その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「……で、改めて問おう。死んでしまう、というのは何故だ?」
現在俺たちはギルドの奥にある応接室にいる。情緒不安定な遠藤を引きずって行ったら支部長らしき男が目を丸にしてた。
とりあえず事情を聞くに、突然オルクス大迷宮で訓練していたクラスメイトたちは魔人族と遭遇したらしい。その魔人族が中々に強力であり、今のところは一番強い光輝ですら敵わないらしい。
で、遠藤はそんな魔人族からなぜ逃げられたのかというと……影の薄さを使った結果らしい。
「んで? 香織は無事なのか?」
「あ、ああ。白崎さんは無事だ。なんか八重樫さんが居なくなってからぽわぽわした雰囲気がなくなったっていうか……こっちが止めたくなるくらい訓練に打ち込んでいるんだ」
「その八重樫雫はここに居るのだけれど?」
「へ? ……本当だ!?」
「音也、斬って良いかしら?」
「私も妹のことを貶された気がするからお手伝いしたいのだけれど?」
「落ち着け。で、ハジメはどうするんだ?」
「……正直に言うと勇者は死ねば良いと思う」
「「同意(だわ)」」
「だが……香織が危ないってのなら話は別だ。俺は香織を助けるためだけに行くさ」
大方予想通りの答えが返ってきた。まあ俺もハジメと同意見だ。勇者(と小悪党組)は死んでしまっても構わないと思っているし。てか雫も同じ意見だったみたいだし出会ったら勇者ぶち殺されるんじゃないかな? まあ、俺には関係ないが。
「え、えっと、一緒に行ってくれるんだよな?」
「だな。半日で終わらせるぞ。あ、そうだ支部長。一応、対外的には依頼という事にしておきたいんだが……」
「上の連中に無条件で助けてくれると思われたくないからだな?」
「ご名答。あとミュウの待つ部屋を頼む」
「そのぐらいは構わねえよ」
スピード決断で事を進める。遠藤は若干置いてかれてるが無視だ無視。というか存在自体を忘れていた。ごめんよ。
半日で終わらせると豪語した以上は時間をかけることは出来ない。俺はティオをミュウの子守兼護衛に置いて遠藤の腕を掴み出発することにした。
「ハジメ、お前のイクサは部分変身は出来るのか?」
「部分変身? あれか、腕だけ装着する……みたいな?」
町を早足で歩きながらハジメに尋ねる。今の肉体ならイクサに変身してもそこまでの疲労は感じない。だが部分的にアーマーを装着して技を使用するのならば戦える時間も長くなると思ったのである。
で、なぜハジメが所持しているイクサなのかというと……これは簡単だ。プロトイクサにそんな小洒落た機能はないからである。
「確か出来たはずだな……部分変身は浪漫だから機能追加してみたんだよ」
「流石だ」
「やっべえ……話について行けねえよ」
「ん? ……遠藤居たのか」
「お前酷いな!」
遠藤を弄りながらも懐かしきオルクス大迷宮まで急ぐ。全てはハジメの最愛の人を救い出すために……。
────────────────
「おお……懐かしい雰囲気だな」
……俺こと南雲ハジメは思わず感想を口に出した。あの日、緊張と恐怖と若干の自棄を抱きながらも迷宮に潜って。そのまま奈落の底へ落ちていって。
「……全てはここから始まったんだよな」
絶望に絶望を重ねて。全ての物事に無関心になって。邪魔する敵は全て消すと決断したのだ。
それでも、唯一俺のことを気にかけてくれた女の子のことを忘れることはなかった。シアという心の拠り所が出来ても、だ。
俺はつくづく悪い男だ。近くにシアという魅力的な女性がいながらも遠くに離れた一人の女性を思い続けてるのだから。
「降りるのは面倒くせえなあ……ハジメ、イクサを貸してくれないか?」
「ほらよ」
『レ・ディ・ー』
「部分変身ってどうやるんだ?」
「流し込む魔力を調節すれば可能だ」
「……お、本当だ。よし、やるか」
『イ・ク・サ・ハ・ン・マ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「そらよ!」
ズドオオオオオオオオオオオオン!!
右腕だけ変身した音也がイクサハンマーで迷宮の地面を軽々ぶち抜いた。どうやらハンマーの真下に勇者たちクラスメイトが居るらしい。
「ほれハジメ。これ返すぞ」
「おう」
「それと先に行け。早いところ行かないとあいつら殺されるぞ?」
「マジで?」
「マジだ。心の音楽は嘘をつかないからな」
「分かった。先に行って殺してくる」
ドンナーとシュラークを取り出してイクサハンマーが開けた大穴に飛び込む。下へ行くにつれて上層階では感じられなかったクラスメイトたちの懐かしい気配を感じ取る事が出来た。
……同時に、思い出したくもない気配も感じ取ってしまったが。
ドパンッ! ドパンッ! スタッ
とりあえず二発だけ発砲。多角撃ちで着地地点近くにいた魔物らしい物体を牽制しつつも俺は地面に降り立った。
「……やれやれ。案外元気そうだな?」
「え……?」
懐かしい声。とても心が落ち着く声。声の主は俺の真後ろにへたり込んでいるようだが……顔を見なくてもその正体は分かっている。
しかし……それでも一目顔を見たかったので俺は軽く振り向いた。
「……久しぶりだな。香織」
「は、じめ……くん?」
「魑魅魍魎跋扈するこの地獄変。南雲ハジメはここに居るぞ」
「ハジメくん!」
「おうおう。初っぱなから見せつけてくれるじゃないか」
「音也くんまで……良かった。無事だったんだ……」
「……一応死人は居ないようね」
「雫ちゃん!?」
「あら、久しぶりね」
次々と仲間が降りてくる。知り合いの顔を見る度に驚愕と歓喜のミックスされた声を上げる香織に苦笑いを向けつつも俺は目の前に立っている魔人族らしき女のことを睨みつけた。
「音也。ここは……」
「ああ。存分に、な。雑魚は任せろ。ユエ、シア、コウモリモドキ。クラスメイトを頼む。露葉さんはそこに倒れている騎士を介抱してやってくれ」
「ん……任せて」
「了解ですぅ!」
「分かったわ」
「雫。準備は良いな?」
「勿論よ」
「相変わらず流石だな、お前は……おいそこの赤毛の女。今すぐ去るなら追いはしない。死にたくなければ、さっさと消えろ」
「……何だって?」
魔物に囲まれてはいるがこの程度恐怖に値はしない。ただの雑魚である。それを音也と雫も分かっているのか、余裕の表情で魔物たちを見やっている。
『レ・ディ・ー』
「戦場での判断は迅速にしろと習わなかったのか? それとも既にこの世から死ぬ覚悟は出来てるってか?」
音也の哀れみと侮辱の混じった言葉に魔人族の女の表情がスッと消える。人の感情を逆撫でするのが上手い奴だ。
完全に冷静さを失ったことを確認した俺は音也たちと軽く頷き合ってニヤァと三日月のように口端を裂いた。悪役は完全にこっちである。
敵意を見せた以上こいつは敵。己の「生」を否定する存在は全て殺すと決意した。そう、殺せだ。何者であろうと俺は……殺す!
「そうかい……敵ってことで良いんだな? 」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「哀れだなあ……残り少ない命をさらに短くしやがって」
「無様ね」
ドパンッ!
ノールックで真後ろに発砲。数コンマ秒後にドサッという音が鳴り響いた。どうやらキメラが気配遮断を使って襲いかかってきたようだが……動くだけで空気が動く程度では大道芸と大して変わらない。
恐らく俺や音也の技量を持ってしてでも発見出来ない気配遮断を扱えるのは八重樫姉妹ぐらいだ。特に露葉さんに関しては音也が露葉さんの体に流れている血液の音を探知しない限りは居場所が分からないぐらいだった。
「おいおい、何だ? この半端な固有魔法は。大道芸か?」
「いや大道芸にもならねえよ。お遊びだお遊び。折角だから紅先生が子猫ちゃんたちのためにお手本を見せてやる」
フッと気配を消す音也。ギリギリ俺には分かるぐらいにまで抑えてるようだが……魔物や魔人族の女、そしてクラスメイトたちは完璧に音也を見失ったらしい。
その様子が可笑しくて思わず悪い笑みを浮かべながらも俺はガン=カタを構える。最近ドンナーとシュラークもプファイファ・ツェリスカをベースに作り替えている。貫通力は折り紙付きだし榴弾の破壊力は以前のシュラーゲンの二分の一だ。
ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!
右に、左に、上に、下に。襲い来る魔物の命を余すことなく刈り取っていく。近づけば死ぬ。離れても死ぬ。俺の放つ死の弾丸から逃れることは出来ない。
あわよくば逃げ出せたとしてもその先に待つのは音也の艦砲射撃よりも重たい一撃か雫の神速よりも速い斬撃が待っている。
この場は最早戦いの場ではない。一方的な処刑場だ。敵意を持った哀れな生き物たちがただ殺されるだけの処刑場である。
「ほらどうした! もう及び腰かあ!」
ズパアン!
「遅いわね……これじゃあ目を瞑っても倒せるわよ」
ザシュッ!
「この程度の魔物にやられる訳がないんだよな……お前ら弛んでるんじゃねえか?」
ドパンッ! ドパンッ!
「くっ……お前たち、勇者たちを……!」
「あら、させるわけないでしょう?」
正面からではとても勝てないと悟ったのか、魔物をボロボロのクラスメイトたちに差し向ける魔人族の女。しかし俺たちですら遅いと感じる魔物の動きに露葉さんが付いて来れない訳がない。
露葉さんはスッと目を細めると糸のような物体を取り出した。
それを軽く振り回しただけで近寄った魔物の体が真っ二つに寸断される。さらに見えにくい仕込み針のような物まで飛ばして総勢数十の魔物を10秒ほどで全滅させてしまった。
「んな……!?」
「余所見して良いのか?」
ドパアアアン!
「ぐうっ!?」
あっけにとられた魔人族の女を嬲るように銃撃する。魔物の数は残り一桁。無駄に命を散らすまであと数秒だろう。
「ホントに……なんなのさ」
「さあな?」
「くっ…… 〝落牢〟!」
逃走のための最後の魔法なのか、女が俺に石化の魔法を放ってきた。とはいえこの程度の石化は散々受けてきた。ユエとの訓練の時は彫刻にされかけたので石化に対する耐性は十分である。
とはいえ追いかけるのは少々面倒くさいなあ……と、思ったら音也がいつの間にか女が向かった出口の手前で待ち構えていた。
俺がこれ以上何かする必要はない。俺は女に背を向けてクラスメイトたちの元へと向かうのだった。
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「オラァ!」
「ぐはっ!?」
「間抜けな子猫ちゃんは逃げることすらままならない事にも気がつかないのかい?」
「く……はは。仕掛けたときから詰みだった訳だ」
逃げだそうとした女にイクサナックルで鉄拳を加えて逃げ場をなくした。倒れ伏せた女に容赦なく足を乗せてグリグリも追加する。
「こういう時は『何か言い残すことは?』と聞くのがテンプレなんだろうが……生憎と俺にはお前の遺言なんぞ興味ないんでね。それより魔人族が何故こんな所に居るのかとあの大量の雑魚魔物たちはどこで手に入れたのが知りたいね」
「あたしが話すと思うのかい? 人間族の有利になるかもしれないのに? バカにされたもんだね」
「ま、想像は付いてるからどうでも良いけどな。大方本当の大迷宮が目的だろうし。あの魔物たちはきっと神代魔法の産物だろ? で、本当の大迷宮を攻略すると神代魔法が手に入ると知ったからお前らは勇者たちの調査、あはよくば勧誘を並行して大迷宮攻略をしようとしてたんだろ」
「それを何故……まさか」
「お前の想像通りだ」
「……そうかい。なるほどね。あの方と同じなら……化け物じみた強さも頷ける……もう、いいだろ? ひと思いに殺りなよ。あたしは、捕虜になるつもりはないからね……この化け物め」
「褒め言葉だな」
「いつか、あたしの仲間があんたを殺すよ」
「邪魔になるなら殺すだけだ。すぐにでもお前の仲間とやらをあの世に送ってやるから楽しみにしておくんだな」
話すことはもう何もない。俺はナックルフエッスルを取り出してベルトに差し込んだ。
『イ・ク・サ・ナッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「ま、待て紅!」
「あ?」
「彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」
後ろから面倒な声が聞こえた。振り返ると倒れていた光輝がフラフラしながらも立ち上がっている。
「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて絶対ダメだ。俺は勇者だ。紅も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」
「……何言ってんの?」
「……光輝。音也の邪魔をするのなら今すぐにでもあの世に送ってあげるわよ」
「し、雫!?」
「音也、早く」
「助かった。やれやれ……相変わらずクソみたいな勇者だ」
頭を振りながらも俺はイクサナックルに充填された電磁波を真下に向けて一気に解放した。
ズパアアアアアアアアア!!!
戸惑いはない。こいつは敵だ。しかも自ら死を望んだ。躊躇する必要はないのである。
しかし頭がある意味でお花畑な勇者(笑)は納得がいかなかったらしい。
「なぜ、なぜ殺したんだ。殺す必要があったのか……」
押し殺したバカの声がやけに響き渡る。今にも雫が刀を抜いて光輝の首を跳ね飛ばしそうなのでサッサと変身解除して殺気立つ雫を回収。ついでにメルド団長の様子を見に行く。
「露葉さん、どんな感じです?」
「治したから問題ないよ。呼吸操作であっという間。それと敬語は止めてよね」
「……分かった。まあ無事で良かったよ。この人が死んで勇者パーティーに変なのがついたら困るし」
変なの、というのはイシュタルのような神を妄信しているアホ共だ。あんなのがついたらクラスメイトたちは神の都合の良い手駒になるだけだろう。
俺自身メルド団長にはそれなりに世話になってるし死なせるには惜しい人物ってのもあるけど。
「おい紅。メルドさんの事は礼を言うが、なぜ彼女を殺した?」
「いやアホかよ。あいつは自ら死を望んでたのを見てなかったのか?」
「だが……」
「ウゼえな。良いか? 俺が嫌いなのは糸こんにゃくと俺に楯突く人間だ。それ以上文句を言うなら今すぐにでもあの世に送ってやる」
わりかし本気の威圧で光輝の口に強制チャックを取り付ける。それぐらいにイライラするのだ、こいつの言い様は。
と、俺が少しイライラしていると……香織がハジメに歩み寄った。
「ハジメくん。音也くんも、メルドさんを助けてくれてありがとう。私たちのことも……助けてくれてありがとう」
「……おう」
「……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。ハジメくん、あの時……守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」
「ああ……その、なんつーか。随分と心配かけてしまったな。連絡が取れなくて悪かった。だがこうして生きてるし……そんなに泣くなよ」
(ヘタレか)
(るせえ)
「ハジメ、ぐん……」
大粒の涙を零してハジメを見つめる香織。それを見て俺は香織に一言だけ声をかけた。
「……今だけはいくらでも甘えてやれ」
すると、ワッと泣き出して香織はハジメに抱きついた。ハジメはというと若干戸惑ったような表情をこちらに向けてきたが……すぐに香織に目線を戻してギュッと抱きしめ始めた。
一度奈落の底に落ちたからこそ自覚した想い。今、ようやく吐き出すことが出来たのだろう。
とりあえずシア、君は何で慈愛に満ちた目で二人を見れるんだ? メンタル強すぎだろ。感心したから後でオムライス作ってやる。え、沢山食べたい? それは嬉しい。腕によりをかけて作ってやろう。
「……ふぅ、香織は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……だけど南雲は紅の仲間だ。人殺しの仲間なんだぞ。危険だから今すぐに離れた方が良い」
「お前は空気を読むって言葉を知らないのか?」
「ねえ音也。このバカを今すぐ殺して良い? 過去の物とはいえ友だちの恋路を邪魔するとか有り得ないのだけど」
「だから落ち着けって。俺も同じ気持ちだが落ち着いてくれよ」
……俺の気苦労はまだまだ取れそうにない。
久しぶりに勇者(笑)を書きましたが…殴りたいですね()
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)