※この作品はR-18です。

その音色は異世界まで響き   作:誰かさん

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第十七楽章 ウェイクアップ

「ハジメっ!」

「音也! 丁度良かった。シュラーゲンを使うから時間稼ぎ頼む!!」

「合点承知ぃ!」

 

飛び出してきた青頭を蹴り飛ばし後続の緑頭にイクサナックルを打ち付ける。さらに黄頭の目の前で手榴弾を爆発させて踏み台にして黒頭と向かい合う。

雫やユエの時のように睥睨され、言いようのない不安が込み上げてくる。

 

力が及ばずに守りたい者も守れなかった光景が浮かび上がる。目の前で首を跳ね飛ばされ、死体には恥辱を加えられて……。

 

「……いや、そんなことはさせるかあ!!」

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

 

しかしすぐさまネガティブな思考は振り払う。これは最悪の事態。ならば……もっと強くなって目の前で死なせるようなことはさせなければ良いのだ。

 

「舐めるなよ……鍛えられた心を!」

 

黒頭目がけて威力を抑えた電磁波をすっ飛ばし、ハジメから見てヒュドラの頭が一直線になるように誘導する。そして……叫ぶ! 

 

「撃てえ!!」

「まとめて……あの世へ行け!」

 

ドガンッ!!! 

 

文字通り必殺の一撃が一直線上に並んだ六つの頭を捉える。黄頭が先頭に躍り出て周囲の鉱石をハジメのように錬成して盾を作って待ち構える……が、そんなことでハジメ特性のA・Aを耐えることなどできない。

 

素の状態ですら1500m先にある171mm装甲板を貫通できるトンデモ万能対空砲だ。それを電磁加速させて発射するのだから凄まじい破壊力になる。

 

そしてその破壊力は……俺の目の前で証明された。

発射された紅い雷は幾重にも張り巡らされた障壁や装甲をいとも容易く貫通し……狙い違わずヒュドラの首六つをなんなく貫いてしまった。

 

さらに紅い雷は直進を続け、遂には迷宮の壁をドロリと溶かしながら最深部の見えない穴を作って消えていった。

 

さしものヒュドラもチートレベルの貫通力には耐えられなかった……ということだろう。俺の目の前には首を溶かされて物一つ言わぬヒュドラの姿があった……。

 

「ハジメ、やったな!」

「おう。やっぱりこいつは戦車に搭載するべきだな……」

「凄まじい威力……人間の力でもここまでやれるとはな」

 

男三人、集まって労い合う。あの様子じゃヒュドラはきっと死んで……。

 

「?! 音也! ハジメ! キバット!」

「ユ、ユエ?!」

 

ユエが切羽詰まった様子で駆け寄ってきた。俺も背中にゾクリと嫌な気配を感じて……冷や汗を流す。

 

ゆっくりと振り返る。そこには……音もなく生えてきた七つ目のヒュドラの首があった。色は銀。どこか神々しい雰囲気と共に凄まじい、先ほどとは比べ物にならない威圧感を感じる。

 

さらに俺は鍛え抜かれた耳で嫌な音を一つ聴き取った。咄嗟にキバットを投げてハジメを突き飛ばし、ユエを抱えてその場から離脱する。

 

その次の瞬間……。

 

ゴパアァァァァァァァァアアア……

 

俺たちが元いた場所に天罰のごとく極光が降り注いだ。先ほどのハジメのシュラーゲンをも凌ぐ勢いだ。マトモに食らったらイクサを装着していても危ない。

 

「ハジメ、ユエ、コウモリモドキ! なんでも良いからあいつを!!」

「しつこい魔物だ…… 〝振動波〟!」

「ん……私もやる……! 〝天灼〟!」

「こんの……野郎がっ!!」

 

ドパンッドパンッドパンッ!! 

 

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

「うおおおおおおおおお!!」

 

未だに動けない雫を除いて俺たちは猛然と銀色のヒュドラに立ち向かうのだった……。

──────────────────

「……音也」

 

体が動こうとしない。今すぐにでも助けに行きたいのに足が動かない。ユエは動いたというのに、なんで私は動けないの?

 

私は……音也を助けたいのに。心とは裏腹に体は動かない。

 

「うわ効いてねえ!?」

「撃て! 撃ち続けるんだ! 魔力が枯渇するまで、銃身が真っ赤になるまで……!」

「分かっているが……これではジリ貧だぞっ!」

「私も……保つか分からない」

「くそったれ!」

 

私も手助けしたい。このままだとユエに取られてしまうかもしれないのに……。

 

こんなにも大好きなのに。

 

だからなの? 

 

涙が出てしまうほど怖いのは……音也が大好きだから? 

 

もしかして私は迷惑? 

 

「私は……どうしたら……」

 

継ぎ接ぎだった心にヒビが入る。元よりそこまで強い心じゃない。私の決意なんて……すぐに崩れてしまう。音也とは違って……。

 

ああ、私はなんて弱いのだろう。音也に会いたくてここまで来て、手助けしたかったからユエと競うように魔物を狩って。それなのに……大事なところでは怖くて竦んでしまって。

 

これじゃあ捨てられても文句は……。

 

「雫?! 危ない!!」

「え……」

 

思わず声がした方向を見る。私の目の前にあるのは……明るい光。明るくて冷たい光。あれを浴びたら私は永遠に音也の中で生きられるのかもしれない。

 

だけど……怖い。死ぬのはもっと怖い。

 

だからなのか、私は一ミリも動けずにその場に佇んでいた。傍から見れば生きることを諦めたようにも見えるかもしれない。でも……役立ずなら仕方が……。

 

「させるかあ!!」

『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』

「バカ! 三発は無茶だ!!」

「こんなとこで失ってたまるかよおおお!!」

 

極光目がけて思いっきり振りかぶり右のストレートをぶつけに行く音也。同時に凄まじい余波が発生。私は吹き飛ばされて壁に打ち付けられてしまった。

 

「あう?!」

「ぐううう……!」

「いっつ……はっ! 音也ぁ!!」

「しず、く? よかっ……無事……で……」

 

ゴオオオオオオオオオ……

 

極光が音也を……飲み込んだ。

 

やがて極光が収まり、目の前に音也が現れる。変身が解けてしまっても同じ姿勢。しかし体の至る所から煙りが吹き出している。

 

「はあ……はあ……」

 

ドサッ

 

「音也っ!!」

 

前に倒れ込む音也。慌てて駆け寄り音也を仰向けにすると、南雲くんから貰ったポーション(神水)を飲ませた。これは南雲くんが魔物の肉に含まれている猛毒すらも無効化したものらしい。回復力は折り紙付きだったはずなのだが……。

 

「なんで……なんで回復しないのっ?!」

 

片目が焼け落ち、至る所から骨が露出するという酷い状態から少しずつは回復している。しかし……あまりにも遅い。

 

「お、おい! 音也は生きてるか!」

「ええ! なんとか生きては……!!」

「悪いが看病は任せた! ユエ、キバット!」

「ん!」

「おう!」

「音也……音也しっかりして!」

 

正に死に体の音也を抱きしめて泣き叫ぶことしかできない。彼の体を何とか出来るわけではない。

 

「……私のせいだ。私が動けなかったから音也が……」

 

私を守るために瀕死になった音也を見て……どうしようもなく怒りが込み上げてきた。

 

私が動けなかったから。

 

私が弱かったから。

 

音也がこんな目に……。

 

「……音也」

 

手持ちのポーションを全て飲ませる。そして私は……立ち上がった。

 

「……今度は私が、貴方を守るわ」

 

先ほどまでは前に進まなかった足。しかし今では……こんなにもスムーズに踏み出せるではないか。

 

「私の……私の音也をよくも傷つけてくれたわね。絶対に……許さない」

 

私は地面を蹴り飛ばし、縮地で一気にヒュドラの元へ駆け寄る。そして今、私が持てる全ての技術を駆使してヒュドラに斬りかかるのだった。

──────────────────

「……」

 

雫が駆け抜けて行った。どうやら吹っ切れたらしい。

 

それにしても体中が痛い。雫が神水を飲ませてくれたおかげで極光に含まれていたであろう毒素をなんとか中和できたらしく、露出した骨や焼けただれた肌は元の状態に戻っていった。

 

しかし、痛みは消えない。左目に関しては欠損してしまったようだ。いくら神水でも欠損した部位を元通りにすることはできない。ハジメが左腕を戻せなかったのと同じである。

 

生まれて初めての出血多量に意識が朦朧とする中、雫たちがヒュドラと激しく命の奪い合いをしているのを感じ取る。

 

銃声が鳴り、魔法がぶつかり合い、剣が斬り刻む。しかしヒュドラの気配は一向に消えない。むしろ強くなっている。学習しているのだとしたら……それは厄介だろう。

 

「ぐはっ?!」

「南雲くん?!」

「ぐあ!?」

「キバット! あぐっ?!」

「ユエ! この……!!」

 

一人突貫する雫。凄まじい速度でヒュドラの周りを周り、殆ど無詠唱に近い速度で剣技と魔法を繰り出していく。しかしそれらも全てなんてことなかったかのように受け流されている……。

 

「この……このっ! 倒れろ……!!」

「しず……く」

 

無理やり立ち上がる。無茶だ! と叫びたいが声が掠れてしまって無理か……。

 

「クルゥァァアアン!!!」

「ぐう?! しま……」

 

ズガガガガガガガガガガガガ!! 

 

「しず、く!」

「うぅ……うぅ……」

「そんな……全滅かっ」

「くっ……」

「いやあ……たすけて……」

「みんなっ」

 

ハジメとキバットの傷は比較的浅いようだ。なんとか立ちながらヒュドラを睥睨している。しかし雫とユエはもう動けないらしい。

 

ヒュドラは「勝った!」という表情を浮かべ……口をガパリと開いた。

 

途端に……俺の心に凄まじい怒りが湧き上がってきた。雫が泣いている。ユエが泣いている。俺の女が泣いている……! 

 

そんな奴を許せると思うか? 

 

答えは否! 断じて否だ!! 

 

敵は……邪魔者はどうするんだ? 

 

殺す。殺すだけだ。

 

守るためにも……殺せ。

 

殺せ、殺せ、殺せ! 

 

「ぐおおおお…… 〝縮地〟!」

「へ……?」

「おとや?」

「……泣くなよ。お前らの勝ちだ」

「お、音也?!」

「バカ、その状態で無理を……!」

「コウモリモドキ……もう一度力を貸せ!」

「今さっき無茶をするなと言ったばかりではないか!」

「守るためにも……無茶はしないとなあ!」

「命が惜しくないのか……」

「惜しくなんかないね。守れるならそれで良いさ」

 

「どうなっても知らないぞ……ガブリッ!」

「っ……!」

 

「変身」を言うこともなく俺は鎧を身に纏った。恐らく繰り出せる技は殆どない。どんなに頑張っても……意識が保てるのは技を出し切るまでだ。

 

「決めるぞ……ウェイクアップだ」

「本当に……やるんだな?」

「当たり前だ。愛する人たちを……守るためにな」

「……そうか」

「覚悟は出来ている。行くぞ!」

「どつなっても知らないぞ……ウェイクアップ・II !」

 

笛を二回鳴らさせる。ウェイクアップ・Iが急降下パンチならウェイクアップ・IIは急降下キックだ。辺りが皆既月食の夜のような空間に包まれ、紅い月が不気味に輝く。その中で俺は両手をクロスさせて下を軽く俯き……目の前に佇むヒュドラを睥睨した。

 

互いに睥睨し合う両者。緊張が空間を支配し、正に状況は一触即発だ。どちらが動けばこの状況は一転。殺し合いへと発展するだろう。

 

「…………」

「クウルルルル……」

「……ハアッ!」

「ルアアアアア!!!」

 

ダンッ! メキャア!

 

キイィィィィィィィイイ……

 

俺は真後ろに浮かび上がった紅い月に向かってバク宙しながら跳び上がる。それと同時にヒュドラの口元も白く光り始めた。

 

「受け止められるもんなら……受け止めてみやがれえええええ!!!」

「クルアアアアアアアアアン!!!」

 

幸いにも天井は高いので俺は限界ギリギリまで上がり……位置エネルギーを使ってそのままキバの紋章を宿した両足の急降下キックを繰り出した。対するヒュドラが放ったのは死の極光。俺の片目を溶かし、骨まで露出させた恐怖の極光。

 

「ぐうううう……!」

 

ゴオオオオオオオオオ……

 

しかし、お忘れではないだろうか。この俺が今纏っているキバの鎧は……核爆発に耐えうる黄金のキバの鎧の三倍の強度を誇ることに。

 

「クルアアア?!」

「うおらあああああ!!!」

 

極光に突撃。なりふり構わずにヒュドラの元へと一直線に向かう。それに慌てたのか、ヒュドラは極光の出力をグングン上昇させているが……効かない。効くわけがない! 

 

ドパアアアアン!!! 

 

……破裂したような音が響き渡る。

 

俺は特に傷を負うことなく地面に降り立った。

 

ヒュドラは……動かない。いや……動けない、か? それもそのはず、ヒュドラの頭には……綺麗に人間大の風穴が開いていたからだ。

 

感知系の技能を発動させてみるが……反応はなし。背中を走る悪寒も感じない。

 

もう……寝ても良いよな。

 

「……」

「お、おい?!」

「もう……むり」

 

変身を解除しながら……俺は流れるように意識を闇に落とすのだった。

 




今回は少し長めでしたね。ちなみにウェイクアップ・IIの技名は「キングスバーストエンド」と言います。キバ本編では過去編の音也が渡とのダブルライダーキックで使ってましたね。

恵里の処遇はどうする?

  • 勇者バカ之河の被害者だから救おう
  • 消せ(無慈悲)
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