その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
「あのなあミュウ。いくら受け止めてくれると信じてたからって飛び降りるのはダメだろ?」
「でも……」
「でももストもねえよ! そんなことばかりやったら早死にするだろうが!」
「ひう……」
「良いか。俺はお前のことを大切に思っている。だからこんなに怒ってるんだぞ」
「うん……」
「お前が死んでしまったら俺はとても悲しい。それはお母さんだって同じはずだ」
「ママも?」
「そうだ。俺やお母さんを悲しませないためにも……二度と危険なことはしないと約束してくれ。出来るな?」
「うん、しゅる」
「よし、ならおいで」
「パパぁー!」
キバ本編見といて本当に良かった。十六歳でもなんとか父親やっていけてる。周囲からの視線はとりあえず無視出来るぐらいには成長できた。
と、ミュウのことを叱った上で抱き締めていると……背中から誰かに覆い被された。
「信じておったよ? 信じておったが……やはり、こうして再会すると……しばし、時間をおくれ、ご主人様よ」
「ティオ……心配をかけたな。それとありがとう。香織の様子を見るに……救えたんだな。アンカジの民は」
その香織はというとハジメと熱烈なキスを交わしている。公衆の目の前とはいえ随分と思い切ったもんだ。恥ずかしくないのかな。
……あ、俺も人のこと言えなかった。
「……さて、ハジメの宝物庫も来たことだしこれで誤解が解けるな」
「は? なになに……〝金〟ランクだとっ!? しかもフューレン支部長の指名依頼!?」
「悪いな。証明出来る物がなかったんだよ」
「……依頼の完了を承認する。オトヤ殿」
「おう。この子の母親のとこへ行っても良いか?」
「もちろんだ。ただ……大怪我をして母親は歩けない状態だ。それだけ伝えておくぞ」
「大怪我? ……やっぱり人間は愚かだな」
思わず顔をしかめる。俺も一応人間ではあるが、これまで習ってきた人間の業といいこの世界でのクソ加減といい……人間に絶望してきた。
まあここでそのことを話しても仕方がないので俺はミュウの手を握って彼女の家へと向かうことにした。
「音也くん。ミュウちゃんのお母さんのことだけど……」
「いや、そこまで悲観視することもない。精神的な面はミュウが居ればなんとかなるし怪我もすぐに治せるさ。とりあえず俺が治療するから診察は頼んだぞ」
「うん、任せて」
こっちには香織というチート級の癒術師がいるし神水だってある。それに時間にある程度干渉出来るヴァイオリンだってあるのだ。悲観視する必要は全くないのである。
と、そんな会話をしていると通りの先で騒ぎが聞こえだした。若い女の声と数人の男女の声だ。
「レミア、落ち着くんだ! その足じゃ無理だ!」
「そうだよレミアちゃん。ミュウちゃんならち
ゃんと連れてくるから!」
「いやよ! ミュウが帰ってきたのでしょう!? なら私が行かないと! 迎えに行ってあげないと!」
レミアと呼ばれた女性は恐らくミュウの母親なのだろう。遠目からだが家の玄関に蹲っている。そしてミュウは……。
「ママ──!!」
俺の手から離れて家の玄関口まで全力疾走を始めた。数ヶ月もの間離れ離れだったのだ。飛びつきたくもなるだろう。
「ッ!? ミュウ!? ミュウ!」
「ただいまなのー!!」
ステテテテー! と勢いよく走り、玄関先で両足を揃えて投げ出し崩れ落ちているレミアにミュウは満面の笑みで飛びついた。
それを抱き止めたレミアは「ごめんなさい」と涙を流しながらミュウの頭を撫でている。その涙は目を離してしまったことか、それとも迎えに行けなかったことなのか……はたまた両方なのか。
「ママ! あし! どうしたの! けがしたの!? いたいの!?」
「大丈夫よ。貴女が戻ってくるなら……」
「でも……いたいのはダメ! パパぁ! ママを助けて! ママの足が痛いの!」
「えっ!? ミ、ミュウ? いま、なんて……」
「パパ! はやくぅ!」
「あら? あらら? やっぱり、パパって言ったの? ミュウ、パパって?」
「俺のことだな……どれ、失礼するぞ」
ヒョイとレミアのことをお姫さま抱っこする。随分とやつれてしまっていてかなり軽い。よほど心配だったのだろう。
混乱を極めて目を白黒させているレミアのことはスルーして俺は家の中へ入る。そして一番近くにあったソファーの上にレミアを降ろした。
「早速で悪いが……始めるぞ」
魔皇力を放出しながら弦に弓を当てる。以前ミレディをゴーレムから人間に戻すために使った曲は「音也のテーマ」だ。あの後色々研究した結果「渡のテーマ」は時間を先へ進め、さらに多大な癒やし効果があることが判明した。
ここまでくれば何を弾くかお分かりだろう。
「あら……とても綺麗な音色」
「彼の演奏はちょっと特殊でして……レミアさんの足を治すことだって出来るんですよ」
「あらあら……本当ですね。足の痛みが消えていきます……」
どうやら成功らしい。が、ここで手を抜いては元も子もないので俺はより一層多くの魔皇力を込めて弓を引いた。
純蒼の奔流がレミアのことを包み込んだ……次の瞬間、光が爆ぜた。
と、同時に俺の演奏も終了。光が収まるのを待ってからレミアに話しかける。
「どうだ? 足は……」
「とても……とても良いです。痛みは一切感じませんし、むしろ温かみを感じるというか……」
「そうか。香織、一応診察を頼む」
「はーい」
「えっと、そういえば、皆さんは、ミュウとはどのような……それに、その……どうして、ミュウは、貴方のことを〝パパ〟と……」
「ああ……それはな」
俺はこれまでの経緯を簡単に説明した。まあミュウのことを人攫いの組織から助け出してついでにその組織をぶっ潰したことを話しただけだが。
全てを聞いたレミアはその場で深々と頭を下げ、涙ながらに何度も何度もお礼を繰り返してきた。
「本当に、何とお礼を言えばいいか……娘とこうして再会できたのは全て皆さんのおかげです。このご恩は一生かけてもお返しします。私に出来ることでしたら、どんなことでも……」
「いやいや。人として当たり前のことをしただけだよ」
見返りは求めていない。俺はただ、仁道から外れることだけはしたくなかっただけだ。二度も攫われた幼子を見捨てるほど俺の心は壊れていない。
が、折角の厚意である。無駄にするのは勿体ない。
「まあ……そこまで言うならここに滞在する間はここに泊めてもらってもいいか?」
「そのぐらいでしたら……それでしたらずっと〝パパ〟でもいいのですよ? 先程、〝一生かけて〟と言ってしまいましたし……」
「「「「…………」」」」
「唐突にブリザード作るんじゃない……まあ、お別れの日まではパパでいるさ」
さり気なく落とされたレミアの爆弾にため息をつきつつも俺は答える。
「あらあら、おモテになるのですね。ですが、私も夫を亡くしてそろそろ五年ですし……ミュウもパパ欲しいわよね?」
「ふぇ? パパはパパだよ?」
「うふふ、だそうですよ、パパ?」
「俺はまだ十六歳なんだけどなあ……」
……どうやらエリセンに滞在している間も安息の時間はゼロのようだ。
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オマケ
「なあレミア」
「はい貴方?」
「ここに来たときに『オトヤ』という人物についての話が出たんだが……お前は何か知ってることはないか?」
「そうですね……まず『オトヤ』という人は私たち亜人にとって英雄なのは知ってますか?」
「それはなんとなく」
「そうですか。なら話は早いです。『オトヤ』はこれまで差別されていた亜人の立場を一時的ながら人間と同等まで上げた偉人でもあるんです」
「ほう……」
「言い伝えによるとオトヤはたった一人で鎮圧に来た人間を無力化したそうです。しかも命を奪わずに」
「どこの不殺侍だ……」
「その後内戦が勃発して崩れてしまった吸血鬼族の圧政をなんとかするためにまた一人で立ち向かったそうですよ。結果としては三回目の戦いで死んでしまったらしいですけどね」
「なるほどね……」
「でも圧政を強いていた吸血鬼族の新しいキングに深手を負わせたみたいですよ。結果的に神罰によって吸血鬼族は滅びましたけど……一説によるとオトヤから受けた傷が深すぎて神罰に対抗出来なかったと言われてます」
「まじか……すげえな」
「と、私が話せるのはここまでです。これ以上はちょっと……」
「いや、大丈夫だ。ありがとう」
「うふふ……貴方のためならなんだってしますからね」
「発言が危険すぎる……ってどこ触ってるんだ」
「あら、夫のここを管理するのは妻の仕事ですよ?」
「出会ってから数時間なのに展開早くない?」
「そんなに力まないで……私、結構自信はあるんですよ?」
「明日ぶち殺される運命しか見えないから勘弁してくれよ……」
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