その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
晩餐会で使うような広間に連れて行かれた俺たち。とりあえず思い思いに着席して話を聞くことになった。
要約するとこんな感じだ。
まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。
人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
そこまではまあいい。問題はその後だ。
人間族と魔人族は何百年もの間戦争をしてるらしい。魔人族は人間族と比べて数は少ないものの個々の力は強い。
質と量。これらが完全に均衡状態となっており、戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。
それが、魔人族による魔物の使役だ。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。
今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。
「人間族のアドバンテージがなくなり一気に窮地‥‥なるほどね」
「あなた方を召喚したのは〝エヒト様〟です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という〝救い〟を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、〝エヒト様〟の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
「ちょっと待て」
思わず立ち上がる。あまりにも身勝手だ。
「俺たちはまだガキだ。この世界は子供に戦争をやれってぐらいにまで腐ってやがるのか?」
「そ、そうですよ」
「南雲くん?!」
「貴方たちはなぜ戦わないのです? 僕たちを呼ぶより手慣れである貴方たちが戦った方が遥かに楽に済むはずです」
「その通りだ。てかお前らがやったことはただの誘拐だぞ。サッサと元いた世界に帰してくれよ。お前らの身勝手な理由で命を投げ出すわけにもいかないんでな」
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場が凍りつく、というのはこういうことを言うのだろう。重く冷たい空気が全身に押しかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「呼べるなら戻すこともできるだろう?」
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
「んなクソ身勝手な‥‥」
アホらしい。できることなら今すぐにでも俺たちを呼び出した神とやらを殴ってやりたい。
そして戻ることが不可能と伝えられると‥‥今まで黙っていたクラスメイトたちがパニックを起こし始めた。集団ヒスは不味い気がしてならないんだが。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
まあそうなるのも普通の反応だ。俺たちは人間だし。
未だパニックが収まらない中、光輝が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。当然注目が集まる。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない」
「おいおい、何バカなこと言ってやがる」
「なんだと?」
「自分から死にに行くってか? なら勝手に一人で死ねよ。お前、自殺でもしたいのか?」
「俺たちには大きな力があるって聞いただろ? ここに来てから妙に力が漲っている感じがしないか?」
「するね。それがどうした?」
「それならきっと大丈夫だ。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。無駄に歯がキラリと光る。
「俺が‥‥ね。お前一人で何かできると思ってるのか? 仮にクラスメイトが協力したとしてもこの世界を救うには力が足りないだろうよ」
「な、なら訓練をすれば」
「俺は断固として戦争に参加することは反対だ。この世界の人たちのことは確かに気の毒には思う。だが‥‥帰れないのなら元も子もない」
イライラしてきた。この大バカは何を考えているんだろうか。
「戦争したければ勝手にやれ。俺は手伝わん」
「お前‥‥それでも人間か!」
「人間じゃねえよ。これを持ってる限りはな」
「なんだ‥‥それは」
「そのうち分かる。で、クラスメイトで戦争をして死にたい人間はどのぐらいいる?」
シンとする会場。冷静に考えてみれば、戦争というのは死が常に隣にあるものだ。どんなにこの世界を救いたいとしても自分の命より大切なものはない。
「ま、どのみち帰る手段がないならこの世界で力をつけて自力で帰る方法を見つけるのは有りかもな」
「お、お前‥‥困ってる人を見て何も感じないのか?!」
「感じるさ。可哀想だってな。救いたいってな」
「なら!」
「だがそれとこれは別だ。まあここで即決してもあれだから当分は神の言いなりとやらになってやるがな」
「チッ‥‥分かりました。では明日、貴方方にはハイリヒ王国へと移動してもらいます。そこで魔法や実戦の訓練を積んでください」
「ハイリヒ王国ね‥‥」
「それではこれで解散です。お部屋はメイドが案内しますのでご心配なさらず。夕刻になったら出発です」
イライラとした様子を一瞬だけ見せたイシュタルに俺はほくそ笑む。どうやらこの世界の神は黒のようだ。信じなければ悪という考えがある以上‥‥黒。真っ黒である。
「さて寝るか‥‥ハジメ。また明日な」
「う、うん。めちゃくちゃな物言いだったけど‥‥」
「イライラしてた。許せ」
「怖い‥‥」
ハジメにジト目を頂いてしまった。やれやれだ‥‥。
──────────────
夕方。俺たちは下山してハイリヒ王国へと向かった。もとより俺たちの受け入れ先として準備が整っていたらしい。
んで城に入って王たちと対面したのだが……王子? が香織のことを見つめてるのが印象的だった。どこの世界でも香織の美貌は通用するらしい。おそらく彼女の眼中にもないと思うが。
というかこちらにも視線を感じる。視線の先は王女さんからか。
「なんだ……?」
気になって見つめる。すぐに目を逸らされてしまったが頬が赤くなっているのを見逃しはしなかった。勘弁してくれ。
そこからはただの自己紹介だ。国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナという。
後は、騎士団長や宰相等、高い地位にある者の紹介がなされた。数が揃うとある程度の威圧感を感じる。
その後晩餐会が開かれ、異世界の料理を堪能した。見た目が怪しいやつもあったが普通に美味しかった。なぜかリリアーナに積極的に話しかけられたが……適当に話を合わせて流し切った。今はそれどころではない。
晩餐が終わると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。なぜ天蓋が付いてるんだ。なんか落ち着かない。突然豪華なホテルに放り込まれても困惑するだけだ。
「……仕方ない。ヴァイオリン弾きに行くか」
そうと決まれば即行動だ。ヴァイオリンをケースごと持ち出して俺は城の外にある庭へと出た。趣味の悪い彫刻がたくさん並んでること以外は悪い庭ではない。一面芝生で素晴らしい見た目だ。噴水もあるので気持ちが落ち着く。
折角なので噴水の縁に腰を掛ける。水の近くにいると涼しくて心地よい。
「あら……?」
「あれ、雫?」
「どうしたの? こんな時間に」
「それはこっちのセリフ。夜更かしは肌に悪いぞ」
「貴方は……ヴァイオリンを弾きに来たの?」
「眠れなくてな。何曲か弾いて寝たい」
「それなら……ちょっと相談事良いかしら?」
「相談事?」
「私……怖いのよ」
「……」
「戦争なんかに参加したくないし今すぐにでも元の世界に帰りたいわ」
「そりゃ俺もだ」
「だから戦争に参加するのは断固拒否ってわざわざ言ったの?」
「それもあるが……一番はクラスメイトが死んでしまうのが嫌なんだ」
誰一人として欠けて欲しくない。俺の切なる願いだ。訳の分からない理由で誰かが死ぬのはとても耐えられない。
「……守ってくれたのね」
「そうなるのかなあ……イライラしてたから荒々しい言葉遣いだったろ」
「光輝にも悪気はないの。ただ、自分が間違ってることが……」
「分かってない……だな。自分のことを信じて疑わないもんな」
ああいうタイプは上手くいかないと取り乱して子供っぽくなる奴だ。なまじ力があるから余計たちが悪い。
「ま、クヨクヨしても仕方ないな。どうせ変えるためには魔法を使えないといけない。しばらくは適当に頑張ろうや」
「それなら……お願いがあるの」
「お願い?」
「私を……守ってほしいな」
「……こりゃ驚いたな。名指しのご指名か」
とはいえ雫だって女の子だ。多分誰よりも乙女である。守られたいという願望を持ってもおかしいことは一つもない。
「これは……断れないな」
「ごめんなさい……私本位なお願いで」
「気にするな。雫だって女の子だろ?」
ヴァイオリンを構えた。何を弾こうか……。
「『月光』の第三楽章でも弾くか」
「待ちなさい。それってピアノ譜じゃ……」
「知るか。ピアノ譜をヴァイオリンで弾けば良いだけだよ」
※簡単に言っているがおっそろしく高難度。音也は天才ヴァイオリニストである。
「やっぱり貴方は天才ね……」
雫の言葉に苦笑いを零しながらも弦に弓を触れさせた。今夜は十二夜。中途半端な月だからこその趣がある中、ヴァイオリンの流れるような音色が辺りに木霊するのだった。
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恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)