その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「ねえ、さん? 私は貴女の姉ではないですけど……」
「そんな、何を言ってるのよ姉さん。私は雫よ? 貴女の妹」
「し……ず……く?」
「雫、落ち着け。お嬢さん……自分の名前は分かるかい?」
「……露葉です」
「名前は覚えてるのか……んじゃ露葉さん。俺のことは覚えてるか?」
「……いいえ」
「雫、露葉さんは記憶喪失らしい。恐らく転送のショックで……」
「そんな……」
外傷が見当たらないのが唯一良かったところか。恐らく生きるのに大切なこと以外は忘れてしまった可能性が高い。
「……キャッスルドラン。この人が来たのはいつ頃?」
「ガウ!」
「……三日前。城内の時の扉がなぜが反応したと思ったら転送されてた」
「これもクソ神の仕業なのか? だとしたらマジで許せねえんだが……」
「……ううん。それは違うみたい」
「と、いうと?」
「……まず、この世界と音也たちが元々住んでた世界は恐らく近い位置に存在している。ただ近いとは言っても普段は移動なんて出来ない。なぜなら世界と世界の境界には強固な結界があるから。でも例外がある」
「「例外?」」
「……結界の薄い場所で自殺未遂をすると転送されると言われてる。確定ではないけどこれはお父様から聞いた」
「ということは……露葉さんは自殺未遂をしてまでこの世界に来たのか?」
「……そういうことかもしれない」
「そんな、何で……」
様々な理由を思い浮かべてはゴミ箱に捨てていく。が、その答えはわりかしあっという間に出てきた。
「雫と会いたかったとしか思えないな。露葉さんは誰よりも雫のことを心配してた」
「姉さん……」
「とりあえずここに留まるのは危ない。ウィルのことも捜さないといけないしな」
「姉さんはどうするのかしら?」
「連れて行くに決まってるだろ。雫の家族なのだからな」
「音也……」
今は露葉さんの記憶のことを気にかけてる場合ではない。優先順位的に上なのはウィルを捜すことだ。
(ハジメ、どうだ?)
(おう、見つけたぞ)
(は?)
(見つけた。だが先生たちが休みたいってさ)
(ああ……そうか)
(そっちは何か見つけたか?)
(見つけた。お前と関わりの深い人をな)
(と、いうと?)
(説明は後だ。合流するぞ)
(そうか。座標は偵察機を通して確認しろよ)
(おう)
……どうやらウィルが見つかったらしい。それならば尚更早く戻って露葉さんを休ませるべきだろう。
『レ・ディ・ー』
「雫、ユエ。俺に付いてこい。露葉さんは俺が背負ってく」
「了解よ」
「ん……キャッスルドラン。また会いに来る。また今度」
「グウ!」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「あれ……なんか見たことがあるような。気のせいかな……」
「……気のせいなんかじゃないですよ。ほら、掴まってください」
「……とても懐かしい感じがしますね。なぜでしょうか」
彼女の無垢な瞳が今ではとても痛々しい。が、幸いにも俺は今、仮面を被っている。涙が見えることは決してないだろう。
「さあ……そのうち分かりますよ。では、しっかり掴まっててくださいね。振り落とされたら助かりませんから……!」
「え、ちょ……待ってくだきゃああああ!?」
すまん露葉さん。今は一刻も早く合流したいんだ。多少手荒になるのは許してくれ。
座標は現在地より東に一キロ。そこまで時間はかからないだろう。
「え……空を飛んでる?」
「正確には跳んでる、ですよ。ほら良く見て。空に足場が出来てるでしょう?」
「……本当ですね」
「合流地点は……そこか。あっという間に到着で
きそ……!?」
「音也、この気配は!?」
「……大きい!?」
「なんだこりゃ……デカすぎるだろ。ステータス値的にはハジメと同格だぞ」
突如現れた巨大な気配。思わず戦慄しながらも俺は空を駆け抜けて合流地点近くまで辿り着く。そして上空から義眼を使って気配の正体を探った。
偵察機からは何も映っていないところを見るにそこまで離れてはいないはずだ。
「ちっ……見えないか。それならば耳で……」
呼吸を止めて全神経を耳に集中する。露葉さんの心音や呼吸音はさておき……半径数キロの範囲を誇る俺の聴覚はある意味気配感知よりも優れている。
あまりに耳が良いので騒音は本当に苦手だったりするが……こういう山中ではなんの気兼ねなく能力を発揮できる。
「…………そこか!」
ドパアアアアアン!!
一瞬の早抜き。からの速射。しかし今回は命中したかどうかはあまり重要ではない。重要なのは……。
「グルアアアアア!?」
「……見つけたぞ。雫、ユエ。クラスメイトを頼んだ。どうせマトモに戦えやしないからな」
「任せなさい」
「ん……」
「あの、私は……」
「振り落とされないでくださいよ? 命の保証はありませんからね」
「あ、はい……」
「音也。お前……キャッスルドランと会ったのか?」
「コウモリモドキ……ああ、なんか雫の家族が居たよ」
「そう、か……」
「コウモリモドキはハジメの援護を頼む。安全圏から魔法でもぶち込んでくれ」
「分かった」
眼下の体長七メートルほどの黒い龍を睨みつけながら指示を飛ばす。所謂蛇タイプの龍ではなく爬虫類タイプの龍とはいえ……威圧感は凄まじい。
いつぞやの日にみたワイバーンモドキと比べると……月とすっぽんである。そのぐらいに凄まじいのだ。
『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
重力魔法で〝落ちる〟ことで天歩を使うよりも遥かに速い速度で急降下。そのままイクサナックルを叩き付けながら一回転してユエの傍に着地した
「守りに専念しろ。任せるぞ」
「ん!」
「ハジメ、シア、雫!」
「おんどりゃあああ!!」
「一閃 〝絶断〟」
ドパンドパンドパンッ!!
「硬い……音也。AAを使うから時間を稼いでくれ」
「任された!」
『イ・ク・サ・ハ・ン・マ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「食らええ!」
ズドパアアアアアン!!!
「グウギイイイ!?」
「断ち切れ 〝電斬〟 駆け巡れ 〝迅雷〟」
「こんのおおお……ハジメさんの石頭よりも硬いですぅ!」
ドパアアアアアン! ドパアアアアアン!
「チッ……俺の対物ライフルじゃ効かねえか」
「グオオオ!」
キュゥワァアアア!!
突如として不思議な音が響き渡る。黒龍は攻撃されること構わずにウィルや愛子先生たちのいる方向を向いた。そして鋭い牙の並ぶ顎門をガパッと開けてそこに魔力を集束しだした。
俺は咄嗟に縮地で地面を蹴って後進。ハンマーと対物ライフルを宝物庫に放り投げて再びナックルフエッスルを手にした。
『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「うおおおおらあああ!!!」
ズパアアアアアアアン……
五億ボルトの電磁波をその場に打ち出して重力魔法で固定。バリア代わりにしたところで龍の放った漆黒の極光が電磁波とぶつかった。
さらに俺はイクサの全電力をイクサナックルに注ぎ込む。そうすれば数分間は電磁波を展開し続けることも可能だ。ただし電力がそこをつきたら変身は解除されてしまう。
「ハジメぇ! まだかあ!」
「もう少し耐えろ! あいつの装甲を一撃で抜く場所に合わせたい!」
「早くしろおおお……!」
「音也!」
「音也さん!」
「音也……! 〝聖絶〟!」
「助かったユエ! このまま……耐えろ!」
「ん!」
地面に少しずつ足がめり込んでいく。ユエの結界の御蔭で何とか持ちこたえてはいるが……このままではジリ貧だ。雫とシアは黒龍に苛烈な攻撃を仕掛けているがあまりに硬い装甲を抜くことは出来ないようである。
「ハジメえええ!!」
「もう少し……もう少しだけ頼む!」
「くそったれええ……早くしやがれええ!!」
変身が少しずつ解けていく。電力の供給が行き渡っていない足から徐々にスーツが崩れていく。あと三十秒だ。
足から腰。腰から胸。顔。スーツが崩れ去り残すところはイクサナックルを持っている右腕と僅かな肩部分のスーツのみである。
しかしそこで……ようやくハジメの声が響き渡った。
「発射あ!!」
ズドバアアアアアアアアアン!!!
「グガアアアア?!!」
黒龍が思いっきり後ろに仰け反った。どうやら装甲と装甲の間を狙ったらしい。発射した弾薬は恐らく硬芯徹甲弾だろう。跳弾しなかったのは幸いと言うべきか。
「コウモリモドキ!」
「ガブリッ! 」
「……変身!」
走りながら変身を完了する。さらに紋章を作り出して黒龍の足下に潜り込ませた。そして真上からも紋章を落としてサンドイッチ。重力魔法を付与しているので効果は数倍に跳ね上がっている。
「行くぞ……トドメ!」
「ウェイクアップ・ザンバット! 」
扇状に展開されるザンバットソード。それを某オールレンジ兵器のような軌道で発射した。さらにウェイクアップフエッスルを取り出す。
ここで攻撃が決まり切らなかったら勝ち目は薄い。俺の体力もそこまで残ってはいないのだ。露葉さんを守りながら戦うとなれば迅速に無力化しなければならぬ。
「ウェイクアップ・II! 」
「セヤ!」
紅月目がけて跳び上がる。何時もなら後方宙返りから蹴りに行くが……流石に某光の王子のように前進しながら後方宙返りするのは控えたい。と、なれば手は一つ。前方宙返りすれば良いだけだ。
「エエイヤアアアアア!!」
「グウウ……!」
重力魔法を使って横に落ちながら両足蹴りを試みる。黒龍はブレスを乱射しているが……その程度の火ではキバの鎧を貫通することなど不可能だ。
「食らえええ!!!」
ドパアン!!
「ガウウ……!?」
ブレスを突破して黒龍の顔面に蹴りを叩き付ける。さらに俺は上に待機させていたザンバットたちを一気に落としながら俺自身は大ジャンプして一つザンバットを手にする。
そして紋章に押し潰されザンバットに串刺しにされている黒龍の尻側に回り込んだ。
「……くくく。やはりケツに装甲は張り巡らされていないな?」
「あ……もしかして」
「そのまさか、だ。さあ……ケツから死ね」
問答無用。情け容赦なし。俺はなんの気負いもなしにザンバットを黒龍の「ピッー」にズブリとぶっ刺した。と、その瞬間である。
〝アッ────ーなのじゃああああ────ー!!! 〟
「は?」
くわっと目を見開いた黒龍が悲痛な絶叫を上げて目を覚ました。俺はそのままザンバットを奥に突き刺してトドメを刺そうかとでも思っていたのだが……突然響き渡った絶叫に思わず手を止めてしまった。
〝お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~〟
……どうやら黒龍退治一つでもスムーズに行くことはないようである。俺は思わず溜め息を一つつくのだった。
露葉さんの記憶はまだまだ戻りません。すぐに戻ったらちょっとつまらない…ですよね?()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)