その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「ほら音也くん。早く歩いて?」
「急ぎすぎですよ……転ばないでくださいね」
……翌日。俺と露葉さんはフューレンの観光区まで二人でデートしに出かけた。ちなみにハジメとシアもデートをするらしく俺たちより一足早く出発していたりする。
露葉さんはユエに制作して貰ったのであろう巫女服を着ており、腰付近まで伸ばした艶のある黒髪も相まってThe 大和撫子な雰囲気を醸し出している。言うならば艦隊コレクションの扶桑……のような見た目である。流石に違法建築煙突の髪飾りはしていないが。
なお俺に関しては今日限り眼帯を装着している。流石に義眼丸出しで町に繰り出すのは露葉さんが反対したのである。
「それにしても音也くんは相変わらず何だね。ヴァイオリンをデートにまで持ち込むなんて……」
「これは……いや、すんません。いざという時にはこいつで解決出来るかもなんで」
「ふーん? 演奏で……か。まあこの世界なら十分あり得ることね」
「理解早くて助かりますよ。んで、どこへ行くんです?」
「そうねえ……折角だから露店でも見て回りましょうか。お腹空いたしね」
パチッとウインクして先行する露葉さん。今のウインクで近くに居た男が殆どノックアウトしたようである。もっとも、過半数の理由はその隣に居た恋人の拳による物だろうが……。
しかし女性からの視線を妙に感じるのは何故だろうか?
「すみません。この串焼きを二つお願い出来ます?」
「あれ、お嬢さん綺麗だねえ! こいつはオマケだよ。持っていきな」
「そんな、悪いですよ」
「ああ……貰える物は貰っときましょうや。ご厚意なんですし」
「って君もイケメンだね! お似合いのカップルだよホント!」
中々に調子の良いおっちゃん店員である。その瞳には嫉妬の色が見受けられず、年長の余裕というものを感じ取る事が出来た。
久しぶりにマトモな大人に出会えたので思わず頬が緩む。ここは一つお礼代わりの演奏をして差し上げるべきだろう。
「音也くん……頼めるかしら?」
「……何でもお見通しですね、露葉さん」
「お、それはヴァイオリンかい? 随分と使い込まれているようだね」
「お礼代わりに一つ演奏でもしようかと思いましてね。ちょっと腕には自信があるんですよ」
そう言って弓を弦に触れさせる。曲は……イクサのテーマだ。753が変身した時に流れる印象が強めだが音也の変身でも流れている。
初めはゆっくり。一つ一つの音を確かに噛みしめるかのように紡ぎ……と、勘違いさせた次の瞬間には一気に加速していく。
個人的な感想ではあるが人間は半音が絡むと耳によく残る。無論半音オンリーで弾くとそうでもないが……上手い具合に普通の音と組み合わせることで絶妙なハーモニーが生まれるのだ。
「……ふう」
「……すげえ」
「ふふ……流石ね」
時間にして約一分。しかしその一分もの間に数多くの音色を詰め込んだ。充実感としては一時間の演奏と同じぐらいであろう。
俺はオマケを貰ったお礼を改めて告げてその場を立ち去ろうとした……が、引き留められた。
「あ、あの! 私と食事でもしませんか?」
「抜け駆けはズルいでしょ! あ、私とそこのカフェでどうです?」
「こら、迷惑でしょ! ……あの、私とどうです?」
「何だこりゃあ」
「ふふ、人気者だね?」
「やってられるかよ……ほら、行きますよ」
「やん……引っ張らないでよ」
「……艶めかしい声出さないでくださいよね」
関わるのは面倒くさいので露葉さんの手を握って思いっきり地面を蹴り飛ばして宙に浮いた。そんで宙に浮いたら天歩で移動して人気の少ないカフェの近くに降り立つ。
ヴァイオリン演奏しただけで女が目の色変えて迫ってくるの怖すぎて仕方がない。
「はあ……面倒くせ」
「ふふ……どこの世界でも人気者だね」
「勘弁してくださいよ。俺は雫とユエを愛してるんですから」
「あら、私のことは愛してくれないのかしら?」
「……あんまりイジメないでください」
「考えとくわね~」
正直この先の旅が心配だ。雫やユエとバトルにならないだろうか……。
とはいえ今は考えても仕方のないことだ。故に俺は心配事をどっかに放り投げて近くにあったカフェに入ることとした。
「ふう……おいし!」
「幸せそうに食べますねえ」
「だって美味しいんだもの。美味しいって幸せでしょ?」
魅力的な笑顔で話しかけてくる露葉さん。雫かユエがいたらほっぺたをつねられるぐらいには頬が緩んでいる気がする。
普段は非常にお淑やかで他の模範となるような人物だが……オフの時はかなりラフであるし取っつきやすい性格をしている。
若干天然が入ってはいるのだが……むしろそれが魅力になっていたり。
「……あらら?」
「ん……?」
と、食事を仲良く楽しんでいたのだが……唐突に弱り果てていて小さい気配を感じ取った。露葉さんも同様に感じ取ったらしく、怪訝そうな表情になっている。
気配の小ささからしてこれは恐らく子供の物だ。しかも弱り切っていて今にも消えてしまいそうである。
とりあえず気になるので俺は席を立って走り出した。下の方から気配がするとなれば現在気配元が居るのは下水道である。ならばマンホールを探して待ち伏せが一番であろう。
「マンホールはどこかしら……」
「多分あそこです」
「あら本当ね。ひとまず流れてくるのを待って持ち上げる?」
「ですね……でも露葉さんは待っててくださいよ。流石に下水道に入ってもらうわけにも行かないので」
「優しいのね」
「いや当然でしょ?」
マンホールを見つけたのです跳ね飛ばして中へ突入。気配元に向かって駆け出す。手にはファンガイアスレイヤーだ。
「……そこか!」
ビシュッ! バシッ! グイッ
鞭のようにファンガイアスレイヤーを飛ばして流されてきた気配元を掴む。そしてグイッと引いて俺の手元まで手繰り寄せた。
「ん? ……こいつは!?」
やはり気配の主は子供だったので抱き抱えたところで驚愕の声を上げた。
その子供は、見た目三、四歳といったところだ。エメラルドグリーンの長い髪と幼い上に汚れているにも関わずわかるくらい整った可愛らしい顔立ちをしている。女の子だろう。
だが何より特徴的なのは、その耳だ。通常の人間の耳の代わりに扇状のヒレが付いているのである。しかも、毛布からちょこんと覗く紅葉のような小さな手には、指の股に折りたたまれるようにして薄い膜がついている。
俺はハジメほど博識ではないが基礎知識ぐらいなら頭に入っている。この子は恐らく海人族だ。海人族は西大陸の果、【グリューエン大砂漠】を超えた先の海、その沖合にある【海上の町エリセン】で生活している亜人族であり、王国に海産物を数多く輸出している御蔭で差別対象にも関わらず保護されている族だ。
そんな海人族の、しかも幼子が大都市の下水道を流れてくるなど犯罪臭がプンプンしている。
ひとまず俺は下水道から出て露葉さんを連れて偶々近くにあった温泉施設までやって来た。
「露葉さん。この子と温泉に入ってくれません? ついでに解毒も頼みたいんですけど」
「任せなさい。音也くんは……衣服を買ってくるのかしら?」
「それと食べ物も。目が覚めたら名前を聞いて適当にあやしといてください。出来たら事情聴取も頼みます」
それだけ言い残して俺は縮地を発動。殆ど瞬間移動に近い速度で衣服店に突入して乳白色のフェミニンなワンピースとグラディエーターサンダルっぽい履物、それと下着を購入した。
「プレゼントですか?」
「そうだ。友人に娘が生まれたからな」
いけしゃあしゃあと嘘をついて周りからの視線を回避。風のように店から退出して今度はその辺にある露店を適当に探して食べ物を購入した。
下水道に流されてきたのならば体が温まる物が良いだろうと勝手に考えてまだ温かい団子を買った。団子は腹持ちが良く幼子も食べやすいだろう。
一通り買う物を買って温泉施設の中にある休憩ルーム的な場所まで戻ってくると露葉さんと海人族の女の子は既に上がって髪を乾かしていた。
薄汚れていた女の子は髪は本来のエメラルドグリーンの輝きを取り戻し、光を反射して天使の輪を作っている。
とりあえず服を着せて靴を履いてもらい話を聞く。
「さて……名前はなんだ?」
「……ミュウ」
「そうか。それならまずはこれを食べな。腹が減っただろ」
解毒&殺菌は露葉さんが済ませてくれているので団子容器ごと露葉さんに手渡す。すると露葉さんは慣れた手つきで団子を手に取って「あ~ん」をミュウにさせて食べさせ始めた。
「で、何があったんです?」
「うん、どうも海岸線でお母さんと泳いでたらはぐれちゃったらしくて……そのまま彷徨っていたら人間に捕らえられたみたい。そのままオークション会場のような所まで連れてかれたみたい。そこには人間の子供も居たみたいよ?」
「オークション……しかも人間の子供まで居たのか。これは裏オークション的なやつですね……」
「ミュウちゃんは自分の出番になった時に偶々地下水路へと続く穴を見つけたらしいの。一目散にその穴に飛び込んだらしいわね」
「なるほど……」
「……どうするの?」
「日本で言う警察署みたいなとこに届けましょう。この先の旅に付いてくるのは流石に……」
「……そうね」
「よし、いいかミュウ。これから俺たちはお前を守ってくれる人たちの所まで連れて行く。そこへ行けば時間は掛かるかもだがそのうち家に帰れるはずだ」
「……お兄ちゃんとお姉ちゃんは?」
「悪いがそこでお別れだよ」
「やっ!」
「いや……否定されてもな」
「お兄ちゃんとお姉ちゃんがいいの! 二人といるの!」
「悪いな。こればかりは仕方ないんだよ」
団子を食べ終わったミュウのことを俺が抱き抱えて立ち上がる。顔を引っ掻かれ眼帯を奪われたが止まることはしない。
髪はボサボサ、片目に義眼丸出しの状態で保安署という日本の警察署のような場所に辿り着いた俺は目を丸くする保安員に事情を説明した。
やはり大きな問題らしく、保安員のおっちゃんは必ず手厚く保護して元の場所まで送り届ける約束をしてくれた。
ここまでやればもうお役御免だ。俺はサッサとその場を立ち去ろうとしたのだが……。
「お兄ちゃんは、ミュウが嫌いなの?」
「うっ……いや、そうじゃねえよ。これはお前を守るためなんだ。許してくれ」
一瞬言葉に詰まるがすぐに気を取り直してにべも無く告げる。それでもミュウの悲しそうな瞳と心の音楽は変わらなかったが……致し方ないのだ。
俺は心を鬼にしてその場を今度こそ立ち去った。
沈んだ表情の露葉さんと黙って道を歩く。露葉さんもミュウにあの短時間でかなり入れ込んでしまったのだろう。思うところはあるに違いない。
流石に沈黙に耐えかねて何か話題を振って気を紛らわせようとした。その次の瞬間である。
ドォガァアアアン!!!!
背後で爆発が起き、黒煙が上がっているのが見えた。その場所は保安署だ。
「音也くん……あれって!」
「野郎……やりやがったか!」
ベルトを巻きながら駆け出す。最悪の事態は誘拐犯たちが証拠隠滅を図ってミュウごと爆殺したという事だ。それだけはないで欲しい。
あっという間に保安署へ戻ると、先ほどミュウの保護を受けてくれたおっちゃんや他の保安員が倒れ伏していた。大怪我はしているが命に別状はなさそうだ。
「音也くん……こんな物見つけたわよ」
「……これは」
〝海人族の子を死なせたくなければ、黒髪の連れと共に○○に来い〟
「…………」
「音也くん……」
「分かってる。クソ野郎共……欲をかいたらしいですよ」
ここまでされて知らんぷりは有り得ない。故に俺は凶暴な笑みを作って露葉さんに告げた。
「全て潰して取り返します。行きましょう」
「ふふふ……賛成よ。地獄を見せてやりましょう?」
「勿論」
互いに犯罪者のような凶悪な笑みを浮かべ、俺たちは保安署を後にするのだった。
次回は戦闘回です。それにしてもほぼ毎日投稿は中々くるものがありますね()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)