その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「っ……」
背中の冷たい感覚で意識が覚醒する。むくりと起き上がって周囲を確認すると、どうやら俺は浅瀬の手前で寝転がっていたらしい。
「いてて……ここはどこだ?」
確か俺は体力が尽きて橋から転落して……。
「待てよあの奈落に落ちたのに俺は打撲で済んだのか」
生命力増強恐るべし。
取り敢えず持ち物を確認してみる。ポケットに入っていたヴァイオリンケースやステータスプレートにファンガイアスレイヤーはさておき……ベルトは近くの浅瀬に落ちていた。単純な腰回りの防護になるし除細動器にもなる。しかしイクサナックルはどこにも見当たらなかった。それに……。
「ハジメ……どこだ?」
ハジメも見当たらない。あいつは変身してなければ少し筋肉が付いてるだけの高校生。恐らくここは下の階層だと考えると俺でも生き残れるか厳しいだろう。
「マジかよ……ハジメがイクサナックルを持ってるなら話は変わってくるんだがなあ」
取り敢えず寒いので適当な魔法陣を書いて火を起こした。
「燃えよ……〝火種〟」
体をひとまずは温めながら脳内の整理を開始した。かなり腹が減っていることから俺は半日、もしくは丸一日寝ていたらしい。それでも風邪一つ引かなかったのなんという生命力なのだろうか。
凍傷すらないってどうなっていやがる。
二十分ほど暖をとり服もあらかた乾いたので出発することにする。どの階層にいるのかはわからないが迷宮の中であるのは間違いない以上、どこに魔物が潜んでいてもおかしくない。
ヴァイオリンと弓を取り出して一人通路を行く。咄嗟の攻撃には対応が難しいがなんとかするしかない。近接戦闘に関しては今の体では不利である。本調子どころか最悪に近い体で格闘戦は死亡フラグである。ならばここまで殆ど使っておらず回復薬も多い魔法攻撃の方が良いだろう。
物陰に隠れながら歩くこと数十分。こんな状況でも敏感な耳は何かの物音をバッチリと捉えた。すぐに警戒心を引き上げて構えた。位置は……目の前にある岩陰の奥だろう。
足音をたてずにゆっくりと岩陰を除く……。
(なんだあれ……ウサギ?)
そっと顔だけ出して様子を窺うと、岩陰に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。長い耳もある。見た目はまんまウサギだった。
ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。物凄く不気味である。
とはいえこのまま黙っているわけにもいかない。俺は曲をチョイスしてすぐに演奏を開始した。
「……!!」
「ピイ?!」
曲は熊蜂の飛行。雫も聞くのが好きだった……速く激しい曲だ。この曲の効果は単純である。まずは対象を拘束し、曲に合わせて上下左右に振るだけだ。しかもここはそこそこ狭い場所。察しの良い同志諸君ならお分かりだろう。
ガンゴンダンバンry──
熊蜂の飛行を聞いたことがない人は是非聞いてみてほしい。俺の演奏はデフォルトの1.5倍とかだ。某能力値が1の骨の攻撃にそっくりだとも言える。最後の足掻きとして放ってくる防御不能のあれだ。分かるかな?
「ピ……イ」
「……ふう」
完全に息の根が止まった化け物ウサギ。直接攻撃を試みていたらその強靭そうな後ろ脚に蹴り飛ばされていただろう。「馬に蹴られて死ね」なんていう言葉があるがこれでは「ウサギに蹴られて死ね」である。それぐらいにヤバそうに見えたのだ。
「さて……食いたいところだが魔物の肉には毒があるんだったよな」
しかし俺にはなぜか毒耐性がある。オマケに生命力増強までも付いているのだ。もしかしたら……
「もしかしたらいけるか……?」
異様に飢餓感を感じる。俺が寝ていた期間は恐らく一日のはずだ。いくら生命力増強があっても数日間ほぼ水の中に体を浸されて飲まず食わずの状態で生きられるとは考えにくい。
俺は一日だけ飯なしをやってみたことがあるが……ここまでの飢餓感を感じることはなかった。確かに空腹にはなるのだが……死ぬってほどでもない。
今は何でもいいから食いたい気分だ。腐っていようが毒が入ってようが……。
と、思った次の瞬間に俺はウサギの脚を引きちぎって食べ頃のサイズにしていた。
頭の中では「食うな!」という命令が出されているはずなのに……手がこれっぽっちも止まらない。どうしても美味しそうに見えるのだ。
「あむ……んぐっ」
脳が激しく警鈴を鳴らしている。食べてはいけない。今すぐ吐き出せ。そいつはヤバい、と。
しかし体は己の欲求のままにウサギの肉を次から次へと口へ運んで行った。味も匂いも食感も最悪だ。しかもいきなり肉を放り込まれたからか胃が痛みを通じて抗議してくる。それでもこの手が止まることはなかった。
硬い筋だけの肉。それを生で血ごと食らっていく。鉄と言いようもない最悪な味がベストマッチしすぎて逆に味を感じなくなってきた。とにかく胃が満たされるならそれでいいのだ。
あたかも野生児のようにウサギの脚を、腕を、臓器を食らいつくした俺。魔物の肉を食うという禁忌を犯してでも満たされた胃袋に俺は一種の幸福を感じる。
「ふう……ごちそうさん」
生命を丸ごと頂いたことに感謝しつつ、俺は立ち上がろうとした……その時である。
俺の体に異常が表れ始めた。
一応設定としては既に二週間は眠り続けたことになります。音也の生命力はすでに人外レヴェルに達しているのです()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)