その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
第一楽章 入学
約二年後
「本校に入学した皆さん、おめでとうございます。今日という素晴らしい日を我々教職員は心待ちに──」
「ふああ……」
大きな欠伸一つ。俺も今日から高校生だ。
「それでは新入生代表、紅音也さん。前へお願いします」
「はい」
「え、ウソ?!」だとか「マジで?」っていう声を無視して俺はヴァイオリンを持ちながら壇上へと上がった。
「教職員の皆様。そしてお越し頂いた来賓の皆様。本日はこのような素晴らしい入学式を開催していただきありがとうございます」
ここまでは多分テンプレ。そう、ここまでは。何のためにヴァイオリンを持ってきたと思う?
「私はそこまで口は回りません。細かいことは全て音楽で語ってきた人間です。ですので今回も……」
スッと構える。
「全てはヴァイオリンで語らせていただきます。代表の言葉兼演奏会になってしまい申し訳ないですが……」
「いいぞもっとやれ!」
「長ったらしい言葉なんかより一曲百万ドルの演奏が聴きたい!」
「今まで長々とつまらん言葉聞かされたのに今年は最高だなあ!」
思った以上に好評である。これで心置きなく演奏ができる。
「それではお聞きください。ヴィヴァルディの『四季』より『冬』です」
目を細め、呼吸を浅くして弦に弓を触れさせる。体育館全体の空気が張り詰め、音を反響させるには素晴らしく整った環境へとなった。
もはや何も言うまい。あとは音楽で語ろう。
そう決意し、俺は耳ではなく記憶に残る音色を奏で始めるのだった……。
──────────────────
「ああ眠い……疲れた」
演奏会は大成功だった。半分意識を音に飛ばした甲斐あって拍手喝采で終了したのである。
とはいえ俺も人の子。普通に疲れたのである。
まあ疲れた原因は他にもある。殆ど面識のない人たちと一緒に過ごすというのは疲れるものだ。
「サッサと帰って寝ようかな」
「あ、やっぱりいた!」
「ん?」
聞き覚えのある声だ。これは確か二年前に……。
「やっぱり音也くんだ。久しぶりだね」
「ハジメじゃないか」
「覚えててくれたんだね」
二年前に出会った南雲ハジメその人である。彼もこの高校に入学していたらしい。
「クラスも同じだもんね」
「そういや……」
「眠そうにしてたから気が付かなかった?」
「ビンゴ」
「朝から凄い物聞いたよ。眠気が吹き飛ぶぐらいだった」
「そいつは良かったよ」
「あら……もしかして紅くん?」
「その声は雫か」
髪を伸ばしてポニテになった八重樫雫が現れた。
「奇遇ね。南雲くんも同じクラスだし」
「なんだ知り合いか?」
「家が近いのよ。中学校は別だったけどね」
「なるほどなあ……ところでそちらにいるお嬢さんは?」
「あ、初めまして。白崎香織です」
なんだこの学校。顔面偏差値高すぎだろ。香織は吸い込まれるような濃淡色の髪をロングで垂らしている。全身から優しいオーラを放っており、まさしく天使だ。こんな人間いるの? ってぐらいに美人である。
「演奏、凄かったですよ」
「同学年だからタメ口でいいよ」
「あ、そうだね……有名人だから緊張しちゃって」
「普段はごく普通の高校生だよ。気にするな。それとハジメ。白崎に見とれるのはいいがそろそろ戻ってこい」
「い、いいいや見とれてなんか……」
「あ、ふーん……」
「疑いの目を向けないでよ……」
「まあお似合いだと思うぞ。とりあえず行こうか」
「行くってどこに?」
「雫の家で」
「唐突ね。まあいいけど」
「え、まさか僕も?」
「当たり前だろ。ほら行くぞ」
「ちょちょちょ! 引っ張らないでよ!!」
ハジメを片手に捕まえた状態で歩き出す。後から微笑ましいとでも言いたげな顔の雫と香織がいるが軽くスルー。そのまま八重樫道場へと向かうのだった。
────────────────
「ふう……お茶が美味い」
「本当だね。縁側で飲むお茶はやっぱり美味しいや」
「雫ちゃん本当にお茶淹れるの上手だよね」
「褒めても何も出ないわよ」
ここは八重樫道場の縁側。俺たちはお茶と和菓子を楽しみながらも談笑していた。
「あらあら、いらっしゃい」
「露葉さんお久しぶりです」
「あ、あの……僕もお久しぶりです」
「あら、ハジメくん。元気にしてた? お父さんたちも元気かしら」
「憎たらしい程に元気ですよ」
「それに香織ちゃんも。こんなに綺麗になって……」
「いえいえ。露葉さんの方が綺麗ですよ」
「もう、褒め上手なんだから」
普段こういった時間が取れないだけに余計楽しく感じる。ヴァイオリンを弾かない日はゼロだし格闘術の訓練も独自にしているので中々休みがないのだ。
「あれ、今日はお客さんがたくさんだね」
「あらお父さん」
「ご無沙汰しています」
雫と露葉さんの父親である
「音也くん、手合わせ願えるかな」
「いいっすよ」
「ちょっと……大丈夫なの?」
「格闘術は独自でだけどやってる。それにこうしてたまに手合わせしてもらっているんだ」
庭に下りながら簡単な説明をする。
「今日はどうするんだい? イクサは……」
「あ、言っちゃいましたね……まあいいですけど」
「え、イクサ?」
「丁度いい機会だし……虎一さん。イクサでいきますね」
「待って……ついていけない」
「え……音也くんってまさか」
「露葉さん以外は知らないもんな。まあ言いふらすのだけは勘弁してくれよ。俺は皆んなを信用して変身するんだから」
「「「へ、変身……?」」」
「ハジメ。黒歴史は押し込んどけ」
『レ・ディ・ー』
「変身」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「ちょ……なにあれっ?!」
「雫ちゃん、あれって最近噂の仮面ライダーイクサだよ!」
「夜の街を守っているとかいう謎のヒーローのこと?」
「壊滅させたマフィア組織は4つにヤクザの組を5つ潰したとかなんとか。捕まえられた犯罪者は数えられないぐらいだったよ」
「それが紅くんだった……ということ?」
「表の顔は天才ヴァイオリニストで裏の顔は仮面ライダーって……男心を揺さぶる素材が多すぎる」
なんか色々言っている。まあいいか。
「行きます!」
「応!」
俺の拳と虎一さんの日本刀が交錯する。パワードスーツの打撃を食らって折れない日本刀の硬さはさておき、相変わらず凄まじい剣技だ。考える時間が殆どない。
「大分腕を上げたみたいだね」
ヒュッ
「いっぱいいっぱいですよ」
ガキンッ!
「活動時間も延びてきてるようだね」
スススッ
「マラソン選手っ……並に鍛えられますからね」
スッ
「反応も素晴らしい。剣技を教えたいものだ……」
ヒュンッ
「あ、そろそろキツイんでラスト行きます」
パシッ ガン!
ナックルフエッスルを取り出す。どんなに活動時間が延びても15分が限界だ。故に余力のあるうちに必殺技を撃っとくことにしたのである。
『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「ォォオオオオオ! デヤアァァァァア!!」
ドパアァァァァァァァァァァァァァアアン!!!
五億ボルトの電磁波をイクサナックルから発射した。その名も「ブロウクン・ファング」。単純に五億ボルトというと500m先まで到達する電圧である。ちなみに直接殴りつけることも可能であり、その時の威力は母さんの計算上東京スカイツリーが余裕で全壊するらしい。恐ろしや。
「八重樫流奥義……‘‘白虎雪閃‘‘」
対する虎一さんは剣技で飛ばされた電磁波を拡散させるとかいう暴挙に出た。暴挙だけどこれまでこの手で何度も粉砕されている。生身仮面ライダーとは彼のことだろう。
「フッ! ハッ! ヤア!!」
「今だっ!」 カチッ シュッ
『イ・ク・サ:ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「なにっ?!」
「アップデートしたのは俺だけじゃないんだぜええ!」
母さんマジ感謝。内包電圧量が上昇したおかげでブロウクン・ナックルも連発できるようになったのである。
「ウオラァ!!!」
「うぐう‥‥!」
今度は直接殴りつける。意識がもうそろそろ吹き飛びそうだが‥‥無理やりなんとか‥‥!
先に言っとくがこれは模擬戦である。死にかけてるが模擬戦だ。
「っ?!」
しかし‥‥あと一歩及ばず。警告を知らせるタイマー音が鳴り響き、俺の変身は解除されてしまったのである。
もう立てはしないし、戦うことなんてできない。また俺の敗北だ。
「かっ‥‥」
そのまま俺は意識を失うのだった‥‥。
────────────────
「み、見事‥‥だっ」
「お、お父さん! 紅くん!!」
「白崎さん、八重樫さんと一緒に虎一さんを運んで! 僕は音也くんを運ぶから!!」
「う、うん!」
‥‥紅くんが倒れ、その後にお父さんも倒れてしまった。死んではいないがしばらくは寝てしまうだろう。
「香織! お父さんの足を持って!」
「こ、こうかな?」
「それでいいわよ! せーのっ!!」
二人で持ち上げてお父さんを縁側まで持っていく。南雲くんは既に運び終えたらしく、濡れたタオルを持ってきてくれた。
「お父さんはとりあえず床の間に転がしておけばいいけど‥‥紅くんはどうしましょう」
「‥‥ねえねえ南雲くん」
「な、なに?」
「デートしにいかない?」
「えっ?!!」
「ほら、行こう!」
「待って待って! なんで今日はこんなに引っ張られるのお!?」
「ちょっと、二人とも待ちなさいって!」
「雫ちゃん! ごゆっくり!!」
なんてことだ。香織が南雲を連れて出で行ってしまった。これでは紅くんの介護をするのは私一人だけだ。二人っきりで過ごすなんて‥‥。
「二人っきり‥‥?」
徐々に顔が熱くなる。私は普段、弱味を見せないように気をつけている。なるべく他の人が明るくなれるように自分を殺しているのだ。
よく女の子にも「惚れた」だとか「男前」だなんて言われるが‥‥地味に傷ついているのである。
私だって白馬の王子様に迎えに来てほしいし純情な恋をしたい。本当なら剣術を辞めて花嫁修業したいところだし可愛い動物の動画も見たい。
そう、私‥‥八重樫雫は男前なんかではないしナイトでもない。乙女なのだ。
「あ‥‥この姿勢じゃ頭が痛いわよね」
スッと紅くんの頭を持ち上げて私の膝に乗せる。と、ここまでやってみたところで猛烈に恥ずかしくなってきた。
三年ほど前から音楽の世界を賑わせていた紅くん。私も彼の演奏に心を奪われてファンになった。当時幼馴染であり完璧超人の「天之河光輝」と仲が良かったせいで女子からイジメられていた私にとって、心を安らぐことをさせてくれる数少ない人物だったのである。
しかし二年前、突然行方不明になった姉を彼が運んできてくれた。
私は舞い上がった。テレビでしか見ない、遠くの存在の彼が目の前に現れたのだ。
どこまでも優しい瞳。溢れるばかりの幸せそうなオーラ。どこを取っても素晴らしかった。
しかも彼は私のことを女として扱ってくれたのだ。舞い上がった私はあっという間に‥‥本気で彼に惚れ込んでしまった。
決して届くはずのない思い。それでも私は、会えなくても彼のことを思い続けた。
そして今日‥‥再び出会えたのだ。同じ高校、しかも同じクラス。これまでの辛さが嘘のように消え去ってしまった。
紅くんがイクサだったことは衝撃的だった。けど‥‥彼は影から私たちを守ってくれていたのだ。未だに混乱してはいるが、なんとか受け入れられそうである。
「‥‥ねえ、この思いはどうしたらいいの? 貴方はとても眩しくてどんな子でも魅了しちゃう。私みたいな人が愛しても気が付かないかもしれない」
彼の亜麻色の髪を撫でる。サラサラとしていてとても手触りが良い。綺麗に揃えられた髪。男子にありがちである無難な髪型だ。どことなく近所のお兄さんとも似ている。
「もう止められないよ。貴方は私を見てくれるのかしら? あわよくば‥‥守ってくれるのかしら」
一人呟く。そのまま私は彼が目覚めるまでの間、紅くんの髪を撫で続けるのだった‥‥。
雫って可愛いですよね‥‥あのいじらしい感じが堪らないです(変態発言)
そのうちダークキバ出そうかなあ‥‥
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)