その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「そうだ、私だよ。アレーティア。キバット。驚いているようだね。……無理もない」
「何故、お前が生きている。お前はユエのように不死身ではなかったはずだ。それなのに生きている理由は……?」
「うそ……そんなはずはないっ。ディン叔父様は普通の吸血鬼だった! 確かに、突出して強かったけれど、私のような先祖返りじゃなかったっ! 叔父様が、ディンリードが生きているはずがない!」
この会話を聞くに、目の前にいるアルヴヘイトとやらの姿は間違いなくユエの叔父ということは分かった。ユエが以前過去のことを話した時に、彼女の叔父はある日を境にユエのことを避けるようになり、終いには彼女のことをオルクス大迷宮に幽閉したと聞いている。
その後、亜人の英雄“オトヤ”と戦った後に死亡したはずだ。キバットからは叔父がどうなったか知らないと聞いているが、レミアの話ではオトヤとの戦いの後に起こった“神罰”によって死んだと聞いている。
矛盾に矛盾が重なっているからか、ユエの動揺が特に激しい。普段はポーカーフェイスを崩さないキバットもかなり動揺している。
「確かに、私は一度死んでいる。それは認めよう。普通にしていればとっくの昔に息絶えてることも認めるよ。だけどね、アレーティア。私には一つ、奇跡が起こったんだ」
「奇跡、だと? 信用出来るわけがないだろうが。そもそもお前はアルヴヘイトなのか? それともディンリードなのか? どっちなのかハッキリさせろ」
「紅音也くん、と言ったかな? 君が疑うのも最もだ。だが、順を追って説明するから私を殺すのは少し待ってくれないか? まず、最初に答えるのは……アルヴとは確かに私であり、同時に私ではないとも言えることだ」
禅問答のようなことを言ったことに対して俺はますます疑いの心を募らせていく。これがユエの身内の姿をしていなければ、ただの戯言として斬り捨てて殺しに行ったことだろう。
が、“もしかしたら”ということもある。今だけは殺意を抑え、話を聞くことにした。
「君の寛大な心に感謝をするよ。さて、アレーティア。まずは君が、いや、君たちが疑問に思っているアルヴヘイトのことからだ」
そこから始まった話は……俺とハジメ以外の全員を驚愕の波へと突き落とすことになった。
アルヴヘイトはエヒトの眷属神らしい。これは簡単に言えば“部下”である。アルヴヘイトは長い年月エヒトに従い続けたが、ある時からエヒトの行為に疑問を持ったらしい。
その気持ちはやがて反逆心へと昇華された。だが、主神であるエヒト神に敵うはずもない。故に、アルヴは一つの策を練った。
「地上にわざと降りて戦争を激化させ、使徒たちの言う“イレギュラー”を探そうとしたんだ。その者と協力し、地上からエヒト神に対抗しようとしたのさ。私はアルヴに選ばれた者ということだ。今も、私の中にはアルヴがいて、様々な面で助けて貰っている。一つの体に二つの魂。それが、アルヴであってアルヴでないという言葉の意味だよ」
「なるほど……つまり、今のお前の身体には二つの魂が調和しながら存在しているってことか」
「理解が早くて助かるよ、紅音也くん。アレーティアとキバットも理解できたかな?」
「おじ……さま……」
「何が……くそっ。辻褄が合ってしまって……」
「コウモリモドキ、落ち着け。ユエも深呼吸しろ。おいディンリードとやら。仮に二つの魂を一つの身体に宿しているなら……今から俺がお前に投げかける質問にも答えられるだろう?」
腰にキバットが足をかける止まり木が巻き付き、頬にはステンドグラスのような模様が浮かび上がった。自然と巻き起こる風によって露わになった俺の左目が爛々と輝きながらディンリードのことを見つめる。
そんな俺の様子にディンリードの心の音楽がほんの一瞬だけ乱れたのを確認した俺は、トドメの一言を放つ。
「何故、俺の魔眼には一つの薄汚い魂魄しか見えないんだ? まるで、蜘蛛が張り巡らせた巣のように肉体を侵食している魂魄しか見えなかったぞ? 答えてみろ、ドカス野郎」
「……そうか。そういうことかっ」
キバットはこの一言で理解したらしく、動揺した様子があっという間に消え去った。そこからの行動はあっという間である。
俺の腰に巻き付いた止まり木にキバットが足をかけ、俺の姿が闇のキバの鎧を纏った物へと変化していく。
そんな俺の姿に、ディンリードの姿を借りた何かが明らかな動揺を見せた。その顔はこう言っているだろう。ハッタリな部分が大半だが、俺はあえて口に出した。
「まるで昔と同じ、か?」
「っ!? それをなぜっ」
「簡単な誘導尋問に引っかかるほどこの世界の神は哀れなのか。まあ、それは良しとしよう。この場になって、ようやく亜人の英雄“オトヤ”の真実を知ることができたからな」
「くっ……」
「死んでもらうぞ、クソ野郎が」
無数のザンバットソードを浮遊させる。俺は目を見開いたユエのことをハジメに任せると、空中に留まっていたザンバットソードを全てディンリードの姿を借りた何かに発射した。
咄嗟にディンリードの姿を借りた何かは障壁を展開するが、それもあっという間に突き破ってザンバットはディンリードの胸に突き刺さった。
勿論、一本ではない。全てのザンバットがディンリードの体を串刺しにし、奇怪な芸術物を生み出すに至る。
「ユエ、落ち着いたか?」
「おと、や。……ん、大丈夫。ハジメから説明を受けた」
「よし。ハジメ、助かった」
「……戯言を受け入れるところだった。でも、思い返せば穴だらけ。あれだけ私のことを思ってるなら、封印している場所に会いに来ないはずがない。その事に気がつけないなんて、一生の不覚だった」
「その通りさ。とはいえ、だ。ユエにとってはトラウマの対象である叔父をいきなり許す事なんてできるはずがないだろう。だが、いきなりあんな事を言われたら誰でも動揺する。仕方ないとも言えるんだ」
だから、これ以上気に病むなと伝える。俺の姿は鎧に包まれて外から見ればとても冷たい物だが、意思だけは確かに温かいはずだ。
それをユエも分かったのか、普段から見せる花が咲いたような笑みを見せた。
「ああ、そうだ。聞きたいことがあるんだが」
「何だよハジメ」
「亜人の英雄“オトヤ”の真実ってのは何だ?」
「そいつのことか。それはな……」
――亜人の英雄“オトヤ”は、ディンリードと戦ったわけではない。この英雄伝説は神が作った嘘に過ぎない。本当はディンリードを殺しに来たアルヴヘイトにオトヤが立ち向かい、戦死した。
その際に、ディンリードに対してアルヴヘイトはユエと同じように揺さぶりをかけたのだろう。しかし、それをオトヤがバッサリ切って捨てた。
完全に正解かは分からないが、大体こんな物だろう。そうでなければ、“あの時と同じ”なんて感情は持たないはずだ。とはいえ、英雄というのは強ち間違いではなかったのだろう。
語られる本当の英雄の姿にシンミリとした空気が生まれる。特に雫は、俺と同じ姿をした遙か昔の英雄に思いを馳せているらしい。その表情は“どうか安らかに眠れ”とでも言いたげだ。
……しかし、そんな時間も長くは続かなかった。奇怪な芸術物となったディンリードの姿をした何かが動き出したのである。
「……せっかく、こちら側に傾きかけた精神まで立て直させてしまいよって。次善策に移らねばならんとは……あの御方に面目が立たないではないか」
「なんだ、生きてたのか……って、神を名乗るのだから当たり前か?」
「……叔父様じゃない」
「ふん、お前の言う叔父様だとも。但し、この肉体はというべきだがね」
身体中に突き刺さったザンバットを引き抜いては投げ捨て、先ほどとは真逆の、人を見下すような表情を取るディンリード……ではなくアルヴヘイト。
俺は残ったザンバットを回収し、二本を残して後は魔法のように何処かへ消す。
「お前にとっては有効な再利用なんだろうな。だが、他の物からしたらどうだ? ただ身体を弄んでいるようドカス野郎にしか見えないね」
「同感だ。ここまで腐りきってるとは思わなかったが……この調子じゃエヒトも変わらねえだろ」
「貴様ら……エヒト様によくそんな無礼を働けるなあ! 良いだろう。この私が直接手を下してやる! 喜び、むせび泣くが良い!」
その言葉と同時に、四方八方から待機していたであろう神の使徒たちが突撃してきた。口々に「駆逐します」と言いながら突っ込んでくる様は、常人が見れば一発で気を失うほどに狂気が溢れている。
が、生憎なことにこれから戦おうとしている人物たちは“常人”ではない。
「マジでゴキブリみたいな奴らだな。エヒトが存在する限りは無限に湧いて出てくるんだろ?」
俺は久しぶりに使用する“紋章ブラックホール”を使って一気に殲滅しながらそんなことを呟く。俺が戦う分には何の問題もないが、魔力に限りがある雫たちが戦うとなると話は別である。故に、高速の殲滅戦を選んだ。
昇華魔法によって強化された重力魔法によって五体を簡単に引き千切られる使徒たちを見て触発されたのか、雫たちも個々に動き出した。
「はあ……〝桜乱〟。数だけは多いのよね。数だけは」
「ゴキブリの方がマシに見えるのもどうかと思うけどね……来い、“オルフェウス”」
雫と恵里が背中合わせで戦っている。神速の抜刀術と広範囲の業火によって使徒が次々と倒れていき、余熱によってミュウたちを囲っていた檻が溶けてなくなった。
「〝爆炎の術〟、〝吹雪の舞〟。ティオ、ユエ。そっちの方は問題ない?」
「う、うむ。しかし……相変わらず凄まじい上にえげつないのお。燃やしたすぐ後に氷結させるとは……其方の折檻も気になるのじゃ」
「問題はないけど……この変態には問題があるみたい。主に頭の部分に」
「……変態ぶりを発揮できるほどには余裕があるって解釈をしておくわね」
比較的、余裕があるため雑談しながらも神の使徒を片付けていく露葉とティオとユエ。忍術と魔法によって城内の床が少しずつ壊れていく。
「音也、しゃがめ」
「私も通りますぅ!」
「おうよ」
ドパアァァアン! ドゴアン!
ハジメがイクサに変身した状態でドンナーとシュラークを使用し、洗練に洗練を重ねたガン=カタで使徒の脳天を撃ち抜いていく。シアは俺の頭上を飛び越した勢いを使ってドリュッケンを振り回し、文字通り使徒のことを一掃する。
「香織、クラスメイトを頼む」
「うん、ハジメくん!」
「このっ、反逆者共め! 貴様らなんぞこの魔法一撃で殺してくれるわ!」
「そう叫んでる間に死神の鎌が首に添えられていることに気がつけ」
俺は僅かな隙を見逃さない。重力魔法で“落ちる”ことによって瞬間移動し、アルヴヘイトの懐まで一気に潜り込んだ。
ウェイクアップフエッスルを取り出してキバットに咥えさせ、俺自身はアルヴヘイトの繰り出す魔法を掻い潜りながら確実に一撃叩きこめる距離を測った。
「ウェイクアップ・I!」
「……ここだ! 沈めっ!」
「しまっ!?」
いくら神といえども隙ぐらいは存在する。仮に一瞬だけ生まれた物だとしても、それを見逃すほど俺は甘くない。
ズドンッ! とアルヴヘイト腹部に俺の右腕が刺さり、その身体を貫ぬく。ボバッと血を噴き出しながら腕を引き抜いた俺は、追い討ちのつもりで蹴り飛ばし、殴ったと同時に作り出して彼の後ろに回り込ませていた紋章の元へと放り込む。
「ぐぅうああああ!?」
「チェックメイトだ、ドカス野郎。俺に相対した己の運命を呪うんだな」
「ウェイクアップ・II!」
「ティオ!」
「任せるのじゃ!」
まるで天井が見えないほど高い城内なため、俺は心置きなく真上に飛び上がった。後から竜化したティオが俺の周りをグルグルと旋回しながら追従する。
俺は
黒一色のブレスに運ばれながら近づく俺の姿は、以前ハジメが“悪魔みたいだ”と評している。はたして、アルヴヘイトの目にはどのように映っているのだろうか。
いずれにせよ、アルヴヘイトの表情が恐怖に引き攣っているのは明らかである。
「これで終わりだああああああ!!!」
迎撃に来る神の使徒や魔物の身体を簡単に貫きながら猛進を続ける。このまま、あと少し進撃すればディンリードの身体に直撃。そのまま朽ち果てるだろう。
神であるが故、今は殺せる手段を保持していない。しかし、確実に力を封じることはできるはずだ。これで、帰還のための妨害は全て消え去る。
そう思い、ほんの少しだけ心の重圧が消えた、その次の瞬間であった。
俺とアルヴヘイトの間に、光の柱が現れたのは。
ステータス紹介の時点で分かる人は分かると思いますが、音也のステータスは既に神の領域です。アルヴヘイトぐらいなら互角か、普通に上回るレベルで戦えます。
次回、一気に物語を動かします。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)