※この作品はR-18です。

その音色は異世界まで響き   作:誰かさん

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お待たせしました。テストが二重の意味で終わったので元のペースに戻ります。

今回は露葉メインですので三人称です。ご了承ください。


第六楽章 夜露・影はすぐ其処に

ガキン! という金属音が鳴り響く。剣同士がぶつかり合ったような音であるが、実際に交差したのは手刀である。

 

音也が虚像の自分を蹴散らしてい頃、時を同じくして露葉もまた、虚像の自分と対局していた。

 

『ふふふ……本当に今のままで良いの?』

「っ……」

『妹のために己の心を削ってまで幸せを願う? 貴女の幸せはどうなるのかしら?』

 

連続した金属音が鳴り響き、露葉たちは目にも留まらない速度で動き回りながら手刀や仕込み針を交差させ、相手の隙を見ては小型の爆弾を互いに放り込んでいる。

 

『剣術を習ったが故に苦しんでいた雫をこれ以上巻き込まないために、自分も望まない八重樫流を受け継いで。雫を渡せとうるさかったヤクザに自ら身を売って。あげくの果てには恋してた人物の一番近くを“奪われて”』

「奪われた……?」

『そうでしょう? あんな劇的な出会いをした音也くんに恋しないはずがないもの。でも貴女は雫のためにその気持ちを隠していた。その結果、雫に奪われた。違う? 隠しても無駄。私は貴女。貴女は私。私が貴女に告げる言葉は偽りのない物。貴女の深層心理』

「私は……雫を憎んでいる?」

『そう、貴女は憎んでいる。そして嫉妬している。音也くんの一番近くに行きたくても行けないこの現実に焦っている。本当なら殺してでも音也くんを奪いたい。だけどそんなことしたら彼に嫌われるから、仕方なく抑えている』

 

次々と晒される露葉の深層心理。“嘘だ”と叫ぼうとして、しかし口を閉じた露葉。語られる言葉は確かに本当であったからだ。

 

どんなに音也に思われていたとしても、それは所詮“雫の次”でしかない。露葉に限らず、音也を慕う人物は皆、“彼の一番”になりたがっているのである。

 

『本当にこのままで良いのかしら? それとも彼のことは諦めた?』

「そんなこと有り得ないわね」

『なら雫を殺しちゃえば良いじゃない。方法はいくらでもある。貴女ならその力を使えば雫のことを暗殺することだって出来るわよね?』

「っ……!」

 

仕込み針が何処ぞのオールレンジ兵器のような機動で虚像の露葉へと迫る。しかし虚像の露葉も全く同じ機動で動く仕込み針を発射。お互いの仕込み針は交差した途端に地面へと落ちた。

 

間隙を縫って手刀や回し蹴りが飛び交うも、やはりお互いの体に傷が付くことはない。完全に力が均衡していた。が、それもすぐに崩れ去った。

 

虚像の己は映し出す本人自らが抱える負の感情を乗り越える度に、負の虚像である虚像は弱体化していく。逆に乗り越えられず、受け入れようとしなければ止め止めもなく強化されていくのである。

 

『……否定はしない。でも受け入れようともしない。受け入れてはいけない。そう念じる。自分に不都合な事があればいつもそうして来たわよね。貴女ってば本当に優柔不断で臆病者だこと』

「っ……〝瞬転〟」

『動揺しても隠そうとする。誰にもその事は打ち明けない。どんなに辛くても一人で抱え込む。だから悩みが消化されることがなく、最終的には妹を殺したいだなんて願望を持つのよ』

 

超高速連続転移を繰り返しながら手刀や回し蹴り、そして仕込み針を交差させる二人。だが、パワーバランスは明らかに最初と比べて大きく傾いている。

 

お互いが手刀を繰り出せば露葉だけが浅い切り傷を負う。回し蹴りを振り回せば露葉の皮膚に小さな痣が刻まれる。仕込み針は露葉の太腿に数本刺さっていく。

 

小さな呻き声を上げるも、露葉は体を動かし続けた。動かなければ死んでしまうと直感で察知したから。

 

『殺せば良いじゃない。どうせ、誰も気がつく事なんてない。不幸な事故として片付けることだって出来る。貴女が手に入れた力は幸運なことに人を殺すのに最適な力。今こそ本領発揮する時でしょう?』

「お母さんたちが教えてくれた力は、そんな私利私欲のために使う物じゃないわよ……!」

『何を言っているの? お母さんやお父さん、それにお祖父ちゃんに今は亡きお祖母ちゃんも言っていたわよね。この力は先祖代々受け継がれてきた、人を暗殺するための物だってね』

「それはっ……」

『違くないでしょう? 別にやることは変わらないをよ。これまで音也くんを助けるために多くの生き物を殺してきたのと変わらない。音也くんにお邪魔虫が近づかないためにするだけだもの』

 

露葉にとっては胸を巨大な刃で切りつけられている気分である。しかし、それと同時に彼女は雫を殺してしまえば自分のことをもっと見てくれるかもしれないとも思った。

 

もっとも、攻撃の手は一切緩んでいない。多少押され気味であっても諦めてはいけないと、彼女が最も尊敬し敬愛している祖母から教えられたからだ。

 

「最後まで諦めなかった者に、勝利は訪れる」

 

露葉と雫がよく言って聞かせていた言葉。それを支えにして、何度吹きとばされても露葉は立ち上がる。全身から大量に出血していたとしても、体中の骨や筋肉が悲鳴を上げたとしても、何度でも立ち上がる。

 

しかし、現実は何時でも非情であった。

 

「ぐぅああ…… 〝爆炎の術〟!」

『全て無駄よ…… 〝吹雪の舞〟』

「刻め 〝斬羅〟! 焦がせ 〝爆雷の術〟! 飲み込め 〝爆水の術〟!」

『無駄だと分からないの? 常闇に生きる大輪の花よ 人の如く意思を持て 刃の如く獲物を切り裂け 〝乱れ桜吹雪〟』

「しまっ――!?」

 

連続で強力な忍術を使用した露葉に生まれた僅かな隙を見逃すはずがなく、虚像の露葉はカウンター気味に〝乱れ桜吹雪〟を放って露葉に直撃させた。

 

「あぁああああっ!?」

 

その技の恐ろしさを誰よりも知っている露葉は咄嗟に退避しようとしたが、発生速度が異常に早く効果範囲も広い露葉の奥義に逃げ切れるはずがなく、彼女は存分に全身を切り刻まれることになった。さらにダメ押しとばかりに虚像の露葉が飛び上がって浅い角度から繰り出す踵落とし〝跳魚〟を叩き込んだ。

 

地面でバウンドした露葉を最後の一撃とばかりに回し蹴りで壁に叩きつけた虚像の露葉は、感情の籠らない瞳で露葉を射貫く。

 

『我慢を重ねた挙句にたどり着いた感情が肉親への殺意。雫を殺してまで音也くんを手に入れたいだなんて、本当に汚いわね。どこまでもバカな貴女。精々地獄で後悔して嘆いているといいわ。何か最後に言い残すことはあるかしら? 氷壁にでも刻んでおいてあげる。ここはそれぞれの空間と繋がっているから、運がよければ自分の試練を突破した誰かがやって来て遺言を見つけるかもしれないわよ?』

「……」

 

彼女は答えずに、ただひたすら涙を流している。それは、数年前に死を覚悟した時と同じ姿。死にたくない。生きたい。もう一度大切な人たちと会いたい。そんな気持ちが溢れて止まらない。

 

そして露葉は、己の願望のために持ってしまった殺意を憎み、そして悔やんだ。何もかも自分が悪かったのだと、後悔した。

 

「ごめん、なさい。だめなおねえちゃんで……」

『その言葉を使うのは、もう遅いわよ』

 

懐から取り出した小刀を構えて露葉が零した言葉を文字通り切って捨てた虚像の露葉。逃げることはおろか、這うことすらできない露葉に対して容赦なく突進し、確実に命を刈り取るべく頸動脈を狙って小刀を突き出した。

 

迫りくる死の気配に、露葉は目を閉じた。脳裏に移るのは数々の思い出。所謂、走馬灯という奴である。仮に殺意を持っていたとしても、雫との思い出は数多い。幸せな思い出が殆どである。

 

そのことが分かっていたからこそ、露葉は最後のつもりで呟いた。

 

「願わくば……来世で」

 

……

 

 

 

……

 

 

 

……

 

 

「?」

『……ありえないでしょう』

「良くできすぎだな、おい」

 

彼女にとっては何時までも聞いていたい、優しい声。二度と聞くことができないと思っていた、最愛の人の声。その声の主はこの世で一人しかいない。

 

『なんで、貴方が……」

「知るかよ。出口を抜けたらここに出てきたんだ。で、見れば露葉さんが死にかけてるだろ? タイミング良すぎだっての」

 

露葉と虚像の露葉の間に割って入り、小刀を軽く受け止めているのは紅音也その人である。虚像の己を難なく倒した音也が出現した出口を抜けると、目の前には今にも止めを刺そうとする虚像の露葉と、初めて見る重傷を負った露葉であった。

 

咄嗟に音也は縮地を使用してイクサの変身を解くこともなく割って入ったのである。

 

「とりあえず吹っ飛べ」

 

ズゴアン! と凄まじい音を立てて虚像の露葉を蹴り飛ばして氷壁まで吹っ飛ばした音也は、すぐさま変身を解いて宝物庫から神水を取り出した。

 

目を白黒させる露葉に構わず神水を飲ませて回復させた音也は九九艦爆を数機飛ばしてから露葉を抱き上げて、彼女に話しかけた。

 

「珍しいな。ボコボコにされるなんて」

「……本当に音也くん?」

「逆に誰だと思ってるんだ? まあいい。傷は全快したぞ。早いところ倒してしまいな」

「ぁ。で、でも、私……あれには勝てなくて、だから……」

「はあ? ……なるほど、そういう事か」

 

一瞬訝しげな表情を作った音也だが、すぐに納得したような顔になった。心の音楽を聴き取れる彼だからこそ一発で気がつけたのである。露葉の精神状態がどうなっているかを。

 

ついでのように魂魄魔法を使用して何を言われたのかを確認した音也は、盛大なため息をつきながら露葉のことを抱き締める。

 

「お、音也くん?」

「あのな。俺がその程度で露葉さんのことを嫌うと思ってるのか? それとも俺がその程度にしか思えない男とでも?」

「え、あ……それはっ」

「嫉妬から生まれる殺意なんて雫やユエで散々見てきた。露葉さんが持ったとしても動揺する事は全くないね」

 

一瞬で看過され、そして露葉が悩んでいた事柄をことごとく否定していく音也。お世辞を言っているわけがなく、彼の瞳を覗き込めば本心しか喋っていないのは丸分かりだ。

 

「で、でも……私は雫に、実の妹に嫉妬して殺そうかなんて思ったのよ? それも音也くんの最愛の人を……」

「俺としては逆に嬉しいがな」

「え?」

「誰かに嫉妬するほど俺のことを想ってくれていた、ということだろ? 普段は大人な対応で本心を隠す露葉さんだから、初めて本心が見られて俺は嬉しい」

 

己の顔を露葉の耳へと近づけて、最後に音也はこう呟いた。

 

「逃がしてもらえるとでも思ったか? 残念、そっちが逃げたとしても、俺が捕まえに行く。絶対に逃がすつもりはない。“露葉”、お前は俺の物だ」

 

ブルリと体を震わせた露葉。初めて“さん”付けを外して呼ばれた自分の名前に歓喜し、彼が見せた独占欲に更に歓喜する。

 

抜けきっていた活力が戻り、瞳にも光が戻った露葉は一度、音也の首筋にキスを落とすと立ち上がった。

 

「見ていてくれるかしら、私があいつを倒すところを」

「当たり前だ。傷ついたら戻ってこい。俺が何度でも治してやる。死ぬことは俺が許さない」

「……それは殺し文句よ」

 

艦爆を回収した音也にフッと微笑みかけると、今度はスッと目を細める露葉。先ほどまで見られた絶望の表情は一切なく、代わりに表れたのは絶対的な殺意を宿した凄惨な笑みである。

 

軽く引いた様子の虚像の己を尻目に、露葉はボソリと、しかし明確に告げた。

 

「次の攻撃で終わらせる」

『……雫のことを殺すと決めたの? そのためにまずは私を消すと?』

「いいえ、殺さないわ。殺す前に私が音也に首を取られちゃったからね」

『……』

 

一切の揺るぎを見せない露葉に、虚像の露葉は押し黙った。そして少しずつ自身の力が弱まっていくことに気がついた。それはつまり、露葉が自分の感情を自覚し、それを受け入れ始めているということである。

 

「もう隠すことはしない。自分の感情に正直になるわよ。雫に譲ってやろうだなんて思わないわ。私は私の思うままに生きる。自分で幸せを掴んでみせる」

『……そう』

「貴女なら分かるわね? 私が次に使う技。八重樫流最終奥義、その身に刻みなさい」

 

自然と風が巻き起こり、露葉の長い黒髪をパタパタと揺らす。懐から小刀を取り出して逆手に持ち、眼前に構える露葉の姿は正しく“くノ一”と言うに相応しい。

 

『……ふふ、素晴らしい気迫だわ。それにしても、本当にタイミング良く現れるわね。まるで物語の王子さまのように。必要な時に、必要な場所にいてくれる人……そんなの物語の中だけだと思っていたわ』

「行くわよ、私の虚像! 〝常闇乱舞・連〟!」

 

〝神速〟で踏み込み、その瞬間に分身して五人へと増えた露葉は猛然と虚像の己に突進する。

 

音也への強い想いがそのまま力となって突進したことにより生まれた、虚像の露葉ですらも反応できない速度で初撃を与えた露葉の周囲が“常闇”に相応しい闇へと包まれる。さらに露葉の手から音もなく粉塵が飛び散り、虚像の露葉の視界を完全に奪い取った。

 

八重樫流最終奥義“常闇乱舞”。本来なら使用する相手の視界を砂や粉塵で奪った所を複数人に分身して突撃。手持ちの武器全てを使って切り刻むという、この時点でも必殺技のような奥義である。

 

それを露葉は魔法で暗闇を作り出してから目潰しを行い、確実に目を潰したところで風属性魔法を使って従来の数倍速い方向転換を繰り返しながら持てる固有魔法や派生魔法を駆使して“確実に”対象を文字通り消し去る技へと昇華させている。

 

“くノ一”という特性上、音を一切立てずに攻撃を繰り出す彼女の技は、いきなり五感の内の一つを奪われてパニックになっている相手からすれば“必殺”に値する。

 

『ッ――』

「ショーは終わりよ。これで幕引き」

『よ、く……やった……』

 

分身と一体化して元の姿に戻った露葉の言葉と同時に、虚像の露葉はガラスのような破片を散らしながら後方に倒れた。

 

ユラユラと陽炎のように、宙に消えていく虚像の露葉の表情が何処となく満足気だったのは、音也だけが知ることである。

 

「はあ……はあ……やった、のよね?」

「お見事。相変わらず凄まじい忍術だよ」

 

疲労から前のめりに倒れそうになった露葉をすかさず抱きとめた音也。その表情は虚像の露葉と同じく満足気である。

 

攻略が完了したことで新たに現れた出口を見やった音也は、露葉の瞳を覗き込んで体調をチェックする。

 

「立てそうか?」

「ちょっと厳しいかな。流れ出た血までは戻ってないから貧血気味だよ」

「そうか。少しここで休んでから行くか?」

「あまり留まらない方が良いかな。ほら、至る所に血が飛び散ってるから。というわけで音也くん、お願いね」

「……抱っこ?」

「正解。お願い出来るかしら?」

 

抱っこを要求して両手を広げる露葉に、音也は苦笑いしつつも露葉の膝裏と首筋に腕を回して彼女を持ち上げた。所謂“お姫さま抱っこ”である。

 

「何時でも私の、私たちのリクエストを黙って理解し実践してくれるわね。そんな音也くんが大好きよ」

「どうしたんだよ。急にアプローチが強くなって。誰かに何か言われたのか?」

「何かって、音也があんなこと言うからよ? 耳元で“お前は俺の物だ”なんて囁かれたら……堪らないわ」

 

クスクスと口元に手を当てて微笑む露葉。普段の数割増しで魅力的な露葉に、音也は見惚れないように我慢して歩き続けるのだった。

 




次回は恵理メインです。ちなみに次回はペルソナ3っぽい描写が多々あると予告しておきます。ペルソナ3の映画を見て感化されすぎました()

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恵里の処遇はどうする?

  • 勇者バカ之河の被害者だから救おう
  • 消せ(無慈悲)
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