その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「お前たち……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」
……虎模様の耳と尻尾を付けた筋骨隆々の亜人に話しかけられる。
俺たちはあの後特に問題なく樹海へと入ることができた。目が覚めたら雫とユエに頭を撫でられており、後ろ側からは生温かい視線を向けられて一気に跳ね起きたのだが……まあ良いか。
その後俺たちは樹海内を歩き出した。どうも樹海には「大樹」というシンボル的な物があるらしく、キバットがその大樹が迷宮と関係性があると言ってくれたので一先ずはその大樹を目指すこととした。
樹海内は霧が包んでいたのだが、亜人族はその中でも特に問題なく動けるらしい。現に俺たちはさっきの今まで止まることなくここまで来れた。途中途中で魔物が襲いかかってきたものの俺と雫が適当にあしらったお陰で被害はゼロである。
なのだが……筋骨隆々の虎の亜人族に見つかったので俺たちは現在足止めを食らってるというわけだ。
「あ、あの……私たちは」
カムが必死に弁明しようとする。しかし虎の亜人がシアのことを発見してしまったのを見て、俺はハジメにイクサナックルとベルトを渡した。
「白い髪の兎人族……だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する!」
「そこまでだぁ」
「……なんだ。穢らわしい人間ごときが我々に何用だ!!」
「良いか。一度しか言わないぞ? 俺たちは樹海の探索のためにこいつらハウリアを雇ったんだ。それまでの間の命は俺たち人間が保障している。殺し合いを始めるのは結構だが……」
『レ・ディ・ー』
「少しでも殺意を見せてみろ」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「……すぐにでもお前らを全滅させてやる」
すっかり聞き慣れた低い電子音でのフィストオン。この場では絶大な威圧感を発揮する。声が低い方が威圧的だろ?
「さあどうする? 全滅の道を選ぶか、立ち去って俺たちを見逃すか」
常人からすれば恐ろしいまでのハジメの威圧感が物理的に亜人を抑えつけている。俺はその様子を特に気負いなく見つめる。
「そ、その姿……まさかっ」
「あん?」
「なぜ……なぜ貴様がそのパワードスーツを所持しているのだ!」
「はあ? こいつは俺たちの私物なんだが」
「そんな……あり得ない。『イクサ』は我々亜人族の最終防衛手段なのだぞ!!」
「……なんだと?」
何やら聞き逃せない言葉が出てきた。俺もハジメの隣に並んで質問をする。
「今、イクサは亜人族の最終防衛手段だと言ったな? だがこいつは俺の母親が自らの力で制作した物だ。お前らの知っているイクサとは別物だよ」
「……本当か」
「この場で嘘を吐ける訳がないだろ」
「ついでに言っておくと俺たちの目的は樹海深部に存在する大樹の下へ行くことだ。お前らを捕らえに来たわけではない」
「大樹の下へ……だと? 何のために?」
「なんか樹海の下に本当の迷宮の入り口があるらしいからな。一般的にはこの樹海自体が迷宮らしいが……それにしてもここの魔物は弱すぎる」
「弱すぎる……」
「迷宮ってのは解放者が作った試練だ。人間からしたら樹海深部に行くことさえ叶わないだろうがお前ら亜人なら易々と最深部まで行けるんだろ? それじゃあ試練もクソもないじゃないか」
虎の亜人は不信がっているが……それを俺とハジメの威圧で抑えつける。
そこへ雫がスッと歩み出た。
「私たちは貴方たち亜人に興味はなくてよ。ただ、迷宮を攻略するためだけにここに来たの。どうにかして通して貰えないかしら」
「っ……」
雫の美貌に若干たじろぐ虎の亜人。どこの世界でも美女というのは強い存在らしい。困ったときは美女に頼もうかな……いや、それじゃあただのヘタレだ。
「わ、分かった。俺としては危害を加えないというのなら通しても構わない。だが流石に俺の一存で決めることは出来ないのでな……本国に指示を仰がせてくれ」
「音也、ハジメ?」
「「そうしてくれ」」
「よし……聞こえたなザム! 長老方に余さず伝えろ!」
「了解!」
一つの気配が急激に遠ざかる。それを俺は感じ取って威圧を解き、ハジメも元の姿に戻った。それを見て「今なら!」となった亜人に対してはユエが魔法をチラつかせて黙らせる。
それにしてもこの世界にイクサが存在してるとは思いもしなかった。ちょっと気になる。
それは虎の亜人の方も同じだったらしい。俺たちに恐る恐るながらも質問してきた。
「な、なあ……さっきまで装着していたイクサのことなんだが」
「なんだ?」
「胸に十字架があったよな。それにずっとセーブモードだった……何か意味があるのか?」
「胸の十字架は追加武器を接続した時の副産物だ。あと俺たちのイクサにはバーストモードになる機能は存在しない」
「そうなのか……」
「その様子だと亜人族の所持しているイクサにはバーストモードが存在するんだな?」
「そうだ。むしろセーブモードで戦うことはゼロに等しい」
どうも亜人族が所持しているイクサは変身してからすぐにバーストモードへとチェンジすることが殆どらしい。
セーブモードにはエネルギー消費が少ないというメリットがあるものの、バーストモードの方が対処にかかる時間が少ないのでセーブモードオンリーで戦うのはよっぽどの好き者だとかなんだとか。
「元々は侵略してくる人間族に対抗するために吸血鬼族のキングが長老の祖先に渡した物だ。とはいえイクサは一つしかないから多勢に無勢な所はある」
「量産や改良は出来なかったのか?」
「神代魔法で作られていたから我々には……」
「ふーん……」
と、なるとライジングに変わることは出来ないらしい。いや、まあバーストモードまで作れたのがどこかおかしいと思うんだがな。
これは吸血鬼族のキングの技術力を褒めるべきなのか、セーブモードだけでも完全再現した母さんの技術を褒めるべきなのか。非常に悩ましいところだ。
この場合はただの人間なのにイクサを制作した母さんに軍配が上がるか?
その後、構って貰えない時間に飽きたのか雫とユエが引っ付いてきた。ハジメの方にもシアがベッタリ。迷惑そうな表情をするハジメに構わずアタックしているシアの姿には少しホッコリした。
敵対している他の亜人たちも骨抜きにされたらしく、生温かい視線をハジメたちに向けている。
え、俺? いつも通り両手に花だ。雫の頭を撫で、ユエの髪を軽く梳いてやる。すっかりこの状態にも慣れてしまった。
雫はヤンデレ化しているが言い換えれば純愛を向けられてるとも言える。それはユエも同じだ。この二人同士もライバル関係みたいな感じでなんだかんだ認め合ってるので問題はないだろう。
扱いにもなんだかんだ慣れてしまったし……後は帰る方法を見つけるだけだ。
そのままマッタリゆっくりしていると……急速に近づいてくる気配を感じた。俺の義眼には少し離れた場所から歩いてくるエルフのような者が写っていた。
「ふむ、お前さんが問題の人間族かね? 名は何という?」
「音也。紅音也だ。こっちは南雲ハジメ」
「私は、アルフレリック・ハイピスト。フェアベルゲンの長老の座を一つ預からせてもらっている。さて、お前さんの要求は聞いているのだが……その前に聞かせてもらいたい。〝解放者〟とは何処で知った?」
「オルクス大迷宮だな。正確に言えばオスカー・オルクスの住処だ。俺たちは最深部まで到達した者だよ」
「その証拠を提示はできるか?」
「そうだな……オスカーの遺品なら持ってるからそれで」
宝物庫よりオスカーの住処から持ってきた遺品や魔石を取り出して見せる。するとアルフレリックは驚いたような表情をした。虎の亜人も驚いたような表情をしている。
「こ、これは……こんな純度の魔石は初めてだ」
「それにこれは……アーティファクトか。オスカー・オルクスは生成魔法の使い手。アーティファクトを制作できるのは至極当然のこと……」
「後はこれ。オスカー・オルクスが身につけていた指輪だ」
最後に宝物庫を見せてフィニッシュ。元から嘘は吐いていないがようやく信じて貰えたようである。人間が悪いとはいえ厄介な奴らだ。面倒くさい。
「……よし、分かった。お前さんたちは確かにオルクス大迷宮を攻略したようだな」
「最初から嘘は言ってないけどな」
「とりあえずフェアベルゲンに来るが良い。私の権限で滞在を許可する。勿論ハウリアたちもな。この決定に逆らう者は処刑するぞ」
「おいおい。俺たちは今すぐにでも大樹の下へ行きたいんだが。滞在するつもりなど毛頭ないぞ?」
「そうは言ってもだな。大樹の周囲は特に霧が濃くてな、亜人族でも方角を見失う。一定周期で、霧が弱まるから、大樹の下へ行くにはその時でなければならん。次に行けるようになるのは十日後だ」
「なんだと……おいカム」
「は、はい……? あっ……」
「……ユエ」
「ん……」
ユエが一歩前に歩み出る。それを見たハウリアたちの顔は引き攣った。口々に許しを請おうとするが聞く耳持たん。
「〝嵐帝〟」
「うわあああああああああ!?」
「お、お助けええええ!?」
「族長のバカああああ!!!」
空高く舞い上がるウサ耳たち。俺はそれをジト目で見つめるのだった。
季節の変わり目はやはり体調が悪くなりますねえ…皆さんも気をつけてください。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)