その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「や、やめてくれっ。金ならいくらでも」
「悪いな。生憎お前が手に入れた汚い金は貰いたくない」
今日も夜の街を守る仕事だ。あれから俺は夜に出没する不良やヤクザから善良な市民を守る活動をしていた。
スーツのおかげでよっぽどでない限りは攻撃が通らないし活動制限時間も人間相手なら気になることはない。俺は少しずつ自分の力に溺れていった。
それも当然のことだったのかもしれない。なんたって俺はまだ14歳。力というものを求めたくなる時期ではあるものの、年齢的にはまだ子供。膨大な力を制御できるわけがなかった。
だが……これは世の中の摂理。力に溺れた人間は必ず後になって失敗すると。
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某日
『レ・ディ・ー』
「変身」
『フィ・ス・ト・オ・ン
「テメェだったのか……最近部下を散々にやってくれたのは」
「そうさ。悪人であるお前らを裁くために俺は……」
「なんだってできるってか? それは果たして本当かなあ?」
「なに?」
パチンと指をヤクザの頭のような人物が鳴らした。すると目の前に両腕を縛られて手ぬぐいをさせられた女の子が現れた。黒髪の長髪で縛られていても美人だということがよく分かった。
「お前……!」
「八重樫道場の長女だ。正義のヒーローぶってるお前ならもちろん助けたいだろう?」
「……」
「そこで一つ提案だ。5分以内にここにいる俺の部下を全員再起不能にしたらこいつを離してやる」
「間に合わなければ?」
「そうだなあ……こいつの四肢をもぎ取った後にそのベルトを頂こう」
「……負けるわけにはいかないな」
「やれ」
「こんのガキ……!」
「くたばれ!!」
ガシッと襲い掛かってきた人間を二人ひとまず捕まえる。抵抗する二人に対し、俺は侮蔑の視線をごく自然と送った。
「臭いなあ……このクソ野郎どもが」
「ぐえ?!」
「ガッ?!」
「そらもういっちょ!」
頭突きで吹き飛ばして片方は殴りつける。
「オラ! どうしたどうしたコラァ!!」
パワードスーツの破壊力は絶大。一撃でほとんどが沈んでいく。少しずつこれはヌルゲーなんじゃないかと思い始めた。
……のがいけなかった。
「チイ……はなっ?!」
「食らえ……スタンガン!」
「ぐあっ?!」
「今のうちにスタンガンで攻撃しろ!」
不味い。パワードスーツは高電圧で形を維持しているのだ。オーバーヒートなんかしたら……。
「ぐあ……」
変身解除される。どんなにパワードスーツが強くたって俺自身はまだ中学生。紅音也を見習って運動神経は良い方だが流石に年上には敵わない。
「さっきまでの威勢はどうしたんだ? ああ?」
「ぐ……があ?!」
「所詮はただのガキだなあ?」
「あと2分だぞお」
このままでは間に合わない。致し方ないが……。
「食ら、え!!」
ドパアアアアアアアアン!!!
地面にむけてイクサナックルから発射される衝撃波をぶち当てた。当然だが恐ろしい風圧が辺りにまき散らされる。
「うあ?!」
「げ?!」
「んな?!」
「うげえ……なんて風だっ」
「これで……後はお前だ……け」
「ふん。エネルギー切れか」
プロトイクサはエネルギーの消耗が激しい。例え3分程度の変身だったとしても2kmを全力で走ったぐらいのエネルギーを使うのだ。俺はさっきのイクサナックルでの衝撃波を放つために全てのエネルギーを使い切ってしまったのである。
「タイムアウト……残念だったな」
「ん──っ! ん──っ!!」
「暴れるな……四肢を取って終わりだからよ」
「ん──っ!!!」
「やめ、ろっ」
「こいつをやったら次はお前だ。そのベルトもあれば俺たちの組は最強になれる……!」
体が言うことを聞かない。目の前に死にかけてる人がいるっていうのに俺は何もすることができないのだ。悔しくて仕方がない。
「おっと……子猫ちゃんをイジメるのはそこまでだぁ」
「え……」
聞き覚えのある声。俺が一番尊敬する人物の声だ。まさか……!
「……コウヘイ兄ちゃん?」
「あれえ……音也じゃないか」
近所のコウヘイ兄ちゃん。紅音也や猿飛一海といった人物を演じ、その演技力には定評のある頼れる兄貴分だ。俺に音也という名前を付けてくれた人物でもあるが……。
「そのベルトとナックルは……そうか。ついに完成させたんだな」
「知ってる……の?」
「文音さん……君の母さんに依頼したのは俺だからな」
「貴様……何者だ」
「俺か? 俺は……紅音也だ」
「あ……」
「……カッコつけさせてくれ」
「あ。はい……」
「俺の命に代えても……お前を倒す」
「なに?」
『レ・ディ・ー』
「変身!」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「……まさか生変身見れるとは思わなかった」
画面越しで見てきたあの変身が目の前で……
「中々良い着心地だ。快☆感」
「んの野郎……舐めやがって」
「来いよ。紅先生が子猫ちゃんのために喧嘩のお手本を見せてやる」
「この三流俳優g」
「ハァ!」
「ぐう?!」
「まだおねんねするには早いぜえ!」
「グッ?! ガア!」
「そらもういっちょ!」
一撃一撃の殴打音が重たい。とりあえず這うことはできるようになったので八重樫道場の長女さんとやらを助けに行く。
「大丈夫ですか?」
「ぷはっ……」
「良かった。ケガはないみたいですね」
「すう……」
「寝たんかい!」
『イ・ク・サ、ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「今楽にしてやる」
「おおう……もう終わりそう」
「ひ、ひぃ……」
「あ、気絶した」
「やれやれ……もう悪さをしないでもらいたいね」
「あ、コウヘイ兄ちゃん……ありがとう」
所要時間、約七分。自分は五分ほどで限界を迎えたと考えると、とんでもない体力である。
そのことに少し辟易しながらも、俺はコウヘイ兄ちゃんに礼を言った。
「ほれ。これは返すよ」
「あ、うん」
「音也、いいか? 誰かを守りたいと思うことは良いことだ。ラブ&ピースを胸に生きていける世界を作ろうとする心は素晴らしい」
「うん……」
「だけどな。力に溺れた人間はそんなこと言う資格はない」
「……」
「やがて身を滅ぼすことぐらい、キバを見ていたなら分かるだろ?」
彼の言葉によって俺は一つのことを思い出す。力に溺れて大切な物を全て失い、最後には己の命すらも失ってしまった悲しき王のことを。
「先代キング……」
「分かってるな。それなら約束だ」
「約束?」
「もしこれからもその力を使うってなら……二度と力に溺れるな。その力は遊びで使う物ではない。そのぐらい危険な力だってのを忘れるな」
「危険な……」
「約束できるか? 忘れないって」
「……できる」
「よし、それでこそ音也だ。んじゃ、その子を運んでやってくれ」
「家がどこか分からないんだけども……」
「この道真っ直ぐ行けば着くさ。和風な屋敷だからすぐに分かる」
「りょ、了解」
ざっくばらんなのは相変わらずだ。だが……そこがいい。思わずクスリと笑いながらも頷いた。
「ほれ、背中に乗せるぞ」
「へい……軽いな」
「……モテるだろ」
「なに言ってんの? そんなことないって」
「天然って恐ろしい。まあ頑張れよ」
「うん、ありがとう兄ちゃん」
兄ちゃんはすたこらと立ち去ってしまった。足取りは一切変わりがない。イクサを使用して、あれだけ余裕でいられるのはどういうことなのか。
しかし、そのことを気にしても仕方ない。俺もとりあえず出発することにした。
「力に溺れた人間は身を滅ぼす……か。確かにそうだよな」
守りたい人だって守れなかった。力に溺れることほど恐ろしいことはない。そう深く実感した。
「ん、んん……」
「あ、目が覚めたんですね」
「貴方は……」
「通りすがりの者です。もう安心して大丈夫ですよ」
「私……助かったんですね」
「ケガ一つありませんよ」
「あの……」
「なんですか?」
「十字仮面のような人はどこに行きましたか?」
十字仮面って……まあ確かにセーブモードのイクサは十字仮面だが。という、傍から見ればとてもどうでも良いツッコミを心の中で入れた。
「もう立ち去りましたよ。正体を知られたくないのでしょう」
「そうですか……」
「そう落ち込まないで。きっとまた会えますから」
姿だけでいいのなら目の前にいますよ! なんていう勇気、俺は残念ながら持ち合わせていない。どこまでもチキンなのである。
「おっと……ここですね」
「はい。ありがとうございました」
「凄い屋敷ですね。道場って聞きましたけど」
「実家総出で剣術を教えているんです。生憎私にその才能はなかったですけど」
「そうですか……」
「妹は才能があるんですけどね。いつの間にか自分らしさを殺すようになってしまって」
「……」
中々に複雑な事情があるらしい。心から流れ出る音楽を聴き取ればそれはすぐに分かる。彼女も人が良さそうではあるし、妹の事を思ってかなり悩んでいるのだろう。
「って、ごめんなさい。初対面なのにこんな話してしまって」
「大丈夫ですよ。それより……その妹さんを呼んでくれますか?」
「え……良いですけどなぜ?」
「少し気になったんですよ。心に流れている音楽が止まっていないかね」
「心の音楽……まさか紅音也さんですか?!」
「いかにも紅音也ですが……」
「今すぐ呼んできます! あの子は音也さんの大ファンなんですよ!」
「お、おう……」
背中から飛び降りて家の中に駆け込んでいってしまった八重樫道場の長女さん。ヴァイオリン持ってきておいて本当に良かった。
それにしても剣術か。全く関りがないが気になりはする。講演会が落ち着いたら少し習ってみるのもありかもしれない。
「連れてきました!」
「はやっ?!」
「ほ、本物だ……」
門から長女さんがガーリーショートヘアの女の子を連れてきた。負けず劣らずこちらも美人だ。
「名乗り遅れましたね。私は八重樫家の長女、
「し、雫です」
「露葉さんに雫さんか……いい名前ですね」
「良かったじゃない雫。名前褒められたわよ」
「あ……うぅ」
「君のお姉さんのことをたまたま見つけてね。家まで運んできたんだ」
「え……そうなんですか。わざわざありがとうございます」
「で、ここに来て君が大ファンだってのを聞いたから会いたくなったのさ」
実際は違うが……まあいいか。会いたかったのは事実だし。嘘は言ってない。
「それにしても……お二人とも綺麗なことで。さぞかしモテるのでしょうね」
「……いえ、そんなことないです」
「またまた」
「本当ですよ。姉さんはモテますけど私は……髪がこんなに短くて剣術ばかりやってるから女の子らしくないって言われてるんです」
「中学生ってそんなくだらないことで人を嫌うのかい? 心の音楽が悲鳴を上げてそうだよ」
自分ならこんなにも誠実で謙虚な女の子を嫌うことはないと思うのだが……しかも可愛いし。俺はまだ中学生だが、この年にして人間というのは下らないと感じてしまった。
勿論、このことを口に出すほどバカではない。そんな無謀なことをすれば厨二病判定待ったなしだろう。
「そうだ。お近づきの印に一曲演奏しようか」
「え……?!」
「あらあら……良かったわねえ」
「曲はリクエストしたのを弾くよ」
「そこまでしてもらっていいんですか? そしたら……熊蜂の飛行をお願いします」
「おお、随分とコアな奴きたね。バックいないから味気ないかもだけど許してな」
体力は比較的回復してきたので普通に構える。さらに半目になり、呼吸を浅くし……。
♬♬♬~ ♬♬♪ ~
熊蜂の飛行。分かる人なら分かる滅茶苦茶忙しい曲だ。ヴァイオリニストやピアニストたちの超絶技巧を競い合うための曲という認識をされることもある。ちなみにヴァイオリンで普通に演奏すると90秒ぐらいかかるが世の中の変態にはチェロで56秒なんて人もいる。世界は広い。
俺は持てる技術全てを動員して超絶技巧の域に近づこうと演奏を続けるのだった……。
次回から本編突入です。ちなみにですが雫に姉がいるという設定はオリジナルでございます。初期設定では死亡させることも考えていたのですが……ご本人様のイクサを少し出したくてこうなりました()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)