その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
ザザーン……
耳に入る波の音。目の前に広がるのは一面自然世界。鼻の奥をくすぐる潮の香りが俺の心を浄化していく。
潜水艦の上から蒼い空を見上げると、自然と頬が緩んできた。
「なんとか乗り切ったなあ……」
あの後クラーケンモドキにイクサキャノンをぶち込んで抹殺してから数分後にサメの群れに襲われたのだ。その時はハジメの神がかりな魚雷攻撃で何とかなったのだが……さらにその後にやって来たシャチの群れはヤバかった。
ユエの魔法とハジメの魚雷攻撃、イクサキャノンの砲撃で無理やり仕留めきったもののその時点で潜水艦の武装は切れユエの魔力も枯渇。俺の体力も限界を向かえた。
運良く敵に遭遇せずにここまでやって来たが……二人ダウンした状態で襲撃に遭ったら流石に不味かったと思う。
「あら音也。ここに居たのね」
「雫か」
ハッチから雫が顔を出した。雫は雫でユエに血を分けていたので相当疲労してたはずだが……顔色や心音、心の音楽を見るに元気になったらしい。
「そこ、座ってもいい?」
「お好きなように」
「……えい」
「膝の上は聞いてない」
胡座をしていた俺の上にストンと座る雫。こうなっては退かしようがないので雫の髪を撫でてやる。
最近は二人きりで居ることも減ったしたまには良いだろう。
「もう……無理したらダメなんだからね?」
「分かってるがな……愛する人を守るためなら何だってするぞ、俺は……」
「キザね……でもそんな所も好きよ」
「そりゃどうも」
「……あら? こっちは元気になったのね」
どことは言わないが非常に危険な場所をサワサワしてくる雫。その瞳は完全にハンターその物である。
まあ抵抗する気も起きないので俺は逆に雫のことを押し倒すのだった。その後何があったのかはお分かりであろう。
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潜水艦の中に戻るとふくれっ面をしたユエが向かえてくれた。どうやら今さっき目が覚めたらしい。
「……おはよう」
「おうユエ。起きてたのか? すっかり元気になったみたいで良かったよ」
「生々しい音で目が覚めた。今度は私」
「また次の機会な」
「む……」
「おうおう。朝からお楽しみのようで」
「ハジメ。お前もじゃねえのか?」
「るせえよ」
「ふふふ……ハジメさん、ベッドでは案外恥ずかしがり『ゴチンッ!』はきゃん!?」
「……なぜだか懐かしいな」
「あらあら。そんな遠くを見るような目をして。私が話を聞きましょうか?」
頬を膨らませるユエ。シアに鉄拳を落とすハジメ。遠くを見ているキバットとカウンセラー露葉さん。
やはり旅の仲間はこう賑やかでなくては。
「……ん?」
と、そんな様子に微笑んでいると何やら多数の人間らしき者が近づいている気配を感知した。一人や二人ではない。これは数十人単位である。
しかももの凄く殺気立っているし。心の音楽が親の仇打ちに行くための勇ましい物の事からよく分かる。
仕方がないので俺はハッチを開けて外に出た。念のためイクサベルトを巻いてナックルを手にしてバッチコーイ! である。
一応目の前には陸地が見えている。キバット曰くあの陸地はミュウの生まれ故郷エリセンらしく、彼が使えていたキングは海人族にも人気だったという話を聞いた。
なお補佐役に関しては終始ブーイングされてたらしい。哀れ。
と、そんなことを思い出していると潜水艦を囲むようにして先が三股になっている槍を突き出した複数の人がザバッ! と音を立てて海の中から一斉に現れた。数は二十人ほど。その誰もが、エメラルドグリーンの髪と扇状のヒレのような耳を付けていた。どこからどう見ても海人族の集団だ。見た目がミュウに似通っている。
「お前は何者だ? なぜここにいる? その乗っているものは何だ?」
「俺か? 俺は紅音也だ。グリューエン大火山の噴火に巻き込まれてな。ここまで流されたんだよ」
「……待て。今なんて名乗った」
「あ? 紅音也と言ったが……」
「ま、まさか……本当なのか? 本当にあのオトヤなのか?」
「はあ? 何訳の分からないことを言ってるんだ?」
名前を名乗った途端に挙動不審になったのが怪しくて問い詰める。すると潜水艦を囲んでいた海人族は急に武器をしまってペコリとお辞儀をした。
「ご無礼を働き申し訳ない。亜人の英雄とされるオトヤだというのに……」
「待て待て。確かに俺は音也だが……なんだ? 亜人の英雄ってのは」
「それは恐らく俺との知り合いの人間のことだろう」
「コウモリモドキか……説明しろ」
「以前にも話しただろ? 俺は昔、お前と似た人間と会ったことがあるとな」
曰く、俺のそっくりさんは当時にしては珍しく亜人とも分け隔てなく接していたらしい。さらにユエの補佐役が取った政策も関係してるらしく、邪魔者は徹底的に切り捨てる補佐役に一人で立ち向かったそっくりさんは英雄視されてるそうな。
正直俺は無関係だが……これを使わない手はないだろう。
「まあそんな頭を下げるなよ。俺たちは危害を加えようなんざ思ってないからな……それにしてもそこまでピリピリしてる理由はあるのか?」
「うむ。最近海人族の女の子が人間に連れ去られてな。我々は血眼になって探しているのだ」
「おうおう……なんたる偶然だよ。その攫われた子の名前は?」
「ミュウだ」
「ビンゴしやがった。そのミュウって子を俺は裏オークションから助けて親元に帰そうと旅してたんだよ」
「そ、そうなのか……危なかった」
「んで、俺たちはどうしたらいい? ミュウはアンカジに居るんだが」
「それなら一度エリセンまで行き、そこで同行者を決めて一緒にアンカジまで行ってその子を連れてきてほしい」
「あいよ」
やることは決まったので俺は潜水艦に魔力を流してエリセンに向かうのだった。
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さて、エリセンに上陸した俺たちだが……なぜか完全武装した男たちに囲まれることになった。
「大人しくしろ。事の真偽がはっきりするまで、お前たちを拘束させてもらう」
胸にハイリヒ王国のバッチを付けてる辺り、国が保護の名目で送り込んでいる駐在部隊の隊長格なのだろう。
が、折角海人族たちと決めた事を曲げるつもりは毛頭ない。
「何言ってるんだ? 俺たちは海人族と取り決めをした上でここに来たんだ。約束を変えるつもりないぞ」
風で義眼が露わになる。さらに〝威圧〟と〝魔力放射〟で物理的に圧して二の句を告げられないようにしておく。
以前ベルトとナックルは健在だ。いつでもお前らを殺れるという意思を見せたが……隊長格も引き下がらない。
まさに、一触即発。
しかしその重たい空気は思いもよらない事態で消し飛ぶこととなった。
「……ん?」
「あれ? 音也さん……」
「何か落ちてきてる?」
「──ッ」
「……おいまさか」
「──パッ!」
『フィ・ス・ト・オ・ン』
「間違いないな……あんのバカ野郎」
「──パパぁー!!」
見るより先に俺は跳び上がる。わざわざイクサに変身したのは今落ちてきている者が1000mは上に居るからだ。
その落ちてきた人というのは……。
「なんでニコニコ笑顔でフリーフォールしてるんだよミュウ……」
そう、ミュウだ。ミュウがスカイダイビングしている。パラシュートなしで。よく見ればその背後から慌てたように落下してくる黒竜姿のティオと、その背に乗ったやはり焦り顔の香織の姿が見えた。
バンジージャンプでも有り得ない高さから、しかもパラシュートなしで躊躇いもなくスカイダイビングするなど正気の沙汰ではない。ましてやミュウは四歳である。これは地上に降りたら盛大に叱らなければなるまい。
「パパ!」
「……マジで勘弁してくれよ」
神業にも近い速度調節でミュウへの衝撃の一切を殺しながらも思わず呟くのだった。
音也たちが転送された世界では補佐役がキバ本編のキングです。それを何とかしようとしたのがオトヤ。しかし力及ばず死亡した、ということです。この辺りについては次回辺りにでも深く言及します。
恵里の処遇はどうする?
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勇者バカ之河の被害者だから救おう
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消せ(無慈悲)