「俺が教えた」
「私が考えた」
「俺が直した」
「私が勝った」
「俺がいなければ負けてた」
銀子の目が鋭くなる。
「……本当に腹が立つ」
「知ってる」
「嬉しくないの?」
「何が」
「教えた相手が、勝った」
俺は銀子を見る。
「別に。お前が勝っても、俺には関係ない」
駒を並べ、最後の一枚を盤へ置く。
「俺は、俺が面白いから教えてる」
「……そう」
「勘違いするな。お前を応援してるわけじゃない」
銀子は少し笑った。冷たい、いつもの顔。
「安心した」
「何が」
「私も、あなたに感謝なんてしてない」
「そうか」
「嫌い」
「知ってる」
「最低」
「知ってる」
「死ね」
「将棋で殺してみろよ」
銀子が駒を指す。
強い手だ。
迷いがない。
俺は笑った。
やっぱり、前より強い。
◆
恋じゃない。
銀子は八一が好きで、銀子は俺を好きではない。
欲しい時に呼び、面白いから教える。
銀子は俺が嫌いだ。それでも来る。強くなれるから。勝てるから。
それだけ。
綺麗な関係ではない。
綺麗である必要もない。
◆
ある夜、銀子は俺の隣で眠っていた。
1戦を終え、心地よい倦怠感を纏って余韻に浸る二人。キングサイズのベッドは、二人が横になっても十分すぎるほどの余裕がある。それなのに、銀子はわざわざ俺の近くにいた。
背中を向けてはいるが、肌は触れている。
少し動けば離れられる距離。それでも離れない。
俺が腕を伸ばし、腰を抱き寄せる。
銀子は目を閉じたまま、僅かに眉を寄せた。
「……重い」
「起きてたのか」
「今起きた」
「そうか」
腕は退かさない。
銀子も、退けろとは言わなかった。
少し前なら、触れただけで怒っていた。今はこうして同じベッドで眠り、肌を重ね、目を覚ましてもそのまま俺の隣にいる。
恋じゃない。
銀子は八一が好きだ。
俺も銀子を好きではない。
それでも、俺が抱き寄せれば離れない。顔を近づければ、嫌そうな顔をしながらも、眼を閉じる。
もう、拒まない。
それだけで十分だった。
「銀子」
「何」
「お前、もう明日から来なくていいぞ」
銀子の目が開いた。
「……何て?」
「聞こえなかったか?」
俺は腕を退かした。銀子との間に、少しだけ距離ができる。
「もう来なくていい」
「どういう意味」
「そのままだ」
「研究会は」
「終わり」
「どうして」
「飽きた」
銀子の表情が止まった。
「……は?」
「最近、同じことばっかりだろ。俺が教えて、ヤって、それで終わり」
「…………」
「最初は面白かったぞ。弱いくせに偉そうで」
「殺す」
「すぐ怒って」
「黙れ」
「何を言っても帰らない」
「…………」
「でも、もう飽きた」
銀子は何も言わなかった。
最低、死ねと、いつものように怒ると思った。
けれど、何も言わない。
ただ、静かに俺の顔を見ていた。
「なら」
少しして、銀子が言った。
「研究会だけでいい」
「嫌だ」
「何で」
「飽きた」
「私が勝てるようになったから?」
「違う」
「教えることがなくなった?」
「まだあるぞ」
「なら、続ければいいでしょう」
「俺に得がない」
「…………」
「お前が強くなっても、俺には関係ない」
銀子は黙った。
「前にも言っただろ」
「……覚えてる」
「俺は、お前を応援してるわけじゃない」
「知ってる」
「だから終わりだ」
俺は背を向けた。
「明日から来るな」
後ろで銀子が動いた。
ベッドから降りるのかと思った。
けれど、動かなかった。
長い沈黙の後、銀子が言った。
「……勝手ね」
「そうだな」
「自分から呼んだくせに」
「雷が寄越したな」
「何度も来いって言った」
「もう言わない」
「…………」
「それに、お前もこれで良かっただろ?」
俺は振り返らない。
「俺が嫌いなんだろ」
「嫌い」
「なら終わってよかったな」
銀子は答えなかった。
「もう命令はしない。やらない。ここにも来なくていい」
静かだ。
銀子が何を考えているのか、見なくても手に取るように分かった。
終われる?
今なら。
俺が終わりだと言っている。自分から切らなくてもいい。もう来なくていい。嫌いな男と二度と会わなくていい。もう抱かれなくて済む?
なのに。
銀子はベッドから降りない。
「早く帰れ」
「…………」
「銀子」
「うるさい」
「終わりだ」
「勝手に決めないで」
「俺が決めた」
「私も来た」
そこで初めて振り返った。
銀子はベッドの上に座っていた。怒っている。けれど、いつもの怒り方とは違った。
「だから何だ」
「私も……私も、ここまで来た」
「自分でな」
「…………」
「なら、自分で帰れ」
銀子は動かない。
「何で帰らない?」
「うるさい」
「飽きたって言ってる」
「聞こえてる」
「もういいだろ?」
銀子の指がシーツを掴んだ。
「一人で勝てるんだろ」
「勝てる」
「俺は必要ない」
「必要ない」
「なら帰れ」
「…………」
また沈黙が落ちる。
「銀子」
「何」
「帰れ」
銀子は俺を睨んだ。
「嫌」
小さな声だった。
俺は少し笑った。
「何が嫌なんだ」
「うるさい」
「言え」
「命令するな」
「なら帰れ」
「……嫌」
「聞こえない」
銀子はシーツを握ったまま俯いた。
「帰りたくない」
初めて、自分で言った。
俺に呼ばれたからではない。
命令されたからでもない。
脅されたからでもない。
銀子は自分から、ここに残ると言った。
「何で」
「…………」
「俺が好きか?」
「違う」
即答。
「八一より?」
「殺す」
「なら何だ」
「…………」
「将棋か?」
銀子の指が、さらに強くシーツを掴んだ。
「そう」
「俺に教わりたい?」
「……そう」
「それだけか?」
銀子は答えなかった。
俺は少しだけ距離を取った。
「なら、自分から来い」
「…………」
「これからは、俺に呼ばれたから来たって言い訳するな」
銀子の顔が少し歪んだ。
「俺が命令したから」
「…………」
「俺が帰さなかったから」
「…………」
「もう使えないぞ」
銀子は俺を睨んだ。
「最低」
「知ってる」
「卑怯」
「それも知ってる」
「本当に嫌い」
「お前が選んだ」
銀子は何も言わなくなった。
俺はもう一度ベッドへ横になり、背を向けた。
帰るなら帰ればいい。残るなら好きにすればいい。
少しして、後ろで布団が動いた。
銀子が横になる。
今度は、自分から俺との距離を詰めた。
肩が触れる。
腕が触れる。
俺は何もしなかった。
銀子も何も言わない。
しばらくして、俺は振り返った。
顔が近い。
銀子は目を逸らさなかった。
「嫌なら止めろ」
「…………」
「銀子」
「うるさい」
俺が顔を近づけると、銀子はもう目を閉じていた。
◆
次の日、銀子は俺より先に起き、ベッドの端で髪を整えていた。
「帰るのか」
「帰る」
「もう来なくていいぞ」
銀子の動きが僅かに止まった。
「……行く」
「何」
「次の研究会」
「来なくていい」
銀子はゆっくり振り返った。
「私が行く」
俺は笑った。
「昨日までと違うな」
「何が」
「俺が呼んでない。お前が勝手に来る」
「うるさい」
「そうか」
「棋譜」
「何だ」
「次までに見ておいて」
「命令するな」
「あなたが言わないで」
銀子は立ち上がり、扉へ向かった。途中で一度だけ止まる。
振り返らない。
「……次」
「何だ」
「空いてる日、送って」
「俺が決める」
「勝手にして」
「来るのか?」
「…………」
返事はないまま、銀子は部屋を出た。
けれど、その日の夜。
銀子から連絡が来た。
『次はいつ』
それだけ。
俺は画面を見た。
今までは俺が呼んでいた。
来い。
十九時。
命令。
銀子は怒りながら来た。
でも、もう違う。俺が終わりにしようとした。
銀子は自分で残った。
自分で次を聞いた。
これからは、俺に呼ばれたからではない。俺に脅されたからでもない。
強くなりたい。
ここへ来たい。
そのために、自分から俺を選んだ。
俺は返信する。
『明日』
すぐに既読がつき、少しして返事が来た。
『分かった』
俺は笑った。
銀子は、また自分から来る。
前よりもっと深いところまで。
自分の足で。
◆
それからも研究会は続いた。ただ、以前とは少し違う。
俺が呼ぶ前に、銀子から連絡が来る。
『今日』
『棋譜』
『空いてる?』
用件だけで、愛想もない。
それでも、来るのは銀子だ。
自分で日時を聞き、自分でエレベーターに乗り、自分でこの部屋へ戻ってくる。
もう、俺が呼んだからではない。
そこまで来た銀子は、以前より面倒で、以前より扱いやすかった。怒り、睨み、嫌いだと言う。
それでも、抱かれれば拒まず、自分から奉仕するようになった。
俺との関係を嫌いながらも、自分で続ける。
その矛盾が、銀子を前より深くここへ縛っていた。
◆
「ほんと、スケベになったな」
「ん、ちゅ…むちゅ、ちゅ❤️ うるさい❤️ はぁ、んっ❤️」
セーラー服を着た銀子が、晴人の逸物を舐める。
二人の体液で汚れたそれを、手で扱きつつ竿を舐め玉を弄ぶその姿は、非常に手慣れていた。時折チラリと上目遣いで晴人を見やり、オスの反応を伺い奉仕する。
清楚な装いに対して、淫靡な表情を浮かべ、竿にキスをする。
ピチャ、ピチャという水音と小さな吐息が響く。
その後も、裏筋を舐め上げ、尿道を舌先で責め、様々なフェラテクで逸物へ奉仕する銀子は、その度に眼を蕩けさせていく。
そして、存分に竿を清めた後、正面からそれを咥え込む。グプリ……と音と共に飲み込まれていく晴人の剛直。流石に大きなそれをすべて咥え込みきることはできず、途中まで呑み込むとクプ、クプと卑猥な音を立て頭を上下に振り始めた。
銀子はその可憐な唇でマラをしごき、頬を窄めて吸い付くさまを見つめられても気にしないほどに調教されてしまっていた。
カリ首を唇が往復すると、少女の唾液でテラテラと濡れ光る。
その動きを緩めず一心にフェラを続ける。無言で奉仕に集中するその姿は、彼女が元来持つ奉仕精神の表れだろうか。
「そろそろいいぞ」
その声にフェラを止めると、根本まで呑み込んだマラをグププっと抜き出し、名残惜し気に見つめる。ごくりと唾液を飲み込み何かを待つようにオスを見上げる銀子。
「ほしいか?」
端的な問い。
銀子はゆっくりと首を縦に振る。
「じゃあ、わかるよな?」
晴人のニヤついた声音。
それに対し、銀子は恥ずかし気に顔を伏せ、小さく言う。
「わ、私を……おちんちんで、気持ち良くして❤️」
そこからはただ愛し合うオスとメスがいるだけだった。
「ぁあ……っ❤️❤️❤️」
響き渡る嬌声、黒いストッキングに包まれ、プリンっとした銀子の桃尻は晴人の激しいピストンを受け止めていた。セーラー服のスカートをたくし上げ、四つん這いで犯される少女。棋界でも並ぶ者のいない人気を誇る彼女を犯すとき、制服を着せるのが晴人の趣向だった。
パン❤️パン❤️パン❤️
と叩きつけられる腰にあわせて、銀子は喘ぐ。
あまりにも荒々しくい腰使い、だが、それだけが銀子の知るオスの姿だ。
「あんっ❤️ 奥ッ、ゴリゴリしてっ❤️ これ、すごっ❤️ 気持ちいぃっ❤️❤️」
蜜壷へと深く突き込まれていくマラが圧倒的存在感で少女の肉壺を蹂躙する。小さな乳房は興奮に張りつめ、ピンク色の先端は固く主張しふるふると揺れる。時折力強くつまめば、合わせ膣肉も引き絞られた。
「とりあえず一発出すぞ。ちゃんとまんこ締め付けろっ!!」
「アッ❤️ アッ!❤️ アッ❤️ 出してっ❤️中にっ❤️」
全身で快楽に乱れる少女へ射精する。奥まで突き刺さったマラをしっかりと受け止めた柔肉。四つん這いの両脚はピンとつま先に力が籠る。両腕も背へと回し、引かれながらも尻を押し付けるその姿は子種を欲する雌そのものだ。
望み通り奥深くで子種を受け止め、尻臀は気持ち良くてたまらないとでもいうかのようにガクガクと震えた。普段は子供体型と揶揄される体も、紅潮し淫らに色づいていた。
「はぁっ……、ぁっ……、あっ……❤️」
少しの休憩をはさみ、晴人の上にペタリと座った銀子が、両腕を晴人の胸について、下半身を揺すっていた。前後に揺れる腰からはぬちゅぬちゅと粘膜を擦る音が響き、2人の股間はは愛液と汗でベタベタに濡れている。
「あぁっ、これっ❤️ これ、いいとこに当たる❤️❤️」
伏せた瞼の奥、蕩け落ちた瞳は肉欲に染まっていた。可憐な唇からは絶えず熱い吐息が漏れ、前後に揺れる腰はより激しく舞う。汗に濡れた身体は、怪しく光り存分に男の欲情を煽った。
「自分でこんなに腰振って、スケベすぎるだろ」
「う、うるさい❤️ 私❤️ セックスがこんなっ❤️ 知らなかったのに❤️ あなたがっ❤️」
晴人の揶揄いにも蕩けた声で返す。
焦点の合わぬ瞳で口の端から唾液を垂らし、パン❤️ パン❤️ と尻を叩きつける銀子。
元々心臓を患っていたためか、体力はないが懸命に腰を振る姿は酷く下品で、魅力的だった。
「はっ❤️ はっ❤️ あんっ❤️ あぁ❤️」
「そろそろ出すぞっ!」
「出して❤️ 中❤️ 中に頂戴❤️❤️」
「おおっ…ッ!!!!」
ビュるるるるるるっっ❤️❤️❤️❤️❤️
絶頂は同時だった。
晴人の腰へと巻き付いていた銀子の脚に力が入ると同時、体を倒し強く抱きしめゆっくりと舌を絡める。それまでの激しい動きから一転、身体を硬直させた二人はただ強くつながり蕩けあった。
「あー、気持ち良かったぁ」
「ん❤️」
最後の1滴まで吐き出した晴人は、満足気にそう言う。
それに対し彼に抱かれている銀子はヘラリ、と蕩けた笑みで彼の頬へキスを落とした。
◆
その日、銀子は帰る準備をしていた。
髪を整え、服を直し、鏡を見る。
この部屋を出れば、浪速の白雪姫。
強く、美しく、誰も近づけない。
八一だけを見ている女。
俺だけが知っている。
「おい」
銀子が振り返る。
「座れ」
「帰る」
「明日も対局」
「なら早くしろ」
「本当に偉そう」
「知ってる」
「褒めてない」
「座れ」
銀子は数秒俺を睨んだ後、不機嫌そうに座った。
「話がある」
「ろくな話じゃなさそう」
「正解」
俺は少し間を置いた。
「次は、他の女を連れてこい」
銀子が止まった。
「……は?」
「聞こえただろ」
「意味が分からない」
「次から、お前一人で来るな」
銀子の目が冷たくなる。
「嫌」
「駄目だ」
「勝手に探せば」
「お前が連れてこい」
「断る」
「命令だ」
銀子が立ち上がった。
「ふざけないで!」
「ふざけてない」
「私を何だと思ってるの」
「便利な女」
一瞬、銀子の顔から表情が消え、すぐに怒りへ変わる。
「……最低」
「知ってる」
「本当に最低」
「何回言うんだ」
「あなたみたいな男、大嫌い」
「俺も」
銀子が止まる。
「お前を好きじゃない。勘違いするな。恋人ごっこをしてるわけじゃない」
「…………」
「お前は八一が好き」
「…………」
「俺は女が好き」
「それで?」
「問題ないだろ」
銀子の声が少し低くなる。
「なら、私じゃなくてもいいでしょう」
「そうだなぁ」
銀子の目が一瞬揺れたが、すぐに怒った顔で隠した。
「だから、女を連れてこい」
「嫌」
「何で」
「嫌だから」
「俺が誰と関係を持っても、お前には関係ない」
「…………」
「お前は俺の女じゃない。違うか?」
銀子は答えない。
「なら、連れてこい」
「嫌」
「女流棋士」
「嫌」
「奨励会員」
「嫌」
「知り合い?」
「嫌!」
声が大きくなる。
俺は少し黙ってから笑った。
「何で怒る?」
「怒ってない」
「怒ってるだろ」
「あなたが、馬鹿なことを言うからっ!!」
「俺が他の女を欲しがるのが嫌か?」
「違う!」
即答だった。
俺は笑った。
「そうか」
「何、その顔」
「別に」
「笑うな」
「嫌だ」
銀子は俺を睨む。
恋じゃない。
銀子は俺を好きではない。
ただ、自分が堕ちた場所へ他の女を入れたくない。
自分だけが負けた。
そう思いたくない。
それだけ。
「銀子」
「何」
「条件だ」
「何の」
「これからも俺に将棋を教えてほしいなら」
銀子の顔が固まる。
「また、俺に抱かれたいなら」
「……誰が」
「女を連れてこい」
銀子は立ち上がった。
「二度と来ない」
「そうか」
「本気だから」
「帰れ」
銀子は強い足音を立てて玄関へ向かい、扉を開ける。
「銀子」
足が止まる。
振り返らない。
「もう終わりなら、俺が何を誰に話すかも、お前には関係ないな」
銀子の肩が動いた。
「……何を、言ってるの」
「別に」
「八一?」
声が止まる。
俺は笑った。
「何だ」
「…………」
「言え」
「何も話すな」
「何で?」
「関係ない!!」
「なら帰れ」
銀子は振り返った。
「卑怯者」
「知ってる」
「最低」
「それも聞き飽きたな」
「絶対に許さない」
「来週までだ」
「……何が」
「女を決めろ」
銀子は何も答えない。
「忘れるな」
扉が閉まった。
◆
何日か、銀子から連絡はなかった。
俺が送る。
『来い』
既読。無視。
『女は決まったか』
既読。無視。
『早くしろ』
既読。無視。
怒っている。
別に珍しくない。あいつはいつも怒っている。
怒れば、自分を守れる。
俺に命令された。
俺に脅された。
仕方がなかった。
そう思える。
けれど、今回は少し違う。
銀子はもう、自分で選んだ。
自分から、自分の足でここへ戻ってきた。
だから、全部を俺のせいにはできない。
それでも銀子は、また言い訳を探す。
俺が最低だから。
俺が脅したから。
仕方がなかった。
そうやって、俺を嫌うほど俺から離れられなくなる。
◆
一週間後、通知が来た。
銀子。
『明日行く』
俺は返した。
『一人なら来るな』
既読がつく。
返事はない。
少しして、もう一度通知が鳴った。
『分かってる』
それだけ。
俺は笑った。
◆
「銀髪ぅ、本当に連れてくるのぉ?」
雷は、リビングの中央に置かれた大きなソファで、俺へべったりと寄り添っていた。
大人が何人寝転んでも余るほど広く、向かいには夜景を映す巨大な窓がある。座る場所など好きなだけあるのに、雷はわざわざ俺の隣へ体を寄せていた。
肩へ頬を預け、腕を絡め、片脚まで俺の膝へ乗せている。勝手に冷蔵庫を開け、勝手に飲み物を持ち出し、当然のように俺へ凭れかかる。
邪魔だ。
けれど、今さら退かすほどでもない。
「連れてくる」
「どうして分かるの?」
「俺が命令した」
雷は缶を口元へ運びかけたまま、すぐ横から俺の顔を見上げた。
広い部屋。
広いソファ。
それでも、俺と雷の間にだけはほとんど隙間がなかった。
「あはっ♡」
「何だ」
「ハルって、本当に偉そう♡」
「今さらか」
「銀髪、怒ってた?」
「いつも通り」
「何て言ってたぁ?」
「最低」
「あはっ♡ 銀髪、それしか言えないの?」
「死ねとも言われた」
「私もよく言われるぅ」
「仲いいんだな」
その瞬間、さっきまで俺へ甘えるように緩んでいた雷の顔から、笑みが綺麗に消えた。
「は?」
「誰と誰が?」
「お前と銀子」
「やめて」
本気で嫌そうだった。
「あんな銀髪と一緒にしないで」
「向こうも同じことを言うな」
「銀髪は偽物。私とは違う」
「そうか」
正直、どうでもいい。雷と銀子がどれだけ仲が悪かろうが、俺には何の関係もない。
「それでぇ?」
雷はすぐに興味を戻し、俺の肩へ顎を乗せたまま、楽しそうに顔を覗き込む。
「銀髪ぅ、誰を連れてくるの?」
「知らない」
「予想しようよぉ」
「誰でもいい」
「嘘」
雷は俺の胸へ片手を置いたまま、もう片方の指を一本立てた。
「供御飯万智」
「ありえるか?」
「銀髪ぅ、あの女嫌いでしょ?」
「そうなのか」
「嫌いだよぉ。八一と昔から仲いいし、何でも分かってますって顔してるし、銀髪ぅより余裕あるし」
驚いた、こいつが格下を認識している。
「お前も嫌いなんだろ」
「みんな偽物だから一緒」
雷は笑った。
「でもぉ、銀髪もアレなら大丈夫って思いそう」
「何が」
「ハルなんかに負けないって」
あぁ、なるほど。
自分より大人で、頭も回る。俺みたいな男に好き勝手されるわけがないと考え、自分を納得させるには都合のいい相手かもしれない。
「それで、連れてきた女が俺を選んだら?」
雷の目が楽しそうに細くなる。
「銀髪ぅ、泣くかなぁ?」
「怒る」
「怒ってぇ、ハルを殺すって言ってぇ。でも、また来る?」
「来る」
雷は声を上げて笑った。
「あはっ♡」
本当に性格が悪い。
まあ、俺が言えることでもない。
「じゃあ、月夜見坂燎」
「あのヤンキーか」
「うん」
「面倒そうだな」
「ハル好きそう」
「何が」
「すぐ怒る女♡」
「嫌いじゃない」
「ほらぁ」
「怒らせるのが好きなんだ」
「最低♡」
「知ってる」
雷は、頭の中で何かを想像するように目を細めた。
「でもアレなら、何様だって最初から殴りかかってくるかも」
「殴らせない」
「喧嘩になったら?」
「勝つ」
「将棋じゃなくてだよぉ?」
「同じだ」
俺は女を抱くために体も鍛えている。見栄えだけの筋肉ではない。夜遊びをしていれば、酔った男や面倒な連中に絡まれることもある。そういう連中を力で黙らせたことも、一度や二度ではなかった。
女一人に殴り負けるほど、柔な体はしていない。
「強そうだよ?」
「関係ない」
「殴られても?」
「先に押さえる」
「怒って暴れたら?」
「動けなくして犯す」
雷は少しだけ目を丸くした後、また楽しそうに笑った。
「あはっ♡ ハル、本当に何でも勝つつもりなんだぁ」
「負ける理由がない」
「すごい自信」
「事実だ」
「将棋なら?」
「勝つ」
「負けたら?」
「俺が負けるわけないだろ」
考えるまでもない。
俺より強い棋士はいない。今の棋界には。多分、過去まで探しても。
全盛期の名人なら、多少は食い下がれるかもしれない。
それでも、最後に勝つのは俺だ。
「じゃあ、もし負けたら?」
「聞こえなかったか?」
俺は雷を見る。
「俺は負けない」
雷は数秒ほど黙った後、堪え切れなくなったように笑い出した。
「あはっ♡」
「何だ」
「ハル、最高♡」
「今さらか」
「じゃあ♡ 将棋で負けてぇ、喧嘩でも負けてぇ、最後はハルに捕まっちゃう?」
「さあな」
「あはっ♡ 面白そう」
雷はソファの上で足を揺らした。
「お前、楽しんでるだろ」
「うん」
隠す気もないらしい。
「だってぇ、銀髪ぅが自分で誰を売るのか、楽しみ♡」
最低だった。銀子が聞けば、今度こそ本気で雷を殺そうとするかもしれない。
「供御飯万智」
雷が一本目の指を立てる。
「月夜見坂燎」
二本目。
そして三本目を、ゆっくりと立てた。
「それともぉ、銀髪ぅが大切にしてる、あの女ぁ?」
俺は雷を見る。
名前は出さない。
けれど、誰のことを言っているのかは何となく分かった。
「それは銀子が嫌がるだろ」
「だから面白いんじゃない♡」
雷は狂気的なほど無邪気に笑う。
「銀髪ぅ、自分はどれだけ酷いことされても怒るだけだけどぉ、大切な人がハルに取られたらぁ、どうなるんだろうねぇ?」
「さあな」
「怒るかなぁ?」
「怒る」
「泣く?」
「知らない」
「それでも、またハルのところに来る?」
「来る」
迷わず答えると、雷は満足そうに笑った。
「あはっ♡」
銀子は、自分だけが俺に捕まっている間なら、まだ言い訳できる。
俺が最低だから。
脅されたから。
将棋を教わるためだから。
仕方がなかった。
けれど、自分の手で誰かを連れてくれば話は変わる。
自分で選ぶ。
自分で呼ぶ。
そして、自分の知っている女を俺の部屋へ入れる。
そこまで行けば、もう全部を俺のせいにはできない。
「ねぇ、ハル」
「何だ」
「誰がいい?」
「誰でもいい」
「本当に?」
「ああ」
俺にとって重要なのは、誰が来るかではない。
銀子が、自分で誰かを選ぶこと。
それだけだった。
その時、テーブルに置いていたスマートフォンが鳴った。
銀子。
雷が俺から離れることなく、身を乗り出す。
「来た?」
「ああ」
画面を見る。
『明日 十九時』
俺は返した。
『女は?』
既読。
返事はない。
雷が俺の腕へ絡みついたまま、肩越しに画面を覗き込む。
「怒ったぁ?」
「いつも怒ってるだろ」
一分。
二分。
通知。
『連れていく』
それだけ。
雷が笑った。
「あはっ♡ 誰だろうねぇ」
「明日分かる」
「供御飯万智?」
「月夜見坂燎?」
「知らない」
「それともぉ」
雷は俺へ凭れたまま、玄関へ顔を向けた。
まるで、もう銀子と誰かが扉の前に立っているかのように。
「銀髪ぅの、大切なあの女ぁ?♡」
俺はスマートフォンを置いた。
誰でもいい。
供御飯万智。
月夜見坂燎。
名前を出さなかった女。
それ以外。
銀子が選ぶ。
銀子が連れてくる。
俺に命令されたから。脅されたから。仕方がなかった。
そう言い訳しながら、自分の知っている女を俺の前へ差し出す。
それだけで、十分だ。
「楽しみだねぇ、ハル」
雷が俺の肩へ頬を預けたまま言った。
俺は笑った。
「ああ」
明日。
浪速の白雪姫は。
誰を売るんだろうな。
ふぅ…。すっきりした。