その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「これは……何だっ」
突如、目の前に現れた光の柱によって俺の蹴りが難なく阻まれた。
硬質的な音を立てて後方に弾かれた俺は、思わず目を見開いて光の柱が何なのかを考察しようとする。しかし、あまりに不可解な出来事だったので思考が全くまとまらない。
そんなこんなしているうちに、光の柱から人影が現れた。再度驚いて目を見開いた俺を他所に、現れた人影は真っ直ぐアルヴヘイトの元へと向かった。そして、何の苦労もせずに紋章を破壊してアルヴヘイトのことを回復させる。
「……油断のしすぎだ、アルヴヘイト。慢心によって一度封印されたことを忘れたのか?」
「め、滅相もございません。このような失態を見せてしまい申し訳ありませんでした、我が主」
「よい。久しぶりの戦闘であったからな。それに、イレギュラーの力も異常だ。仕方のないことと割り切ろうではないか」
「寛大なご配慮、心より感謝申し上げます!」
アルヴヘイトが、ついさっき現れた人物に対して“我が主”と口にした。奴が“主”と呼ぶ人物は恐らく一人だけだ。そしてその人物を、俺たちはよく知っているであろう。
故に、俺は確信を持って目の前に背を向けて立っている人物に言葉をかけた。
「……お前が、エヒトか?」
「ふふふ、察しが早いのは流石だな、イレギュラー。そうだ。我こそがこの世界の創世神エヒトルジュエだ」
どこか優雅な動きでこちらを振り返り、悠然と微笑むエヒトルジュエ。その姿に、俺は妙な既視感を抱いた。既視感を抱かない訳がない。何度も見た、あの姿の答えは一つしかないのだ。
仮面ライダーキバをこれまで何度も、何度も繰り返してみてきた俺だからこそ感じた既視感。これに狂いはない。
「……まさか、お前がユエの父親、キングの身体を使ってるなんてな」
「ほう。よく気がついたな」
「こんな偶然、あって欲しくなかったがな。それにしても良い身体を見つけたな? お前が一度封印されたときは一体どんな姿だったんだか」
「ふむ、貴様は何か重要なことを知っているらしいが……それならば、早く死んで貰わなければなるまい。エヒトの名において命ずる――〝動くな〝」
直後、一瞬だけだが俺の体中の神経を遮断された挙句、標本のように固定されてしまったかのようだ。その次の一瞬にはどうにか固定を解いたものの、何が起きたかサッパリである。
ただ一つ言えるのは、この技は俺の死へと繋がりかねない物だということだ。
「チッ……厄介な」
「これはこれは、私の〝神言〟を自力で、かつ一瞬で解くとは。流石、イレギュラーといったところか。――〝天灼〟」
次に現れたのは十二個の雷球が浮かび雷で出来た壁である。直感がこの技をまともに食らったら、その次の一手で殺されると察した……と、思った次の瞬間に俺の身体は“生”へと動いていた。
〝無拍子〟と〝天歩〟を連続、かつ高速発動させて軽く雷速を超え、電撃と電撃の間に現れる隙間を通り抜けてエヒトルジュエの元へ急迫した。
超高速かつ複雑な機動をしながらザンバットを二つ手に握った俺は、かなりの量の魔皇力を注入。途端に紅く輝くザンバットをエヒトルジュエの首筋に振るう。
ガキンッ! ガキンッ!
「なんと、凄まじい速度だ。雷速を難なく超え、この私に一撃与えるなど……」
「紅文音以来だって?」
「……なぜ、それを知っている」
「簡単さ。紅文音は……俺の母親だからさ。食らえ、〝豪驟雨〟」
超至近距離から殲滅魔法を起動させた。以前発動したときとは比べ物にならない量の様々な属性の魔弾がエヒトルジュエの身体に突き刺さる。
身体の彼方此方からブシュッと血が噴き出したが……どうやら効果は薄いらしい。その傷も一瞬で治ってしまっている。
「〝紅壊〟!」
「これは……見事だ。それでこそ潰し甲斐があるというものよ」
「っ、壊死する速度よりも早く細胞を作り直すとか……まるでユエだな。まあ、彼女の父親の身体なら当然か?」
「今度はこちらの番だ、イレギュラー。この距離なら避けられまい? ――〝四方の震天〟――〝螺旋描く禍天〟」
直後、空間を爆砕する衝撃波が四方から俺を襲い、同時に頭上からハリケーンのように渦巻く重力の砲撃が墜落した。普通ならエヒトルジュエにも直撃したはずだが、あの余裕そうな表情からして自分は退避したのだろう。
四方から襲い来る衝撃波をかなり無理な態勢でありながらほんの少しでも緩和しようと紋章を張り巡らせ、上方から降ってくる砲撃はその手で受け止める。既に鎧を貫通して衝撃が伝わってきているが、歯を食いしばって痛みに耐えながら上から絶え間なく降り注ぐ重力の砲撃を掻き消そうと魔法を乱発するが、俺の放つ魔法は全て飲み込まれては消えていった。
やがて、中々押し潰されない俺に業を煮やしたのか、俺の腕にかかる重さが数倍に跳ね上がった。あの闇のキバの鎧がビキバキと変な音を立てていることから、重力の砲撃が如何に凄まじいかが垣間見ることができるだろう。
「ぐぅあああああ……!」
「これはこれは。どこまで生に縋りつこうとするのだ? 見る物によっては素晴らしく格好の良い光景だろうが、我からすれば滑稽な行動にしか見えないと気がつかないのか? どれ、もっと重力をかけてやろう」
「ダ、ダメだ。これ以上、鎧を維持できない!」
「はあ!? もう少し頑張れよコウモリモドキ!」
今、ここで変身が解けたら俺は看過できないダメージを負うことになる。この場で大ダメージを負うのだけは何としてでも避けたい。仮にここでダメージを負いながら生き延びたとしても、その後の隙を突かれて死ぬのがオチだ。
変身解除した一瞬後にライジングイクサに変身するという手立てもあるが、普通にしていてはまず不可能である。時間に干渉する再生魔法を使えば変身と反撃ぐらいは可能かもしれないが……エヒトルジュエが俺の動きについて来れないはずがない。
そうなると、今、俺ができる動きは一つしかない。ウェイクアップ・IIIよりも使いたくなかった一手だ。こいつを使うのはある意味で諸刃の剣である。だが、これ以外に手はない。
「……仕方ない。コウモリモドキ、無理はするなよ」
「くっ……すまない!」
「ふふ、諦めたのか、イレギュラー?」
「バカにするのも大概にしろ。俺が“生”を捨てるわけないだろうが」
ズシリと生身の腕に重力の砲撃がのしかかる。ほんの少しでも力を抜けば押し潰されてしまいそうだ。しかし……ここで死ぬわけにはいかない。絶対に、死ぬわけにはいかないのだ。
「消えるなよ……俺の生命の灯火! 〝無限強化〟!」
ドクン、ドクンと心臓の鼓動のように空間その物が波打つ。鼓動にあわせて力は刻一刻と増していき、遂には砲撃を逸らすことに成功する。
そのままの勢いで俺はベルトを巻き、転がりながらイクサナックルを起動させた。
『レ・ディ・ー』
「変身!」
『ラ・イ・ジ・ン・グ』
「ほう……流石、とでも言っておこうか。この土壇場でそれほどの力を発揮できるのは素直に称賛しよう。だが、その程度では……届かない」
「それはどうかなあ!」
対物ライフル――ゲルリッヒ砲で牽制しながら徐々に近づいていく。その間にチラッと周りを見渡せば、使徒を完全に封殺した雫たちが、露葉を除いてこちらに向かってきているのが見えた。
すぐに視線をエヒトルジュエに戻すと、いつの間にか彼はキバットのことを手にしていた。逃れようと暴れるキバットのことを意に介すことなくエヒトルジュエは愉悦たっぷりの表情で俺に笑いかける。
「少し遊びすぎたかもしれないな。ここらで余興は終わりにするとしよう」
「ぐっ、離せ! 貴様に力など貸さんぞ!」
「それはどうかな? エヒトルジュエの名において命ずる――〝思い通りになれ〟」
先ほど、俺に致命的な隙を作りかけた〝神言〟。しかし、本名を使って放たれた拘束力は絶大な物だったらしい。キバットの目から……ハイライトが一瞬で消えた。
「さあ、やれ」
「ガブリッ」
「なん……だと」
「ふふふ……変身」
……普段、闇のキバの鎧は俺が装着する。それ故に、圧倒的な力を持つダークキバを前にして感じる感情を俺は知らなかった。
が、それもついさっきまでのことだ。たった今、俺は嫌というほど理解することになった。
――勝てない
「くそったれ……!」
「そんな、キバット! ……許さない! 〝五天龍〟!」
「くっ、厄介すぎるでしょ。厄介の度合いにもほどがあるっての……“タナトス”やれ!」
“発射した弾丸を後続から発射した次の弾丸で押して加速させる”という神業に近いことをやっても傷どころか辺りもしない事実に悪態をつくと、激怒したユエと焦り顔の恵里が突っ込んできた。
五天龍が咆吼を上げながらエヒトルジュエに迫り行き、タナトスは五天龍の影に隠れるように移動しながら奇襲のチャンスを伺っている。
――グルガアアアアアアアアア!!
『ォォオオオオオ……!』
「無駄なことだと気がつかないのか?」
しかし、その目論見は早くも崩れ去ることになった。エヒトルジュエが軽く手を払うと、五天龍のコントロールが彼へと渡り、タナトスはガラスのように砕け散ってしまった。
驚愕によって目を見開くユエと恵里を見たエヒトルジュエは、鎧を着ていても分かるぐらいに嫌らしい雰囲気を出す。
猛烈に嫌な予感がした俺は二人の前に立ちはだかってイクサライザーにエネルギーを装填。迎撃態勢をなんとか整えた。
『イ・ク・サ・ラ・イ・ザ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「だから、無駄だと言っているであろう? まあ良い。可愛らしい抵抗の果てに絶望するだけなのだからな」
ユラリと指をこちらにエヒトルジュエが向けてきたその次の瞬間、数倍にも膨れ上がった五天龍が俺たち目がけて飛来していきた。
一瞬遅れて俺もイクサライザーの引き金を引いた。撃発の反動を無理やり抑え込んでいるため、俺の身体には途方もない負担がかかるが、それでもその場に踏みとどまって五天龍を迎撃した。
――否、それは少し、いやかなり違うかもしれない。俺は迎撃しようと“した”。
「エヒトルジュエの名において命ずる ――〝何もするな〟」
「ッ――!?」
一瞬ではない。時間にすればほんの数瞬なのだが、俺の身体が硬直したことによって数コンマの間、五天龍への迎撃が疎かになってしまった。
人間からすればほんの小さな時間の切れ目であり、その時間を気にする者は誰一人として存在しないだろう。しかし、それはあくまでも“普通に生活している人間”の話である。
この戦いにおいて、ほんの一瞬でも隙を見せれば確実に死に至る。どんなに人外スペックを誇ったとしても、その事実は変わることがない。俺たちのスペックがどんなに人間離れしていたとしても、人間というカテゴリーから外れることはない。
故に、ユエの最大魔法である五天龍を数倍にも強化した物を真正面から食らったらどうなるかは明確である。
目の前が一瞬で白に染め上げられ、イクサを貫通して纏雷など比較にならない電撃が俺のことを襲った。
「ぐっ……ユエ! 恵里!」
しかし、己のことは顧みずに二人の名を叫んで痺れる身体に鞭を打ち、何とか駆け寄ろうとする。が、その足は途中で止まってしまうことになった。
少なくとも俺の目の前に見慣れた二人は立っておらず、人魂のような狐火がフワフワと二つ浮いているだけである。地面に目を向ければ、真新しい二つの“影”が生まれていた。
「だから言っただろう。無駄なこと、だとな」
「てめえ……!」
「だが、その力だけは使えるな。ありがたく利用させてもらおう」
二つの人魂がエヒトルジュエの身体の中に溶け込んだ。それにより、この世からユエと恵里は誰の目から見ても死んだと言える。
そのことに絶望と憎悪、そして憤怒を感じながらもエヒトルジュエに飛びかかろうとする。しかし、ライジングイクサの変身が解除され、痺れが残る身体では飛びかかることもできない。
「ふふふ……さあ、発現せよ。“タナトス” “アルテミス” “アポロン”」
そんな俺を嘲笑いながら、エヒトルジュエは恵里では成し遂げられなかった神の連続召喚を行った。一瞬でこの場に三体の神が発現し、誰しもが顔を引き攣らせる。
そして間髪入れずにタナトスが動き出し、アルテミスとアポロンは怒濤の勢いで神弓を発射してくる。
遠距離攻撃は無理やり回避することができたが、恵里の時とは比べ物にならない速度で接近し、“対象をほぼ確実に死へ誘う”タナトスの攻撃まで躱すことはできなかった。
しかし、そこへ間一髪といった形でティオが割り込んできた。
「っ、ご主人様! 危ないのじゃ!」
「バカ野郎、お前じゃ無理だ!」
目の前に立ちはだかって俺のことを死の攻撃から守ろうとするティオに、思わず手を伸ばした。しかしティオはこちらをチラリと振り向くと……こう呟いた。
――後は任せるのじゃ
「ッ――!? 何を言って……!」
俺の言葉はタナトスの剣撃によって立ち消えることになった。凄まじい轟音が鳴り響き、辺りには埃がモウモウと巻き上がる。
埃が晴れた先に見えたのは……また、一つの人魂。その人魂も、すぐにエヒトルジュエの元へと向かうと彼の身体の中に取り込まれてしまった。
あっという間に俺のことを慕っていた三人がエヒトルジュエの手によって殺され、最も恐れていた事態に恐慌&パニック状態となった俺は、目の前から迫る神弓を躱すことはなく、見つめることもしなかった。ただ、項垂れて自分の命に終わりが来るのを待ち続ける。
しかし俺の心臓に突き刺さる寸前に、目の前を暴風が駆け抜けて鉄の味がする液体が俺の口に入った。何事かと思って頭を上げると、そこには……。
「がはっ、ごほっ。おと、や……大丈夫?」
「……は?」
「なに、呆けた顔してるのよ。大丈夫なのか、って聞いてるの」
「どう、して……」
血反吐をガフウガフウと吐き出し、胸を貫かれてそこからも流血して。それでもなお、俺のことを気にかけてくれたのは……。
「なんで、だよ。雫……なんでっ」
「悲しい顔しないでよ。愛する人を守るのだって仕事……なんだから。でも、ちょっとキツいわね……」
そう、俺のことを命懸けで守り、致命傷を負ったのは……俺の最愛の人、雫その人だった。
前につんのめって倒れ伏せようとする雫の身体を受け止め、再生魔法を行使して傷を治そうとする。しかし、再生魔法の効力を拒む魔法でもかけていたのだろう。俺の必死の看病は何の意味も成さなかった。
そんな俺に、雫は優しく微笑んで震えながら柔らかい手を俺の頬に当てる。
「温かいわね……音也の身体。生きてるんだなって感じるわ。私とは違って、ね」
「そんなこと……そんな悲しいこと、言うんじゃねえよ。お前まで喪ってしまったら、俺は何のために生きればいいんだよ……!」
「だからって、自殺しようなんて考えないでよ。その身体では死ぬことができないでしょう? だから……生きてよ」
ポロポロと俺の瞳から涙が零れ出す。血の気を失った雫の顔に染みを作りながらも、俺は雫と離れまいと強く抱き締めた。
雫は弱々しいながらも抱き締め返してくる。これが今、彼女にできる精一杯の行為なのだと分かって、俺の瞼からさらに多くの涙が零れた。
「そんな……生きるのはお前も一緒だろ。俺を置いてどこに行っちまうんだよ。お前も生きてくれよ! なあ!」
「嬉しいなあ。死んでほしくないって思ってくれるぐらいに、大事にしてくれて。最愛の人に最後を看取ってもらうなんて……こんな嬉しいことは他に……ない、わよ」
「雫! おい、しっかりしろ!」
「ようやく……恩を、返せた。ずっと、守ってもらってばかりで、悔しかった。貴方を守れて死ぬなら……わたし、は……」
抱き締めていた雫の身体が、サラサラと砂のように崩れ始めた。ここに来て初めて気がついたのだが、雫の心音は停止していた。ここまで話せていたのは、魂魄魔法を使って無理やり延命していたからであり、魔力が完全になくなったことによって雫の言葉も紡がれなくなったのだろう。
ガクッと後ろに倒れた雫の首は、そのまま胴体を離れて地面へ向かう。俺は彼女の身体を離して首を受け止めようとした。
しかし、その一歩を踏み出すのがほんの一瞬だけ遅かったらしい。
彼女の首は、地面に触れた瞬間に粒子となって、辺りに露散した。俺の手に何時もの愛しい感触はない。何も、ない。
代わりに、彼女の人魂だけが遺された。人魂は一瞬だけエヒトルジュエの方向へ向かおうとしたが、すぐに向きを変えて俺の胸元に溶け込んだ。
途端に、これまで雫やユエ、ティオ、恵里と過ごしてきた日々が走馬灯のように次々と脳裏に浮かぶ。
「しず、く……」
泣き叫ぼうと思った。しかし、声が出てこない。あんなにも愛していたのに、俺は居なくなっても慟哭の声一つ上げることができない。
なぜなら、別の感情が俺の心を支配し始めたからである。悲哀に満ちた、濡れた感情ではない。もっと黒く、冷え切った感情だ。
これまで怒ったことは何度でもある。洒落にならないキレ方をして人の命を殺めたこともある。しかし、こんな感情はこれまで持ったことがない。
止まろうにも止まれない。そんな感情。解き放ってしまえば、俺は恐らく進んではならない道を進むことになるだろう。
だが……それでも、俺は概念を吐き出した。
「――
鬱展開ですが、これだけは言っておきます。この作品は誰が見てもハッピーエンドだと感じる終わり方をさせるつもりです。
ちなみに今回、発現した音也の概念魔法の説明は次回に回します。また、次回は三人称視点で話を進めます。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)