その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「いやあ……すごいなこれ」
夜。俺はベルトを持ち出して街を歩いていた。今日は地域での祭りがあったのでそれに出かけるついでだ。
「へいらっしゃい! たこ焼きはどうだい!!」
「わたあめはいかが~!」
「お嬢ちゃんチョコバナナを買ってきなよ!」
「活気があるなあ」
腰にベルトを巻きながらも祭りの様子を見て楽しむ。なにか食べようか……。
「おいテメェ! なにぶつかってるんだこのガキ!!」
「ん?」
「す、すみません家の孫が……」
「おいババァ! このスーツはよぉ。滅茶苦茶高かったんだぞ!!」
「すみません……すみません……」
「これはスーツ代と慰謝料を払ってもらわないとなあ?」
「お、お金は勘弁してください……」
「アア? なんだあババァ。口答えすんのかあ?」
「こ、これで……」
「20000円だぁ? 足りねえよこの野郎が!!」
「あ……財布は勘弁してください!!」
めんどくさいヤクザのような不良のような奴らが幼子と老婆相手に恫喝していた。どうやら幼子がたこ焼きをぶつけてしっまったらしい。ああいう奴は一度絡むとやめようとしないんだよな……。
「……ちょうどいい。イクサを試してみるか」
イクサナックルを取り出そうとした。その次の瞬間である。
「あの……その辺りで勘弁してやってくれませんか?」
「なんだこのガキはぁ。痛い目に遭いたくなければ今すぐ立ち去りな」
「いえ……小さい子をイジメるのは良くないです!」
「ああ? 口答えとはいい度胸だなあ?」
「これで……これで勘弁してくださいっ!!」
突如現れた男の子はものすごい勢いで土下座をした。頭を踏まれ飲み物をかけられて、横腹蹴られても唾かけられても男の子は土下座を止めようとしない。なんと勇気のある男の子なのだろうか。俺は口に出さなかったものの、心から感動した。
「そこまでだ」
「またガキか……」
「そんなに殴りたいなら俺にしろ。こいつらは関係ない」
「ほお……いい度胸だ。しかしお前一人で何ができる?」
目の前には多数のヤクザと不良を足して二で割ったような奴らが囲んでくる。
「俺一人か……いや、ちょっと違うぜ?」
イクサナックルを取り出す。まさかここが初陣になるとは思わなかった。
「紅先生が喧嘩のお手本を見せてやる」
『レ・ディ・ー』
「変身」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
ガチャンとスーツを着込んだ。やっぱり着心地は抜群である。快☆感だ。
「行くぜ……?」
「ヒ、ヒィ?!」
「あ、兄貴。ここは逃げましょう!」
「そ、そうだな! 覚えてろ!!」
すたこらサッサーと逃げて行った。囲いが解ける前に変身を解除しておいた。多分ばれていない……はず。
「なあ、大丈夫か?」
「え、ああ‥‥僕?」
「大した度胸だよ。感動した」
「はは‥‥」
「ああそうだ‥‥皆さん。お騒がせして本当にすみません。お詫びと言っちゃなんですがこれで勘弁して頂けませんかね」
持ってきていたヴァイオリンを取り出す。なぜか辺りがザワザワする中、俺は曲をチョイスした。
「それではお聞きください。ショパンのエチュードより‥‥"革命"です」
弾きやすい姿勢に体勢を変更。そこから半目を作り、呼吸を浅く細くする。少しでも音が鳴り響くように‥‥。
♪〜 ♪〜
「‥‥!」
水が流れるように音が鳴り響く。革命時の興奮、激情を強く激しく人の心に訴えかける‥‥。
あ、ちなみに言っておくと"革命"はピアノの練習曲だ。なのでヴァイオリンでピアノ譜を弾いていることになる。別に大したことないが。
※実際はとんでもない。めちゃくちゃキツイよ!
激情に身を任せ、革命戦争に乗り出した人民。しかしその中に犠牲は付き物。死んでいった人たちが叶えたかった夢を実現させるためにも生き残った人民は戦い続ける‥‥というような表現をひたすら続けた。
どこか哀愁漂う、しかし前にも増して凄まじい激情飛び交う戦場の情景を思い浮かべながらも‥‥曲の終盤へと辿り着いた俺はギアを上げた。
感情の行く先に革命後の世界。残るのは虚しい気持ちだけ‥‥争いは何も生まない。
最後に4つ音を刻んで‥‥演奏を俺は終えた。
「ふう‥‥」
残心しつつも弦から弓を離す。やっぱり曲を弾くのは楽しい。
「って‥あれ? なんで皆んなボケッとしてるの?」
「す、すす‥‥凄いよ」
「え?」
「凄いよ! こんな素晴らしい演奏は初めてだ!!」
「お、おお‥‥」
男の子が興奮した声で話しかけてきた。さらに‥‥。
「おいおい‥‥あの演奏はなんだ? 神か?」
「同志がここに‥‥」
「あれピアノ譜だよね? 凄くない?」
「‥‥あの人モーツァルトコンクールで見た気がする」
モーツァルトコンクール? そんなのもあったような気がするが‥‥演奏するのが楽しくて覚えていないな。
「あの‥‥君の名前を教えてくれない?」
「俺かい? 俺は紅音也だよ」
「く、紅音也ってこの前テレビに出てたよね?!」
「そういえばそうだなあ‥‥」
マスコミはこの年ながら苦手なのにテレビ出演したことを後悔してる。どっかの新聞は一曲聞くのに百万ドルとか言ってた。俺は本物の音也じゃないぞ。
「まさか百万ドルの価値があるとも言える演奏を生で聞けるなんて‥‥」
「感動しすぎ。というか君の名前は?」
「僕は南雲ハジメだよ。陰キャでオタクな14歳さ」
「自虐酷い‥‥」
「あはは‥‥」
「まあここで会ったのも何かの縁だろ。祭り、一緒に回らないか?」
「え、いいの?」
「勿論さ。嫌なことなんて一つもないだろ」
「それじゃあ‥‥喜んで!」
ニパッといい笑顔を見せたハジメ。うん、中々イケメンなんじゃないかな。
「あ、あの‥‥」
「私たちも‥‥」
「良いですか?」
「ちょい待て。女子率高くないか?」
「モテルねえ‥‥仮面ライダーキバに出てくる紅音也みたいじゃないか」
「あっちは自分から取りに行ってるだろ。俺はそうじゃない‥‥」
頭抱えたくなる。しかしまあ‥‥無辜にするのもよろしくないだろう。
「仕方ない‥‥俺の演奏を聞いてくれた子猫ちゃんたち。全員俺が愛してやるぜ」
「「「「キャアアア!!」」」」
効果は抜群だ。ここでまさか音也語録使うことになるとは思わなかった。
その後俺は、少しVIP気分を味わいながらも祭りの露店を回るのだった‥‥。
投稿ペースですがしばらくは不定期です。特に前章に関しては完成次第次話を投稿するのでよろしくお願いします
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