※この作品はR-18です。

その音色は異世界まで響き   作:誰かさん

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年内に終わるか微妙ですね……()
実は引っ越しの準備をしていて忙しいのです。中々筆を執る事も出来ず、更新が遅れてしまい申し訳ないです……。


第十三楽章 愛する人たちの為に

「貴様、何をしたっ」

 

魔力の津波とも言える凄まじい奔流がエヒトルジュエを吹き飛ばした。俺はゆっくりと立ち上がり、イクサハンマーを取り出す。

 

現在、俺の姿は黒いイクサのデストロイモードその物である。ただ一つ、これまでと異なっている点がある。それは、普段は顔を覆っているフェイスシールドがバーストモードのように開いていることだ。目の部分は紅色なため、黒いボディによく映えている。

 

「バカなっ。貴様のそのアーティファクトは、それ以上は姿が変わらなかったはずだ! 顔を覆う盾が開くという情報はないぞっ!」

「……そうだな。俺も初めて知ったよ」

「嘘をつくなっ! 最初からそれを狙って――」

「本当に知らねえんだよ。プロトタイプであるこのイクサが、バーストモードに変形するなんて」

 

俺も知らなかったのだ。俺が行った行動は、魔力と魔皇力を全解放しただけだ。リミッター解除とは内なる力を全て解放して全能力を底上げすることを意味しており、〝覇潰〟を発動させたということである。

 

リミッター解除=覇潰であり、単純に格好良く言ってみたに過ぎないのだ。だから、イクサが変形したことは余りにも想定外なのである。

 

だが、イクサがバーストモードのような姿になったことで顔部分からも電撃が迸っている。本当の意味で電撃を全解放しているのだ。イレギュラーな事態だが、結果から言えば強化である。

 

「まあ、ありがたいな」

「クソ、なんて誤算だ! もう少しで貴様の息の根を止めることが出来た物を!」

「おいおい、あの程度で殺せると思ったのか? イクサの変形抜きにしても、俺はあの状態から逆転するつもりだったぞ?」

 

本来の作戦は、〝覇潰〟を発動させることで脳を再度活性化させ、体力を回復させた後にここまで見てきたエヒトルジュエのクセを読んで決定的な隙を作り出し、最接近したときに確認した三人の魂魄に直接概念魔法をぶつけて救いだすというものであった。

 

手に入れた力全てを駆使してもエヒトルジュエから魂魄をぶんどるだけの隙を作り出すのは熾烈を極めるだろうと踏んでいたのだが、イクサが実質的に強化されるという嬉しい誤算が起こった。これなら……きっと行ける!

 

「返してもらうぞ。お前が取り込んでいる三つの魂も、十字架に磔られている身体も、全て俺の物だ。血の一滴、髪一筋。どれを挙げても俺の物。お前の物じゃない。だから――」

 

――【汝、触れることを禁ずる(俺の女たちに指一本触れるな)】

 

極限の意志から概念魔法をまた、発動させる。三人の魂魄への干渉禁止と、既にある干渉を断ち切る概念魔法を俺はイクサハンマーに付与し、ゆっくりとエヒトルジュエの元へ歩み寄る。

 

背中から立ち上る〝雷竜〟。地面を駆け巡る炎の渦。再度分離し、俺を守るように浮遊する棺桶たち。そして、宙に浮く様々な楽器。

 

「イレギュラー……! 舐めるなっ! その程度の力、またすぐにでも――」

「捻じ伏せてやる、か? 言葉のボキャブラリー少なすぎるだろ。それに……一つ忘れているんじゃないか?」

 

――お前は俺には勝てない(汝、我の力を超えることを禁ずる)ことを。

 

ドクンッ! と空間が脈打った。それも一度ではない。ドクンッ! ドクンッ! と何度も心臓の鼓動のように脈打つ。そのリズムは一定であり、まるで“音楽の指揮を執っている”ように感じられるだろう。

 

楽器が奏で始めた曲は「イクサのテーマ」と「空中戦」。そして「ウェイクアップ」をメドレーにした楽曲だ。時間にすれば約三分ほどのとても短い曲である。

 

しかし、その効果は目を見開いて驚くことになるだろう。特に、エヒトルジュエはそうだ。

 

「くっ、このぐらい!」

「――〝捻れる界の聖痕〟――〝引天〟」

「んなっ!?」

 

空間を歪ませて作った“黒い”十字架がイクサハンマーに吸い込まれ、エヒトルジュエ自体は一瞬で俺の元へ引き寄せられた。〝引天〟は対象の重力を操る魔法であり、簡単に言ってしまえば“対象のベクトルを思い通りに操作する”という物だ。

 

引き寄せたエヒトルジュエの首を左手で掴み、目一杯握り締めて持ち上げる。バキバキと鳴ってはいけない音がエヒトルジュエの首から響き渡り、曲がるはずのない方向にガクンと首が折れたのを確認した俺は、イクサハンマーをエヒトルジュエの心臓部分にゴツッと当てた。

 

途端にエヒトルジュエの体が空中に固定された。足掻こうに足掻けないらしく、エヒトルジュエは驚愕の表情を浮かべている。

 

「食らえ……!」

『イ・ク・サ・ハ・ン・マ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

「ま、待て――」

 

ハンマーから耳をつんざく轟音が鳴り響く。ハンマーへチャージされる電撃は唸り声を上げ、雷が落ちたときの逆再生をするかのように空高く駆け上がった。概念魔法も同時にハンマーから滲み出て、その殺意をエヒトルジュエへ確実にぶつけようと牙を光らせた。

 

トリガーを握り締め、俺は一呼吸置くと地面を〝縮地〟で踏み抜いて一気に急迫した。

 

ゴォガアアアアアアアアアン!!!

 

そして、何の躊躇いもなく放たれる必殺の一撃。天高く駆け上がった蒼い雷が今度は真っ逆さまに墜落し、轟音を轟かせながらエヒトルジュエの心臓を狙い違うことなく打ち抜いた。

 

「がぁあああああああああああああっ!!?」

 

と、同時に響き渡ったのはエヒトルジュエの絶叫。ただイクサハンマーで打ち抜かれたにしては有り得ない焦燥と苦痛の悲鳴を響かせている。

 

それもそうだろう。イクサハンマーに付与された概念魔法は【汝、触れることを禁ずる(俺の女たちに指一本触れるな)】だ。現在、エヒトルジュエの体内ではすっかり目覚めた三人の魂魄が、奴の身体から抜け出そうと暴れ回っているだろう。

 

しかも、ファンガイアバスターで散々撃ち込んだ“魂魄強化”を付与した弾丸によって彼女たちの魂魄はかなりの強化をされているはずだ。更に、演奏によってエヒトルジュエの魂魄は逆に弱められている。ジワジワとではあったが、だからこそ気がつかれることなく策を進めることが出来た。

 

しかし、エヒトルジュエは苦悶の表情を浮かべてはいるが、何とか暴れる魂魄を抑えつけることに成功しているようだ。それ程までに、信仰心変換の秘技により昇華した神の力というのは絶大なのだろう。

 

「舐めるなっ、小娘共っ。その魂は我のものだ! 後顧の憂いは残さん! 貴様らの意思、今度こそ捻り潰してくれるっ。その次は貴様だっ、イレギュラー! ははっ、この程度の概念など我が力の前では――」

「誰が、これで終わりだと言った?」

「――な、に?」

 

およそ神らしくない間抜け面を晒したエヒトルジュエ。続けて俺は、奴の心を絶望の淵へ追いやる言葉を投げかけた。

 

――その程度の事態は想定済み。既に手立てを打ってあると。

 

俺はニヤリと仮面の中で笑みを零すと、呪いの言霊とも言える言葉を放った。

 

「――【言霊のままに世界を歪める】」

「また概念魔法かっ」

「〝エヒトルジュエ。今すぐその魂たちを俺に返せ〟」

「ふ、ふん。何を……これはっ!?」

「全てはこの時の為の布石だ。この概念魔法を、お前に直接ぶつけるための、な」

 

俺が作り出す概念魔法は、恐らくこれが最後だ。何故なら、この概念魔法さえ使えるなら他の概念魔法は必要としないからである。

 

ここまで何度も概念魔法を生み出してきたのは、概念魔法を作り出す感覚を掴むため他ならない。リューティリスのフワッとした説明と、たった数回の概念魔法発動では掴みきれなかった感覚を何とかして掴もうとしていたのだ。

 

限界まで機能している脳味噌をフル活用した結果は大成功。概念魔法を作り出す為に必要な感情の度合いや魔力を完璧に把握することが出来た。

 

そうして発動させた最後の概念魔法は、【言霊のままに世界を歪める】だ。端的に言ってしまえば、口にしたこと全てが現実として具現化されるのである。

 

“壊れろ”と口にすれば壊れる。“消えろ”と口にすれば消える。文字通り、世界を簡単に歪めてしまうものであり、概念魔法の極致とも言える。

 

「お前でも逃れることは出来ない。抗うことすら許さない。そのために作り出した概念魔法だ」

「こ、このぐらい神言で打ち消してくれるわ!

エヒトルジュエの名において命じるっ、〝静まれ〟!」

「無駄だと言ってるだろ? 〝エヒトルジュエ、抵抗を速やかに止めて魂魄たちを解放しろ〟」

「ば、バカなっ。貴様如きにっ。ただの人間如きに、この我が負けるはずがっ!」

 

いよいよエヒトルジュエは脂汗を浮かべて焦りを露わにした。抵抗が強くなって抑えつけが効かなくなってきたのだろう。必死に魂魄を逃すまいと歯を食いしばり、遂には俺から目を逸らしてでも抑え込もうとし始めた。

 

俺は静かにナックルフエッスルを手に取る。何時もの手順でベルトにフエッスルを放り込み、静かにナックルを内へ動かした。

 

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ・フ・ル・パ・ワ・ー』

「……〝その電磁波を剣へ変えろ〟」

 

ブロウクン・ファングが発射されることはなく、細く伸びて一本の剣へと形を変えた。橙色の電磁波の剣は絶え間なくスパークしており、また概念魔法を当たり前のように纏っている。

 

再度【汝、触れることを禁ずる(俺の女たちに指一本触れるな)】纏わせたイクサナックルは、先ほどのイクサハンマーを遥かに上回る強さの概念を秘めており、直撃させれば間違いなく対象への干渉を断ち切ることが出来る。

 

故に、この技は俺の愛する人たちを助けるための切り札でありプランの最終段階である。

 

「雫、力を貸してくれ……!」

 

既に死に、今は俺の魂魄と溶け合っている雫の魂魄に願いを言う。答えが返ってこないと分かっていても良い。ただ、想いだけでも力を貸して欲しかった。

 

『当たり前よ』

「……ああ、そうかい」

 

俺は、彼女の声を聞いた気がした。そして、彼女の笑顔を見た気がした。

 

一度目を瞑って呼気を整えた俺は、目を見開くと一歩を踏み出す。コツコツと足音を鳴り響かせ、ゆっくりと、しかし確実にエヒトルジュエの元へ近づいていく。

 

エヒトルジュエは狂乱したのか、怒濤の魔法攻撃を繰り出してきた。空間が酷く歪められ、神罰の如き雷が多数降り注ぎ、幾つもの太陽が俺の全身を覆う。バブル光は周囲を容赦なく爆発させる。

〝真なる神威〟は何度も俺の身体を焼き尽くそうとする。

 

それが何だと言うのだろう。人の硬い意思の前に、神程度の攻撃が何だと言うのだ。

 

「どうした? もう抵抗は終わりか? 神言とやらで、俺の力をはね除けてみろよ」

「く、来るなっ」

「俺は天邪鬼なんだ。“来るな”と言われたら行くしかねえよなあ?」

「や、止めろ! 止めろと言っている! このエヒトルジュエが止めろと言っている! 言うことを聞け! 止めろと言っているのだ!」

「おいおい。神様ともあろうお方が無様なもんだなあ? いや、元から神ではなかったな」

 

空間固定されたエヒトルジュエの前へ立つ。恐慌したのか、エヒトルジュエは自分が巻き込まれることお構いなしで殲滅魔法を放ってきた。が、たった一言によってその抵抗も露と消えた。

 

「――〝消えろ〟」

 

最後の抵抗も、俺の言霊と共に消え去った。絶望を露わにし、それでも尚何とかして助かろうとしているエヒトルジュエを見た俺は悠然と彼の横を通り抜けた。

 

何もしなかったことに、エヒトルジュエは目を見開く。俺はゆっくりと振り返った。

 

次の瞬間。

 

「――ガァッ、ガハッ!?」

 

エヒトルジュエの全身から血が噴き出た。同時に、エヒトルジュエの身体から狐火のような物が三つ離れていった。

 

在るべき場所に帰ろうとする狐火を、空間固定から強引に抜け出して我が身に再び取り込もうとするエヒトルジュエ。手を伸ばし、必死の形相で追いかけていく。

 

「――〝止まれ〟」

「ぐ、あっ。き、貴様あああああああ!!」

「――〝その口を閉じろ〟」

「ッ――」

「――〝剣から球体に戻れ〟――〝その鎖を解き放て〟!」

 

突き出したイクサナックルから殺意が解き放たれた。視界を一瞬にして“白”で覆い尽くし、全ての音がシャットダウンされるほどの勢いで電磁波が極光のように発射される。イクサがボロボロと形を崩す。フルパワーで撃ったが故、電力がなくなったのだ。それでも、俺は自分の身体から電撃を発生させてイクサナックルに注ぎ込まれる電流の強さを上げていく!

 

一切を吹き飛ばす死の砲撃。そして、全てを取り返すための一歩。誰かのためじゃない。俺のための一歩だ。

 

光がやがて晴れ、視界と音が戻ったところで俺は十字架の元へ駆け寄った。枷を破壊して地面に落ちそうになる三人をそれぞれ受け止める。

 

「ん、んう……音也?」

「おはようさん。俺の吸血姫」

「……ん、信じてた。私のヴァイオリニスト。それに、会いたかった」

 

最初に目が覚めたのはユエ。お互いの冗談めかした呼び名に、俺たちはくすりと微笑みを零し合う。ユエの“会いたかった”発現に笑みを深め、俺は彼女の華奢な身体を強く抱き締める。

 

「ご主人様……かえ? 信じておったぞ」

「よお、俺の竜(ドラゴン)。待ってたぜ?」

「くふふ、ご主人様から“俺の物”扱いとは。これ程にまで嬉しいことはないのぉ」

 

次に目が覚めたのはティオ。ニヤリと、お互い大胆不敵な笑みを浮かべる俺とティオ。彼女の心からは、必ず助けてくれると確信していたと分かる自信に満ち溢れた物が流れ出していた。

 

「あ、音也。おはよう。来てくれたんだ」

「おはよう。逆に逃がしてくれるとでも思ったのか? それなら残念だったな」

「君もかなり重たい愛を向けてくるねえ。とても嬉しくて、色んな所が勃っちゃいそうだよ」

「こんな時にそんな言葉が出てくるなら問題はなさそうだな」

 

最後に目を覚ましたのは恵里だ。向け合う眼差しは軽い物。しかし、その奥には深い愛情と信頼が込められている。彼女の頭を軽く撫でると、くすぐったそうに身体を揺すらせた。

 

全員との口付けは、自然だった。互いに触れ合うだけの、されど最大限に想いを乗せた優しく甘い、溶けるような口付け。

 

全員との口付けを終えると、俺は再度全員を抱き締める。二度と離さないために。離れないために。お前たちは俺の物だと主張するために。

 

彼女たちもまた、抱擁を返すことで返答してきた。わざわざ他の人に見せつけるかのように愛し合っている理由は簡単だ。誰かに見せつけるためである。

 

「ふん……」

 

軽く手をかざして真横に障壁を張る。何故なら、凄絶な殺気と共に莫大な光の奔流が襲いかかってきたからだ。

 

張られた障壁は難なく空間を軋ませる勢いで放たれた光の砲撃を受け止める。そんな俺の姿に見惚れているのか、恍惚の表情を作った三人に苦笑いを零すと、狂気を孕んだ呪詛の如き言葉が響いた。

 

『殺すっ、殺すっ、殺すっ、殺してやるぞっ、イレギュラーッッ!』

 

障壁の向こう側、光の砲撃の起点。そこには、光そのもので出来た人型が浮遊していた。その浮遊する光の人型の頭部と思しき場所、その口元が憤怒をあらわしているように歪に歪む。

 

ぼやけた姿でもよく分かる。声音が違っても、憤怒に彩られていても、その滲み出る下劣さは間違いようもない。

 

その光の塊は紛れもなくエヒトルジュエだった。

 




エヒトルジュエと三人の魂魄を切り離すに当たって、ファンガイアスレイヤーでスネーキングデスブレイクでも使おうかと迷ったのですが、結局はブロウクン・ファングに落ち着きました。

次回は最終決戦です!

恵里の処遇はどうする?

  • 勇者バカ之河の被害者だから救おう
  • 消せ(無慈悲)
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