その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「な、なんだ? 急に寒く……」
さっきまでは何ともなかったのに突然寒気を感じる。言うならばインフルエンザを患った時の悪寒である。同時に節々の痛みを感じて思わず地面に膝を付いた。
「あ……がっ」
さらに追い打ちで全身に強烈な激痛が走った。まるで体の内側から何かに侵食されているようなおぞましい感覚。その痛みは、時間が経てば経つほど激しくなる。
あまりの痛みに声すら上げられずに俺は蹲り、地面に何度も頭を打ち付けて意識を強引に保つ。毒があるのは知っていたとはいえここまで壮絶な痛みが走るのは聞いていない。
体が痛みに合わせて脈動を始め、ドクンッ、ドクンッと体全体が脈打つ。至る所からミシッ、メキッという音さえ聞こえてきた。痛みは収まるどころか増していき、ほんの少しでも力を抜いてしまうと意識が途切れてしまいそうだ。
ここで気絶したらまず間違いなく死ぬ。本能的にだがそれを感じ取った俺は必死になって意識を繋ぎとめる。ここで死んでしまったら雫はどうなるのだ。既に俺は死んだと伝えられてるかもしれない。しかし生きていればいつか再会することだってできるのだ。
我ながら身勝手なのは承知してるが……俺は雫の少女らしい笑顔を守りたい。苦笑いではない。心からの笑みを守りたいのだ。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
「ぐっ……があああ!!」
膝に力を入れ、拳を握り、壁に寄りかかりながもなんとか立ち上がる。顔中から汗が噴き出し筋肉がはち切れんばかりに膨張しているが……まだ耐えられる。
少しずつ痛みに慣れてきたので移動を開始する。いつまでも留まっていないで前へ進まなければ……。
「こ……なく……そっ!」
ジャリッジャリッという音が辺りに響き渡る。そういえばなぜ俺はこんな目に遭わなければならないのだろう。
本来なら食うことはない魔物の肉を食わざるを得ない状況まで追い込まれ、もしかしたら何日もの間寝ている状況を作り出したのは……。
「……檜山。あいつか」
元はと言えばあの大馬鹿野郎のせいだ。あいつが軽薄な行動を取らなければ俺やハジメはこの奈落の底に落ちることはなかった。
俺はこんなにも苦しまなくても良かったのかもしれない。
雫と離れることもなかった。
あのベヒモスは俺とハジメをここまで突き落とした。
召喚した神は否が応でも戦わざるを得ない状況を作り出した。
憎い。何もかもが憎い。自分さえも憎い。
が、すぐにその憎しみはどうでもよくなった。憎む暇があったらこの状況を打開する方法を考えた方が遥かに良いだろう。
「俺は何に脅かされている……」
それは敵。
「敵はどうするべきだ」
倒せ。
「倒す? 生温い……守るべき者のために敵は殺す方が遥かに良い……」
一つずつ答えを導き出していく。これまでの考えとは比較にならないぐらいに危険で、しかし合理的な考えがまとまってきた。
「敵は……殺す」
俺の尊敬する音也とはかけ離れた思考。それでも良かった。守る者のためなら俺は躊躇なく障害を排除すると決めたのだ。
守るべき者は守る。消しべき存在は抹消する。
ただそれだけだ。
そんな覚悟を試すかのように現れた二本の尻尾が生えた狼たちを睨みつける。
痛みはもう感じない。それどころか以前よりも力を感じる。なんか視点も高くなった気がする。
「「「グウルルル……」」」
「来いよ。狼……」
ファンガイアスレイヤーモドキを取り出す。二尾狼相手ならナイフで十分だろう。単体はそこまで強くないはずだ。
「「「グウガアアアア!!!」」」
バチバチと放電しながら襲いかかってくる二尾狼たち。一体目はスルーして二体目にナイフを突き刺し三体目には感電構わず回し蹴りで対処した。
ゴギュッ! と嫌な音を立てて吹き飛んで行く狼を目から放してナイフを立てた狼の顔面を蹴り抜く。そして再度突進してきた狼に鞭で叩きのめす……。
「グルァアアー!?」
「ギャンッ?!」
「クウ……ウン」
さっきのウサギを食べたからなのか、蹴りの破壊力が格段に増している。下階層の魔物の頭蓋骨を一撃で粉砕するまで強化されるだなんてあのウサギ、やはり恐ろしい。
いや、オリジナルならもっと破壊力があるかもしれない。何せ魔物というのはバカの一つ覚えを極めたような生き物だ。所持している固有魔法はきっと恐ろしいレベルにまで技術を上げてるに違いない。
「グウルルル……」
「痛いか? そりゃそうだろう。だがお前はそうやって殺意を見せた以上は俺の敵だ。敵は殺す」
ザシュッと血が撒き散らされる。返り血を舐め取りながらも俺は再度突き刺してとどめを刺し、既に事切れている狼たちも鞭で回収した。
そして器用に鞭で空中に浮かせると変形させたナイフで四肢を切り取り臓器を取り出す。
「まだ足りねえ……もっと食わねえと」
何日も物を飲み食いしなかった乞食のように狼の肉を貪り食う。バリバリグチャグチャと汚い音を立てながらも食うその姿はまるで悪鬼のようだと感じる。日本にいた頃の礼節ある食い方は……ここでは必要ない。
「あが、ぐぅう、まじぃなクソッ! ウサギも狼も大して変わらねえ!」
悪態をつきつつもその手は止まらない。酷い匂いと味に苦しみながらも完食する。
最後に残った骨を壁に放り投げてステータスプレートを取り出した。実は先ほどから体に妙な感覚があるのだ。別に痛くはないのだが気になる物は気になる。
それに狼の頭蓋骨を一撃で粉砕した蹴りについても色々と調べてみたい。
「どれどれ……」
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紅音也 16歳 男 レベル:10
天職:ヴァイオリニスト
筋力:400
体力:620
耐性:550
敏捷:340
魔力:300
魔耐:300
技能:ヴァイオリン演奏技術・共感覚・絶対音感・生命力増強・毒耐性・全属性適正・胃酸強化・魔力操作・天歩[+空力][+縮地][+豪脚]・纏雷・言語理解
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「……なんだこりゃあ?!」
レベルはまだ10。にもかかわらずこの数値。レベルはその人の到達度を表していることから考えると、俺の成長限界も上がったのだろうか。
それにしても新技能がたくさん増えた。魔力操作ってのは……魔物の特権だったはず。こいつがあれば詠唱も魔法陣も必要がないということを座学で習った。しかし手に入れる方法が魔物を食うっかなく、しかも魔物の肉には毒があるためこれまで人間は手にすることができなかったとか。
しかし俺は幸運なことに死ななかった。生命力増強はこんなとこでも役に立ったようだ。
「こいつはとんでもない特権を手に入れちまったな……しかも狼が使ってた放電攻撃やウサギが保持していたであろう高速移動や脚力強化に多段ジャンプまで……」
自然と乾いた笑みが浮かび上がってきた。ただの捕食のつもりがこんなことになってしまった……。
しかし、だ。これだけ一気に強くなれたのなら……雫に会いに行ける可能性はグッと高まる。この暗闇の中に俺は希望を見つけられたのかもしれない。
「……もっと食おう。雫に会うためにも」
俺は一人決意し、新しく手に入った技能の鍛錬をしつつも先へと進むのだった。
毎回物語大きく動いてる気がしますが……次回も大きく動きますよお!()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)