※この作品はR-18です。

その音色は異世界まで響き   作:誰かさん

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ペースが崩れまくりで申し訳ないです…。


第九楽章 ティーガーII

「……おい雫。お前何をしたんだ」

 

なんとか意識を戻した俺は焦点の合わない目で雫を見やる。

 

「何って……戦うときには優しさは不要と教えただけよ? 最初の頃は地面の花にすら気にかけてマトモに戦えてなかったけどね」

「それがこの変わり様……ええ」

「何かヘマする度に峰打ちしたから……かもしれないわ。そのうち失敗を恐れて甘っちょろい部分は捨て去ったみたいだし良いじゃない」

「ハート○ン軍曹がここにいる……」

 

ナイフに名前を付けて愛でたり以前のハウリアからは考えられないような物騒な発言が飛び交っていたり……雫、恐ろしい子。

 

「と、父様! みんな! 一体何があったのです!? まるで別人ではないですか! さっきから口を開けば恐ろしいことばかり……正気に戻って下さい!」

 

シアが焦ってカムに泣きつく。まあ久しぶりに見た家族がこんなんじゃ泣きつきたくもなるだろう。

多分俺でも泣きつく。

 

泣きついたシアに対してカムはニッコリと微笑んだ。それを見てシアの顔に一瞬安堵が見られたのだが……。

 

「正気? 何を言っているのだシアは」

「へ?」

「良いか。私たちはボスの御蔭でこの世の真理に気がついたのだよ」

「真理……ですか?」

「この世の問題の九割は暴力で解決できるということだ」

 

上げて落とすとはこの事だ。シアの表情が一瞬で絶望に染まった。見れば他のハウリアも「その通り」と頷いている。老人も幼い子供も頷いているのだから破壊力は抜群だ。

 

いやね? ある程度好戦的になるのは構わないのよ。だけどこれはやり過ぎだろ。

 

「時に音也殿」

「お、おう。なんだカム」

「大樹の近くに熊人族が待ち構えているのをここに来るまでに探知したのですが……どうしてやりましょうか?」

「大樹の近くに、か? さてはあの熊人の長老をあしらったことを恨んでるのか……」

 

特に傷つけてもいないのに勝手に恨まれてイライラする。そこまでして人間を排除したいと言うのならば……いっそのこと絶滅させてやろうか? 

 

しかしそんな俺のイライラを感じ取ったのか、カムが不適な笑みを浮かべた。

 

「ご安心を。我々が下劣な熊人たちを排除してご覧に入れましょう」

「……出来るんだな?」

「肯定であります!」

「はあ~……雫さんよ。どんな訓練したらこうなるのやら。まあそこまで言うなら頼むぞ。大樹に行くついでに狩るぐらいのイメージで行くからな」

「はっ!!」

「……雫、最終判断はお前が下せ」

「分かったわ……聞け! ハウリア族諸君! 最低最弱の種族から最大最強の種族へと変貌したハウリア族諸君よ! これより最終試練を貴様たちに課する!」

 

極道の妻のようなドスの効いた声を張り上げる雫。いつ、そうなったんだおい。

 

「勘違いの私怨に囚われた哀れな熊人族に思い知らせるが良い! 貴様たちは淘汰されるだけの無価値な存在ではないのだ! 地上最強の種族なのだ! 己が最強と慢心しきっている熊人族たちの屍山血河を築き、その上に証を立ててやれ! 生誕の証だ!」

「「「「「「Sir、yes、sir!!」」」」」」」

「答えろ戦士諸君! 貴様たちの邪魔となる存在はどうしてやる!」

「「「「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!!」」」」」」」

「そうだ、殺せ! 己の生の道を邪魔する存在は全て殺せ!!」

「……うわお」

 

普段デレデレしている雫からは考えられない気迫である。下手な政治家よりも遥かに洗脳能力の高い演説な気がしてならない。

 

もしかしたらヒトラーもこんな風に演説して群集を纏め上げたのだろうか。

 

「なあユエ、ハジメ、コウモリモドキ。俺は夢を見てるのか?」

「いや戻ってこいよ。あいつら雄叫び上げながら走り去ったぞ」

「……温厚で争いごとが苦手な種族はいなかった」

「闇系統の魔法を使わずにあそこまで洗脳する雫は恐ろしい……キングの使役化と同じぐらいに恐ろしいかもしれん」

「……はあ。ここで止まっていても仕方ないし行くとするか」

 

ここから大樹はそこまで遠くない。既に戦いが始まっているのか、悲鳴と怒号と歓声が俺の耳に入ってきている。

 

とりあえずユエを背負って雫の手を引き、俺は歩き始めた。深い溜め息と共に。

 

ハジメもめそめそ泣いているシアのことを強引に引っ張って歩き始める。キバットは俺の右肩に乗った。

 

「あ、そうだハジメ。四輪をティーガーIIに変えてくれないか?」

「なぜだ?」

「あの様子だと殺しを楽しみそうな気がするからな。止めるための手段だ。戦闘区域の2km手前から砲撃する」

「分かった」

 

歩くペースは比較的速いのであっという間に俺たちは戦闘区域の2km手前までやってきた。ちなみに距離は義眼で計測していたりする。

 

ハジメが取り出した四輪をティーガーIIに変形させて、ハジメは内部に潜り込んだ。さらに俺も潜り込んでハッチから顔を出す。

 

「砲塔もうちょい左……あ、行き過ぎだ。2mm右に戻して……よし。ハジメ、照準器でも見えているか?」

「見えてるが……霧が深いな。正確な位置に関してはお前の目と耳が頼りだ」

「了解だぜ……ハジメ、ちょい砲塔持ち上げ……もう少し、もう少し上……よし」

「弾薬は炸裂弾で良かったんだな?」

「徹甲弾だと意味ないからな。それで良い」

「照準を絞るぞ……弾着点はどの辺りだ?」

「ハウリアと熊人族の間だ。あと……数秒で丁度良い位置関係になる」

「分かった。いつでも来い」

「まだ……まだ……まだ……」

 

息を潜めて全神経を目に集中させる。隙間は一瞬しか出来ない。失敗すれば双方が消し飛んでしまう。兎に角デリケートに……だ。

 

「まだ……今だ! 撃て!!」

「発射!」

 

ズドバアアン!!! 

 

「次弾装填急げ!」

「次弾……炸裂弾装填完了。いつでも行ける」

「ちょい砲塔上げ……良し。撃て!!」

 

ズドバアアン!!! 

 

「雫、ユエ、シア、コウモリモドキ! 戦車に掴まれ! 履帯に巻き込まれるなよ!!」

「砲身以外ならどこでも大丈夫だからな」

「へえ……結構高いのね」

「ん……」

「不思議な形だ……」

「よし、ハジメ、動かして良いぞ」

「了解だ」

 

ガタゴトとティーガーIIが動き出す。史実のティーガーIIは出せても40kmh未満だが……こいつは魔力さえ流せればいくらでも速くなる。快速戦車で有名なクロムウェルやIII号戦車並みの速度を出すことだってできる。

 

そのことを証明するかのごとく、俺たちを乗せたティーガーIIはあっという間に戦闘区域に到着した。

目の前にはやはりと言うべきか、狂人のような瞳をしたハウリアたちがいた。まあ……初めての人殺しだ。気分が異常に高揚してしまうのも仕方の無いことだ。

 

「お前らそこまでだ。これ以上やってはいけない」

 

戦車から飛び降りてハウリアと熊人族の間に立ってカムたちに話しかける。

 

「音也殿……何をするのです。そこに居られては後ろの最強種族(笑)を殺せないではないですか」

「いや、別に殺すのは構わないけどな」

「「「「いいのかよっ!?」」」」

「殺意をわざわざ見せてくる奴らに手加減なんざ要らないからな。そのことはカムたちもよく分かってるだろ?」

「ではなぜ……」

「お前らさ。雫に人殺しを楽しめとは教えられたか?」

「……は?」

「人(・)殺(・)し(・)を(・)楽(・)し(・)め(・)と教えられたのか? そうじゃないだろ」

「人殺しを楽しむ? 何を言うのです……楽しんでなど」

「さっきまでのお前らの瞳な。まるで大渓谷で始末した帝国兵みたいだったぞ」

「?!!」

「ようやく気がついたか。ま、雫は人殺しに特に何も感じなかったらしいし……すっかり殺人の衝撃ってのを忘れてたのだろう。致し方ないことさ」

「わ、私たちは……」

「一度深呼吸して落ち着くこと。それと……無粋な襲撃者さんよ? どこへ行くんだぁ?」

「んな?! バレた!?」

「俺の聴覚舐めるなよ。それでどうする? 今すぐ死ぬか、生き恥晒しながら逃げ帰るか」

 

逃げようとしていた熊人族を睨みつける。手には勿論ファンガイアスレイヤーモドキだ。いつでも引っ叩く準備はできている。蛇腹剣は本当に便利である。SMプレイにも使えるので強者諸君は制作してみるのはどうだろうか。

 

「わ、我らは……生還を希望する」

「そうか。中々の判断だな。これ以上戦うのならお前らは確実にあの世行きだったろうに。さて、生還を希望するのなら当たり前だが条件を付けさせてもらうぞ」

「条件……か?」

「いいか、長老たちにこう伝えるんだ。〝貸一つ〟とな」

「んな?!」

「呑めないのか? それならば……ハジメ。照準はどうだ?」

「いつでも木っ端微塵にできるぞ」

「くくく……さあどうする? 呑めないのなら先程の爆発がお前らを呑み込んでしまうが?」

「うぐ……」

「戦場での判断は迅速に、だ。早く決めろ」

 

実に悪どい笑顔で条件を呑むように脅迫する。後ろではティーガーIIがスタンバっており、俺自身も殺人の準備を完了させた。

 

ちなみに貸しを作る理由だが……これは完全に気分である。貸しを作っておいて悪いことは一つもない。何もなければそれで良し、何かあれば返して貰うだけさ……。

 

「……ハジメ。撃鉄を起こす準備しろ」

「いつでも行けるぜ。さあどうする? この距離なら万が一にも外さないぞ?」

「わ、わかった。我らは帰還を望む!」

「そうかい。ならサッサと行きやがれ。どうやら半数以上殺されたようだが帰るだけならすぐにでも行けるだろ」

「ああそうだ。もし伝言をサボってみろ。その時はフェアベルゲンごと叩き潰してやるからな」

「ぐ……承知している」

 

クルリと背中を見せてトボトボと歩き出す熊人族たち。あいつらは一生日陰者扱いされるだろう。何せあいつらは不当に急襲しただけであり、俺らに否はない。あくまで迎撃しただけなのである。

 

ま、兎に角これで安心して大樹まで向かえる。だがその前に……。

 

「雫」

「ひゃ、ひゃい!」

 

ハウリアの暴走の元になった雫の名を呼ぶ。ビクビクして様子の雫。

 

「………」

「あ、あの音也。やり過ぎたことは反省してる……わ」

「…………」

「本当に……ごめんなさい」

「……謝るのは俺に、じゃないだろ?」

「うっ……その、ごめんなさい皆んな。皆んなの心のことを一切考えてなかったわ……」

 

ハウリアたちに向かってぺこりと頭を下げる雫。ハウリアはというと……なぜかキョトンとしている。

 

「何を言ってるのですかボス。これでも私たちは感謝しているんですよ」

「感謝……?」

「軟弱な我らをどんな方法であれ育ててくれたのはボスです。これで我々は怯えることなく、堂々と胸を張って生きることができます」

「そう……なのかしら」

「だからそんなに悔やむことはないんです。何時ものようにしゃきっとしてください」

「……ありがとう」

「ま、お前らがそう言うなら問題ないな」

 

初めから怒るつもりはないので雫のことを抱き寄せた。ユエが「むっ……」となっているが……後で構ってあげるからそんな顔しないでくれよ。

 

「お、音也?」

「……よくやった。俺からも礼を言うぜ」

「……怒ってないの?」

「怒れるかよ。俺が言いたかったのはやり過ぎってことだけだ。後の九割は感謝の気持ちで一杯だよ」

「あ……うぅ」

 

最近の雫にしては珍しくモジモジしている。どうしたんだろう。

 

「ほれ、今更恥ずかしがることはないだろ」

「そ、そうは言っても……他の人の目が」

「可愛い奴だなあ……お前」

「かわ……!?」

「うし、行くとするか。ここに居ても意味ねえからな」

「ちょ、ちょっと待って! 可愛いってどういうことよ……!」

 

顔を真っ赤にした雫の言葉を軽くスルーしながらも俺は歩き出すのだった……。

 




今年はまだ蝉が鳴いてませんねえ…自分が小さい頃はこの頃にミンミンジージー鳴いていたんですが()

恵里の処遇はどうする?

  • 勇者バカ之河の被害者だから救おう
  • 消せ(無慈悲)
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