その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
第一楽章 早速トラブル発生
赤銅色の世界。
【グリューエン大砂漠】は、まさにそう表現する以外にない場所だった。砂の色が赤銅色なのはもちろんだが、砂自体が微細なのだろう。常に一定方向から吹く風により易々と舞い上げられた砂が大気の色をも赤銅色に染め上げ、三百六十度見渡す限り一色となっているのだ。
また、大小様々な砂丘が無数に存在しておりその表面は風に煽られて常に波立っている。刻一刻と表面の模様や砂丘の形を変えていく様は、砂丘全体が〝生きている〟と表現したくなる程だ。
照りつける太陽と、その太陽からの熱を余さず溜め込む砂の大地が強烈な熱気を放っており、四十度は軽く超えているだろう。舞う砂と合わせて、旅の道としては最悪の環境だ。
が、それはあくまでも普通の人間ならば……である。生憎俺たちは普通ではない。
砂漠という悪路なため俺たちはティーガーIIとチハを使って道なき道を疾駆している。もっとも、ティーガーIIもチハも戦車らしかぬ速度で移動しているが。
ちなみに両戦車は冷房完備+冷蔵庫設置+紅茶沸かし可能とかいう便利な車になってたりする。
「前に来たときとぜんぜん違うの! とっても涼しいし、目も痛くないの! パパはすごいの!」
「そうか? まあ凄いのは俺じゃなくてハジメなんだけどな」
「ハジメお兄ちゃんが凄いの?」
「だな。あいつは本当に凄い」
「でもパパはヴァイオリンがとっても上手なの! だからパパも凄いの!」
純真無垢なミュウさん。俺も昔は純真無垢だったのだろうか。今ではこんなになってしまったがなあ……悲しい。
さて、若干悲しみつつも俺はティーガーIIを走らせていたのだが……一つ不穏な音を聞き取った。さらに気配感知にも引っかかったので思わず顔を引き締める。
「なんだこれは……サンドワームか? ここから数キロ先の砂丘の辺りに複数居るみたいだが……」
「あら……本当ね。でもあんなとこでグルグル回ってるのは何故なのかしら」
露葉さんも気がついたらしく訝しげな表情を作っている。とりあえずこのまま進むと邪魔になりそうなので俺は走りながら主砲を動かして照準をサンドワームに合わせる。
行進間射撃は命中精度が下がるのが普通だが……レールA・Aの精度を馬鹿にしてはいけない。
「目標をセンター……より少し下に合わせて発射ぁ!」
ズパアアアン!!!
放たれた一筋の紅雷は狙い違わずサンドワームの脳天に命中。さらに紅雷は止まることなく奥に居たサンドワームをまとめて葬り去った。
ついでに備え付けられた対空用の機銃を起動させて残ったサンドワームを殲滅。ものの数分で数十匹はいたサンドワームが脳骸を撒き散らして地面に横たわることとなった。
なお移動中に下から襲撃しようとしたサンドワームは無残にも轢き潰されている。
「……あれ? 人が居るな。一足先にハジメたちが向かったみたいだが」
サンドワームをヌッコロすことに集中していたので気がつかなかったが、砂丘の辺りには人間が一人倒れ伏せているが見受けられる。スコープで確認するに男のようだ。
既にハジメたちは倒れ伏せている男の傍に立っており、香織がなぜ倒れているのかを診察しているらしい。
「おっとと……おいハジメぇ。その男の様子はどんな感じだ?」
「おう。香織曰くは魔力暴走の影響で内から圧迫されていたらしくてな。粘膜という粘膜から血が噴き出してたよ」
「マジで? 完治はしたのか?」
「いや……それと目が覚めたらしいから香織が事情聴取をしている」
ハッチから顔を出してハジメに話しかけると既に香織が事情聴取をしているらしい。相変わらず仕事の早い奴だ。
と、感心をしていると香織がチハから出てきた。俺も飛び降りてどんな事情だったのかを聞いてみる。
結果、聞かされた内容はとても簡潔に要約すると、アンカジというエリセンより運送される海産物の鮮度を極力落とさないまま運ぶための要所にあるオアシスに毒があるとのことだ。その水を飲んだ人間はもれなく倒れ伏せた男と同じ状態に陥ったという。
ただ、治す方法が全く方法がないというわけではないらしい。一つ、患者たちを救える方法が存在しているようであり、〝静因石〟と呼ばれる鉱石を必要とする方法だという。
この〝静因石〟は、魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊な鉱石で、砂漠のずっと北方にある岩石地帯か【グリューエン大火山】で少量採取できる貴重な鉱石だ。魔法の研究に従事する者が、魔力調整や暴走の予防に求めることが多い。この〝静因石〟を粉末状にしたものを服用すれば体内の魔力を鎮めることが出来るだろうというわけだ。
しかしアンカジでは謎の病が大流行しており、【グリューエン大火山】から〝静因石〟を採取出来るほどの人間がほぼ全滅しているらしい。
「……それで、外に出た理由は公国に直接救援要請をするためだったみたいだよ」
「なるほど……まあ大火山に行く予定だったし立ち寄ってみるか? 魔力暴走ならミュウが病に倒れる心配はないし」
「だな。急ぐ旅でもないし行こう」
……二、三言話してアンカジを助けに行くことにした。後で倒れ伏せていた男に何度も頭を下げられたのは言うまでもない。
────────────────
……アンカジ公国に辿り着いた俺たちは早速行動を開始しした。まずユエとティオは魔法による貯蓄水の制作。香織が病人の診察&治療。シアと露葉さんが病人運搬。俺と雫とミュウがオアシスの調査である。
「……オアシスの奥底に何か居るな」
「なんだと……?」
近くに居た領主が声を上げる。と、いうのもオアシスは厳重な警備しており何者にもバレることなく異物を混入するなどほぼ不可能らしい。
さらにはオアシスに流れてくる地下水脈も調査したらしいが問題はなかったようだ。そりゃ不安にもなるし驚愕するだろう。
「雫、何か感じ取れるか?」
「そうね……オアシスの奥底に巨大な物体が沈んでるわ」
「巨大な物体……ね」
どのぐらいの大きさかというと大体十メートルぐらいである。オアシス自体が中々に大きいものの沈んでいる物体はかなり大きい。
「さて、どうするかな……纏雷じゃ表面しか電撃が走らないし」
「ヴァイオリンで引きずり出したら?」
「それにするか」
おもむろにヴァイオリンを取り出して四季の「秋」を弾き始める。とはいっても今回は属性を付与してはいない。あくまでも引きずり出すだけである。
ちなみに今でもヴァイオリンは毎日弾いており、魔力の鎖で対象を拘束してから様々な状態異常を付与することが可能になってたりする。
「……お、これか?」
一気に曲のペースを速くする。鎖の感覚からしてウニョウニョしているのだが……こいつはスライムだろうか?
スライムにしては随分と大きいのが気になるが……まあいいか。
やがてオアシスの奥底にいた何かが水面を盛り上がったかと思うと、重力に逆らってそのまませり上がり、十メートル近い高さの小山になった。
オアシスより現れたそれは体長十メートル、無数の触手をウネウネとくねらせ、赤く輝く魔石を持っている。ただしスライムにしては超巨大で周囲の水を操るとかいうイレギュラーな能力付きではあるが。
「なんだ……この魔物は一体何なんだ? バチェラム……なのか?」
「バチュラム? ……ああ、スライムのことか。大方こいつがオアシスに毒素を振りまいてるんだろうしサッサと殺すか」
魔力の鎖を飛ばしてスライムの体内にある魔石を四方八方から掴む。ちなみにこいつの魔石は慣性を無視したような動き方をしてたが……拘束系の魔法には流石に無力だろう。
ガッチリと魔石を鎖で掴んで俺は内部から電撃を流して地獄の責めを味わってもらう。超巨大スライムは姿を現してからものの数分であの世へ送られることとなった。
「よし、終わった。こいつを倒した=オアシスの浄化に繋がるかは分からないが……これ以上汚染されることもないだろう」
「残念だけど水自体はまだ汚染されてるわね。でもユエとティオが貯蓄水を作ってくれてるんでし
ょ?」
「だな。これで数年は何とかなるだろうよ」
「そうか……本当に感謝する。感謝してもしきれんよ」
「おう。大いに感謝しろ。そしてこの巨大な恩を忘れないようにな」
思いっきり恩に着せる。あっけにとられている領主のことは放置して俺はユエの元へ向かった。
「ユエ、大丈夫そうか?」
「ん……でも吸血したい」
「あいよ」
ユエを背負って吸血させる。さらにハジメに念話を飛ばして香織にどのぐらいの量の静因石が必要なのか聞くように頼んだ。
しかし最近貧血気味なのだが……どういうことだ。日本に居た頃はなかったのになあ。
それでも吸血させてるのは愛する人の頼みだからである。俺は愛する人のためなら何だってする。
「音也……顔色悪い」
「ん、そうか?」
「……ここまでにする」
「そうかい」
「音也……ファンガイアと同じ血の味がする。何か異変はない?」
「鎧を使うと薄味に感じるぐらいかな……後は貧血気味だ」
「……無理したらダメ」
「分かってるよ。心配してくれてありがとうな」
俺はユエの頭をポンポン叩きながらハジメたちが待つ病院へ向かうのだった。
さて、次回からは大火山の大迷宮突入です。火山という過酷な環境ですが彼らのやることは変わりませんのでお楽しみに~
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)