その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
話は少し遡る。
迷宮から音也とハジメを除いて帰還したクラスメイトたちは当然ながら精神的に疲弊して訓練ができる状態ではなかった。
訓練を続けていたのは意識高い系男子の光輝や脳筋の龍太郎、強くなると決意した香織に豹変した雫ぐらいなものだった。
その中でも雫の成長は目覚ましかった。神業とも言える剣技に加えて豹変した心は皮肉なまでに技術を高めていったのである。
「邪魔者は一切合切斬り捨てる」
そう決意した雫に敵う人間は存在しなかった。なにせ見当違いなことを言えば即刻斬り捨てられるのだ。あの光輝ですら迂闊に話しかけられない空気になってしまったのである。
まあ雫の怒りの矛先は光輝や龍太郎、そして檜山に向いている。まるで鬼か夜叉のような雫に下手なことを言えるわけがない。
ある日の訓練時である。この日は模擬戦の日であり、これまで訓練に参加してなかったクラスメイトも強制的に参加させることとなっていた。
そんな中、幸か不幸か……雫と光輝がやり合うカードがあった。いつぞやの武舞台に立って待つ光輝。その前に現れたのは……。
「し、雫?!」
「なによ」
「そ、その髪は……」
髪色が真っ白になった雫であった。艶のある黒髪は……苦労人気質の性格と共にどこかへ消えてしまったらしい。
「何か文句でもある?」
「なんで……なんでそんなことに」
「貴方のせいじゃない。貴方が音也を見殺しにしたでしょ?」
「そ、それは雫を思って!」
「どの辺りが私を思っているのよ」
ハイライトのない目で睨みつけられて萎縮する光輝。美人を怒らせると怖いとはまさにこの事だ。
「何も知らない癖に良く言えるわね。そんな減らず口」
「んなっ……お、俺は雫の幼馴染みだ! お前のことは何でも……!」
「ならなぜ止めたの? 貴方もよ……龍太郎。私のことを知ってるのになぜ止めたの?」
「そ、それは……」
「なんでだよ雫! 俺たちはお前が死なないために……壊れないために止めただけじゃねえか!」
「見当違いも良いとこね。もう良いわ」
「雫っ!」
「これは模擬戦。とはいえ手加減は不要よね?」
「ま、ま──」
「〝縮地〟」
悲壮とも言える覚悟の恩恵として雫のステータスは勇者である光輝を遥かに凌ぐレベルになっていた。雫の縮地に体勢を崩されて苦しそうな顔をする光輝。
「くっ……!」
「〝無拍子〟」
「んなっ?!」
縮地の最終形態である〝無拍子〟を平然と発動させて地面を震わせるほど強い踏み込み〝震脚〟をしながら光輝に斬りかかる。
「一ノ型 〝散露〟」
キンキン! ガキンッ!
「くそ……! 迸れ 〝光爆〟!」
「二ノ型 〝残切〟」
魔法は使わずに己の剣技のみで対応していく雫。どう考えても普通ではない。
「その程度かしら? 残念ね」
「ば、バカにしてっ」
「貴方たちのことを私は深く怨んでるわよ。呪い殺したいぐらいにね」
「雫……なんでだ。どうしてだっ! まさかこれも紅が……」
「隙だらけ。とりあえずもう終わりよ」
容赦なく抜刀術の構えを取って突進する雫。慌てて迎撃の体勢を取る光輝だったが……神速の抜刀術には敵わない。
型も何もない、ただの抜刀術。基本中の基本の動きだ。しかし基本でも極めれば凄まじい破壊力を発揮する。
「ガアッ?!」
「無様ね……それでも勇者なのかしら?」
「し、雫……なぜ真剣でっ」
「言ったでしょ。殺すつもりだって。私としたことが斬る直前に手加減をしてしまったみたいだけども」
ゴミを見るような視線で光輝を見つめる雫。まるで某人切りの侍だ。
「何故という質問は聞き入れないわ。貴方たちが悪いのよ……貴方たちが」
そう言い残すと……雫はさっさとその場を立ち去ってしまうのだった。
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「くそ……なんでだ。なんで雫はっ!」
医務室で一人悪態をつく光輝。雫の慈悲によって斬りつけられた場所は太腿だ。香織が大慌てで回復魔法をかけて治療したがしばらくは安静にしろと団長に言われたのである。
ちなみに団長は雫の振る舞いについて何も言わない。これは団長が妻子持ちだからであり、雫の気持ちも痛いほど分かるからだ。ある意味で今、一番雫の心中を理解しているだろう。
「紅が……そうだ紅だ。あいつが雫に何か吹き込んだんだ。俺は何も間違ったことはしていない……」
どこまでも子供っぽく自分本位な考え。光輝に陶酔している他のクラスメイトからなら支持を貰えたかもしれない。
しかし……雫を本気で怒らせてしまったことにも気がついていない光輝が雫本人に支持を貰えるわけがない。
「あんな危険な男に入れ込むだなんて……あいつ、洗脳でもしたのかっ」
洗脳ではなく甘やかしただけである。
「許せない……そういえば香織も南雲みたいな陰キャなんかに入れ込んでたな。それもこれもあいつらが洗脳を……!」
ブツブツブツブツと独り言を呟く光輝。その目はほの暗く輝き、奥底に隠れている願望が見え隠れしているのだった。まるで、買ってほしいものを買って貰えなかった幼い子供のように。
次回はまた物語が先に進みますのでお楽しみに。お仕事お仕事…。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)