※この作品はR-18です。

その音色は異世界まで響き   作:誰かさん

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お待たせしました……()
忙しくて中々筆を進めることができず、時間がかかってしまいました。本当に申し訳ないです……。

※今回の後半はハジメ視点です。とはいえ半分以上は露葉視点です()


第十二楽章 圧倒・嘘の必殺

「「「「「駆逐します」」」」」」

 

奇襲を許したことに対して、無表情がデフォルトなはずの使徒がほんの少しだけ顔を歪めながら突撃してきた。

 

対して私は突撃してきた使徒を紙一重で躱し、一番奥に居たエーアストの元へ一瞬で迫る。ツヴァイトとドリットは私のことを追尾してきたが、後の二人はハジメの元へとそのまま向かった。

 

「──〝爆雷の術〟」

 

私を中心に、絶大な雷が何本も使徒目がけて振り下ろされる。雷がまるで矢のように降り注いでいることから、大神ゼウスの放つ雷の矢に見えなくもないだろう。

 

もっとも、ゼウスというものを使徒たちが知っているのかは分からないが……。

 

「雷速程度など、私たちには届きません」

「諦めて地に伏せなさい、イレギュラー」

「そんな姿がお似合いで──」

「お喋りな口はこれかしら?」

 

ドリットの口から血がブシャッと噴き出す。目にも止まらない速度で奴の舌を切り落としたからだ。地上では奴の舌が血塗れで落ちていることだろう。

 

神の使徒の認識を超えてきたことが気に入らないのか、舌を切り落とされたドリット含めて三人の使徒が顔をしかめ、目元を剣呑に細めた。

 

「戦闘中に随分とお喋りな口を叩くわね。文音さんが昔、少しだけ苦戦しただけあってこれまでの人形たちとは明らかに強さに差があるけどもね。そんな様子じゃ、私に牙は届かないわよ」

「……武具を身に纏わない貴方など、丸腰の赤ん坊に等しい。すぐにでも均衡は崩れます」

「この状態が均衡? はっ、笑わせてくれるわね。大方、“神の使徒は負けるはずがない。負けることなど有り得ない”という小さな自尊心に縋っているだけなんでしょうけど」

 

私の視覚が灰色に染まる。時の流れが緩慢となり、聴覚は限界まで研ぎ澄まされて奴らの心音すらも聞き取れる程にまで集中した。

 

ソニックムーブを軽く発生させるほどの勢いで前に飛び出すと、小刀を“宙に投げつけてから”長刀に手をかけ、空中で〝震脚〟を使って大気を激震させる。そして、雫のように神速で抜刀を完了すると長刀を横薙ぎに一度振るう。

 

「ッ──!?」

「そこで──」

「遅いわよ」

 

死角から潜り込んできた使徒の大剣を、私は目の前で相対する使徒の大剣を弾いた勢いで逆手に持ち替えて後ろに突き出すことで受け止める。その際に使用するのは八重樫流刀術の一つ──〝木葉舞い〟。相手の攻撃を、刀身を利用して滑らせることで受け流す技だ。

 

本来なら逆手持ちで、しかも片手持ちで使うような技ではない。日本にいた頃は、雫ですらも完璧には取得出来ていなかったほど、この技の扱いは難しい。しかし、腐っても八重樫流を受け継いだ私は“何とか”使用することが可能である。

 

勢いを何とか殺して大剣をすり抜け、〝天歩〟で後ろ向きに吹き飛び使徒の頭上に向かうと、そこで身を捻りながら頭上を越えざまに両足でその頭部を挟んだ。そして、そのまま体を更に捻りつつ仰け反るようにして一回転し、使徒を頭部から地面目がけて叩きつけた。

 

八重樫流体術が一つ〝廻月〟。相手の頭部を両足で挟んで捻りながら投げを行う技だ。

 

「くっ、イレギュラーッ」

「──まずは一人」

 

空中でクルクルと捻りながら狙いを定め、私は地面に墜ちた使徒の心臓目がけて長刀を八重樫流投擲術の一つ〝穿礫(せんれき)〟を使って投げつけた。

 

ドスッと鈍い音を立てて使徒の心臓へ狙い違うことなく突き刺さった長刀に私はトドメとばかりに〝天歩〟で作り出した足場を使って反転急降下蹴りを仕掛け、釘を木槌で打つのように長刀を地面に埋め込む。

 

血がブシャッと噴き出し、私の顔を凄惨な赤に染める。舐め取ると、鉄の味がしっかりとした。

 

長刀が完全に使徒の心臓を貫いたことを横目で確認すると再度空中へ跳び上がる。

 

「そんなまさかっ。有り得ません。人間如きが私たち神の使徒を凌駕するなどとっ」

「ツヴァイト、落ち着きなさい。ドリットは油断をしたが故に墜ちたのです。油断なく攻め込めば、勝利は自ずと我らの手に──」

「そのお花畑のような脳内、本当に大丈夫かしら? 良い脳外科を教えてあげるわよ?」

 

宙に放った小刀を手にすると、私は残った使徒に向けて最大級の侮蔑を送る。チラリと横目でハジメを見やれば、バーストモードのイクサで危なげなく使徒の連撃を捌いている。

 

使徒は私たちのことを“人間如き”と言う。それはあながち間違いではない。私たちは確かに“人間”だ。しかし、ほんの少しだけ技を極めている、という点を含まなかったら“ただの人間”という話である。

 

「数秒動いたら忘れるみたいだから、何度でも言ってあげるわ。貴方たちも、クソみたいなご主人とやらにも、迎えられる未来は一つもないわ」

「……その言葉は、そっくりそのままにお返しします。【神域】に踏み込んだイレギュラーは、今にも我が主の手によって骨一つ残さず野垂れ死んでいるでしょう。あのイレギュラーさえ殺してしまえば、後は貴方たちだけです」

「音也がクソ神に負ける? 随分と冗談がお上手なのね。貴方たちは一つ勘違いしているわ。音也は、これまで本気で怒ったことがない。これが何を指すのか分からないわよね? 少し考えれば分かることだけど、特別に教えてあげる」

 

後方で凄まじい激突音が響き渡る中、私は使徒二人の目をしっかりと見つめて、ハッキリと断言をした。

 

「人間を遥かに超越した存在である音也が本気で怒り狂ったとしたら、世界は壊れる。それだけのことよ」

「……戯れ言を」

「実に下らない妄言です。我が主の手にかかれば、あんなイレギュラーなど『隙を見せすぎよ?』う、腕が……?!」

 

使徒の認識を超えて小刀を投げつけ、ツヴァイトの右腕を刈り取る。話に集中しているところを狙って攻撃するのは卑怯だと思うだろうか? 答えは否だ。殺し合いにおいて、卑怯もらっきょうもない。

 

ブーメランのように帰ってきた小刀を再び手にすると、口元を三日月のように裂けた笑みを浮かべて突撃する。慌てて迎撃態勢に入る使徒を見て、更に私は嘲笑を深めていった。

 

空中をスライディングのような動きで滑り、使徒の懐へ潜り込むと〝天歩〟で召喚した足場に手を突きながら、その反動を利用して掬い上げるような蹴りを放った。八重樫流の体術の一つ〝逆鷲爪〟。地を這うような下方から相手をかち上げる蹴り技だ。

 

「くっ」

「後ろで──」

「バカね」

 

短い呼気と同時に、蹴り足を軸にして、その場で独楽のように回転した。体を水平にした状態での側宙のような体勢から、逆足で使徒の顔面を狙う。放つは八重樫流体術の一つ〝重鷲爪〟だ。

 

吹き飛ばされた二体の使徒のうち、私は〝重鷲爪〟で吹き飛ばしたツヴァイトの元へ〝超神速〟を使用して一気に迫る。

 

「凍えろ 〝吹雪の舞〟!」

「これはっ、身体が……!?」

「コンマ数秒の静止は致命の隙。その命、貰い受けるわ!」

 

辺りに暴風が吹き乱れる。全て、私が生み出した風。死を運んでくる風だ。

 

次に桜の花びらがクルクルと空を舞う。赤黒い太陽の光を吸い込み、これまた赤黒い世界に一つの“鮮やかさ”を運んできたかのような桜の花びらは、やがて集束して一つの巨大な掘削機のような形を作った。

 

「死に逝け──〝乱れ桜吹雪・集〟!」

 

ドリルのように桜の花びらが螺旋回転を始める。私は〝天歩〟で作り出した足場を〝超神速〟を発動させた足で蹴り飛ばし、身動き一つ取ることの出来ないツヴァイト目がけて突貫した。

 

分解能力の付与された銀翼が豪雨のように桜吹雪に突き刺さり、銀の太陽が幾つも作り出されては花びらを消し去るために発射される。

 

必死さが垣間見える激しい攻撃。濃密な弾幕と熱量を両立させたこの攻撃を見た者は、即座に戦闘意思を投げ捨てて逃げ出したくなること間違いないだろう。

 

私とて人間だ。当たり前だが恐怖ぐらい感じる。紙装甲な今は尚更だ。何せ、一発でも命中すれば次に待っているのは“死”以外ありえないのである。恐怖を感じるなというほうがバカらしく感じられる。

 

「これで終わりです。イレギュラー!」

 

私の不安を感じ取ったのだろう。エーアストが勝ち誇った声を上げた。確かに、ここでツヴァイトを貫いても技の硬直時間を狙ってエーアストが攻撃してくるだろう。

 

私の残量魔力も殆どない。移動には常時〝超神速〟を使用し、補給も受けていない状態で枯渇しない方がどうかしてる。

 

──だから、何だと言うのだ。

 

「これで……二人目!」

 

風が一つ、戦場を駆け抜ける。背中側に感じられる鉄臭い匂いと生温い感触。そして、翼の柔らかい感触を確かめつつ、私は全ての魔力を身体の中へ引っ込めた。

 

当然、ガクリと身体が傾いて地面目がけて急降下を始める。紙飛行機を真上に向かって投げたときに、勢いが完全になくなってガクリと天地が一気に逆転するという不規則な動きは、技の後隙を狙って突撃してきたエーアストの一撃を躱すことに成功した。

 

「……迂闊ね」

「イレギュラーッ!」

「あとは貴女だけよ。これで私のショーは終わるわ。勿論、貴女の命もね」

 

フワリと宙返りすることで距離を取って悠然と微笑む。エーアストは人形のように美しい顔を盛大に歪め、“感情など無い”という前情報を覆すかのような声を出した。

 

「神の使徒に並ぶなどっ、不遜と言うのです! 沈みなさい! 八重樫露葉ッ!」

「はっ、並ぶだなんて笑わせてくれるわね。まだ気がつかないの?」

 

使徒にあるまじき激昂を上げ、双大剣を振るってきたエーアストを鼻で嗤う。双大剣の衝撃を小刀一本で、念の為に〝木葉舞い〟も使用して受け流し、一瞬私たち二人の視線が交錯したところで私は口元を三日月のように裂いた。

 

「これで終幕よ──〝常闇乱舞・嘘重聯奏(きょじゅうれんそう)〟」

 

途端、私の背中から無数の“私”が現れた。同時に周辺が闇に包まれ、五感のうちの視覚と聴覚が一時期に封じられた。闇に包まれたとはいえ、小刀で攻撃できる超至近距離なら普通に姿を補足することが可能である。

 

ちなみに何故聴覚なのかというと、闇を発生させるついでに音遮断を出しておいたからである。欠点は自分も音が完全に聞こえなくなることだが……。

 

今はそこまで気にならないだろう。というか、私は音を聞かなくても気流で人の気配を感じ取ることが出来る。私にとってマイナスな面は正直なところ、殆どゼロだ。

 

実体を持った分身と私がエーアストの身体を切り裂いていき、何百もの幻像が彼女の狭い視覚を徹底的に狂わせていく。ある幻像は単に切り裂きに行き、またある幻像はあるはずのない仕込み針を投げつけようとする。

 

実際のところは一対五。しかし、視覚的には一対数百。その殆どが幻像だと気がつくことは不可能だ。何故なら、幻像は私や分身と比べて動きが遅めであり、幻像を認知した次の瞬間には背後から容赦ない攻撃が複数回繰り出されるからだ。また、幻像と重なるように攻撃をする分身だって居る。気がつくことは一生かけても無理だ。

 

嘘の存在によって何重にも苦しめられ、そのまま死ぬまで延々と聯奏(デスマーチ)をその身に味わってもらう。それが、嘘重聯奏。

 

『終わりよ』

 

音のない世界で、普通なら私の声は誰の耳にも届かない。しかし、エーアストにはハッキリと伝わったのだろう。最後の最後だけ、目を見開いた顔をしながら本体である私の方向へ身体の向きを変えてきた。

 

それが、最悪の選択だということを知ったのは、心臓に位置する魔石を小刀で抜き取られてからであろう。

 

闇が晴れ、音が戻る。私は小刀を地面に投げ捨てた。

 

「……この、胸の内に湧き上がるものはなんでしょう。締め付けられるような、叫びたくなるような、これは。八重樫露葉。貴女には分かりますか?」

「悔しいんでしょう。力が及ばなくて」

 

振り向くことはない。振り向かなくても、エーアストがどうなっているかは分かっているから。

 

空からエーアストが持っていたであろう双大剣が半ばから折れて降り、地面に突き刺さる。やけに静かな時間がほんの少しだけ流れた。

 

「悔しい、ですか。なるほど。今、私は悔しいのですね」

 

エーアストが、こちらを見た気がした。私は、振り返らず、地面に突き刺さったままの長刀と小刀を魔力で運び、手にして鞘に収めた。

 

「私、あなたが嫌いです」

 

ドサリと後方で何かが墜ちた音が聞こえた。私が振り返ることは、遂にはなかった。というか、出来なかった。

 

何故なら、意識が朦朧としたなと感じた次の瞬間には目を閉じていたからである。

 

────────────────────

 

「まさかっ、有り得ないっ! 第一から第三を圧倒するなどっ!」

「叫ぶ暇があるのか? 羨ましい限りだな」

 

イクサカリバーが一閃。フィーアトとフュンフトの双大剣が弾き飛ばされた。

 

俺は強化されているであろう使徒二人を引き受けて戦闘を繰り広げていた。その間、俺は露葉さんが三体の使徒を圧倒しているのを尻目に見ていた。

 

そのぐらいの余裕が俺にはあった。彼女と違って俺はイクサを纏っているので、そこまで苦戦することもない。普通の使徒の三倍近い力を持っていそうだが、その程度では俺との力量差が埋まることはない。

 

「舐めるのもいい加減にしてくださいっ!」

「貴方など、神の使徒の前には塵にも等しいです! 今すぐにでも消え――」

「だから、喋ったり叫んだりする余裕があるのかって聞いてるんだ。随分な余裕をお持ちのようだが、一切動きについて行けてないじゃないか。そんな動きで大丈夫か?」

「大丈夫です。問題などありませんっ。貴方に心配されなくてもっ」

 

返して欲しい言葉で返してきた使徒に少しだけ感心しつつ、俺はカリバーフエッスルを取り出した。そのままベルトに放り込み、ナックルを内へと動かす。

 

『イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

「お遊びはこれで終わりだ。お前らに訪れる未来は一つもないってこと、証明してやる」

 

背後に太陽が現れる。イクサカリバーには纏雷のように蒼い電撃が迸り、刀身が徐々に赤熱化していった。

 

技を放たせまいと、使徒二人は炎の津波や銀翼の嵐をこれでもかというほど俺に叩き付けてきた。無論、どれか一発でも生身の身体に直撃すれば死は免れない。

 

しかし、どういうわけか死の砲撃は全て俺の手前で消えていく。どれだけ攻撃しても、それらが俺の身体に届くことはない。

 

――不可視大型シールド。文音さんによって魔法打ち消しの効果が付与されており、大抵の魔法攻撃は跡形もなく消え去ってしまう。許容量を超えればその限りではないが、逆に言えば許容量さえ把握していれば絶対無敵の防御シールドと化する。

 

「な、なぜ届かないのですかっ」

「ありえない……そんな、ありえない! 神の使徒の攻撃が人間如きに――」

「人を舐めすぎなんだよ、三下。死ね」

 

縦にイクサカリバーを一振り。俺が振り終わってからコンマ数秒が経つと、斬撃が二人の使徒の首元を駆け巡った。

 

目を見開く二人の使徒。その表情は、不覚ながらも信じられない光景を見せつけられて現実逃避している何処かのバカ勇者にそっくりだと思った。あのバカ勇者は今ごろ地獄で何をしているのだろうか。

 

と、そんなことを考えているうちに使徒二人の首がズルリと地面に墜ちた。

 

「随分と呆気ない最後だったなあ……って、露葉さん倒れてないか?」

 

文音さんの警告があったことから少し身構えていたのだが、思いのほかアッサリと倒せたので拍子抜けしつつ、俺は倒れた露葉さんの元へ向かう。

 

途中で立ち塞がる魔物を斬り捨て、真っ直ぐ彼女の元へ向かっていると、俺は不意に地響きと地鳴りのような物を感じた。

 

いや、地響きと地鳴りではない。この世界全体が揺れており、世界その物が悲鳴を上げている。そう思った。

 

「空が揺れてる、のか? 地鳴りみたいなのは世界が終わりかけている? というか……空の裂け目が小さくなっているな」

「ハジメくん! 空がっ! それに裂け目の奥が崩壊しているよ!」

「何だって……? って、使徒が……」

 

俺の視線の先には、フッと霧散していく銀の光と、カクンッと力の抜けた使徒の群れ。

 

直後、操り糸を失ったマリオネットのように、光のない眼差しを虚空に向けた使徒達がバラバラと地面へ墜ちていった。

 

「何が、起きているんだ……」

 

俺の声が、地鳴りのような音によって虚しく掻き消されていくのだった。

 




次回以降は音也視点に戻ります。次からは音也視点から基本は逸らさないつもりです。

恵里の処遇はどうする?

  • 勇者バカ之河の被害者だから救おう
  • 消せ(無慈悲)
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