その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
その後、俺たちはアルフレリックによってフェアベルゲンへと連れてこられた。フェアベルゲンは天然の樹で囲まれた城壁に守られており、内部は色とりどりの自然が周囲を覆い尽くしている。
空中回廊があったりエレベーターがあったりと自然の中にありながらもどこか近代的な国だ。俺たちは思わず立ち止まって眺めてみたものである。
んで俺たちは「長老」が集まっているという一際大きな樹の内部にある部屋に通された。中では長机を囲んで長老たちが俺たちのことを待ち受けており、好奇の視線を送られた。
なお中に入ったのは俺とハジメ、そしてカムとシアだ。雫とユエにはハウリアたちの面倒を見てもらっている。対価? 今日の夜は寝るなとのことだ。
「なるほど……狂った神か」
「ま、どうしようとかはないけどな。俺たちは異界から連れてこられた人間だ。サッサと神代魔法を集めて元の世界に帰るだけだ」
オルクス大迷宮で聞いた狂ったエヒトの大馬鹿の話を掻い摘まんで聞かせる。俺の態度にアルフレリックたちは少し面食らってるようだが……俺の目的を聞いて納得したような表情になった。
「我々フェアベルゲンの者は解放者の証を持った者が現れたなら敵対するなと伝えられている。実際に現れたのは初めてだがな」
「ふーん……」
「アルフレリック。本当に貴様はあの言い伝えを信じるのか?」
「何が言い伝えだ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」
「ジン、落ち着け。今回が最初になれば良いだろう」
「正気か?! こんな人間族の小僧が資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」
「そうだ」
熊の亜人であるジンが信じられないという表情をした。まあ仕方のないことだ。なんせ亜人は人間のことを徹底的に嫌ってるのだからな。
「……ならば、この場で試してやる。表へ出ろ」
ジンの言葉に唖然とするアルフレリック。しかし他の長老たちは賛成のようだ。
どこの馬の骨とも分からない小僧を信じろという方が無理があるかもしれない。
俺たちは外に出る。その間に俺はハジメを説得し、ベルトとナックルを貰ってジンの真っ正面に立ち塞がった。
「……行くぞ!」
特に殺意も込めてない俺に向かって急迫しムキムキな腕を俺に振り下ろすジン。熊人族は本物の熊のように耐久力に優れており、さらには豪腕だったはずだ。並の人間なら触れた瞬間に消し飛ぶだろうしチキンレースを仕掛けることも難しい。
……が、奈落の底で様々な魔物を見てきた俺にはゆっくりな動作にしか見えない。
バシンッ!!!
「ぐっ?!」
「大したことねえなあ……」
「き、貴様っ」
軽く腕を掴んでニタリと嗤う。そのまま後方に投げ捨てて距離を取り、ベルトを巻いた。
投げ捨てられたジンは手慣れなのか、すぐに立ち上がると……見慣れたナックルを取り出した。
『レ・ディ・ー』
「ん? そいつは……」
「ここからは手加減なしだ……覚悟を決めろ」
「ここから本気ね……OKだ」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
俺のイクサよりも高い音声でのフィストオン。ジンはイクサを身に纏い、さらに顔面部のシールドが展開した。
風圧によってハウリアたちは吹き飛ばされそうになっており、雫とユエが結界を張ってなんとか抑えてくれた。
「へえ……もろ俺の知ってるイクサだな。そっちがそう来るのなら俺も……」
『レ・ディ・ー』
「なにっ!?」
「イクサは……一つじゃないのさ。変身!」
『レ・ディ・ー』
聞き慣れた幾分低めの電子音。俺は歩きながらイクサを装着した。
「さあ……かかってくるんだ。紅先生が熊ちゃんのために戦いのお手本を見せてやる」
「っ!!」
すっかりお馴染みの指クイクイ。明らかな挑発にどこからどう見ても短気なジンはブチ切れたらしい。雄叫びを上げながら襲いかかってきた。
知ってるかな? 怒り狂って目の前が見えなくなった者は強烈な一撃を繰り出せる代わりに直線的な攻撃しか出来ないことに。
『イ・ク・サ・カ・リ・バ・ー・ラ・イ・ズ:アッ・プ』
「このクソガキがああああ!!!」
『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「……来い!」
突進してくるジン。待ち構える俺。一般的に見れば突進の勢いがある方が威力は出る。亜人たちから見れば俺は非常に不利に見えるだろう。
しかし、だ。世の中そう簡単には作られていない。
「クロスカウンター!!」
「なにっ!? 躱され……グアーッ!!」
ズパン! と凄まじい音を立てて右手に握られたイクサナックルがバーストモードの顔面に突き刺さった。俺の右頬には……突き出されたイクサカリバーがあと数ミリという距離に置かれている。
ボクシングのとある漫画で一躍有名になった技をわざわざ選んだのは……気分だと言ったら怒られるだろうか?
「ぐ……は……」
「やれやれ」
「あ、あれ……少し頬が痛いが何ともない?」
「威力を抑えたに決まってるだろ。モロに食らったら死ぬぞ」
「……まさか、情けをかけると言うのか」
「わざわざ敵対するために俺が人を殺すと思ってんのか? 第一だ。お前らからしたら俺はどこの馬の骨とも分からないようなガキだ。信用できないことぐらい俺でも分かる」
「……」
「まあもう一つの理由はそのイクサの解析をしてみたかった事だけどな。なんなら一つ制作してみようかとも思った」
「は、はあ……」
やれやれとため息をつきながらイクサナックルを収める。そして心底面倒くさいという雰囲気を隠しもせず、俺は告げた。
「んで、もう良いだろ? 俺だって不要な争いは避けたいんだ」
「……ジン。よく分かっただろう。彼は口伝者だ。これ以上争うのはよせ」
「……承知した。音也とやら。突然襲いかかって申し訳なかった」
変身を解いて頭を下げるジン。
「まあなんだ。お詫びの印にそのイクサを少しの間貸してくれないか? 複製できないか試してみるわ」
「本当かっ!?」
「おう。頑張ってみるぜ」
「それなら……やってみせろ」
「よし……と。んじゃ、もう良いか? あとは十日待ってハウリアたちに案内させるだけだぞ」
「いや……一つお前さんは忘れている。ハウリアたちは忌み子を隠し続けてきたのだぞ。明日にでも一族もろとも処刑する」
「ほーん……まあ因果応報っていうやつか?」
俺自身はハウリアに興味はないので適当に答える。しかしそこへハジメが前へ出てきた。
「悪いが俺たちは約束してるんだよ。命を守ったら必ずこの樹海を案内しろとな」
「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか? 峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう? なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」
「悪いがそうも行かねえよ」
「それはなぜだ?」
ハジメがシアを見やる。その時のハジメの瞳は……この世界に来る前の瞳とよく似ていた。あの優しいハジメの瞳が、ほんの一瞬だけ見えた。
ここから先はハジメの意思だ。俺は関係ない。
「案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんだよ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんざ……格好悪いだろ?」
「……」
「ま、俺たちを見逃すのならシアたちを見逃すのも今更だしな」
「音也……」
「だってそうだろ? 俺もハジメも、なんならユエも魔物のように固有魔法を使えるし詠唱だって必要ないんだ。シアと同じなんだよ」
「……そういうことか」
「大迷宮を攻略するにはそれだけの力が必要になるんだ。口伝に従うのなら……いずれはお前たちが化物呼ぶ存在を見逃さなければならないんだよ」
ハジメが俺の意向を理解して口に出した。いずれは見逃さなければならない。その時が偶々今だっただけのことだ、と。
真っ直ぐアルフレリックを見つめるハジメ。その瞳には不動の意思を感じる。彼なりにシアたちハウリアに思うところもあるのだろう。ならば、せめて仁義だけでも貫き通したいのだろう……。
「……どうやらその決意は固いようだな」
「アルフレリック?!」
「ジン。彼と戦ってみてどうだった」
「……特に差別的なところは感じなかったな。普通に戦友と模擬戦をしているような感覚だった」
「我々の認識が間違っていたのかもしれないな……」
他の長老たちも特に反論の声を上げない。思うところは同じ……か?
「紅音也。及びに南雲ハジメ。お前たちにハウリアのことは任せよう。煮るなり焼くなり好きにすると良い」
「良いんだな?」
「お前たちに賭けてみよう。人間や忌み子とも分かり合える世界が生まれることをな」
苦渋の決断だったに違いない。これまでの掟を破ってでも俺たちに賭けようと言うのだから。いくら差別の意識がないとしても俺たちは一応人間なのだ。本来は即刻殺すべき存在だろう。
それでも、だ。それでも俺たちに賭けてみようと言うのである。それならば……答えは一つしかないだろ?
「……そうかい。ま、期待されすぎても困るがな」
サラリと答える。ハジメはそれに苦笑いしながらも……答えた。
「感謝する。忌み嫌う存在である俺たちにあえて賭けてくれたことにな」
「一応表面上は追放だが……申し訳ない」
「構わない。むしろそこまで譲歩してくれたんだから感謝してるよ」
ニヤリと微笑む。アルフレリックも特に言葉は発さなかったが……同じようにニヤリと微笑んだように見えた。
用は済んだ。俺は戯れ付いてくる雫とユエを抱き留めながらもハウリアたちを連れて歩き出すのだった……。
一応私は神経痛を患っている他、体も病弱なのでたまに投稿ペースが乱れるかもです。その時は身勝手なお願いなのですが……戻ってくるまで待っていてくれると私としてはとても嬉しいです。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)