※この作品はR-18です。

その音色は異世界まで響き   作:誰かさん

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お待たせしました。今回は概念魔法の説明だったり戦闘だったりとなります。


第四楽章 殺戮・折れた神牙

「我、汝の絶対なる死を望む(お前は必ず殺してやる)」

 

呪詛のように吐き出された音也の感情の極致。ユエやティオ、恵里を喪った悲しみに追い打ちをかけるかのようにのしかかった最愛の人の死。

 

憤怒や憎悪を通り越して虚無感へと辿り着いた音也が、雫の首が消滅して彼女の人魂が自分と溶け合った瞬間に心を支配した感情。殺意なんてものは生温いほどの凄惨かつ絶対な決意の元、発現した概念魔法。

 

彼の発現した概念魔法は、皮肉にもシュネー雪原の大迷宮で発現した“絶対なる生”とは真逆の概念である。彼は、“絶対なる死”を願った。自分の大切な人を奪った者。それを手伝った者。あげくの果てには自分自身まで。

 

そうして発現した概念魔法が、「我、汝の絶対なる死を望む」である。

 

発現した概念魔法は、音也が取り出したプロトイクサのベルトへと付与された。“絶対なる生”と“絶対なる死”の相反する概念を込められたイクサを、彼はこれまで見せたことのない“無表情”でエヒトルジュエを見つめながら変身した。

 

「我、汝の絶対なる死を望む」は音也が選別した有りと有らゆる物を“死なせる”という、凶悪という言葉でも生温いほどの効果を持つ概念魔法。昇華魔法の〝対象の情報に干渉する〟力を元に、そこに〝生きている〟という対象の情報を〝死んでいる〟と書き換える能力なのだ。

 

更に言えば、プロトイクサその物は絶対に“死ぬことがない”。攻撃をいくら受けても壊れないくせして、向こうからは即死攻撃がバンバン飛んでくるという凄まじい状態へと変わるのである。

 

「変……身」

『フィ・ス・ト・オ・ン・ジェ・ファ・ー・ヴェ・テ・エ・ゴ・ン』

「わ、我が主!」

「よい、アルヴヘイト。たかが羽虫一匹のささやかな抵抗よ」

 

黒いイクサへと直接変身を遂げた音也に、アルヴヘイトが思わずエヒトルジュエに警告と焦りの声を発した。しかし、エヒトルジュエは“羽虫一匹のささやかな抵抗”と評して為すがままに彼が変身するのを優雅に待った。

 

待ってしまったのだ。概念魔法を二つ付与したイクサを装着する時間を、そして、更なる感情の極致へ至る時間を彼は与えてしまった。エヒトルジュエがどことなく嫌な予感を覚えたのは致命的に遅かったのである。

 

「お前は俺には勝てない(汝、我の力を超えることを禁ずる)」

「っ、こ、これは……!?」

 

音也が更に発現させた概念魔法。「汝、我の力を超えることを禁ずる」はその言葉の通りの効果を“全世界単位で”もたらす。

 

何者も音也の力を超えることは不可能になるという、これまた別の意味でチートとも言える概念魔法なのである。相手の情報に干渉できる昇華魔法がここに来て反則技を連発し、あっという間に攻守交代してしまった。

 

絶対に殺してやりたい。勝ちたい。敵討ちをしたい。そんな音也の気持ちが概念魔法となって飛び出したという、嘘と冗談を総動員したような光景。エヒトルジュエは己の力がどんどん弱まっていくことに焦りを感じた。

 

自分のことを超える物は誰一人として居ないはずが、目の前に立つ一人の男はいとも簡単に神の力を超えようとしているのだ。焦らない方が異常とも取れるだろう。

 

「くっ……アルヴヘイト。これを託す」

「これは……闇のキバの鎧でありますか?」

「そうだ。我はイレギュラーの力によって呼応し始めた、吸収した魂たちを鎮める作業に入る。後は任せたぞ」

「は、はっ! お任せください!」

 

故に、敵わないと悟ったエヒトルジュエはさっさとアルヴヘイトにキバットを投げ渡して空間転移を発動させようとする。

 

しかしそれを、音也が許すわけがない。ユラリユラリと幽鬼のようにエヒトルジュエへと歩を進め、着実にその距離を詰めていく。

 

確実に近寄ってくる死の気配に、エヒトルジュエは気が狂いそうになるのをどうにか抑えて“ゲート”を開き、一目散にその中へ飛び込み、すぐそのゲートを消してしまった。あれだけの余裕を見せていたエヒトルジュエがここまで焦り、愉悦の微笑みを見せる間もなく逃げたという事実はアルヴヘイトの不安をより一層高めていく。

 

「………」

「は、はは。危ないところであった。我が主ですらも逃避を選ぶなど……どこまでイレギュラーな存在なのだ」

「……なら、お前を殺して【神域】に向かうだけだ」

「ッ――こ、ころ――」

 

恐怖によって訳もなく叫びたい衝動に駆られながらも鎧を装着し、何とか平静を保って放たれたアルヴヘイトの言葉は、すぐさま虚無的な音也の言葉により切って捨てられることになった。

 

アルヴヘイトは誰が見ても分かる引き攣った顔をしながらも、隠れていた神の使徒や魔物たちに、音也のことを今すぐ殺すように命令をした。

 

その命令に、使徒や魔物たちは即行で従う。怖気を震うような鬼気を纏い、真っ黒なイクサに身を包んで虚無的な声を発する音也のことを、早いところ殺してしまいたかったのだろうか。

 

しかし、概念魔法を三つ、同時に発動させた音也に近寄ろうとした使徒や魔物が……一歩後退った。

 

音也が動いたからではない。音也自身はダラリと腕を下げた状態で一歩も動いていないのだ。それでいて、近寄ろうとした存在が後退りをした理由は、彼の周囲にある。

 

彼の周りには、赤黒い魔力で作られた鎖によって宙に浮くヴァイオリンやトランペット、ホルン、ピアノといった様々な楽器が勢ぞろいしていたのである。

 

「俺と……死ぬまで踊れ。永遠に、何の感情も持たず。“仮面舞踏会”」

 

ハチャトゥリアンの組曲であり、短調のワルツである「仮面舞踏会」が宙に浮いた楽器たちから奏で出す。

 

途端に、神の使徒や魔物たちの身体が勝手に動き出した。音也のことを抹殺したいなら当然の行動だろう。しかし、彼女たちの表情が、此れ等の行動は全て不本意の物だと物語る。抵抗しようにもできず、ただ音也の方へと引きずられていく様は“異常”の一言に尽きるだろう。

 

確実に歩み寄ってくる死の気配に、使徒たちは半ば発狂しながらも銀色の太陽を無数作りだし、音也に向けて発射する。

 

魔物たちは絶叫を上げながら文字通りの突撃を開始し、音也のことを轢き殺そうと殺気立つ。

 

数え切れない量の銀色の太陽が音也に直撃し、光に紛れて魔物たちが狙い狂わず音也の心臓目がけて突き進んだ。

 

しかし……。

 

「………」

「おのれっ!」

 

銀色の太陽が直撃したイクサは大部分がバラバラになったように見えたが、一瞬で元の形へ戻ってしまった。さらに、突撃を敢行した魔物たちは音也の足下で永遠の旅路へと向かっている。

 

「ア、アルヴヘイト様。お下がりを。イレギュラーの体に触れると防御を無視して強制的に死亡させられるようです。しかも、我等の全力の攻撃を用いても傷一つ付けられませんっ」

「な、なんだとっ」

「しかも、あの楽器が奏でる音楽は我々の力を吸い取ると共に、イレギュラーの元へと引き寄せられる能力までっ」

 

そこまで喋ったタイミングで、楽譜ではフォルティシモと記載されている場面に辿り着いた。喋っていた使徒は為す術なく音也に吸い込まれていき、そのまま息の根を止められる。

 

あまりにも異常な光景に、闇のキバの鎧を纏ったアルヴヘイトは息を呑み、そして恐怖し絶望を覚えた。“神”という物になってからというもの、自分に敵う人間はある人物を除いて存在しないと確信していたアルヴヘイトだからこそ、その恐怖と絶望はとてつもなく大きい物となる。

 

『ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト』

「ふ、ふざけるなっ。神に楯突く愚か者が! 貴様の命など塵芥に等しいのだぞ!」

『ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト・ヴァ・シュ・タ・ク・ト』

「ッ――」

 

ゆっくりと歩み寄りながらイクサナックルを内に動かし、何度も何度も己の力を限界以上に強化していく音也。アルヴヘイトの言葉にも耳を貸さず、ひたすらにイクサナックルを壊れたオモチャのように内へと動かしていった。

 

一方で、アルヴヘイトは猛烈に焦りを感じていた。ナックルを内へ動かす度に音也のイクサから放出される電撃は度合いを増していき、着実に、かつ凄まじい強化を施されていくことが目に見えて分かったからである。

 

故に、どうにかして止めるためにアルヴヘイトは紋章を飛ばしたりザンバットを切れ目なく飛来させる。しかし、紋章は効果を一切現すことなく音也のことを貫通。ザンバットたちは硬質的な音を立てて地面へ落ちていった。

 

それどころか地面に落ちたザンバットたちは演奏が盛り上がったタイミングとほぼ同時に宙に浮かび上がり、攻撃の矛先をアルヴヘイトへ向ける。

 

断続的に続く剣の雨の衝撃により、キバットが止まり木から放り出されてアルヴヘイトの変身が解除された。

 

「ば、化物か! 貴様の演奏が及ぼす特殊効果は一つだけだったはずだ! それなのに、何故そこまで!?」

「……殺すためなら、俺は何度でも命を賭ける。それだけの話だ」

『ヴァ・シュ・タ・ク・ト――デ・ス・ト・ロ・イ・モ・ー・ド』

 

電撃に隠れて分かりにくいが、音也自身の戦闘能力も刻一刻と無限強化によって上昇している。エヒトルジュエと戦っている最中も、ライジングイクサが壊された時も、雫たちが死んでいったときも彼の身体は強化を繰り返していた。

 

だからこそ目覚ることができた派生技能である〝楽器無限召喚〟に〝同時演奏〟。そして、〝複数効果付与〟によって本来なら有り得ない光景を、いとも容易く実現させている。

 

そしてトドメとばかりに黒いイクサの状態の電子音よりもさらに低い音声で、これまでは聞くことのなかった言葉を発したイクサナックル。

 

しかし、アルヴヘイトだけはその電子音を耳にし、彼の変わり始めた姿を見たことで盛大に顔を引き攣らせた。その表情はまるで、長年押し込めていたトラウマを再びほじくり返されたような物だ。

 

「バカな……そんな、バカなっ!」

 

たった一度だけ、アルヴヘイトやエヒトルジュエといった神たちが“勝てない”と悟って絶望を覚えたことがあった。アルヴヘイトに関しては二回目だが、その正体は紛れもなく音也である。

 

ではもう一人は、というのも明々白々。最強の解放者にして音也の母親である紅文音だ。彼女は【神域】に一人突入し、アルヴヘイトとエヒトルジュエを除く全ての神を殺害している。

 

その際に彼女が使用したのは対神特効モード――デストロイモードなのである。デストロイモードの発動条件は非常に厳しく、黒いイクサの暴走を制御できてかつ、概念魔法をイクサに付与した上でイクサの電圧を限界以上まで高める必要がある。

 

当然、身体へかかる負担は尋常ではない。生半可な力を持つ人間が発動させようとしても無駄死にするだけだ。それほどに強力かつ凶悪な状態であり、あのエヒトルジュエですらも封印を施されたほどである。

 

デストロイモードへと変わった黒いイクサの見た目は大きく変わるわけではない。背中側から鎖で繋がれ、十字架の模様が入った棺桶のようなオブジェクトが七つ飛び出し、纏う電撃が棺桶と棺桶の間を隙間なく埋めるため大きな翼に見えるぐらいだ。

 

しかし、どんなに変化が乏しかったとしても、その力の強さが本物であることは実績が既に示している。

 

「あ、あっ、ま、待てっ。待ってくれ! の、望みを言えっ。私がどんな望みでも叶えてやる! なんならエヒト様のもとへ取り立ててやってもいい! 私が説得すれば、エヒト様も無下にはしないはずっ。世界だっ。世界だぞ! お前にも世界を好きに出来る権利が分け与えられるのだ! だからっ!」

 

故に、アルヴヘイトは半ば恐慌をきたして、ニワトリのような引き攣った声音を発し、交渉という名の命乞いを始めた。

 

が、概念魔法を発動させていなかったとしても命乞いなど聞くことは一切ない音也が相手では無意味。“仮面舞踏会”最後の盛り上がりを見せると同時に、ゆっくりとアルヴヘイトの身体を強制的に自分の近くへ寄せていく。

 

「止せっ、止せと言っているだろう! 神の命令だぞ! 言うことを聞けぇっ。いや、待て、わかった! ならば、お前の、いや、貴方様の下僕になります! ですからっ。エヒト様に吸収された魂たちを取り返すお手伝いもしますからっ。止めっ、止めてくれぇ!」

 

一気に、ではなく嘲るようにゆっくりと“死の気配”を感じたことによりアルヴヘイトの精神は既に崩壊寸前だ。目の前には神ですらも確実に死へと誘う絶対的な存在が立っており、その存在へ抗うことすら許されず、強制的に死へ向かわされているのだから仕方のない話だ。

 

しかし、どんなに恐怖と絶望に濡れた絶叫が響かせたとしても、彼のことを止めることは何者にも不可能であった。

 

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

「や、止めろっ。止めてくれっ。頼むから、止めてくれぇ! 頼む! 言うことを聞いてくれぇ!」

「……そんなに、生きたいのか?」

「え、あ?」

「生きたいかと聞いている」

 

音也の質問に呆けていたアルヴヘイトだったが、その意味を理解したのか瞳に僅かな希望が浮かぶ。

 

「あ、ああ、生きたいっ。頼む! なんでもするっ」

「そうか……」

 

ほんの僅かな間だけ、曲の盛り上がりが収まったことによってアルヴヘイトの動きが止まる。そのことによって喜色を浮かべ、「生き延びた!」と確信したアルヴヘイト。音也はそんなアルヴヘイトに対し、全(・)く(・)変(・)わ(・)ら(・)な(・)い(・)調(・)子(・)の(・)声(・)で(・)告げた。

 

「なら、死ね。今すぐ、死ね」

「え? ひっ、止めろっ。止めっ、ひいっ。あ、ああっ。ァア……! ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!! イィギヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

タイミングを見計らったかのように再度大きな盛り上がりを見せた“仮面舞踏会”によって音也との距離を詰められ、変えようのない未来を突き付けられたアルヴヘイトは、遂に発狂した。

 

イクサナックルにこれまで放出していた電撃が全て集まり、光輝のことをこの世から消し去った時とは比べ物にならない光を放つ。それをダラリと垂らした手に握った音也は、普段のように大きく振りかぶることもなく、ただ前に腕を伸ばした状態で……引き金を引いた。

 

一瞬で辺りを極光で包み込み、局地的な大地震を発生させるほどの大きさと破壊力を持ったブロウクン・ファングは、近くに居たアルヴヘイトや音也は勿論のこと、かなり離れた場所に陣取っていた露葉やハジメたちでさえも一時的にだが視界を完全に奪われ聴覚を失うに至った。

 

凄まじい轟音と光が完全に収まり、露葉やハジメたちが辺りの状態が確認できるようになった時には……既にアルヴヘイトの姿は見えず、城内の八割ほどの壁や天井が破壊し尽くされ、代わりに今の攻撃によって現れたであろう空間の歪みと、その攻撃を繰り出した音也だけが残った。

 




デストロイモードの背中側に現れたオブジェクトは、タナトスが背負っている棺桶を黒いイクサにポン付けしたような物です。

過去の話についても後々に言及しますので、楽しみにしてくれると幸いです。

恵里の処遇はどうする?

  • 勇者バカ之河の被害者だから救おう
  • 消せ(無慈悲)
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