その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
ここはウルの町外れ。俺たちは清水を囲んで重々しい雰囲気で互いを見つめ合っていた。ちなみにこの場に居るのは俺とハジメ、美女~ズ、愛子先生、クラスメイト、町の重鎮数人、ウィル、ティオ、そして露葉さんである。
正直俺としては清水のことはどうでも良い。しかしこのまま立ち去るわけにもいかないので渋々残留している。
やがて清水が目を覚ました。始めはボーッとした瞳であったが……囲まれていることに気がつくとすぐに距離を取ろうと後退った。
「清水君……なぜ、こんなことをしたのですか?」
「なぜ? そんな事もわかんないのかよ。だから、どいつもこいつも無能だっつうんだよ。馬鹿にしやがって……勇者、勇者うるさいんだよ。俺の方がずっと上手く出来るのに……気付きもしないで、モブ扱いしやがって……ホント、馬鹿ばっかりだ……だから俺の価値を示してやろうと思っただけだろうが……」
どうやら手遅れである。こいつは今すぐにドパンッ! するか紋章サンドイッチする方がいい気がしてならない。
反省の欠片もなく悪態をつき不平不満を零す姿。そして何よりも黒く濁った瞳。恐らく先生の言葉は届かないだろう。
現に先生が説得しようとしているものの清水の心から流れ出す音楽は不快極まりない物のままである。
俺はとりあえず興味ないので明後日の方向をボケーッと見つめながら事が収まるのを待つことにした。が……それは甘かった。
「動くなぁ! ぶっ刺すぞぉ!」
裏返ったヒステリックな声でそう叫ぶ清水。その表情は、ピクピクと痙攣しているように引き攣っている。愛子先生は清水に羽交い締めにされ全長十センチほどの針を首筋に押しつけられている。
「いいかぁ、この針は北の山脈の魔物から採った毒針だっ! 刺せば数分も持たずに苦しんで死ぬぞ! わかったら、全員、武器を捨てて手を上げろ!」
「ええ……なんでこうなるん?」
「おいお前! その銃と蛇腹剣をこっちに寄越せ!」
「はあ? 何言ってんだお前」
なんかロックオンされたので胡乱な視線を送る。とりあえず面倒くさそうな雰囲気なので少しずつ
威圧を展開してファンガイアスレイヤーで肩をトントンと叩く。
「というかお前は俺の正体が分からないのか? クラスメイトの顔も忘れてしまったか?」
「なに……!? お前、まさか紅か!?」
「そうだよ。紅音也だ。生憎生きてるんでこうしてお前と会話してるが……いや、会話にもなっていないか。兎に角お前がどうやって脅しても俺に勝つことは不可能だ。お前は『弱い』んだからな」
「ぐっ……うう……!」
「さあどうする? 先生は殆ど盾の役割を果たしていない。お前が認識する前に脳天をぶち抜く事だって出来るんだぞ?」
「俺が勇者だ、俺が特別なんだ、どいつもこいつも馬鹿ばっかりだ、アイツ等が悪いんだ、問題ない、望んだ通り全部上手くいく、だって勇者だ、俺は特別だ……」
「あかん。これ以上は……」
ファンガイアスレイヤーを気がつかれない程度に構える。この距離ならば清水が認識する前に拘束して纏雷を使って感電させることも出来る。
俺の手がゆっくりと下がり、威圧のレベルも上昇してきた……正に一触即発。その時である。
「ッ!? ダメ!!」
露葉さんが突然縮地並みの速度で清水に掴みかかって愛子先生を引き剥がした。さらに何かから先生を守るかのように抱きかかえながら身をよじった所で……蒼色の水流が露葉さんの脇腹を掠めながら清水の胸を貫いた。
「露葉さん!?」
「姉さん!!」
「野郎……そこか!」
バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ! バンッ!
水流が飛来した方向を瞬時に逆探知してファンガイアバスターの引き金を引く。俺の義眼には今にも鳥形の魔物に乗り込んで飛び立とうとする黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男が映っていた。
命中したかを確認している暇はない。俺はすぐに視線を露葉さんに戻した。
「露葉さん!」
「う……くっ」
「おいハジメ! 先生のこと頼むぞ!」
「任された!」
「神水……これかっ!」
露葉さんの横腹は数センチ抉れており、さらに清水が所持していた針が掠ったのか顔を真っ白にして痙攣している。
宝物庫から神水の入った容器を取り出して露葉さんに飲ませようとするが……。
「ゲホッ……ゲホッ……」
「ダメか……くそっ」
「姉さん……しっかりして!」
「うく……しず、く」
「ねえ、さん?」
「ああ……しずく。あな、た……いきて……」
「これ以上喋るな! 死期を早めるだけだろうが!」
こうなったならやる事は一つだ。俺は神水を口に含んだ。そして……。
(雫……すまん!)
「ッ!?」
……露葉さんに口づけした。そのまま舌を絡め取って吐き出せないようにロック。口移しで神水を露葉さんに流し込んでいく。
露葉さんは目を見開き驚いたような表情をしているが……申し訳ない。これしか方法がないんだ。我慢してくれ。
やがて神水の効果が現れ始めたのか、荒々しかった露葉さんの心音は正常に戻りだした。さらに抉られた傷はきれいさっぱり治っており痙攣も治まっている。
「……すまない、露葉さん。これしかなかったんだ」
「音也……」
「雫も、申し訳なかった。後で埋め合わせはする」
「……ううん。むしろ、助けてくれてありがとうね」
「そう言ってくれると嬉しい……って露葉さん? おーい」
「…………」
「おーい? 露葉さん大丈夫か? 意識あるか?」
「え、あ、ふぁ!? お、おおおおおとや君!?」
「あれ、急に言葉が滑らかになったな」
「あ、え、その……私、なんて言うか……あれ? あ、私口づけされて……」
「……まあ後でにするか。雫、見てやってくれ」
「分かったわ」
「さてさて……おい、清水はまだ生きてるのか?」
露葉さんのことは雫に任せて倒れ伏せたであろう清水のことを尋ねる。まあ掠っただけであれほどの重体になった露葉さんを見ているので何となく想像はつくのだが。
「清水君! ああ、こんな……ひどい」
ハジメの看護を受けて復活した先生が駆け寄ってきて……顔を覆った。清水の胸にはハッキリと分かるぐらいにポッカリと大きな穴が開いていた。血は諾々と流れ出し命が消えかかっていることを嫌でも認識できる。
「し、死にだくない……だ、だずけ……こんなはずじゃ……ウソだ……ありえない……」
「……こりゃ助からねえよな」
「く、紅君! さっき八重樫さんのお姉さんに飲ませていた薬を!」
「はあ? あんたは正気なのか? あいつは先生を殺そうとした人間だぞ? ただ生徒というだけで助けたいだなんて……先生の域をオーバーしていないか?」
「常々承知してます。でも……私がそういう先生でありたいんです。何があっても、何をされても生徒の味方である先生になると誓ったんです! だから……!!」
「……随分とまた自分勝手だな?」
「ッ……!」
「……面倒くせえな。おい清水、聞こえてるな? 俺にはお前を助けられる手立てがあるが一つだけ質問に答えろ」
「…………」
「簡単な質問だ。お前は……俺たちの敵か?」
「て、敵じゃない……俺、どうかしてた……あ、あんたに忠誠を誓う……な、何だってする……何でもするから……だから助けて……」
「…………」
今一度清水の瞳を覗き込む。そして心の音楽を聴く。
まるで深淵のように深く暗い瞳。嫉妬や嫌悪、我が儘を練り固めたような心の音楽。
「……堕ちたな」
ファンガイアスレイヤーとファンガイアバスターを握り直した。やることは……一つだ。
「……ッ! ダメェ!!!」
ザッ…… グチャア! ポーン……
バンッ! バンッ!
ドサッ……
「……どうして?」
首の飛んだ清水の死体を見つめた先生が呟く。それに俺はただ一言、伝えた。
「敵だから、だ」
「そんなっ! 敵だなんて……!」
「俺のしたことに……口を出すな。これは俺があんたの話を聞いた上で決断したことだ。口を出す権利はない」
「ッ……」
「寂しい生き方、ね。色々考えさせられたが……この生き方を変えることはどうやら出来ないらしい。大切な人を守るためなら例え俺が壊れたとしても如何なる汚れ仕事も躊躇わない……変えることは不可能さ」
「ああ……紅君。私は……私は……!」
「……先生の想っている〝先生〟という像は既に幻想と言っても過言ではない。特に命の軽いこの世界では特に、だ。それでも信念を曲げるつもりがないのなら……どうか気を強く持って俺たちの先生のままでいてくれると嬉しい」
立ち去ろうとした俺を引き留めた先生に言葉を投げかけ……今度こそ俺は振り返ることなく四輪を取り出してその場から消えるのだった。
はい、ひとまずウルの町編はここで終わりになります。次回からは再びフューレンに戻って様々な出来事に遭う音也たちを書くつもりです。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)