その音色は異世界まで響き 作:誰かさん
皆さんも熱中症や脱水症には気をつけてくださいね。この時期は経口補水液を常備しておくと緊急時にも困らなくて済みますよ。
「なんだ? このゼリーは……」
「私がやります! うりゃあ!!」
「あ、バカ。いきなり突貫するんじゃ……」
「ひゃわ! 何ですか、これ!」
「……いわんこっちゃない」
空間に入った途端ゼリー状の壁に出入り口を塞がれた。シアが咄嗟にドリュッケンを振り回した訳だが……結果はご覧の有様である。
しかも驚いたことに、そのゼリーはシアの衣服をどんどん溶かしている。
「シア、動くでない!」
ティオが絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。少し皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。どうやら出入り口を塞いだゼリーは強力な溶解作用があるようだ。
続けてゼリーの奥から触手が飛び出してきた。すかさずユエが障壁を張って俺がイクサキャノンをぶっ放す。弾薬の種類はとりあえず榴弾だ。
「シア、今のうちに治してもらえ」
「あのぉ、ハジメさん。火傷しちゃったのでお薬塗ってもらえませんかぁ」
「……お前状況わかってんの?」
「いや、音也さんとユエさんが無双してるので大丈夫かと……こういう細かなところでアピールしないと香織さんの参戦で影が薄くなりそうですし……」
「はあ……」
「聖浄と癒しをここに〝天恵〟」
「ああ! 折角お胸を触ってもらうチャンスだったのにぃ!」
……どうやら問題なかったらしい。うん。そういうことにしておこう。
それにしてもこのゼリー。ユエが展開している障壁も溶かしている。
義眼で確認すれば障壁に込められているであろう魔力が水のようにドロドロと流れてしまっている。中々に強力で厄介な能力だ。まさに大迷宮の魔物に相応しい。
そんな俺の内心が聞こえたわけではないだろうが……遂にゼリーを操っているであろう魔物が姿を現した。
天井の僅かな亀裂から染み出すように現れたそれは空中に留まり形を形成していく。半透明で人型、ただし手足はヒレのようで全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち頭部には触覚のようなものが二本生えている。まるで宙を泳ぐようにヒレの手足をゆらりゆらりと動かすその姿はクリオネのようだ。もっとも、全長十メートルのクリオネはただの化け物だが。
しかも透明な体のくせして魔石が見当たらない。というよりゼリーが魔石なのだろう。なんせ俺の義眼の視界は赤黒一色なのだ。しかもこの空間ごとである。
「マズいな……こいつは既にあのクリオネモドキの腹の中かもしれねえぞ」
「なんだと?」
「違うことを祈るしかないが……とりあえず逃げるぞ。ハジメ、雫、ティオ。ゼリーを炎で相殺を。ユエ、コウモリモドキ、香織は障壁を頼む。露葉さんは忍術で何とかしてくれ」
弾薬を焼夷拡散弾に切り換えながら指示を飛ばす。その間に露葉さんは火炎瓶を投げつけながらゼリーを相殺しつつも手に何かを持ちながら呪文を唱えた。
「〝爆炎の術〟!」
直後、露葉さんの目の前に炎の激流が出現した。どういう原理かはサッパリだが兎に角時間はこれで稼げる。
なんせ露葉さんが発生させた炎の激流はクリオネモドキの全長を遥かに超える勢いで広がっているのだ。あまりに凄まじくて地面にいる俺たちが死にそうになる。
と、その時俺は地面に一カ所下に空間がある場所を見つけた。どういうわけか水位が上がってユエの身長なら胸元まで沈んでしまうぐらいのかさだったが……これで退散出来るかもしれない。
俺は牽制程度に焼夷拡散弾を連射しながら集合をかける。
「一度体勢を整えるぞ! 全員俺の傍に寄れ!」
最後にもう一発撃ち込んでイクサキャノンを宝物庫へポイ。今度はイクサハンマーを取り出して装着した。
『イ・ク・サ・ハ・ン・マ・ー・ラ・イ・ズ・アッ・プ』
「行くぞ……でぇいやあああ!!!!」
ドォガアアアアアアアアアン!!!
階層破りの一撃が空間内に響き渡る。次の瞬間には貫通した縦穴へ途轍もない勢いで水が流れ込んでいった。まるでトイレである。
全員が水に流されて行く中、俺は無理やり水中で足を踏ん張って静止。もう一度イクサキャノンを取り出して手持ちの焼夷炸裂弾を全て発射した。
背後でくぐもった爆音が響く。クリオネモドキの追撃に対し少しでも時間が稼げたのか確かめることは出来なかった。
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どこまでも広がる砂浜。周囲にはそれ以外何もなく、ずっと遠くに木々が鬱蒼と茂った雑木林のような場所が見えていて頭上一面には水面がたゆたっていた。結界のようなもので海水の侵入を防いでいるようだ。広大な空間である。
俺たちはあの後凄まじい勢いで水に流された。ユエが水流操作しようとしても無理なレベルの勢いである。他の人がどうにかできる問題ではない。
シアとティオ、そしてユエは偶然一緒になってどこかへ流されていった。さらにハジメと香織も一緒である。ここまでは良い。
しかし露葉さんは単独で流されていた。雫は……一応キバットの近くである。
とても微妙な距離感ではあった。しかし単独でこの迷宮を露葉さんが攻略するのは厳しいだろう。と、いうのも大迷宮はこれまでの常識が何度も何度もひっくり返されるのだ。単独でどうにかなる事ではない。
結果、非常に心苦しい決断ではあったが俺は露葉さんと合流。そのまま流されて今に至るというわけだ。
「露葉さん、着替え終わったか?」
「うん。びしょ濡れだったから風邪引きそうだけどね」
「俺はイクサを装着してたから何ともないけどな」
「本当に便利だよね。文音さんの技術力ってなんなんだろ」
本当になんなんだよ。異世界でも余裕で通用する道具を作り出すとか恐ろしすぎる。多分母さん一人で戦争を左右することも出来るだろう。
と、おおよそ大迷宮では相応しくない雑談をしながらも先にある密林へと進む。無論襲い来る魔物や害虫は俺と露葉さんが一体も残さず殺しているがな!
「そういえばさっきの爆炎の術? はどうやったんだ?」
「あれは爆薬をたっぷり積めた小球を手刀で切って火を付けただけよ。少しだけ魔法を使ったから威力がもの凄いことになったけどね」
「あ、魔法覚えたんだ」
「便利だからね」
細い糸のような物を繰ったり蛇腹剣を振り回しながらする会話ではない。本来なら一回一回限界まで集中するのだろう。
しかし俺たちはあくまでもイレギュラーな存在であることを忘れてはいけない。この世界の定理から外れてしまったイレギュラー……だ。
と、そんなことを考えながら魔物を殺すこと数十分。俺たちは密林を抜けて別の空間へと足を踏み入れた。
密林を抜けた先は岩石地帯となっており、そこにはおびただしい数の帆船が半ば朽ちた状態で横たわっていた。そのどれもが最低でも百メートルはありそうな帆船ばかりで遠目に見える一際大きな船は三百メートルくらいありそうだ。まるで船の墓場である。
どの帆船にも激しい損傷が見受けられる辺り、ここにある船はどれもこれも戦艦だったのだろう。横腹に大砲がないということは魔法が攻撃手段なのだろうが……人間は必ずその住む世界で一番合理的な方法を見つけ出すようだ。
そしてその推測は、俺たちが船の墓場のちょうど中腹に来たあたりで事実であると証明されることとなったのだった。
露葉さんの忍術、考えるの楽しいですねえ……実はニンジャカービィを参考にしてるんですけどね()
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消せ(無慈悲)