その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
第一楽章 氷雪洞窟
一面白銀の世界。【シュネー雪原】に入って抱いた感想はそんなところである。
【シュネー雪原】は【ライセン大峡谷】によって真っ二つに分けられる大陸南側、その東にある一大雪原だ。年中曇天に覆われており、雪が降らない日が極まれにあるくらいで晴れることはなく、ずっと雪と氷で覆われた大地が続いている。
東の【ハルツィナ樹海】と南大陸中央に位置する魔人族の国ガーランド魔王国の間に挟まれており、どういうわけかそこに壁でもあるかのようにピタリと雲も氷雪も突然区切れているという不思議な場所だ。おかげで、樹海にも魔国にも氷雪被害は一切ない。
その雪原の奥地にかなり大きな峡谷がある。氷と雪で出来た峡谷だ。その峡谷の先に最後の大迷宮である【氷雪洞窟】がある。
さて、俺たちは現在クソ寒い雪原をえっちらおっちら歩いてる……とでも思ったか?
「雪原を歩くのが辛いなら雪すら届かない高高度を飛行する。常識だな」
「音也くんって常識が通じないよね……お姉さん悲しいよ」
言わずもがな、二式大艇を使って高高度を移動中である。ちなみに光輝たちも同行している。とても同じ飛行艇内で共存出来るとは思えないため、恵里を除いた三人はハジメの操るもう片方の大艇に搭乗している。
何故役に立たない光輝たちも同行しているのかというと……鈴が頼み込んで来たからだ。曰く、恵里がここまで強くなったのに自分は弱い。ほんの少しでも親友の役に立てるように強くなりたいと必死の形相で頼み込んで来たのである。
そして其処へ便乗するかのように光輝と龍太郎も頼み込んで来た。受け答えが面倒くさかった俺は二つ返事で了承してしまった、というわけだ。
「ところでその羅針盤。どんな感じがした?」
「ああ、これか? 単に羅針盤の針が望んだ場所に向くだけじゃなく、何となく目的の場所とかそこまでの距離とかが感覚で分かる」
「……それ、凄くない?」
「なんなら俺たちが住んでいた地球の位置も何となくだが分かったしな」
概念魔法が想像以上にぶっ飛んでたことを露葉さんに伝えながら氷雪洞窟までの距離を測る。大体ここから二十分ぐらいだろうか。
「とりあえず降りる準備しておこう。今回は大火山の二の轍を踏まないように対策をしてきたんだ」
「対策? そういえば大火山は暑くてとても辛かった思い出があるけど……」
「姉さんはまだマシな方でしょ。私は熱中症でわりかし危なかったんだから」
「僕も急な気温変化は苦手かな。日本に居た頃はしょっちゅう風邪をひいてたよ」
「……でも、ティオは大丈夫そうだった」
「妾は熱い場所は得意だからのお。逆に寒いのは苦手なんじゃが、ご主人様はその対策をしたということかの?」
「そうだな。とりあえずこいつを持っていてくれ」
「これは……雪の結晶かしら?」
「制作者はハジメだが、デザインは俺が考えた」
防寒用アーティファクトのペンダントを手渡しながら降りれる場所を探す。ちなみに俺もヴァイオリンを使えばある程度は〝錬成〟が出来たりする。
そんなこんなしているうちに、氷雪洞窟の入り口の真正面に直接“飛び降りれる”場所を見つけた。無線を使ってハジメの二式大艇を誘導し、非常脱出口に全員を集合させる。勿論、外は大吹雪なためコートを着込んでいる。防寒用アーティファクトのペンダントは一定範囲を快適に過ごせる温度にするだけだ。軽く厚着はしておいた方が安心である。
「んじゃ、飛び降りるからな」
「音也は最後よね。私たちが先に行くわ」
「ん……フリーフォール」
「高所大好きだからこれはご褒美ね。楽しみだわ」
「どのぐらい高さがあるのかのお。妾、落ちるときに感じる風が好きなんじゃよ」
「……なんかチート軍団に放り込まれると常識が何なのか考える事になるね」
恵里だけは表情が暗いが、特に何事もなく彼女たちは真下へ飛び降りていった。隣を見れば、ハジメたちも既に降下を開始しているらしい。一機、二式大艇が目の前から消えた。
「よし、俺も行くか」
軽い調子で呟くと、空中で二式大艇を回収しながら真下へ降下する。ちなみに高度は五千メートル弱だ。軍用機で言えば中高度程度だったりする。
空中でグルングルン回転しながら生命維持装置にもなるイクサベルトを巻き、宝物庫からティーガーIIを取り出して真下に蹴り飛ばす。この程度の高度から墜落して壊れるほど柔な戦車ではないのである。
人力で五千メートルをフリーフォールするならそれなりに時間がかかる。俺は頬に当たる風を心地よく感じながらも重力に身を任せるのだった。
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入り口の目の前に飛び降りたことにより、難なく入ることが出来た七大迷宮の一つ【氷雪洞窟】、そこはまるで、ミラーハウスのようだった。
大迷宮らしく中の通路はかなりの広さがあり、横に十人並んでもまだ余裕がありそうなほどだ。
しかし、全ての壁がクリスタルのように透明度の高い氷で出来ており、そこに反射する人影によって実際の人数より多くの人がいるように錯覚してしまう。結果、その広さに反して、どうにも手狭に感じてしまうという不思議な内部構造だった。
「しかも触れたら温度関係なく凍傷を起こす雪が常に飛来してる、と。面倒くさい迷宮だなあ」
「水筒なんかに飲み水を入れてきたら取り出した瞬間に凍っちまうぐらい寒いしな。その辺の氷を溶かして飲み水にするにも、炎系の魔法の効果を激減させる仕掛けがあるらしいから確保するのも一苦労しそうだ」
「宝物庫に水を入れて、防寒対策用アーティファクトの中に入っておけば問題はないけどな。改めてアーティファクトは凄いと思ったぞ」
所々で見受けられる、眠ったような姿で氷の壁に埋め込まれた人間や魔人を見て尚更アーティファクトは素晴らしいと思える。飲み水を確保しようとしたら、そのまま眠くなって人生終了なんて絶対にやりたくない。
そんなことを考えながら羅針盤の指し示す方へ向かって歩くこと数十分。俺たちは四辻に出てきた。どの通路も同じ大きさで高さも横幅も十メートルくらいある。
と、ここで俺の研ぎ澄まされた耳とシアのウサ耳が何かを捉えた。シアはウサ耳をピコピコと動かしながら目元を剣呑に細めている。俺も耳に入ってくる音に警戒心を強めながらヴァイオリンを取り出した。
「……敵だな?」
「そうだ。四辻全方向から詰め寄ってきている。正体は恐らく途中で見た、氷の壁に埋め込まれていた死体たちだ」
「死体だと? ゾンビってことか」
「正確にはフロストゾンビだな。どうやら魔石はここから五百メートルは先にある。それを壊さない限りはゾンビ共と永遠に戦わないといけないっぽいぞ」
「と、すれば……強行突破だな。羅針盤貸してくれ。マウスを使って俺が先行する」
「任せた。俺は車体前部に乗って露払いしておく」
数秒の間に次の行動を思案、可決する俺とハジメ。すぐに頷き合うとハジメは超重戦車マウスを取り出して中に乗り込み、それに反応した香織やシアも乗せて発進を開始した。
「全員あの戦車を追いかけろ! 縮地よりは遅い速度だから余裕で付いてこれるはずだぞ!」
「紅。僕も手伝うよ」
「ならこっちに来い。挟み撃ちされる前にここを離脱するからな!」
砲塔を避けながら車体前部に飛び乗った俺は、隣にやって来た恵理に演奏を始めるとだけ伝えた。反応したかは分からないが、了承の意を含んだ笑みを見せてくれたので問題ないだろう。
俺はピアノソナタ“悲愴”の第三楽章を弾き始めた。少し遅れて恵理が悲愴の副旋律を弾き始める。
特殊効果云々を作り出すのではなく、とりあえず殲滅するために発射される、炎系統を除いた様々な魔法弾。マシンガンのようにヴァイオリンから射出される魔法弾を追従するように、マウスの主砲が火を噴いた。
弾薬を対魔物誘導ミサイルという発射したが最後命中するまで追尾を続ける弾薬にチェンジしたことが幸いしたのか、ヴァイオリンから発射される魔法弾が取りこぼしたフロストゾンビを確実に一時的な戦闘不能まで追い込む。魔石を撃ち抜いたわけではないのでフロストゾンビは時が巻き戻るかのような再生を見せているもののゾンビという性質上、両腕をだらりと垂らしてゆっくりと歩み寄ってくる。
そんな速度では、一般道を走行する車並みの速度で爆走しているマウスに追いつくわけがない。あるいは引き離され、あるいは引き潰されて突破を難なく許してくれた。
「ハジメ。あとどのくらいだ?」
「もうすぐそこだ。ラストスパートでぶっ飛ばすから振り落とされるなよ」
ミサイルを乱射することによって日頃のストレスが発散されたのか、普段よりもワントーン高い声のハジメ。そんなハジメに微笑みつつ、俺は目の前に立ち塞がる“障害”に対しての殺意を緩めることはなかった。
次回はフロストタートル辺りを描写します。ちなみに書いてませんが、勇者たちはハジメから強化アーティファクトを受け取っていることを認知しておいてください。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)