※この作品はR-18です。

その音色は異世界まで響き   作:誰かさん

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少し頑張って筆を進めました。ようやくここまで辿り着いたのだと思うと、少し感慨深いです()


第九楽章 運命・解き放たれる鎖

神の使徒を文字通り瞬殺し、時折現れる魔物すらも姿を見せた三秒後にはあの世に送り届けるなんてことを繰り返していると、俺の目の前には一際異彩とも感じられる巨大な扉が姿を現した。

 

その先の音や気配を確認すると、聞き慣れた心の音楽や気配がすぐに感じられた。どうやらこの先に、エヒトルジュエや他の者の魂が居るらしい。

 

俺が神域に突入してから既に半日。エヒトルジュエがあの時撤退を選んだのは、デストロイモードの出現もあっただろうが、一番の理由は魂を沈静化させるためだろう。あのお転婆たちの魂のことだ。散々に抵抗しているに違いない。もっとも、そうでなくては面白くないという気持ちが少しだけあるのは内緒である。

 

手に握っていた武器を宝物庫に放り込み、相変わらず広がる虚無感を噛みしめながら、俺は扉に手をかけた。

 

「……〝望んだ場所へ我を運ぶ〟」

 

しかし、普通に扉を引いたり押したりしても開くことはなかったので、概念魔法を作り出すことで扉の奥にある空間を視認した。

 

おそらく、選ばれた者しか通れないように扉を調整していたのだろう。しかし、概念魔法の前には神の力も敵わない。難なく扉を通り抜け、俺はその先にある“階段”を歩んでいく。

 

下から見上げる階段の上は淡い光で包まれている。俺は、そのまま躊躇うことなく光の中へ身を投じた。

 

 

白に染まる視界。

 

 

そこを抜けた先は、どこまでも白かった。上も下も、周囲の全ても、見渡す限りただひたすら白い空間で距離感がまるで掴めない。地面を踏む感触は確かに返ってくるのに、視線を向ければそこに地面があると認識することが困難になる。ともすれば、そのままどこまでも落ちていってしまいそうだ。

 

純白の空間の中での俺の姿は、まるで白いキャンバスの上に黒い染みを零したかのよう。何処までも“異端”を欲しいままにしている。

 

「ようこそ、我が領域、その最奥へ」

「………」

 

その声が聞こえた途端、俺の内から毒々しい藍色の魔力が噴き出す。魔力が巻き起こす暴風のせいで、背中のオブジェクトがジャラジャラカタカタと音を立てながら揺れ動いた。

 

声の主は俺の後ろ。ゆっくりと振り返った俺は、更に内から魔力を噴き出させることになった。

 

「随分と早い到着だな、イレギュラー。お前の大切な女たちがお出迎えだぞ?」

「……なぜ、身体がある。あの時、確かに消えたと思うが?」

 

俺の目の前に広がった光景。それは、玉座に足を組みながら頬杖をつき、ニヤニヤと嗤うエヒトルジュエと囲うように置かれる三つの十字架に磔られたユエ、ティオ、恵里の姿だった。

 

魔眼で確認すると、三人の身体は確かに生きているが、魂が抜き取られて所謂“抜け殻”の状態である。その中に雫の姿がなかったことに安堵しつつ、俺は更に言及を続けた。

 

「そもそも、身体を転移させて何の意味がある。魂なら吸収してなんぼだろうが、身体まで持っていく必要はないだろう?」

「ククク。そんなことは分かり切ってるだろう? お前に更なる絶望を与えるためだ。もっとも、あの女剣士の身体と魂を奪うことはできなかったがな」

 

おもむろにザンバットを取り出したエヒトルジュエは、一番近くに磔られいるユエの心臓目がけてひと思いに突き刺した。

 

ユエの胸から血がダクダクと流れ出し、彼女の華奢な脚や華麗な服を凄惨な鮮血色に染めていく。

 

「お前……」

「ふむ、これだけやってもお前は顔色一つ変えないのか? 流石に此方も引きかねないのだが……まあ良いだろう。この女たちの魂は完全に我の物であり、身体も我の私物だ。お前を排除し、下界で暴れるイレギュラー共を殺したら隅から隅まで、じっくりと弄んでやる。このエヒトルジュエの私物になるなど、身に余る光栄他ならないと思うが? うん?」

「我が儘こじらせた挙げ句、構ってくれないと駄々をこねる能なしの神の私物になることの何処が身に余る光栄なんだ? 其処の所、もう少し詳しく教えろよ。なあ?」

 

刻一刻と俺の身から噴き出す魔力の奔流は勢いを増す。白亜の世界がジワリジワリと藍色で包まれていくほどの勢いと強さを持った魔力は、やがてエヒトルジュエの足下までも浸食するに至る。

 

咄嗟に跳び上がったエヒトルジュエの姿を見て、俺は絶対の死を迎えさせる概念魔法を纏わせた。

 

「ッ……その魔法は、やはりそうなのか。それにその姿。全く、忌々しい……」

「お前が何者だろうと関係ない。お前はこれから死ぬ。それだけだ」

「神に随分と不遜な言葉を投げかける。まだ分からないのか? この女たちの魂を完全に鎮圧し、神域に戻った我にお前が敵うはずが『それを、人間界では現実逃避と言う』……なんだと?」

「誤魔化すなよ。本当は怖いんだろ? 大昔、絶対であると信じていた自分の事を封印したこの姿。そして、世界の摂理すらも変えてしまう概念魔法を操る、他でもない俺の事が」

 

魔力はいよいよ空間のほぼ全域を浸食し、最初に見た“見渡す限り白”という光景は始めからなかったかのように周囲が暗く、冷たく彩られる。

 

鎖が解き放たれ、棺桶が俺の周りを無機質に周回し、充填した魔力を確実に叩き込むべく、虎視眈々と睨みを利かせている。

 

対するエヒトルジュエは、ほんの少しだけ。本当に見えるか見えないか分からないレベルに小さな変化だが、顔をしかめて白金の魔力を俺の魔力に対抗するかのように噴き出させ、一部の魔力光を急激に集束させて、その背後で形を作っていく。

 

燦然と輝きながらエヒトルジュエの背後に現れたのは三重の輪後光。その大きさは、浮き上がったエヒトルジュエを中心に一重目が半径二メートル程で、三重目は半径十メートル以上ある。

 

その輪後光から、無数の煌めく光球がゆらりと生み出されていく。その数は、まさに星の数と表現すべきか。だが、その壮麗さに反して放たれるプレッシャーは尋常ではない。一つ一つが、容易く人を滅し、地形すら変えかねない威力を秘めているのが分かる。

 

巨大な輪後光を背負い、数多の星を侍らせ、白金の光を纏うエヒトルジュエの姿は、なるほど、その内面の醜さを知らなければ確かに〝神〟と称するに相応しい神々しさを放っていた。

 

「よかろう。この世界の最後の余興だ。少し、遊んでやろうではないか」

「まだ分からないのか? 遊ばれるのはお前の方だ。これまで散々人を見下し、自分が下に見られることが殆どなかった能なしの神様とやらに、紅先生が“遊び”の手本を見せてやる」

 

遂には内包していた電撃すらも空高く、電(いなづま)のように駆け上っていく。電撃はやがてバキバキと姿を変えていき、一つの“竜”へと形取っていった。

 

〝纏雷〟の最終派生技能である〝雷竜〟。体内や体外問わず、周囲にある“電撃”を操って竜の形を作り出すことが出来る技能だ。作り出した雷竜は、自由自在に操ることができる。ユエの 〝五天竜〟に比較的近いが、こいつは魔力をそこまで消費しなくても良いため連発できるというメリット付きだ。

 

この技能に覚醒した原因は、イクサの麻薬にある。こいつの特性は脳を活性化させるが、実は活性化の裏には“10%程度しか使われない人間の脳を一時的に100%使用できるようにする”という、嘘と冗談を総動員しても足りないほどに恐ろしい効果が存在していたのである。

 

そして俺は、デストロイモードを機動させた。結果、リミッターが完全に外れた脳内活性化装置は俺の脳を“人間”を遥かに超える超常的な物へと変化させてしまったのだ。これが、新しい技能をとても短い時間で取得できた理由だ。

 

「――ォォォオオオオオオオ!!!」

「ッ、これはっ」

 

抜刀のようなモーションでファンガイアスレイヤーを取り出し、一度天に向かって突き上げてから横に振り払い、人成らざる雄叫びを上げる。

 

すると、それを待っていたかのように棺桶たちの魔力のチャージが完了。それと同時に、棺桶たちから凄絶という言葉ではこれっぽっちも足りないほどの大魔法が一斉に噴き出した。

 

ある棺桶は〝五天龍〟と〝神罰之焔〟を放ち、またある棺桶は漆黒のブレスを撒き散らす。別の棺桶は“タナトス”や“アルテミス”を召喚した後に立て続けで〝斬羅〟を解き放った。

 

有り得ない破壊力と数。質と量を両方達成した初手の魔法攻撃は、難なくエヒトルジュエの放った光弾を消し飛ばしてエヒトルジュエの元へと迫った。エヒトルジュエは手を振りかざして光の使徒のような物を作り出し、囮にすることで何とか逃れようとしているが、殆ど意味を成すことなく消え失せ、全ての攻撃はエヒトルジュエの元へ届いてしまった。

 

展開された強力な結界すらも物ともせず、様々な魔法攻撃が一斉にエヒトルジュエの身体を襲ったのを見た俺は、辛うじて魔法攻撃から逃れて俺のことを何とか殺そうとする光の使徒に向かって手をかざした。

 

すると、何の前触れもなく光の使徒が炎に包まれた。外部が燃えているのではない。“内部から”自然発火している。簡単なことだ。使徒の体内にある原子や分子をプラズマ化させただけである。プラズマ化させれば物質は燃える。ただ、それだけの話だ。

 

敵と見なした存在は、俺に触れることは勿論、近寄ることすら許さない。ある物は、ただ“死”あるのみ。敵には“死”を。大切な存在には“生”を。

 

「ぐ、くっ……イレギュラー。何て攻撃だ。この世界の創造神であり、絶対神でもあるこの我に回避を選択させるなど、とんでもない快挙だぞ。貴様は一体、何者なのだ……?」

「俺か? そうだな、俺は……」

 

エヒトルジュエの問いかけに、俺はほんの少しだけ考える時間を作る。が、すぐに一番良い返しを思いついたので、顔を上げて俺はハッキリと答えた。

 

「俺は、紅音也。最強の解放者である紅文音の息子であり……ただのヴァイオリニストさ」

 

言葉と共に、雷竜がエヒトルジュエ目がけて突撃していく。その後を追いかけるかのように、俺はゆっくりと歩を進めた。

 

戦いはまだ、始まったばかりだ。

 

神にとっては死から逃れるための。

 

俺にとっては愛する人を取り戻すための。

 

最後の戦いが。

 




棺桶が放った魔法の数々は、ユエ、ティオ、恵里の魔法を再現したものです。また、光の使徒を自然発火させたのはクウガの“超自然発火能力”に近い物になります。脳を100%使えるならば、このぐらいは可能かなと思いまして()

恵里の処遇はどうする?

  • 勇者バカ之河の被害者だから救おう
  • 消せ(無慈悲)
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